スタートアップ向けの補助金・委託金はどうあるべきか:欧米と日本の比較研究

開催日 2019年5月28日
スピーカー 北 洋祐 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経済政策部副主任研究員)
モデレータ 高谷 慎也 (経済産業省中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)課長補佐(企画調整担当))
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近年スタートアップが注目を集めている。政府や地方自治体は積極的にスタートアップ支援に乗り出しているが、その一方で日本のスタートアップ関係者からは、補助金や委託費のような直接的な資金は不足しており、現行の制度も十分に機能していないとの意見が挙がっている。行政主体の多様な支援策が講じられてきたものの、なぜ日本ではその取り組みが企業の創出・育成、イノベーションの促進につながらないのか。今回は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経済政策部副主任研究員の北洋祐氏をお迎えして、わが国のスタートアップ向け補助金・委託金制度の現状と問題点について、諸外国の事例を交えながらご紹介いただいた。問題解決には既存の支援制度の変革が必要であり、予算、制度設計、執行機関、執行ルールの4つの観点から取り組むべき課題が浮き彫りとなった。

議事録

問題意識と調査概要

北洋祐写真近年、日本でも数多くの資金支援、非資金支援は存在するものの、スタートアップ向けの補助金・委託金の予算規模は小さく、政策的な位置付けが低い傾向にあります。加えて、現行の補助金執行制度はスタートアップにとって実用的であるとはいえません。原則、補助金の概算払いが難しい点や試作品を販売できない点、取得財産の管理や処分に厳しい制限がつくなど、スタートアップのイノベーション創出の障壁はいまだ高い状況です。

このような問題意識に基づき、日本と海外のスタートアップ向けファンディング・プログラム(補助金・委託費の制度)の調査・比較を行い、日本の支援制度の課題を浮き彫りにし、あるべき姿を検討しました。今回は、予算設定からプログラムの成果評価に至るまでの制度設計や運用方法の分析に重点を置き、日本、欧州、米国の主要な制度に絞って検討を行いました。

日本のVC協調型ファンディング・プログラム

日本で主要となるスタートアップ向けファンディング・プログラムとしては、経済産業省・新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)の「研究開発型ベンチャー支援事業」、総務省の「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム(I-challenge!)」、そして文部科学省・科学技術振興機構(JST)の「大学初新産業創出プログラム(START)」が挙げられます。

NEDOのベンチャー支援事業の中でも中核的なプログラムとなるのが、「シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)」です。STSの特徴となるのが「VC協調支援」です。これはNEDOの連携先である認定VCから出資約束を得ているスタートアップのみが申請可能なプログラムで、VCによる目利き審査を申請プロセスに組み込むことにより、審査の信頼性を高めるとともに、VC業界の発展にも寄与しています。しかしながら、事業の細分化等により年々予算規模は縮小傾向にあります。

次に、総務省の「I-challenge!」です。情報通信技術(ICT)分野の企業支援に注力した取り組みで、こちらもSTS同様、VC協調支援型スキームです。申請フローとしては、スタートアップは一次提案書を提出した後にVCとのマッチングを受け、VCとスタートアップが共同で二次提案書を作成して申請します。そして、採択後はVCよりハンズオン支援を受けます。こちらは好評だったものの、2019年度は予算がつかず今は新規受付を停止しています。

文科省系の「START」は、研究者向けのプログラムで、「事業プロモーター」と呼ばれるSTARTに登録された民間VCにビジネスモデルを提案、マッチングを行った後、研究者とVCが連携して申請し、補助金を獲得していきます。こちらも採択後は事業プロモーターからのハンズオン支援を受けながら取り組みます。

このように日本のスタートアップ政策支援は政府と民間VCによる協調支援が強く、VC依存的な部分、そして執行機関が事務局的な機能に終始してしまいがちな面があります。VCとのマッチングプロセスが入ることで申請プロセスが複雑化し、スタートアップ、執行機関ともに事務負担が増えます。加えて、補助金適正化法や各機関の独自の執行ルールによってさらに制度が複雑化するため、利用しづらいという面もあります。

大規模・安定的な欧州ファンディング・プログラム

今回調査対象とした5つの海外のファンディング・プログラムは、2種類に大別することができます。EU「Horizon 2020」の枠組み内で行う「SME Instrument」、英国の「SMART Grant」、フィンランドの「Young Innovative Company Funding」は、1つのプログラム規模が大きく、テーマ設定のないオープン型の補助金形式です。米国のSmall Business Innovation Research(SBIR)と英国のSmall Business Research Initiative(SBRI)は、大きな政策枠組みの中に省庁横断的な個別のプログラムが設定されており、課題設定・公共調達型のプログラムです。

いずれの制度もおおむね2〜3フェーズの多段階支援を提供しています。欧州の支援プログラムは、大規模なプログラム、豊富な予算、シンプルな制度設計・スマートな運用、執行機関による合理的かつ効果的な運営という4つの特徴があります。

日本のファンディング・プログラムの予算は欧州に比べて対GDP比で10分の1程度です。欧州の中でも一番大きいSME Instrumentでは年間1万件以上の申請を受け付け、1,000件ほどの採択案件に年間5億ドルを補助金として配分しています。

2018年の実績では、フェーズ1で約8,500件の申請に対して939件を採択し、フェーズ2では約5,900件の申請に対し254件を採択しています。膨大な案件を処理するため、申請はオンライン上での書類提出とし、申請プロセスを簡素化しています。また、通年4回の公募を切れ目なく実施することにより、ユーザーフレンドリーな運営を行っています。

書類審査は自動化されており、登録されている数千人の審査委員の中から案件ごとに最適な審査委員が5人ほど選出されます。ウェブサイト上で採点結果を自動で集計し、採択者を決めます。面談審査にはEU全土より数十名近くの審査委員がブリュッセルに集結し、1社当たり30分の面談を1日20件ほど行います。

執行機関の役割は非常に重要です。日本の場合は官僚組織の一部門としての性質が強く、2年程度で人事異動が行われるためにノウハウが蓄積されにくい傾向にありますが、欧州ではプログラムの責任者に大きな裁量権が与えられています。異動は日本ほど容易には行われず、責任者は運営チームの人材採用にも携わって自らの補助金執行のプロフェッショナルチームを育てることができます。

その責任者がプログラムの制度設計をコントロールする権限を持っているため、PDCAサイクルを回しながら改善を繰り返していくことで、年々洗練されたプログラムに発展させています。今回のヒアリングでは、「うちの補助金プログラムは自動車工場のようなもの」という言葉も聞けましたが、執行機関はまさに工場のようにプロセスを合理化し、効率化し、良いものを次々と抽出して利益を生み出す工場のように、大規模プログラムを効果的に運用しています。

VCによる目利き審査やハンズオン支援が大きい日本のマネジメントとは異なり、欧州では基本的に執行機関が主体となってプログラムを運営しています。モニタリングオフィサーを割り当てたり、ハンズオン支援に専門家を加えるなど、執行機関が核となって取り組んでいます。

欧州では費用が発生する前に補助金を支給することが多く、概算払いは一般的な形式です。また、スタートアップ支援の障壁を取り除く考えの下に、財務状況による足切りを撤廃するなど、確定検査もコストがかる上に採択者にも負担になるため、全数ではなく10%の案件に対してのみ行われています。

検査対応はモニタリングオフィサーによって実施されています。補助金の不適切な利用を一切認めないという方針で運営することは非効率的であるとの考えから、補助金全体の2%以内に抑えるという目標が掲げられています。財産処分の制限も、事業終了後の成果評価で承認を得ることができれば特に問題はありません。

米国の課題設定・公共調達型ファンディング・プログラム

米国SBIRは、各省庁の研究開発予算のうち一定割合をイノベーション創出を目的に中小企業向けの補助金・委託費と配分するという、省庁横断的な政策枠組みです。具体的な課題設定や公共調達によって開発成果の実用化を推進しています。アメリカ国防総省(DoD)のSBIRだけでも全体で10億ドルを超えるので、日本とは比較にならないほどの規模です。

SBIRの一番の特徴は、課題設定・公共調達型という点にあります。技術的なトレンドと省庁の調達人数を勘案しながら課題を設定し、その課題に基づいて公募で提案を募ります。そこで採択されて出た成果を政府が調達していきます。

政府が最初の顧客となることで、事業化の可能性は大幅に高まります。しかし、課題設定も調達につなげていくのも難易度が高く、高コストであり、アメリカほどの成果を出すのは容易ではありません。

これを実現するために、科学技術の専門家がプログラムマネジャーという名の下、実質的責任者として現場のニーズを踏まえながらプログラムに深く関わり、取り組んでいます。プログラムマネジャーが審査においても、その後のハンズオン支援においても重要な役割を担っています。

スタートアップの開発成果をそのまま公共調達に結びつけることは容易ではありません。実際、アメリカでも直接調達の割合は大きくありません。そのため、ティア1企業、プライム・コントラクター企業、軍事企業などにSBIRの開発成果を紹介し、その企業に買い取ってもらいます。その後、その企業によって実用化されたものを政府に供給するというプロセスが奨励されています。

日本の支援制度の課題と今後の取り組み

日本のスタートアップ政策の課題として、(1)予算、(2)制度設計、(3)執行機関、(4)執行ルールの4点が考えられます。

(1)日本のスタートアップ向けファンディング・プログラムの予算は、欧州に比べて対GDP比で10分の1程度と開きがあります。今よりも大規模で安定した予算を確保し、せめて欧州並みに近づけていく必要があります。
(2)VC側の資源も限られている中、日本のSTS型プログラムを拡大化していくことは難しい状況です。欧州型のシンプルでスマートな制度設計を参考にしつつ、米国型の課題設定・公共調達型のプログラムも導入することによって、誰もが提案し、参加できるファンディング・プログラムの構築が必要です。
(3)審査においてもヨーロッパのように外部機関や人材を活用しながら合理的に仕組みを回していくことで、イノベーションの種の探索も可能になります。さらに科学技術の専門家にもプログラムの運営に関わってもらうことで、機能強化を図ります。
(4)現行の補助金等適正化法および執行機関のローカルルールは大企業や中小企業向けの補助金制度として作られたルールであるため、スタートアップ向けの補助金支援に特化した執行ルールの策定が望まれます。

これらの課題に対し、「最強のスタートアップ向けファンディング・プログラム」案をご紹介します。

(1)年間120億円の予算を7年間確保します。
(2)制度設計については「常設・シンプル設計の大規模プログラム」へ100億円、「単発・課題設定型の小規模型プログラム」へ20億円を配分し、並行して実施を考えています。
(3)前述2種のプログラムの執行機関を新たな組織として創設し、補助金執行のプロフェッショナルとしてNEDOやJSTなどの人的リソースを活用します。
(4)歴史的経緯にとらわれず、執行ルールを一から作成した上でプログラムを回していくことが重要だと考えています。

プログラムの改革を行うには2つの方向があります。1つは新しい事業を立ち上げ、既存の個別事業から改革していくという動き。もう1つは、政策の枠組みから改革していく方法です。プログラム全体を変えていくには両方向で進めていくことが理想的です。

最後に、この改革のプロセスについて説明します。まずは最強のファンディング・プログラムのプロトタイプづくりから始めます。新たな組織や事業立ち上げは数年かけて拡大し、定着させていくことが必要です。最初は数億円から始め、プロトタイプを作成し、運用し、そこで課題を洗い出して再度回し、加えて執行機関の創設や執行ルールの策定を経て本格稼働に結びつけていくというプロセスが望ましいと考えます。

質疑応答

Q:

中国のベンチャー制度について調査したことがあれば教えてください。

A:

中国は1、2年前に少々調べましたが、変化が激しく、省ごとにも制度が異なります。多額の資金が動いていることまでは分かっていますが、中国制度の調査は今後の課題です。

Q:

シンガポールの状況をお聞かせいただけますか。

A:

今年度調査を実施する予定ですので、シンガポールについても調査していきたいと考えています。

Q:

2点お伺いします。EU、英国では、政策評価を行い、効果が認められたことで予算規模を拡大していけたと思いますが、どのような政策評価だったのか教えてください。もう1点は、「予算執行は不正をゼロではなく、2%までに抑える」という割り切り方ができた経緯や、実現に至った裏話があれば教えてください。

A:

長期的なインパクトはとらえきれませんので、短期的な指標について、着実に評価していくという方針です。例えば、次の資金調達につながったかどうかを数値化して判断しています。定量的な判断は難しいので、外部機関に委託して印象的なレポートを作成し、政治家にもアピールします。プログラムの存続を守り、予算も拡大するために、そのような取り組みを行っているようです。

また、不正を必ずしもゼロにしないという考え方については、明確な理由は聞けていませんが、プログラム運営の合理性・効率性を厳しく問われる環境が背景にあります。プログラム運営のコストや、何人のスタッフでどれ程の執行をしているのか。また何件の企業が次の資金調達につながっているか。合理性を追求した結果、今のような仕組みが確立したと考えられ、日本の状況とは大きく異なります。

Q:

EUも米国もやはりSMEの施策として、中小企業、ベンチャーを含めての研究開発支援というプログラムで大括りにして大規模な取り組みにしています。日本では小規模な施策のように見えますが、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)も結構な規模で実施しており、NEDOもSTSだけでなくコファンドプログラムも行っています。大・中・小・ベンチャーが全て対象になっています。今後の改革の方向性で、政策枠組みから変えるという視点についての見解をお聞かせください。

A:

中小企業政策とスタートアップ政策の区切りは難しい問題だと思います。今回の調査の中で取り扱っている欧州や米国のプログラムもほとんどがSME支援で、スタートアップ支援と明言している国はフィンランドのみです。ただ、実際には創業5年以内のスタートアップが5割以上の採択になっています。日本は中小企業の支援の政策はサポイン事業然り、ものづくり補助然り、かなり充実していると思います。

しかし、実質的に日本は既存の中小企業がやはり強く、多いため、スタートアップが排除されやすいとも感じています。事務局側も、スタートアップに意識が向きません。個人的には中小企業支援という枠を増加していったとしてもスタートアップ支援にはつながりづらいと考えており、日本の場合はスタートアップ支援の枠組みを構築していかなければ厳しいのではないかと思っています。日本の場合は、フィンランドのようにスタートアップに特化したほうが良いのではないかと考えます。

Q:

日本の研究開発型の支援事業はスタートアップ支援にならないというご意見について詳しく教えて下さい。

A:

ものづくり補助金も中小企業のイノベーション創出が目的ですが、実質95%以上が設備投資に使用されているのが現状です。事務局側としてもそのほうが検査も楽なため、予算は設備投資に流れがちです。スタートアップは設備投資を必要とするものでもないので、あまりものづくり補助金制度を利用することがありません。中小企業向けのプログラムではそういった点があるのではないかと思っています。既存中小企業向けの支援施策として制度設計をすると、スタートアップにとって使いづらいものになってしまう恐れがあるのではないかと感じています。

モデレータ:

中小企業庁で中小企業向けの補助金を担当している立場として少し補足させていただくと、今J-Startupには、ものづくり補助金やサポイン事業の補助金を受けている企業が90社ほどありますが、そのうち約10社が補助金を利用しています。しかし、これではまだ利用社数が少ないと感じています。サポイン事業の補助金には、スタートアップの方たちが利用しづらい理由が多々あるのです。

例えば、制度上事業を3年間も継続する必要があります。また、費用負担額が全体の3分の1と、非常に大きいです。また、審査の面でもスタートアップは財務上赤字が続きやすいため、点数が足りずに採択されないというケースも散見されています。さまざまな古典的な中小企業向けの補助金制度でスタートアップを支援するということが馴染まなくなってきていると少し感じています。スタートアップ支援を打ち出した新たな制度を設ける必要があるように感じています。

Q:

あるAIスタートアップ経営者の例ですが、NEDOの研究開発補助金を使いたいものの、進捗報告や資料作成のために非常勤等を雇用するということに問題意識を持っています。中国のVCからも資金支援の話があるものの、中国VCから資金が入ると知財などの面で情報が入ってしまうことも懸念されます。このように小さなことでも躊躇されている状況の中、実際欧州型や米国型のスタートアップも補助金向けに人を雇用しているのかどうかを教えてください。

A:

今回、このレポートの中ではスタートアップ側の事務負担が大きいという点を執行ルールの問題として扱っていますが、これは日本の補助金制度の根底にある大きな問題だと考えています。欧州では、この負担を軽減しようという意識が非常に強いです。実際に、執行機関が外部のモニタリングオフィサーを雇ってスタートアップ側にサポートに入らせるという仕組みなどにより、事務負担が大幅に軽減されています。

今挙がったような話を日本の問題として欧州に伝えたところ、事務負担についてスタートアップ側から苦情が来たことは一度もないそうです。本当に事務が簡素化されているのか、それとも事務業務が得意な人員がいるのかは定かではありませんが、欧州ではそこを問題として意識していないという印象がありました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。