先住民と最先端技術の出会いー持続可能な開発へのアラスカ物産の挑戦

開催日 2019年11月14日
スピーカー 青木 政文(アラスカ物産株式会社代表取締役/オーガニック49クラブ株式会社代表取締役/一般社団法人アラスカ協会代表)
モデレータ 林 揚哲(経済産業省中小企業庁創業・新事業促進課長)
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開催案内

全米最大の州であり、ロシアと国境を接し、北極海にも接しているアラスカ州は、石油やLNG、水産資源に恵まれている一方、近年は豊富な土地を利用した農業にも注目が集まっている。本セミナーでは、アラスカと日本を結ぶプロジェクトを進めている一般社団法人アラスカ協会代表でアラスカ物産社長の青木政文氏を迎え、アラスカの魅力や地政学的な重要性、アラスカでの取り組みについて話を聞いた。中でも、日本の最先端技術を使ってアラスカの村々に自活した産業をおこす「サステナブル・コミュニティー・キッチン」の取り組みでは、凍結解凍覚醒法による農業展開などが計画されている。青木氏は今後さらなる拡大を目指すとしており、参加者がアラスカの大きな可能性に思いを巡らせた。

議事録

アラスカの可能性

青木政文写真アラスカは汚染のない、本当に大きな土地です。アラスカ州は日本の国土の4倍あります。海岸線は5万5000kmで、その他の49州全ての海岸線を合わせたよりも長く、どれだけアラスカの海岸線が入り組んでいるかが分かると思います。

未開拓の農業用地は8万エーカーありますが、そのうちアラスカ州政府は3万エーカーしか使いこなせておらず、5万エーカーが手つかずのままです。ちょうど8月にアラスカで私の8年間の取り組みを講演する機会があったのですが、日本の農業技術を提案したところ、「すぐにでもやりたい」と言っていただいて、現在試験が始まっています。

アラスカはサステナブル(持続可能)を掲げた最初の州なのですが、漁業も全て天然で行っており、アラスカ州だけが全米で唯一養殖を禁止しています。個別漁業割当(IFQ)制度を取っており、個人が漁業枠を買い、それを生涯所有できます。しかし、アラスカで漁を行うと、ハリバットと銀ダラの両方がいっぺんに獲れるのですが、漁業者は複数の魚についてIFQを所有することができないので、値段の安い銀ダラはリリースされてしまいます。しかし、リリースすると魚は死んでしまいます。ですから、日本人の大好きな銀ダラを支援すれば、銀ダラが優先的に日本に入ってくるようになるでしょう。

また、オーロラツアーを日本と最初に始めたのもアラスカ州なのですが、すっかりPR負けして、アラスカのツアーは年々減っています。しかし、ここ10年ぐらいは非常に太陽活動が活発なので、オーロラは非常によく見えるのです。

このように、アラスカには本当に資源がたくさんあります。そこで私は今年、一般社団法人アラスカ協会を立ち上げました。ここを窓口として、アラスカの問題を全て吸い上げられるようなことができればと思っています。

アラスカでの村おこし

アラスカでは、温暖化が非常に進んでおり、北極圏といわれる場所の永久凍土がどんどん解けています。科学者たちの予測よりもはるかに速く北極圏の氷が解けており、村が流され、洪水も起きています。住宅も基礎がしっかりできないので、最先端の日本のハウジング技術があったら生活環境がもっと良くなるのではないかと思っています。

セントローレンス島でも村おこしをしました。ここには化石がたくさんあるのですが、子どもたちがそれを掘り出しているのです。大人の人たちは恥ずかしそうに、「僕たちのプライドとしては非常にやりたくないのだが、掘っていると私たちの先祖が使っていた土器のようなものの化石がたくさん出てくるのだ」と言います。

実は、「ハープーン(矢先)」といって、マンモスの牙を使って人類が1000年ぐらい前に作ったものの価値が非常に高いらしく、コレクターがプライベートジェットで飛んできて、買い付けに来るらしいのです。大人たちは、「本当はここにミュージアムを作って、自分たちの宝物を外に出さないで収蔵したいのだけれども、ないから子どもたちが掘るのをやめさせられない」と言っていました。

それでは、この化石で何かできないかということで考えました。先住民のアーティストがたくさんいるので、たくさんあるセイウチのあごの化石でセイウチを作ってみました。今では私がいろいろと注文を入れて、ラッコ、シャケ、クマ、人間などいろいろ作れるようになりました。

これをもっと広めたいと思って、先ほどのあごの化石をスライスしてエシカルジュエリーを作りました。漁で使われる矢先やフックは、ポリネシアの文化ではお守りです。アラスカの漁は釣りではなくて矢を使うのですが、ハープーンのデザインは村ごとによって特徴があるので、先住民のハープーンを1つの村に1個ずつデザインして、先住民の人たちに付けてもらうことにしました。それをDIYキットのような形で東急ハンズやロフトなどで販売できれば、文化交流もできると考えています。

先住民と私たち日本人は、DNA的にも、文化的にも共通点が非常に多く、恥ずかしがり屋でプライドが高いところも似ています。こういった小さな活動なのですが、アラスカの可能性を最大限に生かせればと思いながら、いろいろなプロジェクトを50ほど手掛けています。

現在進行中のプロジェクト

私が取り組んでいるその他のプロジェクトもご紹介します。アラスカ内陸の村では、先住民の人たちと蜂蜜を一緒に作っています。その村に入った日本人は私が初めてです。北緯64~65度ぐらいの位置にあり、5㎞四方をアラスカ州政府から買い取って、完全自給自足で暮らすロシア正教の村です。男性が力仕事をし、女性は家を守るという形の生活をずっとしています。

この村にはお医者さんがいません。聞くと、大きな病気の履歴もないと言うのです。健康の秘訣を聞いたら、「ドクターハニーだ」と言われ、蜂蜜を頂きました。その蜂蜜が非常においしかったのです。その村では1世帯に大体一つの蜂箱持っていて、夏の1カ月の間に家族十数人が食べる1年分の蜂蜜を採ります。ぜひ私にも作らせてほしいということで、すぐに25箱を注文しました。2年目は50箱、3年目は100箱、4年目にあたる今年は200箱になりました。温暖化の影響で今年は夏がとても暑く乾燥していたので、養蜂には最高の環境で、今年は3トン採れました。関わってくれている家も5世帯に増えました。

当初、村おこしプロジェクトとして「10トン、50世帯」を目標に挙げたとき、皆から「そんなお金のかかることは普通やらないよ」と言われたのですが、ゆっくりと4年をかけて3トン、5世帯になりました。蜂が24時間シフト制で動いてくれますので、百花蜜ができます。

また、私は最もエシカルな水は氷河の水だと思っています。アラスカの氷河の水は、1万年前の汚染のない雪が解けた水であり、1回も地下に入っていません。そこで、この水の販売もアラスカ州政府に提案しました。州政府は財政をほとんど石油で賄っているのですが、石油だけではなく、この水をアラスカから売ろうということでプロモーションを進めているところです。

蜂蜜はブランディングをして、クヤナという食品ブランドで販売しています。「クヤナ」は、先住民の言葉で「ありがとう」という意味です。皆さん挨拶代わりに「クヤナ」と言います。先住民の人たちは、文字に書き残す文化を持っておらず、歌や童話などで教えを伝えています。その中にクヤナストーリーというものがあって、必要なものを必要なだけ頂くというその精神に私もすごく共感して、クヤナという食品ブランドを作りました。

最先端技術をアラスカに

アラスカには229の少数民族がいます。全米で約500ですから、約半数がアラスカ州に集まっています。各地の酋長とお会いした際に、アラスカの可能性について提案していることが幾つかあります。ポートハイデンという村では4年前から、「サステナブル・コミュニティー・キッチン」の導入が進んでいます。小さな村へは定期便がなかなかないので、チャーター便で行かなければならないのですが、こうした村に行って、日本の最先端技術を使ってどのように安全・安心な生活ができるのか、また、その村の素晴らしい資源にどう付加価値を付けるのかという提案をしています。

アラスカ州政府の人たちとも、動物や農業、水産業のプロジェクトをいろいろと動かしており、日本にもたくさんの人を呼んでいます。日本で6次産業の成功モデルとして取り上げられている島根県海士町にも、村の先住民の人たちを連れていって、成功モデルを視察してもらいました。

また、「もんげーバナナ」という皮ごと食べられるバナナを開発した田中節三先生の技術が、農業に革命を起こすのではないかと非常に注目されています。現在アラスカ州政府に農業提案をしています。まず大麦から実験が始まっています。

これは遺伝子組み換えではなく、種に氷河期を経験させることによってDNAを覚醒させる技術です。覚醒すると、植物が3倍のスピードで成長します。もちろん私は確信を持って薦めているのですが、アラスカ州政府には「実験をして実感したら進めてください」と言って実験をしています。

実は今年、シベリアで小麦の実験に大成功しました。6月25日に種を植えて、7月25日から8月10日に刈り取ることができたのです。通常、シベリアで小麦はできないのですが、できたのです。しかも3倍のスピードです。通常、小麦の種から茎が1本、多くて2本しか出ないのですが、8~10本出ました。また通常は1房35~40粒ぐらいなのですが、80粒付きました。そうすると生産効率は数十倍、物によっては何百倍にもなります。農業ではなく産業になってしまうぐらいの効率です。そんな技術の実験がシベリアで成功しています。これを私はアラスカで進めたいと考えています。

アラスカ州は全米50州の中で水産業はずば抜けてトップですが、農業は最下位の50位です。第1位はどこかというとカリフォルニア州、2位はアイオワ州、3位はテキサス州です。カリフォルニア州はアイオワやテキサスに比べると小さいのですが、年間5兆円の農作物を作っています。アイオワは2.7兆円、テキサスは2兆円です。なぜカリフォルニアが多いかというと、ワインやオーガニック野菜などの高付加価値商品を作っているからです。

私がアラスカ州政府に提案したのは、皆さんがよくご存知のイメージはラストフロンティア(未開拓地)、大自然、クリーンな環境でしょう。このPR効果を使ってアラスカが生薬の産地になり、世界の人たちをハッピーに、ヘルシーにしよう、と提案しました。

その提案にアラスカ州政府も非常に喜んでくださり、現在実験が進んでいます。実際、たくさんの生薬が採れると想像できています。

日本は冷凍技術に優れており、セル・アライブ・システム(CAS)冷凍をはじめとする特殊冷凍技術は、日本が世界で断トツだと思っています。そのほか、凍結解凍覚醒法やマリンITを使った「サステナブル・コミュニティー・キッチン」というコンセプトも提案しています。200~300人の村に、有事のときにはシェルターにもなるような、オールジャパンの技術を使った問題解決型コミュニティー・キッチンを作りたいと思っています。マリンITを使ってデータベースやいろいろなものを共有し、村にある資源に日本人が最初にアクセスできるような、そしてブランディングを仕上げられるような環境が整えられればと思います。

目標は、「サステナブル・コミュニティー・キッチン」をアラスカに300カ所、北極圏に1000カ所、世界に1万カ所作ることです。でも、私一人の力ではできないので、今年からはこうしたコンセプトを広くお伝えして、少しでも情報やアドバイスを頂ければと思って活動することにしています。

質疑応答

Q:

新しい事業を展開していく上では、若い人たちが自分の村を活性化しようと頑張ることが大事だと思いますが、日本の過疎地と同様、米国の大都市に流れていって、若者が地元になかなか定着しないのが現状かもしれません。そのあたりはいかがでしょうか。

A:

その通りです。政策の一環として、教育プログラムで優秀な人に奨学金を出して、アラスカの大学に行かせるプランもありますし、また先住民も優秀な人たちには役職をすぐに作ります。将来の酋長候補として、若いリーダーに責任感のあるポジションをたくさん与え、優秀なブレーンが外に流出しないような取り組みはいろいろしているのですが、おっしゃる通りで、必須なのは村に仕事を作ることだと思います。村人たちにプライドを持ってもらうことが必要です。

Q:

手がけられている50のプロジェクトは、工業というよりはむしろ自然のBIOに近い、サステナブルな部分を基本に進めておられると思います。そのポートフォリオがどうなっているか教えてください。それから、サプライチェーンについては、既存のチャンネルをうまく使えるのでしょうか。

A:

実は2011年、日本で震災が起きたのをきっかけに、私はアラスカ物産株式会社を立ち上げました。まずは海産物を輸入しようと考えたのですが、新参者が入っていけるような業界ではなかったのです。それで私は、私なりのスタイルでアラスカに関与できる方法はないかといろいろ考えた結果、アラスカの先住民たちの生活向上と特別な利権、日本が持っている世界に誇れる技術やノウハウをマッチングする仕事をしようと思い、今の仕事の体制となりました。

いろいろな村に行くと「村おこしをしてくれ」と頼まれるので、各村といろいろなプロジェクトが生まれ、結果として私が一切買い付けないで現地でそのまま商売になっているものもあります。私も買い支えるような形で、蜂蜜を日本に持っていきました。もともと震災がきっかけであり、安心・安全な食材を日本に持っていきたかったので、安心・安全な食材であれば取りあえず私が買い支えています。

そんな中、アラスカ物産だけでは支え切れなくなり、「オーガニック49クラブ」というB to Cの会社を立ち上げました。1000人の会員で1つの村おこしをする会社です。それから、非営利のアラスカ協会を今年立ち上げたので、アラスカの全ての問題の窓口となってマッチングができればと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。