国際情勢の激変と中国の挑戦

開催日 2019年3月28日
スピーカー 孟 健軍 (RIETI客員研究員 / 清華大学公共管理学院産業発展・環境ガバナンス研究センター (CIDEG) シニアフェロー)
コメンテータ 関 志雄 (RIETIコンサルティングフェロー / 株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー)
モデレータ 小林 浩史 (経済産業省通商政策局北東アジア課長)
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2018年の中国のGDP成長率は近年最低水準ではあるものの6.6%と、いまだ安定成長を実現している。しかしながら、米中貿易摩擦の激化による不安要素が増えている。このような状況下、中国はどのような方策を推し進めるべきか。また、今後、中国経済はどのようなかたちに収斂していくのか。本セミナーでは「国際情勢の激変と中国の挑戦」と題し、世界経済に大きな影響を及ぼす中国の現状と今後について、孟健軍RIETI客員研究員が講演した。コメンテータには関志雄RIETIコンサルティングフェローを迎え、米中貿易摩擦のもう1つの側面、国進民退という根深い問題を踏まえてコメントをした。

議事録

中国の一般的な経済状況

孟健軍写真2018年の中国のGDP成長率は6.6%であり、李克強首相が強調するように世界のGDPの成長の3割は中国の貢献によるものです。また、世界のGDPにおける中国のシェアは15.2~15.3%に上ります。そして、2019年には総人口も確実に14億人を超えます。注目に値するのは小売の総売り上げが38兆人民元(5.8兆ドル)であり、これは米国に匹敵する規模です。この数字は米中関係の議論において中国に大きな自信を与えています。

構造変化でみると第三次産業は拡大を続けています。意外にも製造業のシェアも40.7%と2018年に比べ微増となっています。中央政府は2015、2016年頃から環境問題を最大の課題の1つとしていますが、環境規制を2017年後半から一巡して少し緩めたことが製造業の微増に繋がったと考えられます。

1年の経済方針を決める中央経済工作会議

中国では12月に中央経済工作会議を行います。その年の経済状況を顧みて、翌年の経済の政策目標を決める中国政府のもっとも重要な会議です。2018年の評価は全体的に安定しているというものでした。ただし、経済の基調の中に外部環境の変化が見られ、このことが2019年には不安の要素になり得るものです。

経済政策のキーワードは「減税」と「開放」です。減税の意図するところは、民間の中小企業への減税と融資です。個人的に減税は評価しますが、融資はばらまきの側面が拭えないと思っています。優良な中小企業は負債を忌避する一方で、本当に融資を必要とするような企業は返済が困難であるというジレンマが生まれると考えられます。また、三大課題の1つは、金融のシステミックリスク。2つ目は、貧困の撲滅。これは習近平国家主席が1期目から掲げる非常に重要な課題です。そして、3つ目は、青空作戦と呼ばれる環境対策です。

建国70周年を迎えるにあたり、7つの主要任務も策定されました。高品質化による製造業の発展、内需の拡大、農村の振興戦略の推進、地域の協調発展、経済体制改革の加速、全面的な対外開放の推進、そして国民生活の保障と改善の強化です。

また、中小零細企業を支援するために中央経済工作会議では、6つの「安定化」という支援策を打ち出しています。それは雇用、金融、貿易、外資導入、国内投資、および経済見通しの安定化です。

米中貿易摩擦の行方

昨今の米中の貿易摩擦を鑑みて、本セミナーのテーマを「国際情勢の激変」としました。現在、米中貿易協議は、最終合意に向けて良い方向に進んでいます。米国のトランプ大統領が最初に仕掛けてから、中国国内の態度は3つの段階を経て、変化してきました。第一段階は、2018年の8月以前。この時期までは中国国内の意見も分かれていました。トランプ大統領のやり方には国際的な非難の声も多く、次の出方を見るという静観の態度もありましたが、国内世論としては容易に妥協しないという態度が大勢を占めていたように思います。

それが夏以降になると妥協もあり得るのではとの意見が聞こえ始めました。これが第二段階であり、第三段階では本格的に妥協の条件を模索し始めました。そして、2018年の12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスにおいて、トランプ大統領と習主席はこの通商問題を90日間で合意に至らせるとの声明を発表しました。

貿易額自体はロシア、ブラジルとの影響により増加していますが、米国からの輸入額は減少しています。IMFの集計によれば、2013年時点で米国と中国の購買力平価(PPP)は同規模になり、2018年、GDPでは米国の66%ですが、PPPでは米国の1.2~1.3倍にまで開きました。PwCの未来予測によれば、2030年にGDP名目値で米国に並び、2050年には米国のGDPが中国の7割程度になるだろうと推定しています。

一帯一路、中国製造2025で為し得る貧困からの脱却

中国政府のこれまでの貧困削減政策はもっとも評価に値します。インフラ整備に力を入れることによってそれを達成してきました。インフラの整備も現在では多くのプロジェクトが進んでいます。この方法が貧困からの脱却に有効であることは間違いありませんが、まだまだ非効率的な部分もあります。旧来型のインフラ整備から新しいインフラ整備に切り替えする経済成長原動力の転換こそ、より効率的に行うことを目指し策定されたのが中国製造2025です。

一帯一路とは中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」の2つの地域で、インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進する計画です。根底にあるのはこれらの地域の貧困削減です。現在、中国はこの計画を進めるにあたり自国のみで行うことは考えていません。他国との共同と協力のメカニズムの構築を模索しています。まだまだ中国には1日を1.25ドル以下で過ごさなければならない絶対的貧困にあえぐ、およそ1,660万人のこれらの人々を2020年までになくすことを目指しています。

スマホによる移動決済は2014年時点では1兆ドルでしたが、2018年では24.5兆ドルにまで達しています。この飛躍的な拡大は、中国の第四次革命とデジタル化の進展を如実に表しています。例えば、AIの活用では、テンセント、JDグループ、アリババなどが畜産業に進出し、飼育場にそれらの技術を導入しました。5Gの基地局の数では2018年まで、米国の3万基に対し、中国は35万基と他を圧倒していると言われています。

世界が100年に一度の変局期に臨んでいることを認識した上で、自国の利益を追求するとともに他国の利益にも配慮し、各国の共同発展を図るという人類運命共同体の考えのもと、国内の構造改革やイノベーションによる社会の発展を目指すことが今後の中国の改革方向です。

コメント

コメンテータ:
米中貿易摩擦関連の部分についてコメントさせていただきます。この問題は、中国経済の台頭により、米国が中国を脅威として見るようになったことに端を発します。従って原因としてよく取沙汰される貿易不均衡が解消されたとしても、また、中国が米国の求めるような国になったとしても、この摩擦は解消されないと思います。現在、中国のGDP規模は米国の6割に達しています。2030年に中国が米国のGDPを抜き、2050年に米国のGDPが中国の6割程度に下がり、米国との立場が逆転したころになってようやく落ち着きを見せるだろうというのが私の見解です。

また、中国のスタンスが2018年の夏ごろを境に変わったという孟先生のお話に私も同意します。この摩擦が起きた当初、中国の態度は闘って勝つというものでした。なぜなら、勝てると思っていたからです。しかし、その判断は必ずしも正しくなく、夏ごろから徐々に見誤っていた部分があらわになりました。まず、米国国内におけるトランプ大統領の立場です。中国は大統領が国内で孤立していると考えていましたが、実際には対中政策については共感を得ていました。また、TPPやNAFTAの脱退などをみて、米国は同盟国との間に亀裂が入っていると考えましたが、それも早い段階で修復され、国際社会において、孤立を深めているのは中国の方でした。さらに、北朝鮮と米国との仲介役としてのプレゼンスも二国間の直接的なルートの構築により急速にしぼみ、中国の経済成長率の伸び悩みといった国内的な要因も重なった結果、強硬だった政府のスタンスはより柔軟的になったのです。

一方、ハト派の主張を一言でいうと「初めから勝てないのであれば妥協した方が良い」というものです。2001年のWTO加盟と同様に、外圧を生かして国内の改革開放を加速する方が本筋ではないかということです。米国の要求は的外れなものではなく、中国自身が真摯に向き合うべき問題も含まれています。

貿易摩擦から技術摩擦へ

貿易摩擦の真の争点は、実は技術摩擦にあると考えています。今回の貿易摩擦のきっかけは対中制裁措置に関する301条報告書ですが、そのなかで貿易不均衡については、ほとんど触れられていません。中国が直接投資を通じて、合法的あるいは非合法的手段によって、米国の技術を獲得することを許すわけにはいかないというのが、この報告書の焦点です。

元来、米国は外国企業が自国の企業を買収する際、“国家の安全保障”を基準にしている対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を受けることを義務付けています。中国の台頭により、この“国家の安全保障”が拡大解釈され、最近ではハイテク分野における米国の優位性が脅かされるかどうかといった新たな基準も設けられています。また、2018年、外国投資リスク審査近代化法が施行され、CFIUSの権限が強化されました。

注目すべきは、重要な技術、インフラを持つ米国企業を外資が買収する際、これまでは出資比率によって審査を受ける必要があるかどうかを判断していました。しかし、この法律の施行により、出資比率に関係なく、外国企業が経営に関わる意図があると判断された場合は、すべてが審査の対象となったことです。仮に、中国企業がシリコンバレーの未上場の若い企業に5%、10%を出資する場合でも審査を受けなければならないということです。当然のことながら、このような方法での技術の獲得は困難になります。

事実、ここ2、3年間の中国企業による米国への投資は大幅に減少しています。これは極めて深刻な問題です。米中貿易摩擦の影響を議論する際、どうしても需要側の論理において、関税が上がった分、中国の対米輸出が減り、株価が下がり、消費も投資も低迷すると考えがちですが、中長期的な影響を見るときには、供給側の影響に注目すべきです。

これまで、海外から安いコストで技術を獲得することは、発展途上国としての中国にとって、一種の後発の優位性でした。今後、この優位性を発揮できなくなれば、中国経済は大きな打撃を受けることになります。豊かになる前に老いていくことも加わり、中国における潜在成長率の低下は避けられないでしょう。

中長期の成長における重要な要因は、労働力、資本ストック、生産性の向上です。現在の中国が抱える高齢化、余剰労働力の枯渇、投資の落ち込み等の問題を考慮すると、成長の手立ては生産性の向上よりほかはありません。

具体的な方策としては、イノベーションに力を注ぐことに加え、資源の配分を改善することが考えられます。具体的に、産業を高度化させつつ、「所有制改革」の一環として、国有企業の民営化も進める必要があります。現在、国有企業の民営化の兆しは一向に見えませんが、今後、民間企業の発展により、GDPに占める国有企業の割合が低下していくことを期待したい。

イノベーションについては、海外からの技術獲得の道が閉ざされている現在、自国での研究、開発を強化することが必須です。加えて、米国以外の国からの可能性も考える必要があります。その際に挙がるのは、ヨーロッパ諸国や日本、そしてイスラエルといった国々です。

中国は米国+1の戦略をとり、市場のみならず技術の獲得も米国だけに頼るのではなく、分散していく必要があります。その意味において、ここ1年ほど非常に良い関係を構築している日本への期待がこれからますます高まっていくのではないかと考えています。そして、こういった関わりによって日本と中国の関係はより改善していくと思っています。

質疑応答

Q:

生産性の低い国有企業に貸し出しが多くされているという状況は健全でないにもかかわらず、国進民退という動きが近年中国で進んでいるということに関して、なぜ中国政府は国有企業に対する暗黙の政府保証を止められないのでしょうか。また、中長期的な中国のGDP成長率をどのぐらいと見るべきでしょうか。

A(関氏):

現在の中国の潜在成長率はGDP成長率の実績である6.4%とほぼ一致しているとみられますが、ここから下がることはあっても上がることはないと思います。まず、一人っ子政策が緩和されたとはいえ労働投入量の拡大には効果が見られず、貯蓄率が低下する中で、投資の鈍化も避けられません。また、限界資本係数の上昇が示しているように、投資効率は以前に比べ大幅に落ち込んでおり、生産性の向上も多くは望めません。国進民退も投資効率が低下する理由の1つですし、後発の優位性が米国との摩擦を抜きにしても、先進国のレベルに経済が近づくにつれすでに薄れつつあるからです。

国有企業の民営化が進まないのは、経済的な理由だけでは説明できません。一般論としては既得権益を守ろうとするからと言われていますが、これに加え、共産党統治の基盤を手放すわけにはいかないということもあるでしょう。進行中の国有企業改革は、経済学でいうところのセカンドベスト、つまり政府は民営化しないという前提で他の手立てを考えているのです。

A(孟氏):

国有企業には航空機製造や高速鉄道製造などの戦略産業も含まれます。これらは過去10年間、非常に成功しています。また、民間企業の活力を取り入れている国有企業も非常に増えています。このように民営化だけではなく、いろいろな方法があると思います。

A(関氏):

1990年代後半に、国有企業の民営化が進んだ時代がありました。その時に公共財やインフラと言った資本主義諸国においても政府が何らかの形で関わるような分野の企業は例外とされましたが、それ以外は競争的分野とされ、民営化が許されたのです。しかし、実際、民営化の対象は中小企業にとどまっています。例えば、明らかに競争的分野に属しますが、規模が大きい青島ビールはいまだに国有企業のままです。これは問題ではないでしょうか。

また、現在、政府は混合所有制改革を進めています。これは国有企業に民間資本を入れる政策です。この改革の目標は、コーポレートガバナンスの改善であり、それによる経営の改善です。ですが、チャイナユニコムの例にもみられる通り、民間資本の比率は10%程度であり、ほとんどの資本を国有企業が有しており、とても経営の改善が図れるような状態にありません。民間資本の比率がさらに上がり、日本の国鉄や電電公社のように10年、20年かけてでも民営化されるのであれば良いのですが、残念ながらその兆しは見えていません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。