第三者委員会について考える-「『第三者委員会』の欺瞞」での論点を中心に

開催日 2020年6月29日
スピーカー 八田 進二(RIETI監事 / 青山学院大学名誉教授 / 大原大学院大学会計研究科教授)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター)
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開催案内/講演概要

第三者委員会は、不祥事により企業価値を毀損させた組織に代わり、独立の立場から原因究明や再発防止策の提言に貢献してきた。しかし、当初から、本来の委員会の目的に反する形で活動しているケースも散見されている。本BBLセミナーでは、新著『「第三者委員会」の欺瞞 - 報告書が示す不祥事の呆れた後始末』を上梓した職業倫理やガバナンス研究の権威である八田進二氏を講師として迎え、会計学者の視点から第三者委員会の問題点と今後の在り方について議論した。セミナーでは、第三者委員会の要である第三者性=独立性、専門性、倫理性、透明性の確保には、委員の選任プロセス、現在のガバナンス状況、委員会設置に伴うコスト等の開示が求められ、それが調査報告書の社会的意義・公共財としての価値を高めるとともに、ステークホルダーに対する説明責任の履行にもつながるとされた。

議事録

第三者委員会の問題点

21世紀に入ってしばらく経った頃、どこからともなく「第三者委員会」の活動が目に触れるようになってきました。上場会社における粉飾まがいの不適切な会計事案が起きたとき、その企業は第三者委員会を通して問題を検証することで自浄能力を発揮し、次なる是正策・改善策を講じていくという流れです。

しかし、会計の立場から第三者委員会の報告書や構成員を見ると、不適切会計の処理なのに第三者委員会のメンバーに会計の専門家がいない。これでは、報告書が依頼側の法人の意に即する形でまとめられてしまい、ただの「禊(みそぎ)のツール」「隠れ蓑」になっているのではないか、と疑念を抱いておりました。

公共性の高い事案においては透明性が最も重視されます。会社が不祥事を起こした際には第三者の力を借りて作業をするわけですから、当然一定の報酬が払われます。その報酬は一体どの程度のものなのか。とりわけ企業価値を毀損してしまった不祥事企業においてはさらに追加的なコストがかかります。

仄聞するところでは、どんな小さな第三者委員会であっても活動全体にかかるコストは億円単位だろうといわれています。特に有名企業の巨額の不祥事問題に関しては、二桁以上の億円に及ぶ金額が動いています。株主を中心としたステークホルダーの利益を毀損しているのに、この第三者委員会のコストに関する情報はまったく開示されていません。

第三者委員会報告書格付け委員会

日本では企業における不正がなくならないどころか、あらゆる組織、機関、さらには団体等で社会問題化する不祥事が後を絶ちません。そして、このときに決まって導入されるのが第三者委員会による検証、再発防止策等の提言、報告書の公表であります。

しかし、再発防止や是正策が実際に機能していくためには、真因が究明されていなければなりません。残念ながら多くの報告書は、真の問題を把握ができておらず、それゆえに再発防止策や是正策が功を奏していないのが現状です。通り一遍の是正策が公表され、日本の多くの関係者はそれを後生大事に100%信頼できるものとして受け取っているきらいがあります。

このため、2010年、日弁連のメンバーにより「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」が策定されました。第三者委員会の活動を定義し、不適切な事案を徹底的に分析するとしたわけです。

さらに、第三者委員会報告書の公共財としての利用価値を向上させるため、2014年、久保利英明弁護士を中心に9名のメンバーで第三者委員会報告書の評価を行う格付け委員会を立ち上げました。評価の対象となる報告書を選定する明確なルールはありませんが、基本的には、公共性が高く社会的に影響力のある報告書を対象にしています。企業であれば上場企業レベル、教育機関であれば有名大学の報告書を扱っています。

報告書の評価は、基本的にはA、B、C、Dの4段階で行い、評価に値しない不合格の場合はFとなります。評価は格付け委員会として行うものの、視点や論点の異なる9人の委員による個別評価ですので、全員が足並みを揃えた評価結果になるわけではありません。評価項目としては、委員構成における独立性、中立性の有無、合理的な調査期間、調査体制の整備等の10項目程度を掲げており、これまで計23本の報告書の格付けを実施しました。

『「第三者委員会」の欺瞞』執筆の背景

第三者委員会は日本特有の体制です。1997年に山一證券が破綻し、不祥事の問題解明を目的に社内調査委員会が立ち上げられました。外部の弁護士2名による第三者の視点を入れて、翌年には簿外負債に関する社内調査報告書を公表しました。

企業の最終責任としての自浄作用を発揮し、多くのステークホルダーに対して然るべき説明責任を履行したことから、この報告書は非常に高く評価されました。そしてこの社内調査委員会が、後の第三者委員会的に発展したわけです。

なぜ会計監査をやっている人間が第三者委員会に関心を持ったかというと、監査人にとっての生命線は第三者性です。これは英語では「Independence」「Professional」あるいは「Certified」と言われますが、こういった適格性を備えているときに第三者性が保たれます。

しかし、一般の方やメディアは、当事者以外はすべて第三者であると認識している方が多い。そこには専門性も倫理性も公正性もないにも関わらず、公表された報告書はあたかもお墨付きを得たかのように一人歩きしています。これはおかしいというのが最初の疑念でした。

2008年、フタバ産業で経営サイドにおける不適切な資金使用が発覚しました。この事件をめぐっては3つの社外調査委員会が設けられ、調査報告書が公表されたものの、各報告書での事実認識と結論に大きな乖離があり、証券取引等監視委員会の方からも、この第三者委員会報告書の客観性と信頼性に多くの疑義が投げかけられました。

自著『「第三者委員会」の欺瞞』は、格付け委員会が評価した報告書を再度ステークホルダー目線で考察したものですが、一般の方々にも第三者委員会について理解を深めていただきたいという思いがあります。それぞれ著名な会社等で起こった、社会を震撼させるような不正が世の中を賑わしたわけですから、われわれの生活にも大きな影響を及ぼします。皆さんにも客観的に社会を見る眼を養ってもらいたいという願いを含めてこの本を出版しました。

第三者委員会の欺瞞事例

初めに、厚労省の特別監察委員会が第三者委員会を詐称し、官僚の責任逃れに手を貸したのではないかという疑義がかけられた報告書です。まるで役所が作る報告書の形式そのものであり、費用と時間と然るべき人を投入しておきながら、非常にずさんな報告書であったために炎上してしまったものです。

続いて、レオパレス21による建築関係のデータ不正です。雑な社内調査に加えて、言い訳だらけの報告書で、次から次に不祥事物件が発覚しました。最終的には、すでに辞任していた創業者に責任をなすりつける始末。これは建築基準法違反でもあるわけで、専門家が不正に手を染めるという専門家倫理あるいは職業倫理の欠如を指摘された事案です。

また、日本大学のアメリカンフットボール部における反則行為もありました。大学の中枢的責任者である理事長は、いまだ表舞台に出てその説明もしていません。この事案が大きな反響を呼んだのは、反則疑惑のかかった学生が責を問われ、自ら記者会見を行って真実を吐露した点です。しかし、その時点では大学側は全て隠蔽あるいは先送りしていました。その後、世論に負けて関係者が答えましたが、どうも信頼性に乏しい内容で、第三者委員会の欠陥文書についても批判がありました。

続いて、東京医科大学の女子・多浪受験生差別問題です。これは理事長や学長といった本当の一部の権限を持った人たちの意向に則って裏口入学に近いものが実施されていたのですが、この報告書の最大の問題は、その指示をしたと思われる張本人からは何らインタビューも対面の調査も情報を得ておらず、一向に本丸に立ち至っていない点です。

私は一般論として、不正は繰り返す、あるいは不正はその組織のDNAを変えない限りなくならないと申しています。よくこれを社風とか風土という言葉で誤魔化しますが、歴史のある会社であればあるほどその社風がはびこっているわけですから、ドラスティックに変えない限り、同じような問題は必ず起きます。その1つが神戸製鋼所です。

神戸製鋼所は、1999年に総会屋への利益供与が発覚して以来、不祥事が相次いでいます。この企業は第三者委員会報告書を全文ではなく、部分開示にとどめているため、信頼性が乏しいと評価しました。しかし、皮肉にも、この総会屋事案を契機として、21世紀から始まった日本のコンプライアンス、そしてガバナンスといった内部統制の制度化が進められたのです。

東芝の問題は語るに落ちたという事案で、膨大なコストとマンパワーをかけながらも、結果的には米国子会社買収の問題、そしてこれを担当していた監査法人の責任を度外視した、会社の都合ばかりを反映した報告書に成り下がっていたということです。

東洋ゴムは免振積層ゴムの認定不適合に関する問題ですが、この報告書に関して低い評価を付けたところ、第三者委員会の委員長が格付け委員会に対してクレームを付けてきました。彼らは危機対応チームとして喫緊の危機を乗り越えるために行ったのであり、報告書の格付けをされる筋合いはないというのが彼らの言い分です。しかし、報告書を公表している時点ですでに公共財になっていますので、そこにバイアスがかかるようではいけません。

朝日新聞では慰安婦報道をめぐる長い議論の末、報告書が公表されました。しかし、それは各自のジャーナリズム論をぶつけあったもので、事案の究明あるいはその後の是正策には貢献できない報告書でした。

最後に、雪印種苗の報告書には多くの委員が高い評価を付けました。その理由は2つあります。1つは、デジタルフォレンジックを活用し、当事者に対して客観的なエビデンスを突きつけて自白させたこと。もう1つは、次から次に「Why?」を積み重ね、真因を追求し、隠蔽されていた過去の不祥事も暴き出したことです。まさに高い評価に値する報告書でした。

第三者委員会の要件と課題

第三者委員会の設置を検討するならば、第三者性の意味を理解する必要があります。第三者性とは、独立性・中立性、専門性、倫理性・誠実性、さらには透明性を持つことです。第三者委員会の依頼者は不正を起こした組織だとしても、その組織は自組織に関わる全てのステークホルダーに対して説明する責任を負っています。

その意味で、第三者委員会の報告書は、当然ながら広くオープンにするとともに、公共財としての利用価値を評価すべきだと私どもは考えています。第三者委員会の調査活動プロセスは、現行の公認会計士または監査法人による監査を中心とした保証業務の内容に類似しているといえます。

いずれにせよ第三者委員会はステークホルダー等の公共の利益を守るため、生命線である第三者性に注力する必要があります。そのためにも委員の選任プロセスが重要です。業務執行に関わる者の影響を排除しておかなければ、利益相反が起こります。従って、委員選任プロセスを明確にし、構成員として、当該不祥事に関しての専門家を入れるべきです。

検事であった弁護士が第三者委員会に参画するケースが目立ちますが、私は不向きであると思っています。犯人を特定して犯罪者を罰する検事と、より良い内部統制実現に向けて活動する第三者委員会の原因究明では、調査のプロセスが異なります。企業が検事を委員として選びたい理由は、少なくとも経営サイドが刑事責任だけは問われないようにしたいという思惑があるからでしょう。

加えて、現在、第三者委員会に関わるコストは一切明らかにされていません。不祥事発覚によって企業価値を毀損し、経営者責任が問われる中、経営者は第三者委員会の運営費を会社負担で支払っているので、さらに株主価値、企業価値を毀損させているわけです。日本取引所自主規制法人(金融商品取引法に基づき日本取引所グループに設置されている法人)は、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を公表しています。不祥事対応が納得いくコストであるか、コスト情報を開示すべきだと思います。

現在、上場会社等で選任されている社外役員の真骨頂は、有事の際にリーダーシップを発揮することです。企業が自浄能力を発揮するためには社外の視点を入れる、しかし、社外役員では手に負えないあるいはさらなる専門性が求められる場合には、第三者委員会の構成員として外部の専門家に参画いただくべきではないでしょうか。

第三者委員会設置時の開示においては、委員の選任プロセス、選任理由、適格性、調査目的も併せて公表すべきですし、報酬に関しても、補助者の報酬も含めた第三者委員会の活動費用を示すことが重要です。さらに依頼者である企業と第三者委員会委員のその後の取引関係も検証し、これらの開示内容を有価証券報告書に記載するよう要請すべきです。

不正はどこでも起こり得るという危機意識のもと、リスク管理を考える必要があります。危機意識が低ければ、有事の際に次の一手を打つことができません。会社も組織も生き物ですから、人間と同様に怪我もするし、風邪もひきます。ですから予防策を立てて管理を行い、リスクが顕在化した場合の対応策についてもご検討いただきたいと思います。

質疑応答

Q:

問題の真因および責任の所在を明らかにすることはトレードオフの関係になると思いますが、どのように折り合えばよいでしょうか。

A:

格付け委員会あるいは日弁連のガイドラインで念頭に置いている第三者委員会は、責任追及委員会ではなく、原因究明委員会です。原因究明によって責任の所在あるいは責任の取り方を明らかにしていくので、必ずしもトレードオフの関係にあるとは考えていません。

ただ、中には明確に個人名を記載しているような報告書もあります。その場合はある面ではトレードオフの関係にあるともいえますが、独立性という観点から、どこにも与しない公正性、中立性を担保している前提でお読みいただき、受け入れていただくしかないと思います。

Q:

関西電力のような社会安全保障に関わる事案で独自性を確保する場合、どこまで切り込む必要があるのでしょうか。

A:

安全に関わる事案については低評価を受けるような報告書の公表は決して許さない、という強い意向をもって、事前に第三者委員会報告書格付け委員会から、関電の委員長宛に申し入れをいたしました。社会に関する安全保障や、民間の自治レベルを超えた国家的な問題が明らかになった場合には、直ちに検察の手を借りるよう移行すべきだと提言しています。本来であれば、関西電力の事案は司直の手による検証が行われてもよかったのではないかと思います。そういった場合、当然ながら、第三者委員会としての役割は当初の範囲を超えます。

Q:

第三者委員会は欧米でも設置されますが、欧米では報告書が公開されないと聞いたことがあります。その理由についてお聞かせください。

A:

少なくとも私が調べている限り、海外で日本のように外部の者を入れた第三者委員会の設置例はゼロではないと聞いていますが、あまりないと思います。欧米の上場会社では社外役員の独立委員会を立ち上げて、社外独立役員委員会が外部の検証機関や関係当局の援助を受けて、社内的に公表するのが一般的のようであります。

また、訴訟の法制度が国ごとに異なり、秘匿特権(情報開示を拒否できる権利)が定められているため、あまり外部には公表しないようです。従って第三者委員会はまさに日本型の体制であると私どもは理解しています。

Q:

最近、いじめ問題や虐待に関して、学校や児童相談所でも第三者委員会が設置されるケースが増えていますが、こういった機関と企業の場合とで第三者委員会の在り方に違いはありますでしょうか。

A:

私がこの本を上梓した際、教育関係者の方から2つの論点を軸に同様の質問をいただきました。1つは、第三者委員会は山一證券の不祥事以前に、地方でのいじめ問題に対応するべく教育長が設立したのではないかという点。もう1つは、その第三者委員会と私の本で述べている第三者委員会との違いの有無についてです。

97年以前から外部の手を借りて事実究明に取り組む流れがあったことは事実です。しかし私が関心を持っているのは、上場会社を中心とした不特定多数のステークホルダーに関する議論、かつ第三者委員会ガイドラインを念頭に置いたレベルのものです。

教育における第三者委員会は、限られた地域のクローズドシステムで発生する問題であり、同様の事例が全国にもあるでしょうから、それは反面教師として活用できます。それは直接的に利害関係を持っている方々を納得せしめるための報告書でなくてはなりません。この点においては、私が唱えている第三者委員会の在り方、独自性、中立性も全く同じです。調査活動プロセス、そして公表や活用方法は違いますが、基本的な考え方は同じだと思っています。

Q:

弁護士の守秘義務との関係について、依頼者が開示を拒否した場合は公表できないと思われますが、こういったケースに関して弁護士としては辞任をするのか、あるいは開示せずに報告書を完成させるのでしょうか。

A:

一番簡単な短絡的な回答は、辞任です。不正に加担するなどあってはならない問題ですし、辞任するのが当然だと思っています。私が本を出版してから2人の友人から手紙が届きました。両者共にこれまで第三者委員会に関わった方々です。

お互いに第三者委員会の初回の会議で、委員長たる弁護士の先生や自身の指導教師から、第三者委員会の真の設立意図を理解しているかという威圧的な問いを受け、報告書にネガティブな結果を記載してはいけないことを悟ったそうです。こういった事例はあってはならないし、そういった考えを持つ者が委員になるのは不適格です。しかし、もし引き受けた後にそういう状況に至った場合は、自分の名誉のためにも、当然辞任もあって然るべきだと思います。

Q:

第三者委員会の設立要件、委員の資格、企業との関係等を法的に定めることはできないのでしょうか。「第三者」と謳う以上、もう少し客観的な存在とすべきではないでしょうか。

A:

第三者委員会はもともと任意のシステムとして自浄能力を発揮する企業の率先的な対応として導入されているわけで、これを法制化するとなればややこしい問題が出てきますので、私は法制化には反対です。

それよりも社会的責任があるところはそれをフルディスクローズし、すでにディスクローズが要件として設定されているならば、透明性のある形で適時適切な開示で対応すればよいでしょう。委員選定に関しては、第三者委員会の役割を担えるような者を推薦する母体の設立に向けて、今議論を進めているところであります。

Q:

具体的に政府はどのような対応が求められているのでしょうか。法的な位置付けが難しいならば、ガイドラインを策定することで問題解決ができるのか、それとも各企業が自己責任で対応すべきなのか、八田先生のお考えをお聞かせください。

A:

今は上場会社だけでなく、財団、社団、学校法人、非営利等、さまざまな母体があります。戦略的な事例として1つ示すならば、やはり上場会社の公表材料である有価証券報告書に現在のガバナンスの状況、次の内部統制への対応やコンプライアンスへの結び付きを詳細に記載し、同時に、第三者委員会の運営コストについても公表すべきでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。