英国の政治制度から日本の民主主義を考える

本BBLは新型コロナウイルス感染症拡大を受け、特別対談として行われました。

開催日 2020年3月19日
スピーカー 鶴岡 公二(前駐英国特命全権大使)
モデレータ 中島 厚志(RIETI理事長)
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米中対立、英国のEU離脱、中東情勢の緊迫化、WTO上級員会の機能停止に加え、新型コロナウイルスの感染拡大など、世界秩序の安定を脅かすさまざまな事象が続いている。世界はどこに向かい、日本はそれにどう対応すればよいのか。外務省で地球規模課題審議官、国際法局長、総合外交政策局長、外務審議官(経済担当)、駐英国特命全権大使などを歴任し、世界の問題や各国を動かすルール、経済問題から国際政治の実態まで、幅広い分野に精通されている鶴岡公二前大使が、英国のEU離脱の背景、そして日英両国の統治形態の比較から世界における日本の立ち位置と日本の果たすべき役割について語った。

議事録

国会に振り回されない英国政府

鶴岡公二写真英国のEU離脱に多くの方々が関心を持っておられると思いますが、英国政治と日本政治の比較から日本が取り組むべき課題を考察し、英国の経験がわが国の将来にとってどのような意義を持つのか、考えていただきたいと思います。

2016年6月に行われたEU離脱の是非を問う国民投票では、離脱52%、残留48%と、僅差で離脱支持が上回りました。当時、デビッド・キャメロン首相はEU残留を国民の一致する方針として確定させるために国民投票を提案したわけですが、結果は離脱派が勝利し、彼は国民からの支持を得ることができず、首相交代に至りました。

英国において、国会は首相交代に全く関与していません。英国の首相は、過半数を制する下院第一党の党首がエリザベス女王から委嘱されるポストであり、国会による首班指名は存在しません。これは歴史的に確立した慣行で、与党の党首が女王によって直接首相に任命されます。そして国会の会期を含め、国会の審議は首相の意向に従うことが原則となります。

私自身43年霞が関(外務省)におりましたので、おそらく人生の半分近くは国会案件に費やしていたと思いますが、英国の役人や閣僚の場合はそういったことはありません。なぜならば、政府は国民のために尽くすことが任務であり、国会のために尽くすわけではないからです。

日本では、政府は国会のためにあると認識されている節があります。霞が関に勤める人々(中央省庁職員)は、ほとんどの時間を国会議員や国会の職員との間で費やしていて一般国民との接触は限られていて、行政府が提出する法案や予算をどのように国会で承認してもらい、実施につなげるかが大きな仕事になっています。

英国ではそれはありません。この背景は選挙制度の違いから来ています。日本でも英国の選挙制度を導入し、中選挙区制から小選挙区制に比例代表制を組み合わせた選挙制度に変更しましたが、英国は完全な小選挙区制度を採用しており、基本的には二大政党の公認候補の一騎打ちとなっています。

2019年の総選挙では保守党が67議席増やしましたが、これはフォークランド紛争時のサッチャー政権に次ぐ大勝利で、いまや保守党は圧倒的な強さを誇っています。650席中365議席を獲得しましたので、多少の欠席や造反があっても何の不安もないという状況を手に入れたわけです。投票率は67.3%で、全投票における保守党の得票率は43.6%、投票権者からの圧倒的多数の支持を獲得するに至りました。

一方、労働党は203議席(47減)、得票率は32.2%と、大幅に得票率を落としています。これは小選挙区制と二大政党制からなる結果です。保守党の大勝という表現は必ずしも正しくなく、これは労働党が大敗した選挙であり、小選挙区制であるがゆえに結果的に保守党に票が流れたのだと私は考えています。

ジョンソン首相になってからの保守党は少数与党に転落していましたが、そうした中での総選挙で圧勝したため、首相が自ら国会を解散することはまず考えられません。今後5年間は下院で絶対的多数を持った保守党が英国を支配し続けることが予測されます。

英国の政党は政策を実施するための議席を獲得する組織である

日本との対比で考えると、英国政党の歴史は長く、保守党自体が非常に長い歴史を持っています。党とは、基本的に選挙でどれだけ当選者を出すかを最大の目標として活動する機関です。実際の政策は少数の政策指導者たちが企画立案するものであり、党員一般が作るものではありません。ですから、日本のように部会や政務調査会など、党の機関として政策を議論する場は英国の党制度にはありません。

政策の立案者は党から任命を受け、政府と一体となって政策形成を行います。これは与党の党首が首相であるため、党が改めて議論する必要がないからです。党首を選び、党首の意向を実施する機関が英国の党の役割です。実施するというところに党の存在意義があるわけです。

2019年の選挙の際、保守党はジョンソン首相の意向に従うことを誓約した候補者のみを公認したため、EU離脱問題を巡って合意なき離脱に反対した有力議員は公認から外れました。その結果、いまやジョンソン政権は彼の意見を支持する保守党員が国会議席を持つ状況になっています。

下院議員の選定においても、有能候補者の内閣取り込みを想定し、当選前からその人物の政府内の役割と配置を考えて公認しています。そうした議員が入閣し、ウエストミンスター(議会)の生業を学び、ゆくゆく大臣となっていくのです。10年ほどのうちに首相候補になる可能性を持つ候補者をどれだけ英国全土から発掘し、引っ張ってこられるかが党にとっての重要な課題です。

数がないと物事を決める決定力がないため、地元で評価されて当選するような人材を探すことも大事です。しかし、大部分の下院議員は地元の出身者ではなく、落下傘です。将来的に可能性を秘めた候補者には勝敗が五分五分の激戦区を割り当て、厳しい選挙の実態を経験させます。そして勝った場合には、その選挙区でその後も戦いますが落選した場合には盤石選挙区を割り振って当選させ、指導者として養成する段取りが整備されています。

この政治制度が機能するには与党が国会の過半数を有することが必要です。当然です議会の多数派を制する党が内閣を組織します。英国は成文憲法を持ちませんが、法律や予算は下院の承認が求められます。上院が否決した場合、下院で再度議決すれば通ることになっています。上院は勅選議員であるため選挙は経ておらず、下院優位が定められています。そういう仕組みの中で議員の代表である首相が議会の進め方や審議日程を決めているわけです。

メイ内閣のEU離脱協定は3度にわたり下院で否決されました。これは与党内が割れていたことによるものです。メイ前首相は異なる多様な意見を束ねようとしましたが、党内でも意見が割れていたため、政権運営は行き詰まりました。その状況を目の当たりにしたジョンソン首相は自分の意見が確実に通る組織を構築し、造反があれば躊躇なくその議員を除名します。同じ保守党政権と言ってもだいぶ性格の違う内閣ですが、それを制度の仕組みによって支えています。

英国から学ぶ「機能する政府」

では、日本はEU離脱にまつわる英国政治の事象から何を教訓として学ぶべきでしょうか。メイ政権は挙党一致、呉越同舟を目指しました。首相自らが持つ強大な権限の下、離脱派と残留派の両者の意見をまとめあげようとしたものの、物事が決まらない3年間が経過し、政府は国民からも忌避されました。総選挙における保守党の勝因は、国民が労働党の不明瞭な離脱協定方針を拒否し、EU離脱実施を明確に掲げた保守党の実行力を重視したからだと考えます。

英国民は機能しない政府を嫌います。与野党が拮抗して物事が決まらない状況は歴史的にも多々ありますが、これは必ず国民に否定されます。物事を決断することが政治の責任であり、国会議員、そして首相が、迅速かつ的確に国民のために任務を全うすることが英国民の政治に対する注文であり、期待であります。それを実現するための制度がイギリスの統治形態であり、小選挙区制であり、首相に絶対権限を与える仕組みです。日本ではどうでしょうか。これは皆さんに考えていただきたい課題であります。

メイ前首相の挙国一致内閣の背景

モデレータ:
目から鱗のお話で、日本の議会制民主主義は運営方法も議会と政府の関係も、英国の政治制度と随分異なることを教えていただきました。伝統的な政治制度が英国民あるいは議会にも浸透していたとすると、保守党内でも意見が割れる中、なぜメイ前首相は挙国一致内閣を試みたのでしょうか。

鶴岡氏:
大変良い問題提起だと思います。メイ前首相が挙党一致を進め、国が一丸となって対応することを重視したことには、背景があるからです。

90年代後半、トニー・ブレア首相が左翼的労働党の政策からより中道的な経済活性化と資本家との協調政治を進めたことによって、労働党政権が相当な期間続きました。その後に保守党が政権を握り、英国経済を健全化させるために財政再建を強調しました。

後任のキャメロン首相はジョージ・オズボーン財務大臣とタッグを組み、緊縮財政を断行しました。英国は国民皆保険制度の社会保障が行き届いた国ですが、これは費用をかけて実現させているのであって、財政的には厳しいものでした。英国では消費税率の引き上げは首相の一存でできるので、法律は必要ありません。キャメロン首相は財政の立て直しを実現するため、支出を削減すると共に消費税の20%への引き上げをはじめ増税も実現しました。

彼の打ち出した経済政策によって英国の経済は好調に次ぐ好調を続け、実績を挙げてきました。しかし、その実績の裏にはやはり疎外された弱者がいたのです。高齢者、低所得者、少数民族出身者、若年労働者そういった人たちが社会から疎外されているという問題が繰り返し指摘され、メイ前首相はそれを非常に気にしていました。

というのも、彼女はエリート階層の出身ではなく、牧師の一人娘として政治に打って出た人物だからです。牧師は、いわばよろず相談所です。悩みや困った人が最後の拠り所として牧師のところに来て相談をします。そのような環境で育ってきた彼女には、理不尽な世の中で困難な状況に置かれた人たちを救うために政治に取り組むという姿勢が原点にあります。

そういった視点で今の保守党を見ると、緊縮財政や経済政策が結果的には富裕層をますます裕福にし、貧しい層は賃金が上がらず、貧富の格差が広がることで、社会保障の面でも弱者に非常に厳しい制度に変わってきていました。この状況が牧師の娘として育ったメイ前首相としては耐えられず、一般国民を含めた、国民統一型の国民党としての保守党の再生を彼女は目指していたのだろうと私は思います。

EU離脱を実現するという具体的な課題が与えられていたものの、彼女の問題意識は保守党をより国民党として脱皮させ、英国が分断されて対立が厳しくなる状況を政治によって統一し、立て直そうという試みが背景にあったと思います。

国民に統一を求める以上、党が多様な立場の議員を包摂しながら一致した政策を打ち出すことができなければ、国民に対しても一緒にやろうと言えるわけがありません。彼女は非常に真面目な政治家として、あえて自分に反対する者も含めて、議論を重ねることで自分の方針に統一させていくような骨の折れる作業を自ら買って出た結果が、呉越同舟、挙党一致内閣につながったのだと思います。

EU離脱を巡る分断と国民の民意

モデレータ:
EU離脱を問う国民投票の結果は52対48で、僅差とはいえ、離脱が決まった歴史的な瞬間でした。その際に立場が真っ二つに割れたわけですが、国民は何を基軸に判断したとお考えですか。

鶴岡氏:
国民がなぜ離脱を選んだのか。本当にそれを選んだと言えるのでしょうか。52対48というのは非常に僅差です。英国とEUの関係の議論は今に始まった話ではなく、長い間英国内ではEU加盟への反対が強く唱えられていました。英国がEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟するにあたり、一度フランスから拒否権を行使され加盟できなかったことがあります。英国人はフランス人に対して強い対抗意識を持っており、歴史的にも英仏関係はなかなか第三者には理解できない感情的なしこりを抱えていると思います。

その中で、EU離脱問題は英国が欧州の軍門に下るのか、それとも自分の独立主権を維持するのかという問題ととらえられました。英国の6500万人の人口規模に対して、EUは3億人近く、場合によってはそれを超えるほどの大きさですので、大英帝国として君臨したかつての栄光を考えれば、世界中に指示をしてきた国がなぜ相手に指示されなければならないのかという感情がくすぶっているわけです。それが保守党の長老、高齢者、そして英国の力を信じる人たちによって維持されてきた歴史です。

そういった二つの流れを保守党内でまとめることができなかったため、キャメロン首相は40年もEUの中で経済的に繁栄をしてきた今、国民に改めてEU加盟の是非を問えば、頑迷固陋の英国独立誇示派や現実乖離型の人たちもさすがに国民の意思には従わざるを得なくなり、保守党の長年の分裂理由であった欧州問題が解消されることになると思ったのです。しかしながら、彼の思惑は裏目に出てしまいました。

EU離脱問題は感情的にももつれた問題であり、容易に合理的な判断ができる問題ではありません。さまざまな意見があるため断定的なことは言えませんが、実は英国の制度はEUが今構築しつつある制度と比べると、相対的に資本家に有利であるといえます。労働者の権利が欧州大陸の制度ほど強くなく、資本家や経営者にとって有利な経済制度になっているため、英国の資本主義経済が繁栄している面もあります。

反面的に、労組にとっては厳しいということになってくるわけですが、経済が好調であれば労使関係は順調に進みます。英国がEUの労働者権利を重視する制度を次々に押し付けられることになれば資本家は儲からなくなるため、残留に反対したという意見もあります。

しかし、労働党という労働者の権利を守る人たちからすれば、英国が今まで歴史的に繰り返してきた労使紛争の結果が今の英国の労使関係であり、それをさらに労働者有利に変えていくには英国の労働者だけでは達成できません。EUに加盟することによって、実は英国の労働者の権利が守られている部分もあります。

環境や人権のみならず、英国は1000年以上続く法治国家であり、法の支配を尊重し、英米法と言われるコモン・ローの伝統を構築してきた実績があります。世界の法曹の中でも英国は主導的国家であると誇りを持っています。

英国の最高裁が判決を出したとしても、その判決がEU法に関するものである場合は欧州裁判所に持ち込まれ、欧州裁判所の判断が英国最高裁の判断を優越する仕組みになっています。まだ歴史の浅い欧州裁判所が英国の最高裁を超える権力を持っていることが納得いかないという主張もあります。

そして、最後のとどめと言われているのが移民問題であり、外国人労働者の流入です。EU域内の移動は4つの自由の中の1つの柱ですので、EUに加盟して以来、大量のEU国籍を持った外国人労働者が英国に入ってきました。これが英国人たちからすると違和感があるわけです。

英国は他の国と比べると人種差別や文化面での違い対して非常に寛容です。しかし、異なる人種が入ることによって自らの職が奪われたり、生活環境が変わることには恐怖を感じますので、煽られれば、やはり反応するわけです。国民投票では外国人が1人もいない地域が離脱を支持しており、多様性に満ちたロンドンでは7割が残留を望んでいました。

もともと割れていた国民の議論の中でいかに国民の不安を煽り、宣伝戦で勝つかということで、最終的に52%が離脱を支持しました。それはキャメロン政権が10年近くにわたって続けてきていた緊縮財政に対する反対票だったのではないかと私は思っています。キャメロン政権のせいで生活が苦しい、彼に一泡吹かせたいという気持ちがあったのではないかと感じています。

英仏の対抗意識

モデレータ:
先ほどの英仏の確執の話について、英国とフランスを結ぶユーロスターは、1994年の開通から2007年まで、なぜ始発着駅がロンドンのウォータールー駅だったのでしょうか。ウォータールーはナポレオンが歴史的に大敗したベルギーにある土地の地名ですので、それはフランスに対する英国の強い反感だという意見もあるのですが、どのようにご覧になられますか。

鶴岡氏:
上流階級の英国人は極めて礼儀正しく行儀はよいものの、同時に、相手の傷口に塩を塗るのが得意です。それは絶対に忘れさせないためにやっているわけです。偉そうな口を聞いた際に、これを忘れていませんかと、アイロニックに表現する技術は皆長けていますね。

EU離脱に伴う影響

モデレータ:
ジョンソン首相が実現しようとしている施策に反対する国民も半数いるとすると、彼の打ち出す方針が英国議会内の混乱、あるいは今後の英国とEUの確執につながるようにも思うのですが、その辺りはどのようにお考えですか。

鶴岡氏:
それは大変的確な問題提起であり、英国内でも真剣に議論されています。離脱問題は国民を二分しているということです。52.3%は多数と言えるのでしょうか。英国のEU離脱は今までの人々の生活を激変させることになりかねず、それに反対した半分弱の人たちがたった数パーセントの違いでそれを飲み込まざるを得ない。場合によっては失業あるいは倒産も起こり得ます。

離脱したはいいが、離脱した結果、連合王国が分裂すれば大きな混乱に直面します。連合王国の核心を占める最も重要な一番の基礎のところが崩れるようなことがあっては、英国自体の国としての存続すら危うくなりかねないという問題意識を持っている人もいます。

英国も、その問題をどう乗り切るかという解決策は今見えていない状況です。離脱したけれども、離脱がどういう意味なのか理解している者はほぼいないでしょう。離脱は定義されていません。メイ前首相の残した言葉に、"Brexit means Brexit (BrexitとはBrexitのことである)"があります。離脱とはどういう意味かと聞かれた際にメイ前首相はこう述べたのですが、EU離脱は一言では答えられない非常に複雑なあらゆる問題を含んでいます。

離脱を支持する判断理由は千差万別です。離脱はゴールではなく、その先には将来があります。英国とEUの離脱協定は今年の12月31日までは暫定期間を設定しています。すなわち英EUの将来を規定する将来協定が12月31日までに発効することが想定されています。仮にそれが実現しなければ、両者の合意によって期限を延長することも可能です。今は暫定期間中ですので、法的には英国はEUを離脱していますが、それぞれの権利義務関係は英国があたかもEU加盟国であったのと同じような状況が維持されています。

お互いが将来の経済関係を維持し、政治や安全保障面での協力関係構築に向けて3月から交渉することで合意されていましたが、コロナウイルスの影響を受け、その交渉は現在行われておりません。本格的な交渉につなげていくのは容易なことではありませんが、出だしからつまずいた状況にあるわけです。

新型コロナウイルスの感染拡大に加えて、米国では11月に大統領選挙が行われますので、世界中で地殻変動につながるような大きな事案が今年も控えています。その中で英国が迷走状態にあったこの3年間の経験を日本がよく理解し、学ぶ必要があります。日本は今非常に厳しい状況に置かれていますが、世界情勢に鑑み、日本として必要な状況判断、必要な実施を迅速に行えるよう体制を整えておくことが求められます。

永田町(国会)がその実施指示を出すための原動力たるのは霞が関であり、また霞が関の責任であると私は思っています。ぜひこのBBLへ参加されている皆さんが意欲を一層高め、今こそ自らが努力をする時期が来たと考えていただければ幸いです。

分断から協働へ

モデレータ:
EU離脱を契機に、英国は世界の他の国々との関係が従来より緊密になる面もあると思います。米中を中心に分断の時代だという意見もある中で、グローバリゼーションの逆流が始まるのではないかという見方もありますが、世界における英国の立ち位置と日本の立場についてどのような見解をお持ちですか。

鶴岡氏:
「分断」という言葉は、英語では"division"や"divisive"のように、2つの単位がお互いに対立していくような語感を持っているのではないかと思います。確かに緊縮財政の結果、英国内で一種の分断現象を生んでいるかもしれません。それは日本においても同様で、世界的にも同じ状況があると思います。今の世の中を見る際、我々が慣れ親しんで長い間使ってきた1つの物差しを柔軟に活用することが必要ではないかと思います。

グローバリゼーションについてはさまざまな見方がありますが、主権国家の間で厳然として存在していた国境はどんどん薄くなりつつあります。国境を破っているつもりはなくとも、国境を超えているわけです。たとえば地球温暖化のような世界規模の課題は、自分の行動が自然に国境を超えていきます。情報の伝達においても、人々の移動においても、天文学的な数字で伸びています。

世の中は移動の問題、そしてお互いの物理的な距離を全て克服し、1つになってきています。国内と国外の課題を分けて考える必要は必ずしもないわけです。また横のつながりも非常に伸びてきています。主権国家が国家としての単位で議論を進めることは必要ですが、国家や政府の枠を超え、国をまたいで共通する立場にある者同士がつながる動きが活発化しています。

その流れは分断ではありません。そういう人たちは分断を促進するために行うのではなく、共通の課題、共通の利益、そして共同で果たさなければならない責任を皆で認識し、行動につなげています。これを私は協働と呼び、これが分断に対抗する概念であるべきだと考えています。

日本は世界の他の国と比べて階級間の抗争や貧富の差は深刻ではないので、一体となって協力する環境は整っていると思います。協働によって成果を挙げていく重要さを日本が実証することによって、1つの模範となりながら各国の協働を醸成する形で世界に広げていく。そのためには日本が短期的には大きな負担を負うかもしれませんが、長期的により安定した平和な世界をつくることにつながれば、最も利益を受けるのは間違いなく日本です。そこが、今日本が問われている大きな課題だと感じています。

米国の大統領選挙は世界中が注目する選挙であり、そこで提起される課題について各国でさまざまな議論が繰り広げられます。本戦になれば一層両党の間では厳しいやりとりがなされますが、それを世界の中で勢力を分断するような流れにつなげるのではなく、協力する仕組みを構築していくべきです。お互いの見解を平和的に実現するような方向性を目指して、協働を軸に世界の中で日本が行動を示していただきたいと思っています。

世界の繁栄に貢献するために

モデレータ:
日本の方向性を示すというのは大変意義ある方向だと思うのですが、英国の動きと照らし合わせ、日本の動きをどのようにご覧になられますか。

鶴岡氏:
英国の優れた特徴の1つとして、課題を設定し、問題解決のために世界中から幅広い資源を投入させる流れを作る能力が挙げられます。英国は問題解決策を自分で考えて課題を設定し、その課題がいかに世界の課題であるかという議論を展開し、説得力を持って各国の賛同を得ることに非常に長けています。一方、日本は事象が発生した際にそれを知りたがる知的好奇心は旺盛ですが、自分が感じた問題についてどう取り組むべきかという発想よりも、他人の考えや行動に関心を抱く傾向にあります。

これでは世界の中で本来日本が果たすべき貢献が十分にできません。日本人は非常に優れた資質を持っていると思いますし、基本的には真面目で、相手方にとっても良かれと思って対応することができる国民性があります。その日本が生き残り、さらに繁栄するためには、世界が安定し、繁栄していく必要があります。

どのようにしてそういった国際社会づくりに日本が貢献できるのかを考えるべきです。他国の取り組みを把握し、適切な対応や備えを検討することも大事です。日本はそういった反応型の取り組みが徹底している国民性だと思います。情報収集や御用聞きも大事ですが、実はさらに重要なことは、自分は何をするべきか、何をする能力があるのか、いつそれをどのような形で行うのか、そのためにどういった仲間を作っていくのか、こういった発想を持つことです。待っているのではなく先を読みながら自らどのように対応すべきかを考えて備えを設けておくことが必要です。21世紀には想定外のあらゆる事態が生じてきます。危機が起きたら他国がどう対応するかを調べてから日本の対応を考えるのでは危機を乗り越えることが困難になります。日本には十分優秀な能力があります。この能力をどのように活用するかが日本の課題でありこれこそが日本が世界に貢献できる道だと思います。

今回のEU離脱においても、英国人だってどうなるかわかりません。世の中にはわからないことは山ほどあるわけで、それをわかるように説明する能力が世界一優れているのが英国人です。なぜでしょうか。それはその能力を買う人がいるからです。すなわち知的な活動に対して正当な対価が提供されます。だから英国人は巧みな能力を発揮して、情報を提供します。世界中でBrexitがどうなるか強い関心があったので英国のコンサルは見通しや問題点を分析して大いに売り上げを伸ばしました。皮肉な現象だったと思いますが、知的作業への評価が高いところは日本も見習うべきです。

課題解決に向けた行動を指示するような発想に日本自身が移っていかなければなりません。情報を得ただけでは、政策立案に間に合いません。政治は時間が限られているため、差し迫った課題に集中する傾向があります。他方、問題になりつつある重要な課題を放置すれば大きな損失を招く恐れもあります。その時に何をしなければならないのか、行動を念頭に置いた決定をどれだけ多くの人が受け入れ、実現につなげるか、そういった思考に切り替えていくことが我が国の課題です。対応型から能動型への転換を霞が関は目指すべきです。役人には最も難しい課題ですが知的能力と知識を持った霞が関の方々に期待致します。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。