パンデミック下のグローバル経済の見通しー実体経済と金融市場の乖離はどう収束するのか?

※本BBLは新型コロナウイルス感染症拡大を受け、無観客で開催いたしました。

開催日 2020年6月10日
スピーカー 河野 龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)
コメンテータ 中島 厚志(RIETIコンサルティングフェロー / 新潟県立大学教授)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター)
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開催案内/講演概要

・実体経済と金融市場に大きな乖離。中央銀行ファイナンスによる大規模な追加財政で、家計の生活保障、企業の債務保証が行われていることが背景。ただし、財政の方向が転換すれば、ヘリマネ相場は終焉か。
・パンデミック対応で大量の国債発行が続く中、長期金利の急騰を避けるため、先進各国は日銀流の長期金利ターゲットを導入。長期金利が急騰すると、財政の持続性が失われるだけでなく、金融市場が混乱し、マクロ経済が不安定化する。
・パンデミック危機は、サービスセクターを中心に大きなネガティブ・生産性ショックをもたらした。倒産・失職回避のための政策が必要だが、代償として、経済資源の移動を阻害し、潜在成長率の低下をもたらす恐れ。
・GFC以前は、金融政策は資源配分に中立的。ただし、決済機能を守るため、規制対象の銀行業には介入。GFC後は、市場機能の崩壊を避けるため、証券会社や保険会社も介入対象に。今回のパンデミック危機では、政府・中央銀行は事業会社を直接サポートしているが、その法的根拠は脆弱。金融政策の準財政的な色彩が益々強まっている。

議事録

皆さんこんにちは。BNPパリバ証券株式会社チーフエコノミストの河野龍太郎です。本日は「パンデミック下のグローバル経済の見通し-実体経済と金融市場の乖離はどう収束するのか?」についてお話したいと思います。

まず、多くの人がいま疑問に思っているのが実体経済と金融市場の大きな乖離です。戦後最大の不況で実体経済はズタズタであるにもかかわらず、株価は世界的に高値を更新する勢いになっています。もちろん、ワクチンや特効薬が開発されて早期に普及するのであれば、実体経済が元の水準に戻るというシナリオはありえますが、なかなかそうはならないでしょう。

歴史的に見ますと、実体経済と金融市場に大きな乖離がある場合は、金融市場が実体経済にさや寄せされる形で調整されてきたということです。では、今後はどうなっていくのか。まず、資料1に我々の経済成長率見通しのグラフが出ております。4-6月は日本経済で年率20%近いマイナス成長になりそうで、その後も非常に緩慢な回復になると思います。理由は色々ありますが、緊急事態宣言が解除されても多くの方が感染を恐れて自己防衛に走るということもあるでしょう。

景気回復はU字型か、L字型かW字型か?

それだけではありません。我々は2020年度の経済成長率は−4.9%、さらに2022年の1-3月までの成長率見通しを出しているんですが、消費税増税前の2019年7-9月のGDPの水準を2022年1-3月は2.1%下回る見通しです。では、いつ2019年7-9月の水準まで戻るかですが、仮に従来の潜在成長率1%弱を前提にするなら、2024年には戻りそうだと。問題は、潜在成長率がさらに低下している可能性があるということです。このため、4-6月の後の景気の回復も鈍いのではないかということです。

資料2を見て頂きたいんですが、潜在成長率がなぜ低下するのか。理由は大きく2つあり、1つ目は今回のパンデミック危機は特にサービスセクターを中心に大きな負の生産性ショックをもたらしていることです。例えば、レストランはおそらく今後もかなり長い期間にわたって社会的距離の確保を要請される、席をある程度空けてお客様を入れることになると思います。そうすると、これまでと同じ労働力や資本を投入しても以前と同じような価値を得ることができない。特にサービスセクターについては、ビジネスモデルを変えなければ高い価値を得られないことになります。

生産性ショックで潜在成長率は低下するのか?

問題は、一方で今回倒産や失職を避けるためにさまざまな政府の施策を行っていることです。もちろん、パンデミックを止めるために経済活動を抑制しているわけですから、倒産や失職を避けるための施策は必要で、マクロ経済の瓦解を避けるためにも不可欠であるとしても、需要構造が変化する中でのこうした政策は場合によっては企業の新陳代謝を遅らせ潜在成長率の低下をもたらす可能性があるということです。パンデミック危機そのものがサービスセクターを中心に生産性を低下させるショックであるわけですが、パンデミック危機がもたらす短期的な悪影響を避けるために行っている政策そのものが生産性の改善あるいは潜在成長率の回復を阻害する要因になってしまうということです。

さらに、自然利子率の低下が起こる可能性があります。資料3に「貯蓄投資バランスがどうなるのか?」とありますが、日本の企業は世界金融危機の経験から過去10年間は儲かっても賃金や報酬を増やさず現金を貯め込んでおり、この積み上げた現金で結果的に10年に1度の危機を乗り切ることができてしまった。そうすると、次も同じようなことがおきるだろうと、これからも現金の貯め込みをする可能性がある。そして他の先進国の大企業も、現金を貯め込んで危機を乗り切った日本の企業をまねる可能性があるということです。

貯蓄投資バランスはどうなるのか?

もちろん、昨今の付加価値の源泉が無形資産になっているため、以前ほど物的資本投資を行う資金がいらなくなっているということもありますが、企業が貯蓄を積み上げ、他方でパンデミック収束後も家計は貯蓄を続けて以前のようには簡単に消費をしないと考えられます。そうすると、企業と家計が支出を抑制し、利子率が更に低下する。既に日本はこの四半世紀のあいだ潜在成長率の低下が続き、自然利子率も低下が続いていたのですが、今回のパンデミックで更にこの傾向が強まるし、他の国も同じだろうと思います。

もう一点、インフレ率ですが、確かに今回新型コロナは供給サイドにも大きなダメージを与えたと思いますが、短期的にはそれ以上に大きな需要ショックをもたらしたと考えられます。感染の拡大を懸念してその後の経済の戻りも非常に緩慢となり、当面は少なくとも先進国については強いデフレ圧力をもたらすと思います。となると、私たちは過去四半世紀の低成長、低金利、低インフレの日本の状態を「ジャパニフィケーション」と呼んでいたわけですが、今回の新型コロナ危機をきっかけに「ジャパニフィケーション」(日本化)が新たなグローバリゼーションになるのではないかと考えられます。

パンデミック危機の前の2010年代の半ばにおいて、日本は超人手不足の下で完全雇用が続いていたにもかかわらず、低成長の継続で税収の伸びが抑えられプライマリーバランスの赤字は解消されず、公的債務は対GDP比で200%を超える水準まで膨張していました。その公的債務の持続性を保つためにも、低い金利が維持されることが不可欠だったわけですが、今回のウィルス危機では、各国とも大規模な追加財政が繰り返されているので、公的債務の持続性から低い名目金利の維持がますます必要になってくるわけです。もちろん、各国の政府が公的債務を増やし続けることよって長期金利が急騰すると、金融市場の根幹である国債市場が混乱し資本市場全体が大混乱に陥ってマクロ経済が不安定化するため、中央銀行からすると、公的債務の持続性を高めるということに加えて、金融市場やマクロ経済への悪影響を避けるためにも、長期金利を低位で安定させなければならなくなると思います。パンデミックの対応の下で大量の国債発行が続き、長期金利の急騰を避けるために先進各国は日本銀行流の長期金利ターゲットを導入することになるのだろうと思います。

更にいうと、日本の長期金利ターゲット、イールドカーブコントロール(YCC)は、金利を政策手段として導入したわけですが、それが単に政策手段だけでなく、金利の低位安定そのものが目的化してくる、つまりYCCそのものが政策目的になってくるということだと思います。もう少し突き詰めて言いますと、中央銀行の目的そのものも変質してくる。我々はこれまで中央銀行の目的である「通貨価値の安定」を「物価の安定」と解釈してきたわけですが、今後それが「金融市場の安定」ないし「金利の安定」と読み替えられていくのだろうと思います。もちろん、だからといって中央銀行が目標の看板替えを行うのではなく、低成長と低インフレが長引いているから低金利を継続することは矛盾しないのですが、低インフレが各国で続いたとしても、もはやインフレを押し上げるだけの有効な政策が存在しないのは日本銀行の経験からも明らかになるのではないかと思っています。

ここで強調しておくべきことは、中央銀行の目標が事実上物価安定から金利安定に変わっていくことで、中央銀行の位置づけそのものも変わってくるということです。公的債務の膨張がもたらしたものの一つは中央銀行のバランスシートの膨張ですが、かつて中央銀行のバランスシートは負債サイドが牽引し、マクロ経済が拡大するから民間の資金需要が増えてそれに合わせてマネタリーベースが拡大する、そこには超過準備というものは存在しなかったわけですが、1990年代末以降の低成長時代に金利がゼロまで低下すると、非伝統的な金融政策が始まり、そして非伝統的な金融資産の購入が始まって、中央銀行のバランスシートが膨張してそれに合わせて超過準備も恒常的に発生していったということです。

例えば、2018年にアメリカは2000年代末のリーマンショックなどの国際金融危機で膨らんでいたバランスシートの圧縮をようやく開始したわけですが、資産価格の下落が始まるとその圧縮を停止し、新型コロナ危機で再び急膨張が始まっており、今後も大きなバランスシートと超過準備が恒常化すると思います。

当初は、金融政策は資源配分には中立的にすべきと考えられていたわけですが、非伝統的な金融資産の購入が2000年代末の国際金融危機以降始まったことは、中央銀行が資源配分の領域にかなり踏み込んでいったことを意味します。つまり金融政策と財政政策の垣根がかなり低くなっているということです。

もともと、90年代末というのは、不良債権問題で金融市場の復旧メカニズムが阻害されていたとの認識から非伝統的な金融政策が開始されたわけですし、2000年代末の国際金融危機では、機能しなくなった金融市場を補完するために金融市場への中央銀行の大規模な介入が世界的に進められたわけですけれど、今回の新型コロナ危機ではその延長線上で中央銀行による社債の大量購入などが起こっており、さらに踏み込んだ金融支援が行われています。ですから、パンデミック危機で売り上げがなくなってしまって、手元の資金がなくて資本が非常に薄くなっても、こういった政策でサポートされ経済の底抜けが避けられる。それゆえ、株式市場が好調を続けているということかもしれません。

さらに言うなら、株価の上昇が加速してきたのは3週間前ほど前で、もはやV字の景気の回復はない、どちらかというとL字に近いU字でないのかという見方が起こってきた頃とちょうど期を一にするわけですが、中央銀行が資源配分あるいは信用配分に介在するような政策(ジャパニフィケーション)がかなり長い期間続く、世界中の中央銀行が日銀流のYCCを相当期間にわたって続けざるを得ない、そういった認識が広まったことでアセット・プライスのバリュエーションが切り上がった可能性があるというのが私の仮説です。

もちろん、ウィルスを抑え込むためにあえて経済活動を抑え込んだわけですから、FRBが資源配分に関わる政策に流動性を提供することにも正当性があるわけですが、問題は新型ウィルス問題が終息した後もそういった政策に中央銀行が関わることが妥当なのかということです。日本では公的金融機関制度とか政府の信用保証制度が非常に充実していて、今回のパンデミックでは日本銀行の主な役割は国債購入によってバックファイナンスすることになっています。そうした制度が十分でない米国では、ファンドを通じて民間債務が購入されているわけですが、FRBの主たる役割はファンドへの貸付であって損失が発生した場合には出資を行う米国の財務省が負担することになっています。日本も米国も中央銀行の役割は基本的には流動性供給ともいえるわけですが、それでも信用配分の領域に大きく足を踏み入れる政策を行っていることには変わりありません。

問題点としては、大統領選挙が米国で終わってしまうと、中央銀行が資源配分や信用配分に大きな影響をもたらす政策をそのまま継続することが妥当なのか、そういった正当性が問われる可能性がある。米国ではいま暴動が起こっていますが、暴動が起こるため異例の政策が継続される可能性が高いのだと受け止められて株価が上がっているかもしれません。どこの国でも、大規模な財政政策や金融政策、いわゆるヘリコプターマネー的な政策が続くと思う方も多いのですが、時間が経ってパンデミックが落ち着いてくれば、必ずしも全てそうなるわけではないと思います。

例えば、現在ヨーロッパでは、ようやくEU共同基金でEU共同債が発行される方向になっています。多くの方は、ついにヨーロッパもヘリコプターマネー的な政策に足を踏みいれたと思うかもしれません。このEU共同基金が発行するEU共同債はどうやって返済されるかというと、EU全域におけるデジタル課税あるいは炭素税とされています。また幾ばくかは各国の出資によって返済され、ドイツをはじめ北ヨーロッパなど財政規律がしっかりしている国は、EU共同基金が発行するEU共同債の返済のためには出資を増やさないといけないので、その財源としてゆとりのある方々に復興連帯税をお願いします、となると思われます。これは日本も同じだと思います。今は足元では財政赤字でパンデミック対策が打たれており、その財源は中央銀行ファイナンスによって賄われているように見えるわけですが、あらゆる物を将来世代につけ回して良いのかという話になってきます。

もちろん、パンデミックが落ち着いてきたら、経済の水準を上げるための減税や歳出拡大によって景気を刺激しようという見方は間違いなく起こってきますし、そういった政策も打たれると思うのですが、同時に、例えば東日本大震災と同じように区分経理を行って、つまり復興会計を作って、今は短期の国債でファイナンスされているわけですが、それを全て赤字国債や建設国債のように60年の長いものにせず、比較的返済までの期間の短い復興債を作って、その原資の一部は国有資産の売却で対応されるのかもしれませんが、一部は今回のパンデミックでもうまく乗り切ってゆとりがあるような企業や家計に復興税をお願いすることで、パンデミックに関わる全ての財源が赤字国債などで賄われるということはないだろうと思われます。ですから、今は中銀ファイナンスによる大規模な財政、あるいは中銀ファイナンスによる現金給付が行われる家計の生活保障、あるいは政府と中央銀行が行う企業の債務の保証、そういった政策によりアセットプライスが高い状況にあるわけですが、すべてがヘリコプターマネー的に中銀ファイナンスによって賄われるというわけではないという見方が広がったときに、一度調整が起こる可能性があるのではないかと見ています。

質疑応答

中島氏:

貴重なお話をありがとうございました。株価コントロールが主要国でも強まる、ジャパニフィケーションが欧米にも広がる、金融政策の財政的な色彩が強まる、そして復興税の必要性などは私も同感です。その上で何点か質問をしたいのですが、一つは景気展開と潜在成長率のお話です。たしかに今後はコロナ対策でさまざまな社会的コストが発生しますので、それによって潜在成長率が世界的に下がると思います。他方で、IT化が特に遅れている日本でデジタルトランスフォーメーションが進み、生産性を上げる、ないしは新たな経済活動分野を広げる契機となれば、潜在成長率にはプラスと思うのですが、いかがでしょうか。

河野氏:

過去30年のIT化・デジタル化で、多くの日本の企業は、IT投資は単なるコストカットの材料だとして積極的に進めてこなかった部分があります。IT化・デジタル化は顧客の情報を自分たちのオペレーションにダイレクトにつないで新たな付加価値をもたらすツールなんだという認識がなかった。ですので、これを積極的にやっていけば新たな成長をもたらす要因になると思います。今回のパンデミック危機で、日本がリモートワークにスムーズに移行できないのは、まさにITデジタル投資を今まで十分やってなかったためですから、その必要性は多くの方が感じられたと思います。

ただ、一方でまさにこの10年そういった投資をやらなかったから現金が積み上がって、今回の10年に一度の危機をその現金のおかげで乗り切れた、と間違って認識した企業が多いとすると、次の10年もこの問題はそのままになりかねない。ですから、まさに今回のパンデミック危機を契機に、官も民もITデジタルの利用を進めることが大事だと思います。

また、経済の急激な落ち込みを避けるため、失業や倒産を避けることは大事なんですが、そうするとパンデミック前は成長分野だったがパンデミック後は成長分野でなくなってしまった分野から新たな成長分野への資源移動を阻害することになりかねません。私たちは、伝統的に雇用を守るために企業を守ってるわけですが、スウェーデンなどは家計を守るのであって企業は競争させています。企業を守ることで家計を守るのではなく、ダイレクトに家計を守れば、成長分野への資源の移動につながると考えています。

中島氏:

ありがとうございます。二番目の質問です。まさに現在ヘリコプターマネー状態を日本だけでなく欧米も作っているわけですが、そうすると「実体経済と金融の乖離」は今後さらに拡大する、今後の大きな波乱の芽を今まさに政策的に作りつつあるのではないか。となると落ち着きどころはどうなるのか。河野さんはこの点についてどうご覧になりますか。

河野氏:

既にパンデミック危機の前から、米中貿易戦争で実体経済が悪化するのを避けるため、アメリカの中央銀行は本来なら利上げが必要な環境だったのに金融緩和を行いました。パンデミック危機で実体経済とアセットプライスの乖離が起こったのではなく、米中貿易戦争の過程で大きな乖離が起こっていたわけで、更にパンデミック危機で実体経済が悪化したにも関わらずアセットプライスを押し上げているので、まさに「危機の芽」が増えていると思います。更に言えば、金融緩和の効果の本質は需要の前倒しにしか過ぎないわけで、パンデミックを抑えるために経済活動を抑制している時には本来であれば金融緩和は効かないわけですよね。なのになぜ効いているかというと、財政とセットになっているから、あるいは金融政策そのものが財政政策との垣根がほとんどないような政策にまで踏み込んでいるからアセットプライスが上がっているわけです。

問題は、現在の株価の上昇が、実体経済が早く回復してくることを折り込んでいると言うより、こういった政策を続けないといけないほど経済が弱い、ひょっとしたら暴動が起こるかもしれないからもっと政府や中銀のサポートが必要な状況なんだという折り込みからだとすると、さらに乖離が大きくなってくるということですね。ですから、こういった政策が相当期間続けられると、どこかの段階で財政インフレのリスクも起こってきますから、その時は、低成長・低インフレ・低金利ではなく、低成長なのにインフレ率が高い、スタグフレーションになるリスクもあります。ただ、目先に関しては、相当大きな総需要ショックが起きているので、なかなかインフレが進むことにはならないだろうなと。だからこそ、緩和的な金融環境や刺激的な財政環境が続けられるということになるんだろうとも思います。

中島氏:

最後にもう一つ質問です。財政支出のお金が日銀当座預金にあるだけではなくて、実態的にお金が回る可能性は大きいと思います。しかも、それは実体経済が必要とするお金を超えているかもしれないがやめられない可能性がありますし、さらに類似の状況が日本だけではなくて主要国全般であるとなった時に、ソフトランディングは難しいのではないかという気がします。今後の展開について、短期というよりちょっと中期的になるのかもしれませんが、どう見ておられますかか。

河野氏:

3つのシナリオがありうると思います。一つは、家計も企業も貯蓄をする、そうすると経済収縮が起こってしまうので、それを避けるために政府部門、中央銀行ファイナンスがもっと大きくなってしまう、それゆえにもっと潜在成長率が下がるという悪循環になり、一方でその時はまさにあらゆるものが国有化ないし準国有化に向かい、潜在成長率が更に低下していくシナリオです。

次に、過去30年間の大きな流れで言いますと、私たちはグローバリゼーションとイノベーションが成長をもたらすことを見てきたわけですが、ひょっとするとまさに今回のパンデミックはグローバリゼーションのピークだったかもしれない、一方でこのパンデミックの危機下でも米中は非常に対立を強めており、我々は戦後のリベラルな国際秩序の瀕死に直面しており、更に米中の70年代以降のレジームがすっかり崩壊してしまったというリスクもあります。これはかなり経済成長を抑制する、場合によっては米中対立が経済や技術や金融だけに止まらず軍事技術を背景に熱い戦争のリスクも高まってくると、もっと不確実性が高い世界がやってくる可能性もあると思います。

一方で、イノベーションは成長を高めますし、現にこの30年間もイノベーションはずっと続いてきました。なのに経済成長が高まっていない理由の一つは、イノベーション、あるいは知識経済がもたらす付加価値が一部の人に集中し、所得格差が広がったからではないか。要は、所得が増える人は所得水準が高くてお金を使わない人であり、平均的な労働者の所得はなかなか増えない、これが経済格差の背景でもあるわけです。この動きが、今後のパンデミックの動き次第では変わってくる可能性がある。例えば1930年代がそうであったように、社会全体が危機に直面して、全体主義や共産主義に陥るリスクがあったからこそ、すべての人が社会の危機を認識して所得の高い方から税金を取って社会保障を通じて少ない人に移転する政策も取られたわけで、今回の危機をきっかけに多くの人達が社会的紐帯に目覚め、そういった政策が行われる可能性もあります。

もう一つ強調したいのが、過去30年間は、アイデアや知識が付加価値を生み出す時代になっていますが、物的資本と違って知識やアイデアが生み出す付加価値は、その帰属が必ずしも明らかではありません。物的資本が生み出す付加価値は物的資本を持っている人のものになりますが、知財や特許がどのくらい続くかは国によってまちまちです。もちろん我々は新しいアイデアが生まれることを期待して特許や知財権で保護はしているが、モノと違ってみんなが同時に使える。だからこそ、GAFAのようなプラットフォーマーが儲けているわけです。

プラットフォーマーは、私達が喜んでFacebookなどにインプットする個人情報をビックデータにして大きな利益を得ています。この情報やアイデアが生み出す付加価値の帰属が誰のものかが今後変わる可能性があるのではと私は見ています。単に所得の多い人から所得の少ない人への所得の再分配が行われるというだけでなく、アイデアが生み出す付加価値の帰属が誰のものかという見直しが行われることで所得の再分配が行われ、お金を使う人に所得がいくことで経済が回るというシナリオであれば、これは残りの2つのシナリオよりはるかに明るい絵が描けるのではないかと思っています。

その意味ではイノベーションにも期待したいのですが、今までと同じ延長線上で、イノベーションを生み出した人にだけ所得が集中するのではなく、そもそもアイデアというのは今までの積み重ねなのだからと、アイデアが生み出す価値の帰属を我々がもう一度考え直すということになれば、大きく社会が変わるのかな、と思っています。

今回のパンデミックで明らかになったように、日本は、企業も政府も、ITやデジタルを活用できていません。オンライン診療がもっと活発化すればよかったですし、オンライン教育が可能であれば、一斉休校の下でも、長い教育中断が避けられ、人的資本の蓄積の滞りは避けられたでしょう。企業に関していうとまさにIT投資・デジタル投資を十分しておらず、それが付加価値を生み出すツールだという認識もなく遅れたということですが、これらを進めることが何より重要だと思います。

また、これは11年前も申し上げたことなのですが、リーマンショックの後、本来であれば困窮する家計に手厚くサポートすべきなのに、当時日本政府はその情報を持っていなかったため、困窮する家計に素早く現金給付を行うには一斉給付をするしかなかった。これが、11年経った今回も全く同じままでした。これは重要な点ですが、経済危機というのはどうやら10年に1度は少なくともやってきそうで、我々は今度こそ最も困窮する人々に対して手厚くサポートする手段を作る必要があります。せっかくマイナンバー制度を作ったのですから、これを銀行口座に紐づけるべきです。現在政府はマイナンバーの銀行口座への紐づけをやろうとしていますが、一つの口座に紐づけようとしています。これでは、働いていないがすごく資産を持っている方々を発見できないので、次の10年に1度の危機に備える準備としては足りないと思います。

今回のようなパンデミックは今後もやってくる恐れがあります。私達が自然の生態系に手を入れたことによって、本来であれば野生動物を宿主としていたウイルスを目覚めさせたという話ですから、これは地球温暖化の議論と全く同じです。そういった意味でも、今後も数年に一度パンデミックがやってくる可能性もあり、第二波がこの秋冬にやってくる可能性に対しての準備をすべきで、医療体制の強化や社会対応の制度作りも無駄にはならないwise spendingになるのではなないかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。