バレンタインデーは花の日だった?-新しい産業政策・ソーシャルイノベーションの創り方とは

開催日 2020年2月14日
スピーカー 小川 典子(一般社団法人花の国日本協議会プロモーション推進室長/フラワーシーンプロデューサー)
コメンテータ 拝野 多美(株式会社パーク・コーポレーション コミュニケーション室マネージャー)
モデレータ 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター)
開催案内

イノベーション(innovation)とは、「発明(invention) ×普及(diffusion) 」によって新しい当たり前を創造することである。では、ソーシャルイノベーションとは何か。社会問題に対する解決策(=solution)を世の中に浸透させ、新たな制度や概念を未来の当たり前として生み出すことである。日本では2月14日に女性が男性にチョコレートを贈るのが一般的だが、「フラワーバレンタイン」活動によって、男性が女性に花を贈る新しいバレンタインの習慣が生まれ始めている。本BBLセミナーでは、年間を通じて男性の花贈りを当たり前にすべく取り組まれている花の国日本協議会の小川典子氏から、低迷していた花業界が異業種コラボレーションによって巻き起こしたムーブメントについてご経験を共有いただき、青山フラワーマーケットで有名な株式会社パーク・コーポレーションの拝野多美氏から、男性の花贈りを応援するために取り組まれた商品開発、そして現場の意識変化に関してお話しいただいた。

議事録

花業界の光である「フラワーバレンタイン」活動

小川典子写真小川氏:
我々の組織は、2010年に「フラワーバレンタイン推進委員会」という任意団体を花業界の有志で立ち上げ、花の消費が落ち込む中、今後何をすべきかという問題意識を持ってスタートしました。「フラワーバレンタイン」は、花業界が男性の花贈りを応援する企画です。現在、全国には約1万6000軒の花屋があると言われていますが、そのほぼ半数が参画している業界横断型の一大プロモーションです。

花は、生産、流通、販売のプロセスを経て生活者の元に商品が届けられるわけですが、業界も縦割り型でそこにプロモーションという概念がなかった業界であり、生活者に花の素晴らしさを伝えたいという想いからプロモーション組織を創設しました。小売、生産、流通、行政など、幅広い業界団体が会員として参加しています。今後の顧客創造や市場創造においては一企業でどうなるものでもないので、日ごろライバルとして切磋琢磨している小売店の方々も巻き込み、業界が一丸となって取り組んでいます。

花業界は生産量も消費量も緩やかに右肩下がりです。男性においては個人の花の消費は伸びているものの、女性の消費量が驚異的に減少していることが見てとれます。千葉県南房総市は多くの若手生産者が活躍し、花の生産が盛んな地域ですが、昨年の台風により甚大な被害を受けました。現地の生産者からは、復帰した際に自分たちの作った花を必要としてもらえる場所があることが希望であるという声もいただいており、花贈りの魅力を訴求するこのフラワーバレンタイン活動は、花業界の光のような存在です。

花贈り文化の創出を目指し、バレンタインデーには花束を

顧客創造に加えて消費拡大を実行するには、明快で説得力のあるテーマとターゲットが必要でした。この取り組みを始めた当初、花業界は全体的に諦めモードに包まれ、チャレンジ精神も乏しい状態でした。花の消費の中心は60代以上の女性であり、諸外国のように男性が花を購入することも少ない。若い客層にいたってはほぼ未開拓でした。

どの業界でも2月と8月の商売は厳しいと言われていますが、我々の業界も1月、2月が極端に花の消費が少ない状況にあります。ここを底上げするだけでも活性化に寄与できるのではないかということで、この時期に消費拡大に向けたプロモーション活動を行うことになりました。

1月31日は愛妻の日、11月22日はいい夫婦の日です。語呂合わせで新しい記念日を作るのは簡単ですが、それを知ってもらうには時間がかかります。いい夫婦の日の周知には30年近くを要しました。母の日は国によって日にちが異なりますが、世界中で共通しているのが2月14日です。そこで老若男女、誰もが知っている2月14日のバレンタインデーに着目しました。

今から約50年前、メリーチョコレートの社長の発案によって日本ではすっかりバレンタインがチョコレートの日になりましたが、世界を見渡すと、男性が女性に花を贈ることが一般的です。世界的にも最も花が売れる日と言われていますが、この風習を日本にも紹介しながら、男性が女性に花を贈るきっかけにできないか検討しました。

チョコレートを花の文化に変えるという野望はなく、あくまでも男性が花を贈るきっかけづくりをしたいと思いました。チョコレートバレンタインデーPRの初年度、伊勢丹で売れたチョコレートの枚数は3枚だったそうです。それがいまやここまでのマーケットに成長したわけですから、業界の方々の頑張りに加えて、いかに生活者を巻き込んでムーブメント化していったか、学ぶべきところはたくさんありました。

チョコレートでできたことを花もできるのではないかということで、このフラワーバレンタインという1つのイベントをきっかけに新しい消費のパイである「男性のお客様」にも年間を通じて花を購入いただき、男性から女性への花贈りを新しい習慣にすることを業界の目標としました。

花と異業種のコラボレーション

まず、若年層で花のコミュニケーションが少ないことから、20代から40代の男性とそのパートナーの方々をターゲットに設定しました。そして本来のバレンタインデーの姿である、男女がお互いに愛や感謝を伝え合うというコミュニケーションを花業界がフラワーギフトを通じて背中を押し、お手伝いするといったコンセプトで進めました。花の消費を伸ばしたいという気持ちは当然ベースにありましたが、新しい花文化を創造したいという野望を持ってスタートしました。

当時私はキリンビールの社員でしたが、花業界のこういった動きを知り、この活動に参加させていただきました。各企業から異業種を経験した精鋭が投入され、こうした人材にスタート時から恵まれたことが大きな動力となりました。 予算がない中で手弁当、ないことだらけの中でのスタートでした。そもそも我々のターゲットは花に全く無関心な方々でして、花屋側も「日本において男性が花を贈るなんてどうせ無理」「なぜホワイトデーがあるのに余計なことをするんだ」と非難轟々、冷めた反応でした。

やる気のない花屋からは当然お客様に届くはずもありません。届かないお客様にどのようにこの活動を知ってもらうか、花贈りが素敵だと気づいてもらうかということで、選択肢は1つ。フラワーバレンタインに共感して、共に伝えてくれる有志のパートナーを探すしかありませんでした。

共感してくれる異業種パートナーを求めて

この活動を始めた2011年はコト消費がもてはやされていた時期で、花を贈った人も、贈られた人も幸せになる、というフラワーバレンタインの提案は時代の気分にフィットしていたと思います。初年度からメディア受けは良く、参加したくなるようなストーリーをメディアの方々も一緒に作り上げてきてくれました。

花屋に来てくれない方がターゲット層ですから、我々から彼らがいるような場所に出ていくしかありません。お出かけスポットになるような商業施設、花とカップルの親和性が高いレストラン業界、ブライダル業界、映画等のエンタメ系を中心に営業活動を行いました。

そして、フラワーバレンタインというメッセージをいかに花屋以外の場所で拡散していくかを考えて、2013年にCD、書籍、ショートムービーを制作しました。作ったショートムービーは、当時、約80の劇場の676スクリーンにて幕間CMとして上映していただきました。

また、コラボレーションのパートナーとして重要なのが「人」です。男性に訴えようとしていますので、男性にも影響力があり、男性も憧れるような人を象徴的に立て、男性にも直接伝わるメディアで発信していきました。

「Mr.フラワーバレンタイン」は花贈りのリアルな象徴です。男も惚れる男は誰かということで、最初から三浦知良さんしかいないと思って口説きました。1年目は話が流れてしまいましたが、諦めきれず再度チャレンジし、2年目にご就任いただきました。人生で累計1万本以上のバラを贈られているそうで、まさにキングです。カズさんの存在は非常に大きく、社会的な影響がある方だと感じています。

また、インフルエンサーである干場義雅さんにはアンバサダーになっていただいています。彼は女性のみならず男性にも人気があり、小学生や中学生がファンレターを持ってイベント会場に来るほど人気を博しています。インスタのフォロワーも8万人お持ちですので、SNSを活用して取り組みの周知・波及を図っています。

バレンタインの概念、男性の花贈り心理に変化の兆し

活動スタート当初からご協力くださっていた百貨店ですが、当初は花はあくまでもバレンタインのチョコレートのおまけという位置付けでした。が、コラボ5年目くらいからでしょうか、そもそもバレンタインデーは「男女がお互いに愛と感謝を伝え合う日」という本来の習慣に引き戻すため、新しい文脈としてフラワーバレンタインを捉えていただけるようになりました。

銀座三越では、社員の方が花を持ってポージングした写真とコメントを今年の1月中旬から2月14日まで、ほぼ毎日公式のインスタでPRしてくださっています。さらに紳士服フロアのスタッフは、ポケットフチーフならぬフラワーチーフをして接客してくれています。この取り組みを自分事のように捉えて、楽しんで取り組んでくださるパートナーをいかに増やしていくかが我々の活動の軸になっています。

そうこうしているうちに、花を贈る男性たちの意識も少しずつ変化してきました。最初は恥ずかしい、照れくさいと言っていた方々が、年を追うごとに、楽しい、ワクワクするという気持ちに変わり始めており、逆転現象が起きています。

送客を狙ったキャンペーン活動

プロモーションには当然ステージがあります。まずは知ってもらうことにエネルギーを費やしますが、ゴールは実際に買っていただくことですからフェーズを変えていかねばなりません。2015年からは「FLOWER VALENTINE with J-WAVE バレンタインに花と音楽を贈ろう」という2週間のキャンペーンを人気FMラジオ局J-WAVEで実施しています。

首都エリアの花屋500店舗が参画、J-WAVEの公式サイトに店舗リストも掲載されており、送客プログラムとして機能するキャンペーンになっています。これは花屋の参加意識促進に加えて、実際に男性客の来店につながる手応えを感じていただいている重要な企画です。

首都圏のみならず全国展開を検討していた際に、去年は『雪の華』というラブストーリー映画とのタイアップのお話をいただき、全国でJ-WAVEキャンペーンと同じような送客プログラムを行いました。登坂広臣さん主演の映画のおかげで我々がかつて経験したことのないSNSの大反響もあり、フラワーバレンタインを広めていくお手伝いをいただきました。

実際に花屋が雪の華ブーケを作っていると発信されたり、購入されたお客様やもらったお客様からの投稿があったり、こういったキャンペーンの盛り上がりを可視化できることは10年前にはなかったプロモーションの形です。

全国への波及という点では、農林水産省のイノベーション事業の助成金が早い段階で全国にわたったことがきっかけでした。日本で一番活発なのは福岡で、媒体の露出も多い地域です。茨城県では若手バラ生産者の旗振りの下、地域の46件の花屋を巻き込んでイベントを開催し、いまや地域で愛されるイベントになっています。香川県でも若手生産者が地元の花屋や商店街とタッグを組み、さまざまな企画を打ち出しています。

若手生産者の方々は地域の宝だと思います。全国で広げていくには各地にキーマンが必要です。どういう人材を発掘できるかという点も重要ですが、その人たちを組織がサポートしなければいけませんし、地域の協力も必要です。各地域で異業種コラボを通してキャンペーンをさらに広げていくことが重要です。

消費者の行動変化が業界関係者の意識を変える

実際に苦労するのは、消費者向けのプロモーションよりも業界内の意識改革です。皆さん理屈は理解していても、自分の目の前にお客様が現れてくれないことにはやる気のスイッチが入りません。そこに至るまで時間がかかりました。

取り組みを始めて7年目が1つの転機でした。花屋の意識に変化が見られてきたのは、目の前に男性客が現れるようになったからです。首都圏の花屋からどんどん輪を広げるように行列のできる花屋が広がっていきました。ムーブメントは都心から年々同心円状に広がっています。

花屋のSNSでもたくさん注文が来たというコメントも出てきましたし、客足が遠のいて苦労されていた地方の花屋からも、去年くらいから徐々にお客さんが増えていると実感できるといった声を聞くことができるようになりました。

2019年3月の消費者調査ですが、東京都では7人に1人の男性がフラワーバレンタインを実行したという結果が出ました。20代から40代という年齢のしばりはあるものの、20代では全国平均が12.2%に達しています。また、今年花を贈りたいと思っている20代男性は3人に1人と見込まれ、若い層を中心に盛り上がりを見せ始めています。

2013年の調査ではバレンタインデーに花を買われた男性は1.2%でしたが、現在は全国でも6.4%まで伸びており、少しずつ成果が出てきています。一般の方々のSNSの投稿を見ると、花贈りが男性の株を上げることがよくわかります。少し前までは控えめなコメントも多かったのですが、去年あたりから堂々と世界に向かって愛を発信している男性が増えており、日本の男性はすごく変わってきたと実感しています。

コミュニケーションツールとしての花

我々もさまざまなイベントを企画していますが、現役大学生も学生企画でフラワーバレンタインフェスを実施しています。主催者の学生は、花はハッピーアイテムであり、社会を幸せにすると信じているからだと開催の動機を語ってくれました。

イタリアのことわざに、「口で言えないことは花で言う」という素敵なことわざがあります。花や緑の効用をどう人に伝え、社会課題に結びつけるか。人と人との間、空間の中に花があることで笑顔があふます。心豊かな社会創造に貢献すべく、次なるメッセージをこれから考えていきたいと思います。

男性の心理を汲んだ商品開発で花贈りをお手伝い

拝野氏:
青山フラワーマーケットは、2011年からこの活動に参加させていただきました。当初は弊社スタッフからも、「なぜホワイトデーじゃないのか」「バレンタインに花なんか売れないですよ」と、ブーイングでした。活動を始めたものの、やはり最初の1、2年は全然お客様が来ませんでした。

百貨店や商業施設に営業活動と共にお花を配り、イベントの企画担当者とお話を積み重ねることで少しずつお客様が増え、お店でも反応が変わっていきました。販売するお店のスタッフが乗り気でないことには、いくら本部が言っても動いてくれません。自分のお店の前に行列ができるようになったことで、この活動がさらに盛り上がっていきました。

本部では、バレンタインに向けた商品を開発し、毎年提案しています。花を持って歩くのは恥ずかしいと思う男性のお客様がまだたくさんいますので、紙製の鍵を挿して箱を開けるまで中身が見えないフラワーボックスをデザインしたり、紙製のジッパーを開けるとお花が出てくるサプライズボックスの商品開発を行っています。海外では1本1本に意味がある12本のバラをプロポーズの際にプレゼントしますが、12本のバラを包んだブーケも用意しています。

そのような取り組みを経て、2012年にバレンタインデーにお花を購入された男性のお客様は全店舗で平均29%でしたが、2019年には40%が男性のお客様だったという調査結果が出ています。また、花屋の前に男性が並んでいるのを見て、バレンタインデーには買わなかったけれどもホワイトデーに購入された男性客も増え、相乗効果で回り始めています。

これまではチラシを作っていましたが、今年は世の中の流れのとおりYouTubeで動画を制作しました。これを見たら、皆さんも花を買ってみたくなるのではないでしょうか。こちらの動画もインスタグラムで1万回以上再生されており、これがバレンタインの花贈りのきっかけになればと、社内でも楽しみに今日の夜を迎えるところです。

質疑応答

Q:

お花を買われるお客さん1人あたりの平均消費額はどのくらいでしょうか。また、消費額動向の調査はされていますか。花の消費に伴って花瓶の需要も増えると思うのですが、花瓶販売店とのコラボレーションも検討されているか教えてください。

小川氏:

花瓶は資材メーカーに含まれるので、同じ花業界として協業を進めています。今は単価を上げる深掘り的な戦略よりも、新規顧客を開拓して間口を広げることを重点的に考えています。年間を通したパーソナルギフトの平均単価は、約2500円から3000円です。

Q:

当初、フラワーバレンタイン活動に対して小売店は懐疑的だったとのことですが、欧米ではバレンタインにお花を贈る習慣があり、特に都心部では海外のお客さんがお花を購入される機会もあったと思います。日本にはそういった風習がないため、海外の方々もあまりお花を買わなくなり、小売店もバレンタインにお花が売れるという実感が湧かなかったのでしょうか。

小川氏:

欧米のお客様は間違いなく購入されていましたが、小売店の方はその習慣が日本人男性にも広がるとは想像できず、「バレンタイン=花が売れる日」という認識を持ってもらうまでに時間がかかりました。ただ、この異業種コラボでは男女問わずバレンタインデーにお花を贈る習慣に共感いただけることも多く、我々のお客様の感覚に近いそういった方々の言葉や反応にとても勇気づけられました。小売店の方々には「お客さんは良いねと言っているよ」と根気強く説明していくしかありませんでした。

拝野氏:

実際に海外のお客様は来店されていましたが、お店のスタッフ自体が「バレンタインデー=花」という感覚が全くなく、なぜ2月14日に外国のお客さんが花を買っていかれるのか不思議に思っていたというほどでした。

モデレータ:

お金がない中で予算も使わずオープンイノベーションをされたわけですが、国や政府が支援できることはありますか。

小川氏:

初年度から農林水産省に後援団体として支援していただいていたので、社会的な信用も得やすく、業界を挙げての活動として周知しやすかったと思います。さらに、途中からイノベーションの予算が全国にわたったことでフラワーバレンタインにチャレンジしてみようという契機になり、現在も多くの地域が継続して盛り上がっていますので、そういった面でとても助けていただいていると思っています。

拝野氏:

ぜひ、「プレミアムフライデーに花を買って帰ろう!」と言っていただけたら、さらに購入者が増えると思います。海外では、朝に花を見るのと見ないのでは一日の気の持ちようが違うとかオフィス緑化でストレスを軽減できるとか、植物が人に与える影響についてさまざまな研究がされています。そういった業界の知恵になるような研究を政府主導で行っていただけたら幸いです。

モデレータ:

雨乞いは必ず成功しますが、それは雨が降るまで祈り続けるからです。この「雨乞いの法則」はイノベーションの成功法則とも言われていますが、誰が何と言おうと信じる道を進み、その事業が成功するまで絶対に諦めないことが重要です。皆様のようなファーストペンギンを支えることができるのが我々ですので、ぜひ支援させていただきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。