世界・アジア太平洋地域経済見通し - 世界的な製造業低迷と高まる貿易障壁

※引用は、IMFのサイトに掲載されているオリジナル原稿からの引用とし、出典元を記載して下さい。

開催日 2019年12月11日
スピーカー 鷲見 周久(国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所所長)
モデレータ 及川 景太(RIETIコンサルティングフェロー / 経済産業省経済産業政策局調査課課長補佐)
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各国で成長が同時減速を続けており、国際通貨基金(IMF)も2019年の世界のGDP成長はリーマンショック以来最低水準の3.0%に落ち込むと予測している。これは工業生産と貿易全体の衰退が一因と考えられる。2020年は新興市場・発展途上国経済が牽引し、3.4%まで緩やかに回復する見込みではあるものの、政策の不確実性が高い中で経済の下方リスクは拡大し、景気回復は不確実である。従って、これまで以上に先見性のある政策や強固な改革が必要である。本セミナーではIMFの鷲見周久アジア太平洋地域事務所長が、IMFの世界経済見通しとアジア太平洋地域経済見通しの内容を踏まえながら、今後の世界経済の見通しや中期的な課題について語るとともに、IMFとしての政策提言を紹介した。

議事録

世界全体が経済停滞、回復は不確実

鷲見周久写真世界のGDP成長は、2019年は3.0%と下方修正されており、リーマンショック以来の最低水準となりました。中でも工業生産と貿易が減速していて、特に製造業のコンフィデンスが低迷しています。

また、先進国と中国はそれぞれに問題を抱えています。例えば欧州連合(EU)では、今までとても力強い成長のエンジンだったドイツの調子が悪くなり、英国のブレグジットもいまだ決まらず、引きずっています。

中国も、これまでの成長は借金を次々に増やしながらの成長だったのですが、2018年初頭ごろから成長の量より質を問うようになりました。しかしその矢先に米中経済摩擦による大きな減速に入ってしまい、再び資金を投入して成長する方向に切り替わっている点は少し注意が必要だと思います。それから、貿易に大きく依存してきた国々は米中経済摩擦の影響を強く受けており、例えばシンガポールなどでは非常に成長が鈍化しています。

国際通貨基金(IMF)は、2020年の世界経済は緩やかに回復すると見込んでいますが、相当程度の下方リスクがあるとも認識しています。

そのリスクとはまず、政策の不確実性が高くなっていることです。本来、米国にはどっしりと構えて世界のさまざまな荒波を処理してほしいのですが、同国の政策自体が大きな不確実性の下にあります。これまで米国は貿易によって経済効率を上げてきたわけですが、それが阻害されていて、今まで得られてきた利益がこれからはなかなか期待しにくいというリスクが考えられます。

新興市場経済とユーロ圏経済の持ち直しの予測も実現しない可能性があります。

また、主要国では長い間低金利政策を行っているので、企業がお金を結構簡単に借りられるようになっています。すると、それほど厳選しないでプロジェクトにお金を投入する可能性もあります。こうして、金融セクターの脆弱性が蓄積されているわけです。それが急に、危ないから手元にお金を置いておかないといけない、ということになると、一気に途上国からお金が逃げていくリスクも考えられます。

それでは、次に、少し細かく見ていくことにしましょう。

最近の世界経済動向

世界経済の最近の動向を見ると、まず貿易量が急激に減少しています。2017年から2018年前半までは、輸入の前月比伸び率が年率4.5%ぐらいで順調に推移してきたのですが、2018年後半から急に減速し、2019年にはマイナスに転じています。

また、米中の関税引き上げによって、中国は2020年にGDPがマイナス2%程度、米国もマイナス0.6%の影響を受け、世界全体でもマイナス0.8%程度の影響を受けているだろうと見ています。これが長期的に続くとしたら、世界経済全体にマイナス0.2%を超える影響があると見られます。

企業のコンフィデンスは、ずっと右肩下がりです。ただし、製造業の下がり方に比べるとサービス業の下がり方はやや浅く、(製造業と比較すると)まだ遅れて下がっており、堅調な動きを示しています。

一方で、消費者のコンフィデンスは割と堅調です。しかし、世界の乗用車の販売量を見ると、2018年ごろから急激に減っていて、前年比でマイナス7~8%減少しています。消費者のコンフィデンスはいいのですが、大きな買い物は控え気味になっていると考えられます。自動車の生産量が減っていることは製造業にも当然影響しており、先行きはそれほど安心できません。

消費者のコンフィデンスが割としっかりしている要因は、失業率がどの国も大体右肩下がりであることだと思います。日本のみならず欧米でも低下しています。また、賃金は全セクターで見ると割と順調に上がっていますが、製造業の賃金は2019年に入って伸びが鈍化し始めています。雇用についても、2019年に入って右肩下がりになっているのが不安材料です。失業率などは遅行指標で後から遅れて動くので、消費者のマインドは今のところいいのですが、これも遅れて悪化してくる懸念があります。

他方、期待インフレ率は、日本は英米独と比べても低く、0.5%程度です。日本も欧州も米国も中央銀行のインフレ見通し目標は概して2%なのですが、いずれの国も2%を下回っているのが現状です。黒田東彦日銀総裁は2%の成長目標を達成できないのではないか、と予測されていますが、世界中で2%を達成しているところはなかなかないのです。

それに対し世界の当局はどう対応してきたかをマクロで見ると、2019、2020年に利下げや金融緩和によって世界経済のGD成長率は0.5%ポイント程度持ち上げられています。先ほど米中経済摩擦によって世界全体でマイナス0.8%の影響が出ていると申し上げましたが、それをいくらか取り戻そうと世界中の金融当局が金融政策を緩和し、0.5%ポイント程度を取り戻した格好です。

同様に財政政策でも0.3%ポイント程度持ち上げようとしており、米中経済摩擦の直接の影響の分ぐらいは何とか取り戻そうと、世界の金融当局、財政当局が頑張っています。

金融緩和が行われていることと、インフレ期待が収まっていることから、10年債の利回りはどんどん下がっています。しかし、最近は金融政策だけでなく財政政策も実施されているため、現在はやや上がっています。このちょっとした上がりがそのまま上がっていくのか、ちょっとした戻りにすぎないのかはまだ分かりませんが、最近ずっと下がってきた10年債の利回りがやや上がっているのは、財政政策がそれだけ頑張っていることと無関係ではないと思います。

公的債務も、リーマンショック後に何とかしようとして増えたので、現時点では世界のGDP比で100%を超えています。このように公的債務が高い水準にある中で、財政政策の余地がどの程度あるのかというのが一番難しい問題だと思います。

世界経済の見通し

世界経済見通しについてですが、世界全体の成長予測は2019年が3.0%、2020年が3.4%です。先進国経済は2019年が1.7%、2020年が1.7%、新興市場・発展途上国は2019年が3.9%、2020年が4.6%です。新興市場・発展途上国は成長率が上がると思いますが、先進国は2019年から2020年にかけて特に改善するとは見込まれていません。

ちなみに、日本は2019年が0.9%、2020年が0.5%です。最近発表された経済対策などは考慮に入れていないので、それを入れると恐らく今年並みになるだろうと思います。アメリカは、現在発表されている財政政策などを前提にすると、2019年よりも2020年の方が減速する見込みになっています。ただ、これが政策を打つことでどうなるのかは、今はよく分かりません。

途上国では、中国が2018年の6.6%から2019年は6.1%、2020年は5.8%に下がると見込んでいます。インドは7%程度が自然体だと思うのですが、これからも継続して7~8%成長していかないと、1人当たりのGDPが中進国のレベルに達しないようなので、来年もいろいろと心配材料はあるでしょう。

米中経済摩擦のマイナスの影響を金融政策や財政政策で何とか持ち直そうとしているのは、中国も同様です。2019~2020年で経済成長が2.3%ポイント下がると見られるうち、政策対応で1.5%ポイントぐらいを取り戻しています。

中国の政策は、例えると「あまりにも肥満体質だったのでダイエットを始めたものの、何か状況が悪くなってダイエットと言っていられなくなり、せっせと栄養ドリンクのようなものを飲んで頑張っている」というイメージです。本来すべき減量が先延ばしにされており、中長期的なリスクがそのまま先送りされているので、これは将来の課題です。当面は政策対応を取って経済の底割れを防いでいます。

以前、アジアは世界経済の成長に6割から6割5分ぐらい寄与していると申し上げたことがあると思うのですが、今年については7割がアジアです。アジアがそれほど失速していないという意味ではいいことなのですが、逆にいうと他の地域の元気がなくなっていることを端的に示していると思います。

世界全体の成長予測が来年に向けて3%から3.4%に上がるのは、今年駄目だったロシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、アルゼンチンが、その分を来年取り戻してくれるとの期待感からなのですが、これはちょっと楽観的とも考えられます。これがIMFの見通しと他の見通しがずれている原因の1つでしょう。

経済見通し3.0%とはどういうレベルかというと、世界経済のGDP成長率が過去25年間に3.0%より低水準だった年は4年しかありませんでした。先進国全体の成長率で見ても、5年しかありません。つまり、世界経済ではワースト5、先進国全体でもワースト6の成長率なのです。さらに、来年の世界経済成長率が2.5%を下回る可能性は、2019年10月時点でも9%あります。しかも、見通し発表の回を追うごとに少しずつ可能性が上がってきているので、下振れリスクが大きくなっていることも分かると思います。

今後のリスクバランス

世界経済にとっての主要なリスクは、地政学的リスクと政策の不確実性が増えてきたことです。自動車や自動車部品に関税をかければ、自動車産業に強いドイツや日本だけでなくアメリカも相当の悪影響を受ける一方で、中国などは今のところあまり影響を受けないと見られています。米国がとりあえず自動車について思いとどまっているのは、こうした要因もあると考えられます。

政策の不確実性がリスクになると、新興市場のポートフォリオフローが乱高下します。世界の投資家が新興市場の株式から少しお金を引いて、様子を見ながら債券を買い増したりしていますが、何かニュースがあるとそれもマイナスになるという非常に神経質なお金の動きになっていることが分かります。

そうはいっても、新興市場経済は以前よりも通貨変動に対して耐性があります。新興市場の外貨建ての負債と資産の差を見ると、2007年と比べてそれほど悪化していません。また、為替がその国に与える影響という点では、為替レートのパススルー率(為替レートの変動に対する貿易財価格の変化率)もだんだん小さくなっています。このことから、新興市場における為替の影響は少しずつ小さくなってきており、以前ほど為替で大きな影響を被ることはないことが分かると思います。

貿易摩擦のリスクに関しては、米中が高い関税をかけ合う結果、日本や欧州からの輸入が増えるので、直接の貿易だけを見ると漁夫の利のように、日本とユーロ圏が得をしそうに見えますが、必ずしもそうではありません。中国に関税がかかって日本からの輸出が増えたら、トランプ大統領は日本に対しても関税をかけるかもしれません。ユーロ圏も同じことが言えます。瞬間的に貿易がよそへ移る効果はあっても、そこに安心して投資できるわけではないため、投資マインドは萎えてしまいます。

また、物流が非常に進展し、ITなどで通関業務が便利になった結果、グローバル・サプライチェーンが広がったのですが、貿易摩擦によってそれが機能しなくなってしまうというデメリットもあります。

適地生産で外へ出ていったものが、グローバルバリューチェーンの混乱に伴い、結局、リショアリング(回帰)するケースが増えています。米企業などは、自国へもう一回輸入するときに大きな関税がかかってしまうので、製造を自国に戻してしまうのです。これを行うと、先進国・途上国ともに輸入は大きくマイナスになります。

グローバルバリューチェーンは、先進国からすると、職を奪う「失業の輸入」です。しかし、世界全体で見ると、途上国に新たに工場を建てることで、まず機械類が輸出され、新しい投資が生まれます。そして、途上国で生産性の低い産業に従事していた人たちが製造業に従事し、生産性が上がることで、その国の賃金水準も上がります。対外直接投資、グローバル・サプライチェーンの構築には世界の貧困を減らしていくような効果があったのです。

それがリショアリングによって失われるので、先進国・途上国の投資にとって長期的にマイナスですし、GDPに対しても大きな影響があります。簡単にいうと、先進国はもうけ損ね、途上国は雇用などのチャンスを失うのです。

ではなぜ、世界全体で「グローバル化反対」という風潮が生まれているのか。世界が豊かになっても、その豊かになった富がみんなに満遍なく行き渡っておらず、少数の人が豊かになるばかりで、多数の人は全く恩恵を感じていないからです。ですから、IMFは最近、「包摂的な成長(Inclusive Growth)」が大切であると一生懸命主張しています。

次に、金融リスクに関してお話すると、ノンバンク金融部門の脆弱性が高まっています。それから、政府のリスクはリーマンショックのときよりも若干上がっています。少々心配なのは非金融企業部門で、この辺はリスクとして注目しなければなりません。

債務の膨らんだ高リスク企業(投機的格付け以下の企業、または利益で利払いを賄えない企業)を抱える国が中国の他、結構あることも懸念材料の1つです。

また、機関投資家は利回りが高い投資先を探しており、オルタナティブ資産が随分増えています。オルタナティブ資産は概して流動性に乏しいので、こうした資産が増えているために、機関投資家の資産構成が高リスク化している点を懸念しています。

それから、新興市場では資金の出入りが激しくなっており、何かが起こるとさっと出ていくような、逃げ足の速い資金が多くなっていることも懸念されます。また、対外債務の一部が必ずしも有効に使われてこなかったともいわれています。

さらに、フロンティア債券も史上最高の発行額になっています。低所得発展途上国が金融市場の恩恵を受けられるので、このこと自体はいいことかもしれませんが、リスクは当然あるので注意が必要です。

家計に関しても、ここ数年、アジアなど多くの国における住宅価格の上昇が債務を押し上げています。

政策提言

IMFは、基本的には、インフレが落ち着いているので、引き続き副作用に注意しながらも金融緩和を続けるべきだと提言しています。副作用が出そうだったら、金融政策を逆転させるというよりは、銀行の与信審査を少し慎重にしたり、担保の掛け目を少し見直したりして対応した方がいいでしょう。それから財政政策も、必要性があって、その余地があるところには、お金の使い過ぎに注意しながら慎重に実施すべきです。

それから、日本でも行われていますが、働き方改革を重視して、労働市場の柔軟性を増すことが必要です。先ほど世界各国で失業率が低いと申し上げたのですが、逆に労働参加率が低下している傾向があり、働くのを諦めてしまっている人が結構いるので、そういった人を対象とした教育投資にも注意を向けてほしいと申し上げています。

質疑応答

Q:

主要市場のシステミックリスクを抑えるための手立ては、誰がどのようにしているのでしょうか。

A:

システミックリスクに関しては、世界金融危機の反省から、やはりしっかりとマーケットを見ていかなければならないと考えています。金融に関しては、例えば株式や債券など、いろいろな金融商品の価格が乱高下して、もうける人や損をする人が出ること自体はあまり問題だと思っていないのです。それがまさに市場であり、お金持ちが大損する範囲でとどまっている限りは、それほど問題ではないと思っています。

ただし、それが皆さんの預金を脅かすことになると問題です。つまり、リスクを勘定に入れて適宜投資をしてくださいという資本市場の世界と、お金のことをそれほど心配しなくても、働くためにお金はとにかく安心なところに置いて、自分は働くことに専念するという世界は分けないといけません。従って、その部分が脅かされないことが基本的にシステミックリスクを抑えることだと思っているので、銀行セクターがきちんと資本を持っていて、預金の支払いにきちんと応えられる状況をしっかり守ることがボトムラインだと思っています。

そのためにG20の国々は5年に1回、金融セクター評価プログラム(FSAP)というIMFと世界銀行の合同チームによるテストを受けており、銀行セクターが預金をきちんと返せるかどうか、あるいは個別の銀行が転んだときに預金保険などの仕組みで国全体のリスクを防げるかどうかというチェックをしています。

マーケットの動きについては、国際金融安定性報告書(GFSR)で見ています。ただし、それは狭義の、伝統的な意味での金融の安定です。最近の銀行は、「あなたのお金はどれぐらいリスクを許容できますか」と聞いてきて、「ちょっとした損はしてもいいから利回りを高くしてみたい」というところにチェックするか、「絶対に安心でなければ嫌だ」というところにチェックするかを選べるようになっていて、それに沿ってリスクを一般消費者に提供することになっていると思うのです。ただ、そうはいっても株が急落したら経済が相当停滞するのは当然なので、そういうことから一般消費者をできるだけ守りたいということで、毎年の審査などでちょくちょくチェックしているわけです。そのような2段重ねのような形になっています。

Q:

過剰債務をずっと抱えている企業があることが中国のリスクとして不安視されている一方で、景気対策も打っているのでしばらくは大丈夫だろうという見方もあります。中国の経常収支が赤字化し外貨を稼げなくなると、そこの資金繰りが回らなくなる恐れもあるのではないかと指摘されていますが、その部分についてコメントを頂戴したいと思います。

A:

確かに経常収支の黒字幅が今後いつまでも大きいわけがないのですが、基本的に金利がプラスの国というのはアメリカと中国、ヨーロッパの一部ぐらいで、大半の国は金利がマイナスです。従って、ファイナンスの面で見ると、中国に対して投資したいという投資家は多くて、ポートフォリオの投資を自由化したらどんどん入ってくると思います。それを今、一生懸命止めているので、そういう意味で中国の経常収支が仮に赤字になったとしても、近い将来に金詰りになるようなことはちょっと考えにくいと思っています。

ですが、経常収支の見通しというのは国内の貯蓄・投資バランスです。中国はご存知のとおりこれから高齢化が急速に進む見通しですから、経常収支の悪化というのは当然あると思います。ただ、経常収支が悪化した後は、これまでにため込んでいるいろいろな国際投資ポジション(IIP)の使い方にもよりますし、私どもは金詰まりのようなことは特に心配していません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。