日本のベンチャーキャピタリストが目指すところ

開催日 2019年11月19日
スピーカー 仮屋薗 聡一(グロービス・キャピタル・パートナーズ マネジング・パートナー)
コメンテータ 田所 創(RIETI上席研究員・研究コーディネーター)
モデレータ 坂本 英輔(独立行政法人中小企業基盤整備機構ファンド事業部ファンド事業企画課長)
開催案内

日本のベンチャー投資は近年、活況を呈している。メルカリやSansanなどの大型IPO(新規上場)も相次ぎ、グローバルな市場での成長を狙うユニコーン企業の継続的な輩出も視野に入ってきた。本セミナーのスピーカーとして招いた仮屋薗聡一氏は、わが国を代表するベンチャーキャピタリストとして活躍し、多くのIPOやM&Aも実現した経験を持つ。2015年から7月から2019年7月までの4年間、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会長を務めるなど、わが国のベンチャー投資隆盛のために尽力している。本セミナーでは、第一線のベンチャーキャピタリストがスタートアップ企業の支援をどのように進めているのか、経験を踏まえて紹介し、わが国のベンチャーエコシステムの方向性について語った。

議事録

わが国のスタートアップエコシステムマクロ環境

仮屋薗聡一写真私は2015~2019年の4年間、日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会長を務めました。その間、世界そして日本におけるスタートアップへの期待や要望は大いに高まってきたと思っています。

特に、スタートアップが成功するための3要件(成長市場の存在、資本市場の存在、優秀・有力な人材のスタートアップへの参画)が整いつつあります。私がベンチャーキャピタル業界に入った1996年ごろは、これら3要件はまだまだ整っておらず、資金もありませんでしたし、有力な人材がスタートアップで起業したり、スタートアップにマネジメントとして参画したりするような状況もまだなかったと思います。

そして、私がこの4年間の大きな変化として感じているのは、ITを超えて第四次産業革命が進み、リアルの世界にデジタルの世界が入ってきて、IT産業に閉じたイノベーションから社会全体のイノベーションへと変化していることです。そこに大きなチャンスがあり、リスクマネーが入っていくという変化が、この4年で起こったと思っています。

まず、日本のスタートアップエコシステムのマクロ環境について触れたいと思います。まず資金調達額は2018年に3880億円に達し、2012年以降の6年で6倍に成長しています。資金量の増加に伴い、1件あたりの投資単価も変わりました。2012年は中央値で1億円に満たない額でしたが、2018年は3億円を超え、3倍以上になっています。

しかし、日米の差は依然として大きく、日本の2018年の投資額が4000億円弱なのに対し米国は14兆円と37倍の差があります。米国では、機関投資家のみならず大企業の資金も含めて、領域もインターネットからリアルの世界にしみ出してきているということです。第四次産業革命が顕著に表れていると思っています。

資金の出し手の内訳を見ても、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資は3分の1で、大企業からの出資が約半分を占めており、オープンイノベーションの本格化が見て取れます。ファンド設立もこの6年で約8倍になっています。

では、日本と米国のリスクマネーの差はどこから来ているかというと、米国はVCファンドへの出資の約6割が年金や財団といった機関投資家からですが、日本は年金に関しては1%未満しか出資されていません。また、海外からの資金をどれぐらい取り込んでいるかというと、米国は約35%なのに対し日本が1%弱です。これから日本のリスクマネーを強化していくためには、機関投資家からの資金の預かり高を増やすこと、海外からの資金の預かり高も増やすことが非常に重要な課題だと思っています。

主要投資分野動向

第四次産業革命の進展に伴い、投資分野は5年ほど前に中心であったインターネット、eコマース、ITソフトウェアなどから大きく変化しています。上位の分野を見ると、AutomotiveTech、宇宙、セキュリティ、製薬・創薬、バイオケミカル、CleanTech、FinTech、ロボット、IoT等が入っており、全てが第四次産業革命に関連する技術を提供するテクノロジーの企業になっています。

こうした企業に対する投資額も変化してきました。2018年の最大の資金調達はAutomotiveTech、いわゆるMaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる分野のJapan Taxiで、123億円です。その他に上位のFOLIO、freee、Finatextの3社はいずれもFinTech企業で、50億円以上の大型調達を行っています。それから、メルカリはユニコーンラウンドのファイナンスでさらに50億円を調達して、IPO(新規上場)に至っています。

このようにファイナンスの大型化という観点で見ると、数十億円以上、一部は3桁に到達するような資金調達が日本のスタートアップでもなされているのです。こうした状況は、5年前にはまったく考えられていないことでした。5年前は10億円の調達があれば非常に大きなファイナンスラウンドだったと記憶しています。

注目投資分野としてSaaS(Software as a Service)があります。大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をソフトウェアで支える企業群です。freeeは先日、IPOの承認を受けました。Sansanは2019年にIPOを達成して、現在時価総額1000億円を超えるユニコーンになっています。フロムスクラッチも2017年は42億円の調達でしたが、2019年は3桁の調達を行いました。このように日本においても、DXを支えるSaaS企業にしっかりと資金が供給され始めていることが見て取れると思います。

それからFinTechです。日本のFinTechスタートアップ調達金額は2018年が717億円で、投資の大型化が進んでいます。ただし、金融産業という観点では、日本はまだまだFinTech企業が上場もしくはスタートする可能性が非常に大きいと思っています。先日はヤフーとLINEの経営統合が発表されましたが、スタートアップのみならず産業構造全体の変革・進化の時期にあるのではないかと思っていて、日本のFinTechのスタートアップが、日本の大きくて安定した金融産業を技術的に支えていく役割を担うようになるのではないかと思っています。

IoT(モノのインターネット)も幅広くて、WHILLという車椅子の会社に始まり、航空エンジン、電気自動車など幅広い製造業で多くの企業群が出てきています。IoTの調達金額は2018年にいったん減りましたが、継続して伸びている分野だと思っています。これからはビジネスモデルの変革もあり、IoTで機器を作ってそれを売るところから、IoT機器を使って新たなビジネスモデルを開発し、世界に広げていく動きが今後広まっていくと思っています。中でもセンシンロボティクスのように、例えば災害や施設保守でドローンやAIを使うようなベンチャーも出現してきているところは注目ポイントではないかと思っています。

AIでは、Preferred Networksというユニコーン企業が出てきており、最も有力な成長分野と目されています。

その他、創薬、宇宙、素材あたりが、これから第四次産業革命の中で日本の優位性を発揮する領域であり、AIやIoTとまた違ったアングルで重要な投資分野だと思っています。民間のVCは10年間の投資期間という制約がある中で、特にこの3分野は時間がかかるけれども社会にとっては大変重要な分野だと思います。このような大きな資金がかかり、時間軸の長い分野については、政府が強いサポートをし、一緒に産業をつくっていくことをお願いしたいところです。

JVCAの活動について

続いて、JVCAの活動について簡単に触れたいと思います。JVCAは2002年に設立されました。特にお伝えしたいのは、日本の有力なVCの代表者が理事として参画し、各理事がそれぞれのリーダーシップを委員会や部会の中で発揮して、かなり手弁当で協会の活動にコミットしているところです。

会員には、通常のベンチャーキャピタルの会員(VC会員)とコーポレートベンチャーキャピタルの会員(CVC会員)、そして賛助会員という3つのカテゴリーがあります。会員数の推移を見ると、私が協会を預かるようになった2014年度は計94社で、うちVC会員が46社、CVC会員が6社でしたが、現在は全体の会員数が202社、VC会員が85社といずれも2倍増で、CVC会員は56社と、4年前の10倍近くに増えている状況です。

その中で、質的な変化もありました。協会の参画者の変化から見て取れることとしては、4年前の時点ではいわゆる金融機関系のVCが中心の協会でしたが、2015~2016年ごろ、ジャフコやSBIホールディングス、WiL、グローバル・ブレインなど独立系・大学系のVCが参画するようになりました。

そして、グローバルなIT企業の参画も同時に起こりました。MicrosoftやGoogle、Amazon Web Services、Salesforceなどです。グローバル企業は、日本のエコシステムを非常にオープンなものにすると同時に、日本における新たなSaaS企業やIT企業の世界への道筋をサポートしようというインキュベーションプログラムも携えて協会に入ってきました。

そして2017~2018年でイノベーションを志向する大企業が参画するようになりました。これまでは考えられませんでしたが、日本の各産業界のトップ企業であるソフトバンクやKDDI、農林中央金庫、日本郵政、ヤマトホールディングス、日本たばこ産業などの大企業の参画がこの2年で起こりました。結果、JVCAはベンチャーキャピタルの協会からオープンイノベーションに参画する企業が横連携するための協会に進化してきています。これは、社会の要請による進化ではないかと感じています。

協会は3つの委員会からなります。1つ目がベンチャーエコシステム委員会です。VCの横連携、そしてVCの付加価値提供のためのナレッジの進化を主導する活動をしています。VCナレッジ部会では、お金の供給のみならず経営支援を行うことが非常に重要ということで、経営指導能力強化のための活動として、ベンチャーキャピタリスト養成講座を毎年行っています。VC会員百数十社から毎年1~2名を送っていただき、企業育成のための能力向上の研修を行っています。

JVCAの課題としては、資金は集まりつつありますが、やはりキャピタリスト人材の養成が非常に重要な課題だと認識しています。協会としての重要な活動の一端として人材育成が挙げられると考えており、そうした活動をベンチャーエコシステム委員会でつかさどっています。

それから、広報部会では四半期に1度、テレビ、新聞、専門誌などの各メディアの記者に集まっていただき、VCのみならず、私どもの投資先の新分野をプロモーションするためのイベントを開催しています。

2つ目がファンドエコシステム委員会です。機関投資家との関係を強化し、日本のリスクマネーを増やすための活動をしています。政策部会では、日本のVCからの資金提供および活動を活発化するためのさまざまな法令について、政府に改定などをお願いしながら、イノベーションが起こりやすい環境をつくるための提言を日々心掛けています。

3つ目がオープンイノベーション委員会です。この委員会には、日本のイノベーションにおける4つの課題に沿って、部会をそれぞれセットしました。大企業とスタートアップが連携するための部会、大学や大企業、VCが連携するための部会、地方創生のための部会、そして日本のみならず世界とつながって日本のイノベーションを支えるための部会の4つです。

特に、4つ目のグローバル部会に関しては、2020年4月にベンチャーキャピタル協会の世界大会を東京で行うことになっています。米国のみならず欧州やアジア、中南米も含め20カ国以上のベンチャーキャピタル協会の会長・理事長が東京に集まって協議することが決定しています。この機会を通じてぜひ、日本に対する注目度を上げていきたいと考えていますので、ぜひご協力をお願いしたいと思っています。

質疑応答

Q:

海外とのスタートアップ投資額の差を埋めるには何を克服しなければならないのでしょうか。

仮屋薗氏:

日本のエコシステムが成長するポイントを資金面、産業面、人材面の3つの観点からお話しします。

まず資金面では、機関投資家からの資金を本格的に獲得することと、日本発世界の情報発信やスタートアップ企業の育成をしっかり行うことによって、世界から日本へのVC、リスクマネーの呼び込みを行うことが非常に重要だと思っています。資金面の獲得で成功しているのは、イスラエルだと思います。イスラエルはリスクマネーの9割近くが海外からの投資と伺っていますし、世界の機関投資家が各国の技術に対して注目しています。

産業面では、VCの投資が、AIはもとよりさまざまな技術系のベンチャーにいっています。技術系のベンチャーはITスタートアップよりも1桁多い資金が必要になるということ、それから投資してから結果が出るまでに時間がかかるという2点があると思います。その観点からすると、出し手側のスタンスも変わらなければいけないと思いますし、民間だけでは不十分です。ここを政府にも継続してサポートいただきたいと思います。

中小企業基盤整備機構にはこの十数年来、継続して日本のVCのエコシステムを支えていただきました。さまざまな形で日本のイノベーションを支えていくためにも、もう一段のサポートを頂ければと思います。

それから、車の自動運転やシェアリング、医療、金融などもそうですが、スタートアップが活躍できる環境を生み出してほしいと思います。スタートアップは、新しい時代に適応したビジネスモデルのために新しいやり方を志向すると思いますが、ぜひそれを支援するための制度設計や環境を整えてほしいと思います。

最後に人材面では、人材の能力および量の向上がスタートアップにとって非常に重要だと思っています。この数年、有力な産業分野から日本に数多くの人材が集まってきていると思います。スタートアップは、これまでどちらかというとアウトサイダー的なところにいましたが、日本の将来を担う有力な人材が輩出されているのが現状だと思います。こうした人材の流動化を支えるような社会的なバックアップも非常に重要な観点だと思っています。

Q:

インキュベーションのころに投資したVCがみんなイグジットを急がれる現実があり、ここを脱却しないとネット系ばかりになって、本当のベンチャー産業が育たないのではないかと思います。ここをどう打開すればいいでしょうか。

仮屋薗氏:

日本のVCはこれまで0~100億円の価値のところを数億円から十数億円投資してつくる部分を担ってきました。ところが、創薬や宇宙、素材の企業群は資金調達としては数十億円、企業価値としては数百億から1000億円を目指すところが非常に重要なので、その100億から1000億に至るユニコーンをつくっていくまでのプロセスを、未公開の資金調達、グロースキャピタルで担う必要があると思います。グロースキャピタルはこの数年、産業革新機構(INCJ)に担っていただいていますが、民間でも、国としても引き続き応援していただくことが非常に重要だと認識しています。

Q:

機関投資家を引き付けるためにどのような手法で日本の魅力をアピールしていけばいいでしょうか。

仮屋薗氏:

資金の課題として、外から内への呼び込みは非常に重要です。具体的に海外から日本へリスクマネーをどう獲得するのかというと、協会としては最近着手したのはファンドのパフォーマンス調査というものです。米国はもとより世界各国で、VCのみならず、プライベートエクイティの分野でその国のアセットクラスに投資すると大体どれぐらいのリターンが出るのかという統計がしっかりしているのですが、日本ではまだまだ整備されていませんでした。

そこで、JVCAでは、日本におけるVC投資のパフォーマンスの統計をしっかり整えるべく、この調査を開始しており、数十社のベンチャーキャピタルファンドのパフォーマンスを経年で取っています。今までは横比較できなかったので、日本における投資機会になかなか踏み込めなかったのですが、このパフォーマンスの状況を知ることで、海外の方々も横比較ができるようになるでしょう。

それから、世界のグローバルスタンダードの機関投資家においても、標準的なファンド契約の整備が重要だと思っています。経済産業省からの受託調査の一環で2017年、VCファンドを組成する際の契約のモデルプランを作成し、業界で共有しています。

Q:

ユニコーン企業が出てこないのは、やはりイグジットの中でIPOの場が少な過ぎるからではないかと思うのです。われわれが提言を1つ出そうとしているのは、地方にはまだ残っている市場がいくつかあるので、これを活性化して地方創生に生かすような工夫をするとか、何らかの形でマーケットが残るようにしないとまずいと思います。

仮屋薗氏:

日本においてイグジットで大事なものは、IPOとM&Aの2点だと思います。IPOについては、必ずしも日本の環境が世界に比して遅れているということはないと思いますが、オプションはたくさんあった方がいいので、異なるタイプの企業が上場できる間口を広く持つことは絶対に必要です。ですから、間口を広く持つためのさまざまなイグジット機会があるように業界としてお願いしたいと思っています。

それから、M&Aに関しては、米国ではダイナミックな大企業によるM&Aの循環が起こって初めて、大きな経済のサイクルの中にスタートアップが組み込まれていったという経緯があったと思います。日本でもM&Aを増やして、世界に冠たる大企業がスタートアップのさまざまなアセットを吸収し発展するサイクルを回していくことが待たれていると思っています。

Q:

ものづくり系のところに巨額な資金が必要な部分は、コミュニティーの中でお互い顔が見えている世界ができていると思うのですが、それに対して日本は随分変わってきていると思います。仮屋薗さんの印象はいかがですか。

仮屋薗氏:

今はグローバルなIT企業が日本のコミュニティーとのつなぎ込みの第一歩を踏み出したところであり、これからの課題はそれを面にしていくことだと思っています。特に人、金の面で世界の産業とのつながりを太くすることを最重要課題と認識して推し進めていきたいと思っています。

モデレータ:

われわれ中小機構が出資しているファンドからのイグジット先で、時価総額が1000億を超える企業がいくつか出てきているのは、ある意味で日本のベンチャー業界の状況を反映していると思っています。その中で中小機構として何が一番大事だったかというと、やはり長年続けてやってきたことが非常に重要だったと思います。中小企業基盤整備機構のLP出資を1998年度から20年間継続してきて、リーマンショックや東日本大震災が起きた中でも継続して出資してきたことが成果になっていると思います。今後も継続していくことがさらに発展の可能性を広げると思っています。

Q:

中小企業基盤整備機構の手元のデータでは、ここ3年ぐらい日本のVCの27%を支えてきたのですが、2018年は39%と大きく伸びています。これはなぜでしょうか。

コメンテータ:

リーマンショックのときに日本のVC、キャピタリストはほぼ全滅するのではといわれるくらい厳しい状況でした、その中で中小企業基盤整備機構は無理をして優秀なキャピタリストに資金を提供しててきました。そのとき生き残った方たちがIPOをしてユニコーンをつくっているのです。その代表選手が仮屋薗さんであり、米国のファンドサイズが見えてきたというところまで来ました。

加えて、キャピタリストのグループも上がっていて、機構で出しているファンドの上位25%の成績は米国の上位25%と遜色ありません。ただし、残りの75%の成績が米国と比較してが良くなくて、その部分を底上げしていくことが1つの課題です。

やはりベンチャー業界は金融業界では新興の業界なので、株式市場や制度の問題に対してより積極的に発言していく必要があります。上場コスト、維持コストが高いこと、グロース段階の資金供給が乏しく、早期に段階で、IPOを進めた結果、IPOをしたけれども成長しない企業が増えるなどの問題もあります。投資事業有限責任組合のGP(無限責任組合員)が会社形態の場合、パススルー課税が認められていないことが、米国から日本のファンドへの投資が少ない理由の一つになっているかもしれません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。