地方創生に役立つ「ビジネス支援図書館」の新たな展開

開催日 2020年1月15日
スピーカー 余野 桃子(ビジネス支援図書館推進協議会理事 / 東京都立中央図書館サービス部情報サービス課課長代理(重点情報推進担当))
コメンテータ 竹内 利明(ビジネス支援図書館推進協議会会長 / 電気通信大学客員教授)
モデレータ 安藤 晴彦(RIETI理事)
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開催案内

急激な社会情勢の変化により、公共図書館も新たな役割やサービスの提供が求められている。ニューヨーク公共図書館科学産業ビジネス図書館では、ベンチャー創業や就職・転職の支援等の画期的なサービスを展開しており、世界中から注目を浴びている。わが国でも新たな公共図書館の役割に触発され、構造転換期を迎えた2000年末にビジネス支援図書館推進協議会が設立された。図書館を核とした地域経済の活性化を目指し、これまで多彩なビジネス支援活動が行われてきた。本セミナーでは、公共図書館が提供するビジネス支援の具体事例と活動成果について紹介、その活動の中核を担う図書館司書養成の重要性、また個人や地域の課題解決を支援する公共図書館の新たなサービス展開について解説する。

議事録

公立図書館のビジネス支援サービス

余野桃子写真余野氏:
都立図書館は、国内の公立図書館では最大級の蔵書数を誇る中央図書館、そして雑誌や児童・青少年資料を取り揃えた多摩図書館があります。貸し出しは行わず、調査研究の支援を行う図書館という位置付けです。開館時間が長く、パソコン使用に適した環境、会話をしながら調査が行える交流ルーム、個人で使用できる調査研究ルームを併設しています。

都立中央図書館のビジネス情報サービスは、中小企業や個人企業など、一人一人の経済活動を資料や情報提供の面から支援し、都市を活性化させることが目的です。情報インフラをすでに有する大企業に勤務する方々というよりは、自分たちで情報を探さなければいけない環境にいる方々を対象としています。

具体的な取り組みとして、ビジネス情報コーナーの設置、役立つ資料やオンラインデータベースを紹介した職員によるセミナー、特定テーマでのミニ展示等で利用者をインスパイアし、事業活動のヒントになる情報を提供しています。また、外部機関と連携した起業・創業相談会、セミナーや講演会に加えて、調査方法の案内や参考資料に関するアドバイスも行っています。その他、図書館職員向けレファレンス研修も実施しています。

調査研究の図書館ということで利用者から相談を受け、有用な資料やデータベース情報を提供するレファレンスサービスを行っています。例えばフィットネスクラブの最新の業界動向、ハラール対応商品を製造している国内企業、お一人様消費や自分らしい生き方に関する雑誌についての問い合わせなど、多種多様な相談が寄せられます。

レファレンスサービスを利用される方の特徴として、自分が求めている情報を司書に単刀直入に質問するよりは、会話を通してここまで聞けるというように、様子をうかがいながら相談されます。ビジネスに関する具体的な質問のほかにまだ形にならない抽象的な相談を多く受けますが、近年はビジネス情報サービスが浸透し、高度な質問が増えている傾向にあります。

ビジネス情報というと最新のものが求められるイメージも強いのですが、過去10年分、5年おき、特定の年度等の過去のデータから最新の情報まで、多様なニーズに応えられる図書館の強みを発揮しています。企業情報、市場・業界情報、最近は市場予測の資料がよく利用されています。

広まる図書館のビジネス支援サービス

都立図書館では年に1回東京都の公立図書館を対象にアンケート調査を行っています。それによると、ビジネス情報サービスを行っていると答えた自治体は23自治体あります。これはその自治体にある全ての図書館が支援業務を行っているわけではなく、一部の図書館または中央館だけでやっている場合も含みます。ビジネスコーナーを設置し、書籍、資料リスト、パンフレット、チラシの類を並べて情報の提供に努めている例が多くみられます。

また相談会やセミナーを実施している自治体もあります。府中では地元の元気な企業を紹介するイベントを開催していたり、葛飾では中小企業診断士によるセミナーを行っていますし、新宿区立角筈図書館のように業界紙・専門紙誌を収集する特色のあるサービスを提供しているところもあります。

ビジネス関係のデータベースが利用できる自治体も、「日経テレコン」であれば、都内37自治体で利用可能です。マーケティング情報を調べられる「Mpac」は4自治体、商圏調査ができる「MieNa」も3自治体で閲覧可能です。図書館司書によるレファレンスサービスは、ビジネスに限らずさまざまな相談を受けています。電話やメールでも対応していますので、ぜひお気軽にご利用ください。

地域経済に貢献するビジネス支援図書館

竹内利明写真竹内氏:
ビジネス支援図書館が地域経済に貢献できるようになった背景に、中小企業のビジネス成功モデルの変化が挙げられます。戦後から1980年代前半まで、中小企業の成功モデルは下請けに徹することでした。良い大企業の下につき、その企業から良い仕事をもらうことが確実な成功モデルだったのです。中小企業は接待や宴会を通して親会社の経営者と信頼関係を築き上げながら、経営戦略や商品開発分野についての情報収集を行っていきました。

ところが経営環境や取引構造の変化によって、中小企業が自ら考え、自ら商品を作り出して差別化を図らなければ生き残れなくなりました。市場動向、技術、特許、デザイン、販路、広告などの幅広い情報を収集し、独自の経営戦略を持つ自立型の経営モデルに変わってきたわけです。このように中小企業に必要な情報が変化してきたことにより、初めて図書館が情報収集の拠点として求められるようになったと考えています。

情報を収集・蓄積・整頓し、いつでもそれにアクセスできる機能を持っているのは図書館だけだと思っています。図書館の閉架書庫には豊富な書籍やデータが蓄積されており、それらは必要に応じていつでも取り出すことができます。新しい情報が入ってきたからといって除籍せず、書庫を整えながら蓄積を続けることで多様な資料提供に応えています。さらに出処の明確な情報に裏打ちされた情報提供ができる点からも、図書館だからこそ提供できるビジネス支援サービスがあると考えます。

成果が見え始めたビジネス支援図書館

ビジネス支援図書館推進協議会は、ジャーナリストの菅谷明子氏のレポート、『進化するニューヨーク公共図書館』(『中央公論』1998年8月号)の中でニューヨーク公共図書館の新しい取り組みを紹介したことを契機として、2000年に設立されました。公共図書館の機能のひとつとしてビジネス支援サービスを提供する図書館を日本でもつくりたいとの思いから、われわれの活動は始まりました。

2019年に公開された『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は図書館の裏方の様子を映したドキュメンタリーですが、多くの人々の驚きと関心を集めました。この映画の中で、ニューヨーク公共図書館ではWi-Fiを接続するためのルーターを貸し出す場面が事例として登場します。書籍のみならず、ルーターも貸し出すとは驚きですが、デジタル化が進む中で幅広いサービスを提供されています。

今日のビジネス支援図書館の形成までに20年かかりました。最初にこの取り組みを始めたころは教育委員会が図書館を所管しており、図書館という神聖な場にビジネスの話を持ち込むのはとんでもないという保守的な意見が多くありました。保守的なスタンスを切り替えるのは日本の場合とても時間がかかります。

これまで多くの支援をいただいてきました。経済産業省や中小企業総合事業団からの応援、またRIETIの政策シンポジウム(https://www.rieti.go.jp/jp/events/e02092301/report.html)を開催していただいたことが私たちの取り組みの原動力となっています。2004年6月からは中小企業庁が発行している広報誌を図書館に送付いただいています。こういった支援が私どもの活動を大きく支えています。

2015年3月「公立図書館における課題解決支援サービスに関する実態調査報告書」が発表されました。47都道府県にある都道府県立図書館のうち、ビジネス支援と称して支援サービスを行っているのが33館、名称を付与せずに支援を行っている図書館が12館、ビジネス支援を提供していないのは2館だけでした。そのうちの1館はその後私が訪問したことを契機にビジネス支援を始めていただきましたので、現在は少なくとも1館のみという状況になっています。

市町村立図書館レベルではまだそこまで高くありませんが、非常に多くの図書館がビジネス支援サービスを提供しています。私どもの協議会創設以前にビジネス支援を提供していた図書館は日本ではほとんどありませんでした。われわれの活動によってその数は徐々に増えています。この実態調査の結果から、これまでの努力が成果につながっていることを確信し、より一層協議会の支援活動の活性化に励んでいます。

ビジネス支援の中核となる図書館司書

図書館のビジネス支援において一番重視したのは司書教育です。図書館の司書にビジネスを支援できる能力をどうつけていくかがポイントでした。司書の方々は真面目で、真摯に調査をしてくれます。学ぶ意欲が高く、専門性を磨こうとしています。司書を産業政策の中でも活用できるのではないかということで、「ビジネス・ライブラリアン講習会」を2004年から始めています。

これまで500人の司書を教育してきましたが、今でも35パーセントが私費で講習に参加しています。この教育を受けてきた500名の中から1名、中小企業診断士の一次試験に合格し、来たる3月に二次試験免除と修士を一緒にとる者が、県立図書館の公務員司書で生まれます。図書館司書が中小企業診断士の資格を持つことによって、新しい境地や方向性が生まれてきます。これは非常に素晴らしいことだと思っています。

2019年のアメリカ図書館協会(ALA)の年次大会で、「ジャパンセッション」をさせていただきました。私は、ニューヨーク公共図書館に学んだ日本のビジネス支援サービスを米国で発表したいと考えていまして、3年かけてALAと調整を重ね、鳥取県立、岩手紫波町図書館、広島市立中央図書館の革新的な事例を紹介しました。運営担当者からは海外からの史上最高の発表との称賛の言葉もいただきました。

利用者と司書の対話が支援サービスの質を高める

2019年に初めて「ライブラリアンシップ賞」を受賞しました。やっとわれわれの活動が図書館界で少し認めていただけたかなと思っていますが、これでもまだほんの少しです。多くの図書館情報学の専門家の方々は私どもの会に入会してきません。われわれの活動を支援してくださる方々もいますが、理解と協力を得るにはまだまだ努力が必要だと思っています。

20年かかり、ようやくビジネスパーソンの方々に私どものビジネス支援サービスを使ってくださいと言えるようになってきました。利用者の方が図書館はビジネスの話をする場ではないと思っているところが、われわれのビジネス支援サービスのネックになっています。

企業の方から見れば、図書館の司書はビジネスのことは分からないし、自分が話す言葉が司書に通じているかどうか分からないというイメージをお持ちかもしれません。しかし、それでも質問を投げかけていただきたいのです。司書がその場で答えられずとも、結果は1週間後でもいいから検討してほしいと言っていただければ、彼らも真摯に調べます。もし調査結果が自分の要望と違ったならば、それを説明し、フィードバックしていただきたいのです。

それを繰り返していくことで図書館の司書が育ち、皆さんの欲しい情報を的確に提供できるようになっていきます。このようなスパイラルアップが非常に重要です。ビジネスパーソンのレファレンスが司書のスキルを高め、ビジネス支援の質を向上させます。特に地方にはそれぞれ地場産業があるので、その情報を司書のところで集約していくことで図書館司書が地域の産業情報のエキスパートになることを期待しています。

ビジネス支援図書館の新たな展開

私どもとしては、政策広報にも図書館を活用してほしいと思っています。中小企業庁からは現在130館近くの図書館に広報冊子を配布いただいています。配布に伴う送料は送付元が負担しています。そこが大事で、送料は大した金額ではないと思われるかもしれませんが、図書館が送料を自館で負担するとなるとハードルになってしまうのが現状です。現在は中小企業庁と特許庁の2機関のみですが、ぜひ他の省庁にも図書館という広報の場を利用してほしいと思っています。

今、一番来館者数の多い図書館は、神奈川県大和市の「シリウス」という図書館で、年間300万人の利用者を集めています。2番目が武蔵野市にある「武蔵野プレイス」で、年間200万人を超えています。休日は平日の倍近くの利用者が訪れますので、休日には1日2000人から3000人、平日でも1000人から1500人の来館者があるのが図書館の実態です。これだけ住民が来る図書館という場を広報に使わない手はありません。図書館に広報面の連携を呼びかける場として「情報ナビゲーター交流会」というイベントもやっていますので、ぜひ利用してもらいたいと思っています。

市町村で発行した行政資料も図書館が収集・整理・保存管理することで、効率よく情報を利活用することができます。長岡市立中央図書館では、実際にこういった行政資料の二次活用も行われています。「情報ナビゲーター交流会」というイベントもやっていますので、そういった場もぜひ利用してもらいたいと思っています。

また、地域の課題解決に貢献した図書館のレファレンスサービスを表彰する制度、「地方創生レファレンス大賞」があります。2015年に受賞した熊本県のワイズ・リーディングは、放射線科の医師が創業した会社です。多様なマーケットを調べる際に、全国の県立図書館に電話でレファレンスを依頼し、そこで得られた情報を集約して自社の事業に活用しました。図書館が蓄積している豊富な情報と司書によるレファレンスサービス機能を利用し、うまくビジネスに結びつけた事例の1つです。

質疑応答

Q:

大企業には大勢の企業内中小企業診断士が在籍しています。その多くが図書館はビジネスの活性化につながると認識していながらも、実際は何をすればいいか分からず悩んでいます。そういった方々の参画を得るために実務ポイント制度を利用するなど、企業内診断士と司書がWin-Winの関係となる仕組みを構築されてはどうかと思いました。モデルとなる仕組みが1つできれば非常に展開しやすいのではないでしょうか。また、ビジネス図書館を回遊できるような全国ビジネス図書館マップを作成し、利用者だけでなく旅行者の心もくすぐるような施策を仕掛けてもよいのではないかと思いました。

竹内氏:

中小企業診断士の更新研修でのポイント付与については熊本県の中小企業診断協会と県立図書館で最初に始まり、例としてはいくらでもあります。都道府県の中小企業診断協会が権限を持っているので、各支部と相談していきながら連携の輪を広げていきたいと思っています。

Q:

余野さんにお尋ねします。実際にビジネスに役立つ本はたくさんあると思いますが、ビジネス支援図書館ではどのように書籍を選別しているのでしょうか。利用者のニーズや声を収集した上で選ばれているのでしょうか。

余野氏:

都立図書館は規模が大きいため、サービス部門と資料の収集・整理部門が分かれています。貸し出しを行っていないので利用者からのリクエストは少ないですが、要望をいただいた際には収集部門ともその情報を共有しています。

一般的に、公共図書館は予算や利用者の要望に応じて資料を選択していると思います。地方の図書館では選書ツールを活用していたり、ホームページ上にある当館の業種別所蔵資料リストあるいは国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」といったものを選書の参考にしていると思います。

モデレータ:

ビジネスのプロフェッショナルの目から見ると、物足りない本しかないというご意見はごもっともです。だからこそ、竹内氏のお話にある「スパイラルアップ」が大変重要になります。図書館のヘビーユーザーが司書を鍛え、図書館が益々地元のビジネスに役立っていくようになります。図書館のプロフェッショナルたちは、レファレンスの内容と回答を職員同士でシェアしていますし、協議会でも情報交換を行って、公共図書館のビジネス支援が20年かけて成長してきました。

竹内氏:

私どもは協議会で選書研究会を立ち上げ議論を重ねてきました。しかし、この委員会もほぼ図書館員で構成されています。こういったところに幅広い分野の方々にご参加いただき、選書研究会をリードしていただくことで全国の図書館が良くなると思います。

Q:

図書館のビジネス支援という考え方は、実際どれくらい認知されているのでしょうか。あわせて、この概念を普及させる際に留意すべきことがあれば教えてください。

竹内氏:

例えば、年間150万人の利用がある札幌市図書・情報館、ビジネスに特化した大阪府立中之島図書館、高い蔵書数を誇る都立図書館や岡山県立図書館、そしてビジネス支援室を備える埼玉県立図書館、こういった調査相談・情報提供に特化した図書館が増えていき、時間をかけてそこでの活動を通じて認知度を上げていくしかないと思っています。

Q:

市町村立図書館でビジネス支援が行き渡っていないところに私も問題意識を持っています。人口5万人から10万人規模の自治体にある図書館でこのビジネス支援活動が積極的になされていたら、地方創生に非常に役立つと思います。図書館の限られた予算、そして図書館によるビジネス支援に保守的な考えを持つ人々がいる中で、この支援活動を広める突破口となるものがあれば教えてください。

竹内氏:

小都市にある図書館で非常に先進的な事例としては、農業支援を中心とした岩手県の紫波町図書館があります。突破口はやはり図書館の司書を1人ずつ育てることを繰り返すしかないと思います。少しずつ教育を受けていくことによって変わっていく。それを地道に続けることに尽きると思っています。

モデレータ:

図書館界にも荒波が押し寄せ、行政削減、費用削減の中で、指定管理者制度に移り始めています。これは知事や首長を含む自治体幹部のプライオリティの置き方によるものです。公共図書館は1731年にベンジャミン・フランクリンが設立したものが始まりですが、地方自治法第100条にも、議会の議論を活性化させるために図書室の設置が定められています。この点を理解されていた鳥取県知事が先進的な図書館施策に取り組まれたのは有名です。米国各地のユニークな公共図書館サービスの事例を踏まえて、現在では、日本でもカラフルなビジネス支援が展開されています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。