2019年度設備投資計画調査の概要

開催日 2019年9月4日
スピーカー 竹ケ原 啓介 (株式会社日本政策投資銀行執行役員産業調査本部副本部長)
モデレータ 青木 幹夫 (経済産業省経済産業政策局調査課長)
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日本政策投資銀行が毎年取りまとめている「設備投資計画調査」は、同種の調査としてはわが国最大規模の調査である。1956年から60年以上にわたり、わが国産業の設備投資の基本的動向を把握することを目的として、国内外の設備投資を調査・分析してきた。本セミナーでは今年8月に発表された2019年度調査について、同銀行執行役員産業調査本部副本部長の竹ケ原啓介氏が、企業の設備投資の最新動向や投資動機などの分析を交えてその概要を紹介した。また、近年ではアンケートによる特別調査も行われており、その結果を基に、研究開発や情報化投資、ESG投資など「広義の投資」についての企業の取り組みも紹介した。

議事録

調査概要

竹ケ原啓介写真設備投資計画調査は、国内単体をベースとした有形固定資産投資をフォローすることでわが国の産業動向を把握するもので、1956年から行われています。しかし、最近は企業の投資行動が非常に多様化しており、有形固定資産の枠内に入らないものもかなり多いので、直接投資、研究開発やM&Aなどの「広義の投資」を調べるため、ここ数年は併せて意識調査(特別調査)も実施しています。

国内設備投資動向と景況感

2018年度の国内設備投資の実績は、全産業で11.4%の増加でした。2桁増加したのは非常に久しぶりで、1990年度以来28年ぶりの高い水準でした。昨年度の設備投資は掛け値なしに強かったといえると思います。増加率は製造業が12.8%、非製造業が10.7%でした。

最近は計画段階でかなり高い数字が出て、実績に向けてかなり下降修正される傾向があります。2018年度は計画値で21.6%増と38年ぶりの高い数字でしたが、実績は11.4%に着地しています。2019年度の計画値は11.5%なので、これまでの経験からすれば1%台前半に着地してもおかしくない数字です。

製造業では2018年度の計画値27.2%増が実績12.8%増となり、2019年度の計画値は13.5%増です。非製造業では2018年度の計画値18.5%増が実績10.5%増となり、2019年度の計画値は10.7%ですから、製造業の方が下方修正の幅が若干大きく出ています。昨年の期中から米中摩擦がかなり激しくなり、製造業に昨年度からやや不透明感が出ていることがわかります。

計画値同士を比較すると、その伸び率は実績値に近い値を取る傾向があります。具体的に言うと、2019年の全産業の計画値の伸び率(2019年計画額÷2018年計画額)は5.7%で、この経験値がそのまま生きるとすれば、来年度の実績は5.7%程度に着地してもおかしくはないということです。しかも、製造業は1.4%、非製造業は8.2%が見込まれるので、やはり製造業の伸び率は一服しそうであることが見てとれます。

また、特別調査でこの先どのような下振れリスクがあるかを聞いたところ、製造業では、例年通り原油・資源価格と為替を挙げる企業が多かったのに加え、中国経済と米通商政策を挙げる企業が非常に多く見られました。このことから、米国経済への影響を懸念する声が非常に強いことが確認できました。非製造業では、東京オリンピック・パラリンピック後の反動減や消費税率引き上げに伴う影響を懸念する声が多く聞かれました。

さらに、今後、米通商政策が企業業績や設備投資に影響するかどうかを聞いたところ、製造業の半数が「影響を受けそうだ」との懸念を示しています。サプライチェーンや生産・営業拠点への影響について聞くと、10%の企業が取引関係や生産・営業拠点の見直しを実施ないし検討中と答えています。中国で行われていた加工機等の生産を日本国内に戻したり、ベトナムやタイに移したりする個別企業の行動が報道されていますが、そういった企業の声がこの10%の中に拾われています。また、「影響不明」と答えた企業が46%ありましたが、今後、米中摩擦がより先鋭化すると、影響を感じる企業はさらに増えるだろうと予想されます。

また、設備投資額を伸び率ではなく水準で見てみますと、設備投資がこれだけ伸びているといっても、キャッシュフロー比では82.2%であり、まだキャッシュフローの範囲内にとどまっていることがわかります。1990年時点での設備投資/キャッシュフロー比率は120~130%ありましたから、水準としては決して高いとはいえないでしょう。

製造業の設備投資動向

製造業において設備投資への寄与度が大きい業種は、化学、輸送用機械、非鉄金属です。ただ、その中身を見ると、自動車産業向けの投資が非常に影響力を増していることが分かります。化学では、高機能化学品への投資も広範に見られますが、リチウムイオンバッテリーのセパレータなど電池系への投資が目立っています。化粧品、日用品など、インバウンドで火がついた需要に対応した投資なども見られますが、こうしたものを除けば、ほぼ自動車の電装化や軽量化に向けた投資が中心です。

輸送用機械は、自動車メーカーによるモデルチェンジへの対応投資が幾つか目立つことと、自動車向け電池の増産投資とがけん引しています。非鉄金属も同様で、車載用二次電池の生産増強工事への投資がけん引しています。かつてのように輸送用機械、素材産業、電気機械が均等に全体を引っ張り上げる構造ではなく、自動車が全体をけん引していることが分かります。

このほか、一般機械、電気機械は、2019年度の伸び率がかなり小さくなっています。一般機械については、昨年度、産業用ロボットでかなり大きな投資があり、これが一服したので2019年度の数値は落ち着いているのですが、中国向けの輸出が非常に多い分野ですから、米中摩擦の影響を慎重に見ていく必要があります。電気機械に関しても、2018年度にスマートフォン画面の部材への大きな投資があった反動で少し数字が落ちていますが、それ以外を見ると、パワー半導体などへの細かな投資が確認できるので、必ずしも暗いトーンではありません。

製造業の投資動機を見ると、2018年度は能力増強や新製品・製品高度化のウエートが大きいことが確認できますが、気になるのは、合理化・省力化があまり大きく伸びていない点です。その点には関心があったので、企業に、人手不足対応への投資はどの動機区分に分類しているかを聞いたところ、合理化・省力化に分類している企業は3~4割程度でした。能力増強や維持・補修に分類している企業も少なからずあったので、省力化投資、つまり人手不足対応への投資についての数字は、あまり正確に切り取れなかったことが分かりました。

また、2018年度は能力増強投資が非常に強かったので、2019年度は能力増強投資が必要という回答は一服しており、十分足りているという声もかなり増えています。ただ、維持・補修投資の増額が必要との声がまだ46%あります。キャッシュフローの範囲内での投資が続いているので、足元の投資が少し伸びたぐらいでは足りておらず、やるべき投資はまだまだ堆積していることがうかがえると思います。これはおそらく、生産性の話にもつながりそうな論点だと思います。

非製造業の設備投資動向

非製造業の設備投資への寄与度を見ると、最も大きいのは運輸です。鉄道の高速化(リニアモーターカーなど)や安全対策、不動産開発、物流施設整備などが引き続き好調です。物流施設設備は、まさに省力化を反映した投資といっていいと思います。

続いて不動産です。都心部の再開発が順調に進んでいること、また、東京オリンピック・パラリンピックをにらんだ不動産投資は2018年度がピークだったようで、2019年度計画では2022年以降の完成を見込んだオリンピック・パラリンピック後の不動産計画投資がどんどん出てきており、この辺の投資がまだ伸びていること、これらのことから、不動産については、東京オリンピック・パラリンピック後に投資が剥落するような傾向はないのではないかと思います。

そして、卸売・小売です。コンビニエンスストアは、例年、新店出店計画の数字を大手3社が横並びで強めに出してきて、後でこれを下方修正するという傾向があったのですが、昨年度以降は明らかに既存店のてこ入れに注力しており、無人レジの導入など人手不足に対応した省力化投資が中心になっています。

また、サービスは引き続きインバウンド対応でテーマパークやホテルへの投資が非常に好調です。また、通信・情報は伸び率こそ大きくないものの、データセンターや5Gへの投資がいよいよ増えてきています。

非製造業の設備投資は、人手不足対応、都市の再生・高機能化、インバウンド対応が中心になっています。通信・情報ではデジタルインフラ整備も着実に進んでいくでしょう。この辺が今後、日本の設備投資を支える1つの柱になっていくと見ています。

「広義の投資」への取り組み

企業の行動はもはや国内有形固定資産だけでは測れなくなっています。国内有形固定資産投資は約60兆円ですが、海外の有形固定資産投資、研究開発、ソフトウェア投資などの無形固定資産投資、M&A、人的投資などを積み上げると55兆円ぐらいになり、有形固定資産投資に比肩する投資が行われています。

まず、海外設備投資の伸び率は2018年度実績が13.4%、2019年度計画が10.2%です。注目すべきは中国向けで、2018年度実績は12.8%ですが、去年の計画値では40%強という高い伸びが予想されていました。反対に、北米向けは計画よりも伸びています。完成車メーカー、部品メーカーの北米への投資が予想より多かったためです。逆に中国については大幅に下方修正されています。このあたりに、昨年からの米中貿易摩擦のリスクが顕在化してきていると思います。

2019年度は、北米向け投資は前年度に大きく伸びた分、一服しますが、前年度下方修正された中国向け投資が22.7%と、けん引するでしょう。これは、環境配慮自動車向けの投資やロボットの増産など、あくまで中国国内の需要に対応した投資が中心であり、中国で輸出が止まったら減少するというような投資ではありません。

研究開発費は、半分ぐらいが人件費で構成されています。輸送用機械、自動車のトレンドを強く反映した動きになっていて、安定して例年4~5%の増加が続いており、その傾向は今期も変わりません。

また、研究開発では近年、オープンイノベーションがキーワードになっているため、オープンイノベーションがどのぐらい進んでいるのかを特別調査で確認しました。しかし、活用機会が増加していると答えた企業は30%で、それはここ数年変化がありません。不思議に思い、対象企業を資本金額で細かく分類してみたところ、資本金100億円以上の企業では56%、100億円未満の企業では23%と、それぞれの傾向がはっきりと確認できました。

オープンイノベーションの連携先は、全体として国内の大学・研究機関が一番多いのですが、資本金100億円以上の企業は、国内の中小・ベンチャー企業や海外機関とも比較的多く連携しています。加えて、資本金100億円以上の企業の6割がプラスの効果を実感しており、資本金が100億円未満の企業と比べると、差が見られます。

さらに、企業規模による差がより顕著に出ているのが情報化投資です。資本金100億円以上の企業でAIやIoTを活用しているところは7割に上ります。企業規模が大きければ、既にAI、IoTを実装し、業務に使っている割合も高くなります。ところが、100億円未満の企業では一気に割合が減るため、平均するとAI、IoTの活用がなかなか進んでいないという結果になります。

また、AI、IoTを活用している企業の8割程度が効果を実感できていると回答しています。ただ、活用に向けた課題を聞くと、専門的な人材(データサイエンティスト)の不足という声が非常に広範に確認できました。

さらに、7割の企業は、デジタル化が実際のビジネスモデルや事業環境に影響を及ぼしていると回答しました。ただ、これは、まだ3割の企業がデジタル化の影響がないと考えているともとれるため、解釈は分かれるところです。

影響の内容で最も多かった回答は収益機会の多様化で、次にコスト構造の抜本的変化でした。まさしく、モノがインターネットを介してサービスに変わっていくところを捉えて事業化を図り、マネタイズしていく動きが少しずつ出てきているのだと思います。

実際の取り組み事例を挙げると、製造業では遠隔監視、リモートメンテナンスなど、「遠隔」がキーワードになっています。非製造業ではMaaS(Mobility as a Service)に代表されるアズ・ア・サービスを明確にうたった取り組みや、サブスクリプション販売の強化(定額サービスなど)といった新しいビジネスモデルを志向する声が広範に確認できました。

続いて人的投資です。人的投資は金額に換算するのが大変難しいため、正直なところ、最近は人手不足の確認をするぐらいの項目になってしまっているのですが、人手不足の悪化傾向は間違いなく進んでいることがアンケートから確認できました。

M&Aについても、金額はなかなか教えてもらえないので、スタンスを聞いています。M&Aについての日本企業の傾向は、国内外問わず買収には熱心ですが、売却には熱心でないことでした。ところが、2019年度にその傾向は落ち着き、国内買収、海外買収、事業売却の区別を問わず、「積極的」と答えた企業の割合が下がっています。

買収時の課題を聞いてみると、「買収金額の折り合い」という回答が非常に多くありました。おそらく、このアンケートの段階ではまだアメリカの株価も高かったので、高値づかみを警戒する声が強かったのだろうと見ています。

M&Aの動機としては、設備投資の代替として行うという回答が一番多いのですが、業種の特性も出ていて、製造業では研究開発の代替として知財・技術獲得のために行うという声が非常に強いですし、非製造業では人的投資の代替として人材獲得のために行うという声が強いです。多様な目的でM&Aが行われていることが確認できたので、キャッシュフローの範囲内に有形固定資産投資がとどまっていることだけを取り出して論じるのもちょっと難しいという気がしています。

ESGへの取り組み

ESG(環境・社会・企業統治)投資が近年のキーワードになっていることから、これに関する企業の動向も確認しました。ESGに取り組む目的について、資本金100億円以上の企業では、成長戦略や機関投資家の評価と回答する企業が多いだろうと予想していたのですが、一番多かったのは社会貢献でした。ボランティアと解釈すべきなのか、流行りのSDGs(持続可能な開発目標)を意識しているのか、何ともいえないのですが、これは意外な結果でした。

ESGの取り組みで重視する側面としては、業種を問わずコーポレート・ガバナンスという回答が一番多く見られました。アクティブな投資家の求めるエンゲージメントはガバナンスにほぼ収れんされているといわれているので、この辺はよく理解できます。一方で、日本企業は総じて、S(社会)の部分が弱いという特徴も確認できました。

以上が今回のアンケートの概要ですが、問題は製造業の下振れリスクをどう見るかです。そこを占うヒントの1つが想定為替レートです。6月の段階のアンケートでは企業の平均想定レートは109円でしたが、足元では円高が急激に進んでいるので、下振れリスクが顕在化する公算は決して低くないと思います。

今回の特徴としては、非製造業を主体に設備投資額が8年連続で増加し、製造業を中心に不透明感が出てきたことが挙げられるでしょう。主役はおそらく、あまり腰折れしそうもない非製造業であり、製造業は若干下振れリスクを含んでいると思います。

質疑応答

モデレータ:

人手不足が相当深刻だと聞きますが、その辺に関する事例や先行きの見通しなどはありますか。

A:

人手不足、省力化への投資をもう少しクリアに数値化して見たいのですが、きれいに切り分けられず申し訳ありません。しかし、先ほど述べた運輸や卸売・小売における人手不足対応の投資に加えて、東京オリンピック・パラリンピックの先の不動産投資やデジタル化への投資も好調なので、非製造業の基調はそれほど悲観的に捉えなくていいと思っています。製造業でも、省力化や技能伝承の観点でロボット化、デジタル化への投資がどんどん行われているので、それを人手不足、省力化への投資と捉えれば、製造業・非製造業を問わず全体を底支えしてくれる要素だと思います。

Q:

北米向け投資に関して、何か追加的な情報があればお願いします。

A:

北米での現地生産への投資を昨年度先取りしてしまった結果、現在は少し一服という形で出ているのだと思います。トレンドが変わるとか、現在の状況でアメリカ向けの投資が減るというニュアンスでは捉えていません。

Q:

インバウンドの増加は、地域にストック効果をもたらしているのでしょうか。

A:

国内では総じてインバウンド対応の投資が好調といっていいと思います。化粧品や日用品なども、インバウンドで気に入った商品を帰国してから求める人が多いので、輸出にチャンスがあると捉えて増産投資を図る動きがあります。ですので、メーカーにも波及効果があるように思います。

Q:

安全安心に対する企業の投資は、これからどういう状況になるでしょうか。

A:

労働安全衛生のような切り口で切り取っていけば、かなりの投資が生まれるのではないかと感じています。

Q:

いずれ設備投資ニーズが出てくれば、キャッシュフローを上回る設備投資が出てくるのでしょうか。

A:

本当に難しいところで、最近は海外生産が非常に増えましたし、海外直接投資も増えているので、海外からの配当も分母のキャッシュフローに入ってきます。ですので、設備投資/キャッシュフロー比率は100%をなかなか超えづらい構造になるでしょう。

一方で、維持・更新投資を増やさなければならないという企業が46%もあるので、基調としてはまだまだ投資が足りないと思われますが、海外投資を強化し国内はある程度抑えるというトレンドが今後も変わらないとすれば、かつてのように140%、150%にはならないだろうと考えます。

Q:

企業の減価償却費との関係ではどのような動きになるのでしょうか。

A:

やはり償却の範囲内に国内有形固定資産投資がとどまる傾向はここ数年続くといえるでしょう。

Q:

投資が国内に回帰するような感じには思えないのですが、そういう傾向は出ているのでしょうか。

A:

2012年にアベノミクスが始まって、未曾有の円高が是正されて以降のトレンドとして、海外拠点を強化するという声は若干低下傾向が続いていました。その段階ではひょっとしたら国内の投資回帰につながるのではないかという期待もあったのですが、超長期で見ると海外強化の声の方が大きく、国内マーケットは縮小してくるので、投資の主軸は海外に行き、国内に投資が大幅に帰ってくるトレンドではないだろうといえます。

米国の通商政策によってサプライチェーンを見直している企業が10%あると言いましたが、あの中には中国で作っていたものをタイやベトナムに持っていった企業もある一方で、あえて日本に戻している企業もあります。ですから、日本国内で作った方が競争力や生産性が高いものは一時的に日本に戻ってきているようです。ただ、大きなトレンドとしては、国内回帰という感じにはならないでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。