日本のベンチャーエコシステムの現状と業界における今後の展望

開催日 2019年12月5日
スピーカー 赤浦 徹(インキュベイトファンド代表パートナー / 一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会会長)
コメンテータ 田所 創(RIETI上席研究員)
モデレータ 坂本 英輔(独立行政法人中小企業基盤整備機構ファンド事業部ファンド事業企画課長)
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開催案内

近年、我が国において、スタートアップを急成長させるためのベンチャーエコシステムに注目が集まっている。今年7月に日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)会長に就任した赤浦徹氏は、大手ベンチャーキャピタル(VC)のジャフコから20年前に独立し、起業家と共にゼロから事業を築く独自の投資スタイルを実践し、成果を上げてきた。また、中小企業基盤整備機構の出資を受けてマザーファンドを立ち上げ、若手による1号ファンドの組成・運営を支援するなど、数多くのベンチャーキャピタリストの育成も行っている。本セミナーでは、過去の支援事例を交えながら、赤浦氏がスタートアップを急成長させてきたその歩みを紹介し、日本のベンチャー支援発展の方向性について語ってもらった。

議事録

インキュベイトファンドについて

赤浦徹写真私は1991年、ジャフコというベンチャーキャピタル(VC)に新卒で入社しました。8年半勤務した後、1999年10月に個人事業主としてベンチャーキャピタルファンドを開業し、丸20年経ったところです。日本ベンチャーキャピタル協会では、2013年に理事に就任し、今年7月に会長に就任しました。

2010年には、私が支援していたベンチャーキャピタリスト3人と共にインキュベイトファンドを設立しました。4人が対等なパートナーであり、その場でそれぞれが独断で投資を決断する、独断即決のスタイルで運営しています。

われわれの投資スタイルで最も特徴的なのは、会社を探すのではなく、会社を作るということです。投資先からは、創業の半年前から半年後ぐらいまでの間できっかけを頂くことが多いのですが、事業を考え、仲間を見つけて、創業する、というところから支援しています。いつまでという決まりもなく、いつまでも、もっといえばIPO(新規上場)後も継続して支援するスタイルです。

私は、パートナーシップ型のVCに強いこだわりがあります。ジャフコに入社した1991年当時は、証券系や銀行系のVCがほとんどで、アメリカのようなパートナーシップ型のVCは存在しませんでした。入社後にアメリカのVCに関する本などを読んで、日本とは全く違うと感じ、将来独立してパートナーシップ型のVCをやろうと考えました。

また、一貫してパートナーシップ型のVCをもっと増やしたいと思っていたので、預かったファンドの一部を使って、新たに独立するVCを支援し、口説いて、ベンチャーキャピタルファンドのGP(無限責任組合員)を増やし続けてきました。昨年は、LP(有限責任組合員)投資に特化したファンド「IFLP」を設立しました。

インキュベイトファンドのパートナーたちも、実は私が独立を勧め支援してきたベンチャー投資家です。

IPOを実現した主要投資先の1つであるサイボウズは、1997年10月、私がジャフコ在籍時に接点を持った会社です。それ以外は独立後に扱ったIPOで、来週上場するメドレーで20社目になります。

日本のベンチャーエコシステムの現状

我が国のスタートアップによる資金調達の総額は、2012年を底に順調に増加しています。2018年の実績は3880億円に上りますが、これは過去のピークに戻ったという状況です。1社当たりの調達額は平均3億円と増加しており、大型化が進んでいます。2018年は、123億円を調達したJapanTaxiを筆頭に、30億円超を調達したスタートアップが19社ありました。

しかし、スタートアップ投資額(2018年)を日米で比較すると、日本は0.4兆円ですが、アメリカは14兆円。約37倍の開きがあります。

また、VCファンドの設立数、ファンド総額ともに、2012年を底に増加しています。一方で、1ファンド当たりの規模は平均50億円程度で、大規模なスタートアップの投資を実行するには、まだファンド規模が足りない状況ではあります。

VCファンドの出資者について見てみると、機関投資家、中でも年金からの出資比率が日本では0.7%ですが、アメリカでは機関投資家マネーが全体の過半数を占めており、日本のVCは機関投資家からお金を集められていないことが分かります。出資者に占める外資の構成を見ると、日本は0.8%、アメリカは35%であり、日本のVCは海外から調達できていないのも現状です。

日本ベンチャーキャピタル協会の活動

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の活動について簡単に説明すると、理事体制は大学系、金融系、独立系がバランスよく入った形で構成されています。会員数は220社を超えていて、この4年で倍以上に増えています。特にコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)会員が増えており、2014年には6社だったのが、現在は60社を超えています。

協会加入者の変化から見て取れることは、この数年で、VC単独のコミュニティーからオープンイノベーションのコミュニティーへと発展してきているということです。

われわれのミッションとして、「ベンチャーエコシステムの発展拡大による新産業創造を通じて、日本発世界経済の発展に寄与する」ことを4年前に決め、このことを強く意識して活動しています。3委員会8部会を作り、各部会で毎月、毎週のようにイベント等を開催しながら、全員参加型で活発に活動しています。

具体的には「ベンチャーキャピタリスト研修」を2004年から開催しており、これまでに1200名ほどの受講生を輩出しています。また、メディアプレゼンテーションを年3回程度開催しています。その都度テーマを考え、ベンチャーおよびVCにより注目していただくための活動を積極的に行っています。

「ファンドマネジメント勉強会」も開催しており、公正価値評価についての実務に関する勉強会を行っています。盛り上がりを見せるCVCに関しては、「CVC/オープンイノベーションフォーラム」を開催し、この10月の会も大盛況でした。このほか、年に1回、VCのトップに地方にお集まりいただいて開催する、「地方創生VCトップ懇談会」なども行っています。

また、グローバルな活動としては、Global Venture Capital Congress(GVCC)など海外のカンファレンスにも積極的に参加しています。GVCCは来年東京開催で、ホスト国としてわれわれが主催します。

今年7月に私が会長に就任した際、3つの活動方針を立てました。1つ目が「VC×機関投資家」で、機関投資家から年間1000億円調達するための素地づくりをまず挙げました。2つ目は「大企業×スタートアップ」。具体的にはM&Aを増やすことを方針として挙げました。3つ目は「新産業×政策提言」で、これは新産業を創造するというわれわれのミッションにとって非常に重要なことだと思っています。

ジャフコ在籍時の1997年3月に、私は自分の人生のミッションをテキスト化しました。そのときに「次世代のソニー、松下、トヨタ、ホンダが生まれるきっかけを作る」ことを人生のミッションとして決めたのですが、VCとして独立することは決めていたので、自分が本田宗一郎のような人になるのではなく、そういう人たちが生まれてくるように、そのきっかけづくりをし、応援をする人になろうと考えました。それ以来ぶれずにやってきたのですが、独立して20年経った今も、未だホンダやソニーは生まれていません。

その理由はいろいろあるとは思うのですが、VCの力もまだまだ不十分なのではないかと思います。これから新産業を作るという目標に向けて、しっかり国とも連携し、世界で勝てる産業についてしっかり議論し、実現に向けて民間と国が役割分担をすべきです。ベンチャーキャピタルというのは、言葉の通り冒険資本ですから、最初から冒険的にお金を投入することができます。

先ほど独断即決と言いましたが、投資を決めるのは早いときで数秒です。一番早かった時で直接お会いしたその場で目を見ながら「出資します」と言って名刺交換こともあります。われわれは、誰とやるかということを覚悟して自分で決めるだけなので、リスクを取って、きっかけを作ることが民間の役割だと思っています。ですから、どうせやるのであれば、社会から必要とされる方向、日本が勝てる戦略に則ってきっかけを作りたいと思っています。

質疑応答

モデレータ(坂本氏):

インキュベイトファンドのサイズも大きくなっていますし、メンバーも増えていて、投資の大型化を進めるとすると組織的にならざるを得ないところはあると思います。スタートアップだけでない部分にも携わらなければならないと思うのですが、それについてはどうお考えでしょうか。

A(赤浦氏):

お金は多い方がいいと思っていますし、人も多い方がいいです。ベンチャー企業を成功させるために、リソースはできる限り多い方がいいので。私はゼロから生みだすことにこだわりがあるのですが、始めた後は、そこに人とお金が集まってくる状況を作らなければなりません。そのなかで、われわれが人材採用支援の機能を持ったり、ファンドも大型化してきたりしたことで、われわれ自身も最後のラウンドまでフォローしていく体制が取れるようになってきました。

モデレータ:

起業家に対して目利きをする上で、特に重視している点があれば教えてください。

A:

最初に会って数秒で決められるはずがないので、決めるのはどちらかというと自分の覚悟です。この人と一緒に会社を作ろうと思うかどうかというインスピレーションによる部分が結構あり、恋愛にも近いかもしれません。過去の経験から「この人とやってみたい」と決めているような感じです。

モデレータ:

本業の投資もしつつ、後進のキャピタリストの育成もすることはできるのでしょうか。赤浦さんだからできることなのか、それとも他の人もやるべきだと思っていらっしゃるのでしょうか。

A:

皆さんやるべきだと思いますし、できることだと思っています。私は、アメリカのようなパートナーシップ型のベンチャーキャピタルを目指そうと決めたのですが、その間、日本経済は「失われた20年」といわれ、一方でアメリカは飛躍的にどんどん成長していきました。

その違いは、VCのせいなのではないかと私は思っています。やはり覚悟があるVCが新産業を作っているのがアメリカで、MicrosoftもIntelもGAFAもそうですが、最初の会社を作る段階で常にVCが中心となってきっかけを作りに行きます。当時の日本のVCは企業が中心で、会議体がたくさんあって、合議で決裁していくスタイルだったので、なかなか思い切った決断が難しかったです。

やはりゼロから何かきっかけを作るところでは、独立した個人のVCでないといけないのではないかという思いがあります。日本を元気にするためには独立系のVCがもっと主役となっていかなければならないのではないかと考えています。

モデレータ:

ファンドの大型化のためには、大きなロットで出資する機関投資家が必要だと思うのですが、それ以上に機関投資家の役割に期待していることはありますか。

A:

新産業を作ることがわれわれの目的なのですが、そのためにはお金もたくさん集めなければなりません。方法の1つに機関投資家があると思うのですが、機関投資家はESG(環境・社会・ガバナンス)や持続可能な開発目標(SDGs)に注目しているので、われわれも本当に社会に必要とされるテーマにしっかり取り組むことが重要だと思っています。

コメンテータ(田所氏):

補足です。機関投資家は特定のファンドにはちゃんと出資しているのですが、どうしても日本のVCのファンドはサイズが小さいので、ワンショットが50億ぐらいになると思います。その中で、赤浦さんは500億のファンドを作りたいと言っているので、次の成果を期待したいと思います。

A:

機関投資家の基準もいろいろあるのですが、純投資目的の方々からお金を預かるところをこれから伸ばさなければならないと思います。

モデレータ:

VCのビジネスモデルについて、ファンドはどんどん大きくしていった方がいいとか、特性に応じて一定のファンドサイズできちんと発揮できるようにした方がいいとか、お考えはありますか。

A:

日本の資金量不足を埋めるための武器として、1つは国民金融資産の1600兆円があります。もう1つは大企業の内部留保であり、ここをいかにベンチャーに吐き出してもらうかということになります。新産業を創造しようとすると、もっと規模が大きくならなければならないし、プレーヤーも増やさなければいけません。

それから、個人の意見としては、上場はできる限り大きな規模でした方がいいと思っています。時価総額1000億円超の企業が上場した方が、結果的にVCのリターンが増えると思うのです。上場の時点からVCの持ち分を機関投資家が吸収する形を取れば、適正な株価形成にもなり、流動性も担保されていくでしょう。そのためにも資金量をもっと増やして、チャレンジしていく必要があると思います。

Q:

官民ファンドおよびCVCは存在意義があるのでしょうか。

A:

非常にあります。官民ファンドはリスクマネー供給の役割が非常に大きいですし、大企業の内部留保は資金量を増やしていく上で非常に重要です。昨今、急激に増えているCVCは今後M&Aが増加し、ベンチャーに対する資金供給もどんどん増えると思うので、米中との差を埋めていく上で最も期待されるものだと思います。

Q:

海外からの大規模な資金に期待するのは、日本の資金量が足りないからなのですか。それ以外の機能はないのでしょうか。日本企業が海外市場を開拓していく上で海外向きのコネクションはとても重要だと思うのですが、そういった面での質的な貢献はあるのでしょうか。

A:

基本的に、お金の規模を増やすために海外の資金が必要だということに尽きます。一方で、VCが機関投資家からお金を集める能力の向上という点では、海外機関投資家のコンプライアンスやガバナンスも含めて学習することが非常に有意義なので、VCの能力を上げる上でも海外機関投資家の力は重要だと思います。

Q:

中小企業基盤整備機構は非常にいい成果を上げられているのですが、秘密はどこにあるとお考えですか。

A:

本当にいい投資先を選んでいますし、VCに対する指導や育成にも親身になって取り組んでくださっていることが大きいのではないかと思います。

モデレータ:

ベンチャーファンドの仕組みがなかったときから活動しているので、業界とともにいい仕組みを作ってきたことが大きいです。

コメンテータ:

また、ITバブルの崩壊やリーマンショックでVCがばたばたと討ち死にし、機関投資家が投資してくれない状況になっても、中小機構は資金を出してきました。それで何とか頑張り続けた優秀な方たちが、前回の仮屋園 聡一さんや、赤浦さんたちが、近年の大型IPOやユニコーンを生み出しています。また、ファンド事業担当の職員は同じポストに長く置いて、じっくり勉強してノウハウを蓄積していることも大きいと思います。私も長くいましたが、機構のファンド・オブ・ファンズ(Fund of Funds, FOF)も機関投資家としての高度なノウハウがあります。

また、先ほどの赤浦さんのご発言に補足をすれば、キャピタリストのノウハウも、単に直感的な目利き能力だけでなく、コーポレートファイナンスの理論に基づく緻密な事業計画、その前提のトップライン(売上)予測など、ネットから膨大なデータを集めて分析しています。機構とベンチャーキャピタリストが共に勉強してきた結果が出てきました。日本の優秀な上位のファンドの成績は米国の上位と変わりません。

Q:

海外からの資金を入れるという点では、VCは海外との懸け橋の役割を担っていると理解してよろしいのでしょうか。

A:

もちろんです。最もグローバル展開しやすい事業がVCではないかと思っています。一方で、海外のものを国内に持ってくるという点は意外とできていないかもしれません。海外でいいコミュニティーに入って投資させてもらうことがまだ多くて、日本に進出したいから助けてくれと期待されることもなくはないのですが、今後はそういった機能もVCが果たすべきだと思います。昔の商社のような役割がVCにはあると思うのですが、日本ではVCの力量が質量ともにまだ足りていないので、もっとレベルアップして、そういった懸け橋的な役割も担えるようになっていかなければならないと思います。

コメンテータ:

ベンチャーキャピタリストのイメージとしては、可能であれば国内と海外のマーケットに同じタイミングで製品を投入したいのです。しかし、そうするほどの資金規模がないので、国内市場から育てて資本を蓄積し、海外へ進出、という流れになってしまいます。海外の投資家が日本のファンドに入れてくれれば、その海外の投資家の市場に同時に出せるのですが、そこまでの資金規模にはまだいってないというのが現状でしょう。その前に大きな資金規模のファンドを組成するためにはVCの会社自体の規模をもっと大きくする必要があると思います。

Q:

ベンチャーの出口はIPOとM&Aです。M&Aがまだ大きくないなかで、IPOを選択する企業も多いと思うのですが、今後、M&Aの領域がだんだん大きくなって、自然にM&Aが増えていくことが期待されるという理解でよろしいでしょうか。

A:

上場の基準を仮に1000億円と置いていた場合、それ以下の企業はM&Aによるイグジットという形になるでしょうし、大企業のオープンイノベーションの一環でCVCという形で入っていますけど、ここも多分、M&Aが積極的に少しずつ増えてくるのは間違いありません。ですから、大きいところは上場、そこまで至っていないところはM&Aという流れになってくるのではないかと個人的には思っています。

Q:

大きな課題だと思うのは、大企業はCVCを作るのですが、結局は意思決定が遅いこと、そして、本当はファーストペンギンとしてもっと製品を買ったり、他のレバレッジをもっと使ったりすればいいのに、全く使わないことです。その点について、日本の大企業のスタンスを変えるにはどうしたらいいでしょうか。

A:

今度、もしベンチャー投資の税負担を軽減する優遇措置が通れば、影響は非常に大きいのではないかと思います。一歩ずつだとは思うのですが、何か始まってきているのではないかと思います。その表れがCVCの増加です。取りあえずCVCを作ってみたというところは多いかもしれませんが、それは内部留保が多くあって、新規事業を作るきっかけとしてCVCをやってみようということだと思います。検討が進む中で、より進化していくCVCが今後は増えてくるのではないかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。