地域密着型介護のプラットフォームとしての位置づけーRE:Care この先の在り方を考える

開催日 2020年11月17日
スピーカー 加藤 忠相(株式会社あおいけあ代表取締役)
コメンテータ 仁賀 建夫(経済産業省商務情報政策局 商務・サービスグループ ヘルスケア産業研究官)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター)
開催案内/講演概要

1963年の老人福祉法で「療養上の世話」とされた介護は、2000年の介護保険法制定に伴い高齢者の「自立支援」へと大きく舵が切られた。だが、実際には60年前の発想のまま「お世話業務」を行う介護事業者が多い。本セミナーでは、一人一人に合わせた要介護者の自立支援を行っている株式会社あおいけあ代表取締役・加藤忠相(ただすけ)氏をお招きし、本当のケアとは何か、についてご講演いただいた。

議事録

介護とは・ケアとは何か

加藤氏:
今日は、11月4日のRIETIと東北大学「人生100年時代のサバイバルツール」シンポジウムを受けてお話をさせていただきます。

今日のタイトルは「RE: Care」です。ケアとは「面倒を見る」「世話をする」と思っている医療介護職が多いですが、本来「ケア」というのは英語で「気にかける」という意味です。語源はラテン語で「耕す」ですので、われわれが何かを提供するのではなくて、相手が持っている畑を耕して、相手の生活がうまくいくように気にかけることです。

介護保険法第2条第2項では、われわれ介護事業者がお金をもらうためには、「要介護状態等の軽減または悪化の防止に資する」必要があり、第4項には「被保険者が要介護状態になった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むこと」と明記されています。介護は高齢者の世話ではなく、ちゃんとその人の生活が成り立つように支援していくことが目的なのです。まず軽減=回復を目指すことであり、次に悪化の防止=現状の機能を保つことです。そして、残念ながら人間は100%死にますので、最期に寄り添うことです。

1963年の老人福祉法では、介護は「療養上の世話」とされていましたが、2000年の介護保険法では「自立支援」になりました。高齢者を良くする義務が発生し、結果が求められるわけです。2003年には「尊厳を支える」、2010年に「地域包括ケア」、そして今は「地域共生」がキーワードになり、介護事業所に子供も高齢者も障害者もいてあたりまえになっています。

自立支援のソーシャルワーカー

認知症は病気ですが、病名ではなくて症状です。アルツハイマーなど全部で70種類ほどの「原因」があり、それらによって脳細胞が死んでさまざまな「症状」が現れ、不安・焦燥や錯乱といった「行動」になります。

では、われわれ介護の専門職は、1原因、2症状、3行動のどこに働きかけたら正解でしょう。1はお医者さんや製薬会社の仕事ですが、2、3のどちらだろうと。私が若い頃に働いた特別養護老人ホームでは3でした。認知症なので鍵を閉めて閉じ込めて、行動を制限するわけです。不安・焦燥が出ているから薬を飲んで寝かせておく。

でも、それはケアでしょうか? 私は支配・管理だと思っています。われわれ介護職は、良い環境と心理状態を整えることのプロです。そのために必要なものは、性格・素質、職歴などのその人の情報を使って、症状で困っている方が困らない環境と心理状態を作ることで、困っていなければただのじいちゃん、ばあちゃんでいられるんです。

今、「あおいけあ」では47人のスタッフがいますが、そのうち7人が赤ちゃんや子供を連れて出勤しています。うちのスタッフは、認知症のおじいちゃん、おばあちゃんたちがいるから仕事ができるわけです。介護で面倒を見るという感覚はなく、お互いができることを出し合っているだけです。

うちでは車の運転と記録は業務だと思っていますが、ご飯の準備、掃除、洗濯、買物はおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にやるからケアになるわけです。ケアとはどちらか一方を支えるのではなくて、何となくお互いが支え合っている状況を作ることだと思っています。 スタッフが10時にお茶を淹れる行動のどこに専門性があるでしょうか。「〜さんに」という仕事の仕方はあくまでもサービスプロバイダーです。自らお茶を淹れるのではなくて、利用者と一緒にお茶を淹れるためにどうしたらいいのかをデザインするのが私たちの仕事です。スタッフが「〜さんと」一緒に行うことで介護の仕事はケアの仕事になる。自立の支援になり、利用者さんは「世話になる」から「役に立つ」ことを毎日考えられるようになります。今の介護職の仕事はソーシャルワーカーでなくてはなりません。

地域共生のためのプラットフォームへ

いまの社会は分断されています。三世帯家族がなくなり、子供たちは高齢者が弱っていく姿を知ることなく育ちます。学校に行けば障害者の子たちは分けられてしまい、高校や大学では学力で分けられ、社会に出れば専門性で分けられていく。自分に近い人間しか見ず、多様性が分からない人たちが今の日本人のほとんどだと思います。

介護事業所は地域のプラットフォームです。おいしいご飯が食べたいから、コーヒーを飲みたいから、習字を教えてくれるから、駄菓子屋があるから、そういう形でいろんな方たちがあたりまえに交流する場所を作るのが今の介護職員の仕事だと思っています。

介護現場はソーシャルキャピタルを副産物として得ることができる環境ですし、第一線で働いていた利用者さんたちの経験は、ディープ・アクティブラーニングとして、子供たち、そして介護職員のわれわれも教わっています。ここはフレイル(虚弱化)予防だけでなく、幸福感を感じながら多様性を学ぶ場、エデュケアの場所にもなっています。

仁賀氏:
日本にこんな素晴らしい介護施設があることを知り、非常に嬉しく思います。経済産業省のヘルスケア産業課は、高齢社会の新しいビジネス支援を目的に2011年に発足し、高齢者の豊かな生活のための政策を行っています。

老人福祉法の時代は老年人口が6%以下で、現在は28%と全然違う時代になっています。2020年3月には予防、進行抑制、共生をテーマに、健康・医療戦略を策定しました。誰もが共に生活できる社会構築が必要であり、加藤氏の取組は非常に良いモデルだと思います。

加藤氏:
良くも悪くも、アジアの国々は日本の政策を研究しています。日本人は失敗したと批判されるのか、それとも日本人はこの超少子高齢化問題を乗り切ったと評価されるのか、今まさにわれわれの行動が問われていると思っています。

この先5人に1人が医療介護職に就く社会です。日本の主幹産業が医療や介護なのですから、これを世界に誇れるものにしていくのか、大変だと言い続けるのか、介護保険開始から20年が経過した今まさに岐路に立っています。われわれはぜひ格好いいものをやりたいと思っていますので、ぜひ政府としても舵取りをしていただければ幸いです。

質疑応答

Q:

「あおいけあ」のような施設が今後日本中に広がればいいと思うのですが、マニュアルがないということは、同様のモデルを増やす際に横展開はできないものなのでしょうか。

A:

フランチャイズ化は考えていませんが、モデルは作りたいと思っています。われわれは職員が柔軟な発想と行動ができる現場を作るべきです。マニュアルは「失敗するな」と、ブレーキをかけながらアクセルを踏んでいるようなもので、職員の成長を阻害します。

Q:

本当のケアができる施設を増やすには何が重要でしょうか。

A:

ケアとは何かを再定義し、厚生労働省があるべき社会保障の姿をもう一度再定義するべきだと思います。事業者側が申請せずとも、介護度が改善したら自動的に報酬が上がるシステムも必要です。

また、小規模多機能の認可については、市役所が潰れなさそうな事業所を選んで認可しているようですが、本来は地域住民にこの人たちと一緒に地域を作りたいと提案・実施できる人たちが選ばれ、外部機関がその評価を行うシステムを構築する必要があると思います。

Q:

ケアのためには利用者のパーソナリティを読み解くことがとても重要ですが、研修で身に付くものでしょうか。

A:

多くの場合、記録は相手の弱点の羅列になってしまいます。記録の取り方について現場で工夫が必要です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。