世界・アジア太平洋地域経済見通し―減速する経済成長、再加速は不確実

※資料の引用は、IMFのサイトに掲載されているオリジナル原稿からの引用とし、出典元を記載して下さい。

開催日 2019年5月30日
スピーカー 鷲見 周久 (国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所所長)
モデレータ 太田 三音子 (経済産業省通商政策局企画調査室長)
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2018年後半以降、米中貿易摩擦の激化や金融環境のタイト化などにより、世界経済は成長が減速した。2019年前半も伸び悩みは続くと見込まれており、国際通貨基金(IMF)は、世界経済の70%を占める国々で成長が減速すると予測している。本セミナーでは、鷲見周久IMFアジア太平洋地域事務所長が、「世界経済見通し(WEO)」の内容を踏まえ、世界経済は2019年後半から2020年にかけて成長の再加速が見込まれるものの、多くの下振れリスクを抱えていると指摘した。関税と二国間貿易不均衡の関係性についても言及したほか、アジアの長期的課題についても論じ、アジアの国々がこれから成長を遂げるには、新しい成長モデルの構築が必要であるとした。

議事録

世界経済の最近の動向

鷲見周久写真世界の工業生産額、貿易量と、その先行指標である製造業PMI(購買担当者景気指数)が2018年の半ば以降、急落しています。その要因の1つは、米国の貿易政策の不確実性があるからです。また、米国の金利が正常化に向けて少しずつ上昇したのにつれ、世界経済自体があらゆる面で閉塞的になっています。例えば、アルゼンチン、トルコ、ブラジルなどでは、ドルが急に上昇し現地通貨が急落するなど、非常に厳しい局面に立たされました。アジアに関しては、特に米中の貿易摩擦が非常に広範囲に影響を及ぼし、アジア・太平洋地域各国の輸入・輸出はともに2018年後半以降、下落傾向にあります。

ただ、多くの国では2018年中ごろまで、消費者物価がある程度高かったのですが、商品市況の指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)とブレントの平均が、2018年後半に下がっていることもあり、それ以降はやや下がっています。フィリピンはわずか数カ月間に政策金利を1.75%上げ、金融面で対策を取った結果、インフレは一応落ち着いています。このように、インフレが抑制されているので、多くの国においては金融政策で対応する余地がまだあると思われます。

先進国では株価が2018年暮れに急落しました。S&P500やユーロ・ストックスは持ち直し、TOPIXもその2つに比べれば緩いですが、少し持ち直しています。ただ、このWEOが書かれた2019年の3月末を振り返ると、貿易に関して現在よりもう少し楽観的な見通しでした。中国の副首相が訪米し、貿易摩擦も手打ちになるのではないか、米中が関税引き上げを回避するのではないかと金融市場が先取りして楽観視していたところに、トランプ大統領がいきなりTwitterに関税を25%に上げるとつぶやいたり、マイナス要素が出てきて、その後、金融市場もネガティブに反応しています。

新興国・地域の米国に対する金利スプレッドは、2018年半ば以降、徐々に上がっており、新興国・地域の金融が金利面でもやや厳しくなっています。株価も2016年以降ずっと上昇傾向だったのですが、2018年末に急落しています。

アジア新興国の非居住者による証券投資の純流出入を見ると、2019年1~3月は純流入が伸びており、割と順調に資金が流れていることが分かります。また、為替市場の圧力指数も、ほとんどの新興国で2018年3~9月はマイナスだったのが、2018年9月以降は上を向いています。

従って、アジアの新興国に関しては、一番のリスクは米国の金利が上がり、金融環境が正常化されていく中で、アジアから資金が流出することであり、2018年半ばごろまではそうした懸念は現実味があったのですが、現在は小康状態になっています。また、為替面での圧力もある程度緩和されているのが現状です。

世界の経済成長見通し

世界の成長予測はどうなっているかというと、2018年4月のWEO以降、成長率の見通しが各回下方修正されています。特に2019年の成長率に関しては、2018年4月には3.9%程度までいくだろうと見込んでいましたが、2019年4月は3.3%と大幅に下方修正しています。2020年についても、2019年ほどではないけれどもマイナスになっています。

世界成長の下降要因を分析すると、ドイツをはじめとしてユーロ圏が予想外に調子が悪いことが判明しました。ドイツは自動車の排ガス規制に企業がうまく対応できずに生産が落ちたとも聞きますし、Brexitで紛糾していることもあり、ユーロ圏が相当程度マイナスに寄与しています。それから、先ほど申し上げたアルゼンチン、トルコ、ブラジル、メキシコ、エクアドルなども、元来の弱みがマーケットから厳しく狙われ、マイナスに大きく寄与しています。

世界経済見通しでは、世界全体の成長率を2019年は3.3%、2020年は3.6%と見ています。これは2018年10月と比べてそれぞれ0.4%のマイナス、0.1%のマイナスです。特に2019年は、ユーロ圏で0.6%のマイナスとなっています。英国もマイナス0.3%、米国もマイナス0.2%です。

米国の成長予測は2019年が2.3%、2020年が1.9%と若干下がってきています。トランプ大統領が実施した減税の効果が薄れてきており、2020年度以降これを取り戻さなければならないためです。もう一度立法してやり直すかもしれませんが、現状のままでは2020年以降は減税の取り戻しがあるので、若干下がっています。

アジアは、世界全体の3.3%に対して5.4%の成長と、相変わらず世界の成長エンジンであることに違いはありません。ただ、中国が2018年の6.6%から2019年6.3%、2020年6.1%と下がっています。中国は「6.0~6.5%を守る」と言っているので、財政や金融を含めていろいろな政策余地を持っていますし、政策を打ってくるのだと思います。ただ、政策を打ってくるということは、中長期的には構造改革などを進めてほしいと思うのですが、経済がやや落ち気味なので、なりふり構わず押し上げるためにリスクを先送りしたまま進むと考えられ、あまり幸せな状況ではないと思います。

日本は2019年が1.0%で、潜在成長力よりは上回っています。理由は、2019年10月の消費増税に向けて、それをオフセットするような形でいろいろな財政措置をしているからで、そういうことも含めた数字だと思います。

その他では、インドは7.3%、7.5%と全体的に成長率を引き上げていますが、やはり圧倒的にスタート地点が低いので、この成長が20~30年続いても現在のマレーシアぐらいの1人当たりのGDP平均にしかなりません。ですから、7%でいいというわけではなく、本当はもっとがんばってほしいところです。

概して言うと、アジアの成長は、他の地域に比べれば安心して見ていられますが、それでもいろいろな不確実性があります。中国は2018年10月の6.2%から、2019年4月は6.3%に上がっています。これは、全体として強くなったわけではなく、財政措置がさらに付け加わったことでやや上向いているだけで、それほど自律的に強いわけではありません。

世界経済全体としては、2019年後半ぐらいから回復していくだろうと見通されています。先ほど申し上げたアルゼンチンやトルコ、ブラジルなどが前半かなり下降しましたが、急回復はしないにしても、さらなる落ち込みはないと考えられていることも一因です。

また、ユーロ圏などがしっかりと回復してくれるだろうと予測していますが、Brexitの期限が延び、メイ首相が辞任して先行きが不透明になっています。このように、2019年中ごろから大きなマイナス要因が消えて多少は良くなっていくのではないかという見方は怪しくなってきて、回復は力強さを欠く状況と認識しています。

貿易摩擦の再燃

世界成長に対するリスク要因は、現状では貿易摩擦が非常に大きな部分を占めています。米国の輸入における中国のシェアは、2018年10月ごろに駆け込みで増えた後、急激に落ちています。また、中国の輸入における米国のシェアも落ちていて、お互いに相手国のシェアを落としています。

日本経済新聞に興味深い分析記事がありました。米国の消費者物価は、中国からの輸入品に関税がかかったにもかかわらずそれほど上がっていないのに対し、中国の消費者物価は、報復関税を米国からの輸入品にかけた分も含めて上がっているとのことです。中国の生産者が上がった関税分を一時的に自己負担して価格を据え置きにしている状況をどれほど続けられるのか、あるいは他の国からの代替を模索するのか、これからさまざまな事象に注目していかなければならないと思います。

トランプ大統領は、二国間の貿易不均衡を非常に気にしていますが、それはあまり意味がありません。1995~1999年と2010~2015年の貿易収支の平均値を取って、その変化を見てみると、米国は貿易相手国に向けて貿易赤字を増やしていますが、増えている原因は決して相手国が貿易関税を米国の産品にかけたからではなく、大半がマクロ経済要因で説明できることが分かります。

そういう意味ではドイツの状況は興味深く、ドイツは米国に対して黒字をかなり増やしていますが、関税・その他貿易コストが大きく寄与しています。ドイツにとっては対世界の貿易コストが相当下がっており、ドイツがユーロ圏の域内統合の取り組みから随分利益を得ていることが分かります。

グローバル・バリュー・チェーンでは、輸出の中で2カ所以上の国境を越えたものの比率が年を経るに従って着実に上がってきています。中国の製品に関税がかかると何が起こるかというと、中国は日本からの中間財や資本財を使って物を生産し輸出するわけですが、その輸出が伸び悩むと、日本も対中輸出が減るため、中国に対する米国からの関税が日本企業にも影響します。これは日本にいると体感的に分かると思います。

つまり、平均関税率自体は下がっていますが、グローバル・バリュー・チェーンへの依存が進んでいるので、1カ所に関税がかかると全体に波及するということになります。

関税がアジア諸国に与える影響

貿易摩擦によって、各国がどれぐらいGDPなどにマイナスの効果を受けるかというのを分析すると、現状の報復関税では、中国は1.2%程度の影響を受け、米国は0.3%程度の影響なので、米国の方が傷は浅いのです。しかし自動車分野まで報復関税がかかると、米国は0.7%のマイナスとなり、中国とあまり差がなくなります。中国にとっては追加のダメージはありません。他方、日本は、現状の報復関税では漁夫の利的にややプラスになりますが、自動車分野まで関税がかかると結構ひどい目に遭います。

国ごとに貿易の構成、産業の構成、金融面への依存度によって影響が異なりますが、米中の貿易摩擦が激化すると、もしかすると漁夫の利を得るかもしれない国がいくつかはあります。ただし、そういう国でも全体的にコンフィデンスが下がり、金融コストが上昇したりなど、その効果も入れると結局は誰も得をしません。これが、IMFが「貿易戦争に勝者はいない」とよく言っていることの裏付けです。

日本の場合は自動車への影響が大きいので、自動車の部品に米国が25%の関税をかけて、欧州もそれに報復し、日本も報復するというような自動車関係の全面戦争になると、推計では自動車関連業界で10%程度の雇用に対する悪影響が起こります。従って、日本にとって対岸の火事ではありません。

このように徐々に先進国に貿易障壁が増えていったときに、アジアの活路はどこにあるのか。実は中国も含めてですが、アジアは全般的に自国向けの輸出品に対する貿易障壁が高いのです。また、多くの国が第二次世界大戦直後まで、あるいはその後しばらく、西欧列強に植民地支配されていたので、外資に対する抵抗感が非常に強く、対内直接投資に対する規制が非常に厳しくなっています。しかし、対内直投は新しい技術も付随しますし、生産性向上に非常に役立つ側面もあります。また、現地の雇用を創造する力もあります。

仮に関税を撤廃したり、サービスに対する非関税障壁を30%程度削減したり、対内直接投資の規制を世界標準ぐらいまで自由化すると、国内総生産(GDP)に対する影響は非常にポジティブに出ます。つまり、かつては自分たちのマーケットは閉じて、お互いを攻めずに先進国に輸出しているのがアジアの国々のモデルでしたが、そうではなくて、お互いの貿易も広げ、世界からの投資をもっと受け入れて自由化した場合は、非常に大きく伸びる余地があるのです。日本にとってもアジア市場は非常に大きな存在になります。IMFとしては、先進国への輸出偏重から脱却した経済成長モデルの再構築を政策提言しています。

急激な金融環境のタイト化

世界経済の所々で脆弱性は高まっています。金融システム上重要な国々において、脆弱性が高まっている部門がGDPに占める割合を分析すると、2007~2008年の世界金融危機時に比べて、銀行やノンバンク金融部門は安全になっていますが、政府部門と非金融企業部門のリスクが増えています。世界金融危機後、それに何とか対抗しようとして金融緩和が進み、その資金を一生懸命使って借金を増やしたのが企業部門であり、政府部門なのです。

企業債務を見ると、投資適格債券の中でもBBB格社債の比率が欧米ともに一気に増えています。企業債務が増加し、かつその質があまり良くないものが増えているので、要注意だと思っています。

それから、住宅価格が上がっています。金融緩和で資金が多く出回っていた時期に上海やイスタンブール、サンチアゴなどは住宅価格が随分上がったので、これらの地域でこれまで非常に緩和的だった金融がタイトになりかけたときにリスクになると思います。

アジア全体を見てみると、GDP比の家計債務がかなり増えています。非金融企業部門も香港、中国などでは随分伸びており、注意してみていく必要があると見ています。

そうはいっても、アジアは外貨準備も相当しっかりしてきていますし、経常収支もしっかりしてきているので、いきなり危なくなるとは思っていません。日本以外のアジアは全体的に政府債務がそれほど多いわけではなく、今まで堅実にやってきました。ただ、これからは国によってはインフラ投資などに力を入れ、サプライサイドを増やすような措置を取る余地、あるいは必要性があるというのが見立てです。

アジアの長期的課題

アジアの問題は、全体的に潜在成長率がぱっとしないことです。加えて、新興企業の割合がだんだん下がってきています。やはり成熟した企業よりも新興企業の方が生産性の伸びが大きい可能性が高いのですが、その新興企業があまり出てこられない状況がアジア全般にあります。他方、「ゾンビ企業」、すなわち設立後10年以上が経過し、インタレスト・カバレッジ・レシオが3年連続で1未満、つまり金利を支払うと赤字になる企業が、日本でも10%程度あります。ですから、企業のダイナミズムを促し、ゾンビ企業を減らして、イノベーションを高めることが求められます。

将来の雇用の問題もあります。労働者1000人当たり1台のロボットを導入した場合、労働者がどれぐらい減るかを試算すると、高等教育まで受けた人に比べて、中等教育までの人の下がり方が大きいのです。逆に、初等教育のみの人はそれほど減りません。これからは、高等教育および中等教育まで受けた人の雇用を増やすために、デジタル教育をきちんと行わないと、国としてはやっていけないのではないかと思います。

質疑応答

Q:

脆弱性のグラフで、シャドーバンキングが100から40に落ちていて、政府が20から40に上がっているのですが、この40%という絶対値的な議論は必要なのでしょうか。

A:

これはやはり相対的なものだと思います。金融危機のときは、金融部門から始まった危機が政府にも飛び火したのですが、当時に比べれば政府もいろいろな意味でリスクを抱える方向に動いてきている点には注目する必要があると思います。

非金融企業部門も、平均値では見られないのです。ある程度バランス良く、弱い企業と強い企業があって、金融機関自体がバッファを十分に持っていれば、弱い企業や見込みが外れた企業がつぶれること自体、自然経済の中での新陳代謝なので、それほど問題ではないと思います。ただ、全体的に非常に危ない企業も増えてきている点には注目しなければなりません。

Q:

10月に消費税を増税しようとしている日本政府の政策に対し、差し支えない範囲で改善点を含めてご教示いただければと思います。

A:

毎年の対日審査後に発表される報告書では、大体次のような提言をしています。現在の日本の財政状況や、この先の高齢化の進展を見通すと、消費税を上げていくというのは、中期的に見たときに避けて通れない措置です。ただ、現在の経済状況における影響を見たときに、引き上げの直後にやはり緊縮効果が効き過ぎないように短期的にお金を出して全体的な影響を中和するのは非常にまっとうなことです。従って、「ばらまくぐらいなら増税するな」という主張は正しくありません。ただし、軽減税率の関係で、あまりに日本人らしくきめ細かくすると、かえって混乱すると思います。

Q:

IMFの側から見て、日本の金融政策はどう映っているのでしょうか。

A:

今の日本の金融政策全般に関して言えば、基本的には評価は高いと思います。確かに日本が置かれている状況は、世界であまり例がありません。「日本はこうすべきだ」と言っていた人たちが、のちに「実際こうなってみるとそういうわけにもいかない。日本に謝りたい」と言っていたりもします。今の金融政策の緩和的な政策のスタンスは、2%というインフレ目標を意識しているのでしょうが、その水準自体世界的に見てそれほどおかしな水準だとは思いませんし、今の緩和的な状況を引き続き続けるべきだというのが日本への提言になっています。

それから、出口の話は確かに非常に難しいと思いますが、出口を気にして、中途半端に反対方向に動くような政策的な余地はないのだろうと思います。従って、この後の出口をどれだけ上手にやっていくかというのは非常にチャレンジングな話だと思いますし、教科書がない世界だと思いますが、今現在の金融スタンスや経済状況に対して、緩和的な状況を持ってきていることは評価しています。

ただ、副作用もあります。日本に限ったことではありませんが、多くの国で住宅価格が上がっていて、資産インフレになるリスクがないわけではありません。それから、金融機関の経営がまた相当程度厳しくなって、元々オーバーバンキング気味だったところに来ているので、これを良い機会としてしっかりと長期的な課題に対応できればいいでしょう。しかし、やり方によっては安定性に対する非常に大きなリスクにもなりかねません。従って、かじ取りは難しいと思いますが、現在の政策に関しては割としっかりとやっているという評価です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。