政策不確実性指数の最近の動向

開催日 2019年2月28日
スピーカー 伊藤 新 (RIETI研究員)
モデレータ 山家 洋志 (経済産業省経済産業政策局調査課課長補佐)
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新聞報道を基に作られている世界の政策不確実性指数は、1997~2015年の平均を100とすると、2019年1月は284.8に上り、過去最高を記録した前月から60ポイント近く下がったものの、依然として高水準でとどまっている。その背景として米中貿易協議や米国の金融政策など、政策をめぐる不確実性が懸念されており、指数からもそのことがうかがわれる。本セミナーでは、伊藤新RIETI研究員が、政策不確実性指数の最近の動向を詳しく解説。主要国における指数の作り方や動向を概観し、世界的な指数の高まりの要因について論じた。日本においても、消費税率引き上げの延期、マイナス金利政策の導入、貿易問題など財政、金融、通商の分野で不確実性が高まったときに指数が上昇することが分かっており、今後も指数は横ばいか上昇する傾向が続くとの見方を示した。

議事録

世界の政策不確実性指数の動向

伊藤新写真最近、政策の不確実性指数が内外で注目されています。2018年10月に国際通貨基金が公表した「世界経済見通し」で取り上げられ話題になりました。国内でも日本経済新聞などで取り上げられるようになりました。その最大の理由は、世界を見渡したときに、政策をめぐる不確実性が高まっているためです。

1997年から2019年1月までの世界の政策不確実性指数の推移を見ると、年によって上下変動を伴いながら指数は趨勢的に上がってきており、2018年12月には過去30年で最大値を記録しました。最新の2019年1月の指数は12月に比べれば60ポイント近く下がりましたが、依然として高水準にとどまっています。この水準は2017年にトランプ政権が発足したときと同程度です。この指数に基づくと、世界を覆う不確実性の雲はかなりどんよりしているといえます。

また、2018年2月から12月までの世界の政策不確実性指数の前月比変化を見ると、基本的には中国と米国がその変動を支配的に決めていることが分かります。特に2018年12月に大きく上昇したのは、中国の指数が大きく上がったためです。一方、米国も中国に次いで大きく寄与しています。米中間の通商問題が指数の上昇に顕著に表れています。

政策不確実性指数のとらえ方

この政策不確実性指数を開発したのは、ノースウェスタン大学のBaker、スタンフォード大学のBloomそしてシカゴ大学のDavisの3人の経済学者です。彼らは政策の不確実性を定量化するため新聞報道の頻度に注目しました。政策をめぐる不確実性が蔓延しているときには、恐らくそのことについて報じられることが多いはずだと考え、政策の不確実性に言及する記事をカウントし、その件数の大小から政策の不確実性の度合いを捉える方法を考案しました。

彼らがどのようなことについて書かれた記事を集めたかというと、大きく分けて4つあります。1つ目に、誰が政策を決めるかという不確実性です。2つ目に、どういう内容の政策がいつ取られるのかという不確実性です。3つ目に、政策効果に関する不確実性です。例えば、為替介入の効果があるのかないのか、あるいは中央銀行が新たに導入した政策の効果は大きいか小さいかという不透明性です。4つ目に、政策が取られなかったことで生じる経済の先行き不透明性です。

ここで着目する政策は、経済政策だけに限りません。安全保障政策が経済の先行きを不透明にする場合もあります。このため、彼らは安全保障政策も政策分野の1つとして含めています。例えば、2002年に米国がイラク攻撃をする可能性が高まった中で、連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長は「米国の安全保障政策によって経済の先行きに不確実性が増している」と警告しました。これは安全保障政策における2つ目と3つ目のことを端的に表す一例です。

政策不確実性指数の作り方

米国の指数を作るために、彼らは主要10紙に掲載された記事の中から、3つのカテゴリーの用語を少なくとも1つずつ含む記事を収集しました。1つ目は「経済」に関するカテゴリーの用語(economicとeconomy)、2つ目は「不確実性」に関するカテゴリーの用語(uncertainとuncertainty)、3つ目は「政策」に関するカテゴリーの用語(regulation、legislation、congress、white house、deficit、federal reserve)です。そして収集された記事の件数を基に指数を算出しました。

ここで重要なのは、「政策」に関するカテゴリーの用語です。これら6語は彼らが思いつきで選んだ用語ではありません。彼らやリサーチアシスタントの学生が実際に多くの新聞記事を読んで得られた結果を基に選び出された用語セットです。

彼らがどのようにしてこれらの用語を採用したかというと、まず「経済」と「不透明」のカテゴリーの用語を含む記事の中からランダムに約3700記事を抽出します。そしてその記事1つ1つを読み、その記事が先ほど挙げた4つの不確実性について書いているかどうか判定します。もし、そのことについて書いていれば、そこで使われている政策に関係する用語を漏れなく記録します。

この作業を全ての記事について行うことにより、政策の不確実性について書かれた記事ではどういう用語がよく使われているかが分かります。彼らは出現頻度が高い15個の用語を特定しました。その15語を「政策」のカテゴリーの用語候補として採用し、それらを使って約32000通りの用語セットを作りました。

そして、それぞれの用語セットについて人間が記事を読んで判定した結果とコンピュータによる記事の分類結果を照合したところ、両者がもっとも似通うのが先ほどの6語からなる用語セットでした。このことから用語数が多ければ多いほど良いというわけではないことが分かります。

先ほど示した用語セットを基に作った指数と人間が記事を読んで判定した結果を基に作った指数は合致しません。例えば、1987年のブラックマンデーのときは、人間による判定結果を基にした指数の方が低いです。一方、2010年代前半の「財政の崖」の時は、逆に人間による判定結果を基にした指数の方が高いです。しかし、全体的に見ると、両者は期間を通じておおむね似た動きをしています。このため、1980年代から現在までずっと同じ用語セットを使っています。

個別政策の指数の作り方

彼らは、通商政策、財政政策、金融政策など特定の分野に焦点を当てた指数も作っています。具体的には、先ほどの3つのカテゴリーの用語に加え、関心のある政策分野に関係する用語を検索条件に追加して記事検索を行い、そうして得られた記事を基に指数を作ります。例えば、通商政策不確実性指数を作る場合、「経済(Economy)」「政策(Policy)」「不確実性(Uncertainty)」のカテゴリーの用語に加えて、通商政策に関する用語を検索条件に追加で入力し記事検索を行います。

全体の指数を作るときとの違いは、記事を収集する新聞の数です。全体の指数では主要10紙に掲載された記事が利用されていますが、個別の政策の指数では地方紙を含む2000以上の新聞に掲載された記事が利用されています。

これまで述べてきた手法を用いて、彼らは米国以外の国の指数も作っています。しかし、そのときに起こる問題の1つは、「政策」に関するカテゴリーの用語をどう選び出すかです。

日本の政策不確実性指数の作り方

日本では主要4紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞)に掲載された記事を基に指数を作っています。どういう用語を使っているかというと、Economyのカテゴリーは「経済」「景気」の2つ、Uncertaintyのカテゴリーは「不透明」「不確実」「不確定」「不安」の4つです。そして、Policyのカテゴリーは「税制」「課税」「歳出」「財政」など32個の用語です。

ここで、Policyのカテゴリーの用語は米国のように実際に新聞を読んで選び出したものではありません。米国のPolicyのカテゴリーの用語を決めるときに候補に挙がった15個の用語に対応する日本語を採用しています。本来は米国と同様の方法で用語セットを作るべきですが、現在は対応できていません。しかし、私たちはこれから約2000記事を1つ1つ丁寧に読み、用語セットの改良を行おうと計画しています。

EconomyとUncertaintyのカテゴリーの用語については、新聞社が提供している英語版の記事を利用して、日本語版の記事と照合することにより利用頻度が高い用語を選び出しています。

私たちも、個別の政策の不確実性に関心があったので、財政政策、金融政策、通商政策、そして為替政策の不確実性指数を作りました。作成方法は米国と全く同じです。すなわち、Economy、Policy、Uncertaintyのそれぞれのカテゴリーの用語に加えて、個別の政策に関係する用語を検索条件に入力して記事検索を行います。

例えば、通商政策不確実性指数を作るために、私たちは「貿易摩擦」「通商摩擦」「通商問題」「非関税障壁」などの用語を採用しました。これらの用語は、1987年以降の「経済白書」や「経済財政白書」を注意深く読み、通商政策について書かれているところでよく出てくる用語から選び出したものです。全体の指数を作るときと同様に朝日、日経、毎日、読売の4紙から記事を収集しています。

主要な国々の指数の動向

では、主要な国々の指数の動きを見ていきましょう。

米国の政策不確実性指数は、2019年1月に過去30年で最も高い数値を示しました。米国の経済が、2011年に連邦債務の上限引き上げ問題が起きたときや、2001年の同時多発テロ事件のときを上回る不確実性に覆われていることを示唆しています。これほど急激に上がったのは、貿易、医療、安全保障、給付金など広範囲の分野で不確実性が高まったためです。

2016年1月から2019年1月までの日米の通商政策不確実性指数を見ると、両者は同じような動きをしています。2016年11月、米大統領選挙が行われたときに両国の指数はともに跳ね上がり、トランプ氏が大統領に就任した2017年1月も大きく上昇しています。その後、両国の指数はいったん下がりました。しかし、2018年に入り米中間で貿易をめぐる対立が起こると、米国の指数は当然上昇しましたが、日本の指数も歩調を合わせるかのように上昇しました。

中国の指数は、South China Morning Postという香港の英字新聞に掲載された記事を基に作られています。指数は1990年代から2000年代後半まで長期平均のあたりで推移していましたが、2010年代前半から上昇基調にあります。2018年に米国との貿易摩擦が起こると指数は急上昇しました。足元では2018年12月に最も高く、2019年に入り下がったものの、依然として高水準にあります。世界全体の指数が高水準に達していることを冒頭で示しましたが、中国の指数の上昇が源泉となっています。

英国の指数は、The Sunなど11紙に掲載された記事を利用して作られています。指数は1990年代後半から2000年代後半まで米国でのテロ事件やイラク戦争の時期を除けば大きな変動もなく推移していました。しかし、2007年あたりから上昇し2010年代半ばにいったん下がったものの、2016年にEU離脱をめぐる国民投票が行われたあたりで大きく上昇しました。足元では、下院で離脱協定案が大差で否決されたことなどを受けて、指数が再び急上昇しています。

フランスの指数は、Le Monde紙とLe Figaro紙の2紙に掲載された記事を利用して作られています。指数は2019年1月に高い値を示しています。大規模なデモの発生を受けて増税が延期されました。フランスでは個別の政策の指数が作られていません。このため、確認の仕様がないのですが、財政健全化をめぐる不透明性が高まったためと推察されます。

このところの世界の政策不確実性指数の上昇は、米中間の貿易をめぐる対立によるところが大きいです。しかし、冒頭の図で欧州諸国の寄与度が比較的大きいことを示しました。これにはフランスや英国における各国特有の事情も影響しているとみられます。

日本における政策不確実性指数

最後に、日本の指数の動きを見ておきたいと思います。指数は2018年初めから徐々に上昇しています。これは通商政策不確実性指数が大きく上昇しているためです。

長いスパンで見ると、1990年代後半のアジア通貨危機のとき、その後の選挙で政治情勢が混迷したとき、2000年代後半に景気対策をめぐる議論が盛んになったとき、2010年代前半に米国で財政問題が起きたときや欧州で債務危機が起きたとき、そして2010年代後半の消費税率引き上げ延期のときに、指数が大きな値を示しています。

政策の不確実性に関する記事の中で、財政政策に関係する事柄が55%を占めており、そのあと金融政策、貿易政策、為替政策と続きます。ただし、最近は貿易政策をめぐる不確実性の高まりを受けて、それに関する記事が増えた結果、貿易政策が金融政策を抜いて2番目に躍り出ました。米中の貿易戦争が終わる見込みはまだ立っておらず、貿易政策のシェアは今後横ばいか、上昇傾向を示すだろうと思われます。

質疑応答

Q:

用語セットはどのぐらいのペースで見直しているのですか。

A:

米国ではこれまで用語セットの見直しは行われていません。指数の作り方のところで話したとおり、政策のカテゴリーの用語は、過去30年の新聞記事を読んで得られた情報を基に選び出されています。それらはどれも時代に左右されないものばかりです。一方、日本については、政策に関係する用語セットを見直す必要があります。私たちは今後約2000記事を読み、そこから得られた情報を基に用語セットを改良する計画です。

Q:

不確実性指数は上がってもすぐに下がってしまうので、正しい度合いを測り切れていないのではないかという問題意識があります。

A:

程度はともかく、指数が上下変動するのは悪いことではないです。その上で、指数の上下変動を激しくする要因の1つとして季節性が挙げられます。日本の場合、総記事数のデータには季節性がはっきりと見られます。このため、私たちは季節調整をした指数を作っています。季節性を取り除かない場合、上下変動が大きい指数が得られます。私の知る限り、他国では季節要因を除去する統計処理はおこなわれていません。これは記事数に季節性がないからかもしれません。しかし、季節性があるにもかかわらず、それになんら対処していない場合には、指数の意味ある動きを捉えるためにも季節調整をおこなうのが望ましいと思います。

Q:

中国と米国がグローバル指数の変動のかなり大きなウエートを占めているということでしたが、中国や米国はGDPが大きいので、その部分は反映されているのでしょうか。

A:

グローバル指数の変動には2つの要因があります。1つは各国の指数の変動、もう1つは各国のウエートの変化です。図の期間では各国のウエートの値が同じであるため、グローバル指数の変動は各国の指数の変動だけを反映しています。

Q:

米中貿易摩擦によって通商政策をめぐる不確実性が高まっているのは間違いなく、日本の通商政策不確実性指数を高める要因になっていると思います。どの国の事情が不確実性を高めているかといった要因分解はこの指数からできますか。

A:

可能だと思います。2つの方法が考えられます。1つは、検索条件に関心のある国や地域を追加で入力して記事検索を行い、記事を収集する方法です。もう1つは、通商政策不確実性指数を作るときの基である記事を1つ1つ丹念に読んで、どこの国や地域のことについて書かれているかを特定する方法です。後者の方が精度は高いと思いますが、相当な労力が要ります。

Q:

国ごとの指数を見ると、水準が随分違います。英国のBrexitのときはものすごく高かったのですが、中国の現在の不確実性指数はBrexitのときほどではありません。変動の大きさは、国情や新聞の性格によるのでしょうか、それともある程度のマグニチュードとして考えていいのでしょうか。

A:

それはあると思います。このため、もし国々の指数の変動の大きさを比較する場合には、データを標準化する統計処理を行うのが良いと思います。また、国によっては特定の分野の不確実性について偏向的な新聞があるかもしれません。その新聞が頻繁にそのことに言及する記事を掲載したとすれば、指数に影響が及びます。ただし、記事を収集する新聞の数を増やすことでその影響は弱まります。指数を作る過程で各紙の記事件数を平均したときに新聞特有の要因が部分的に相殺されるためです。

Q:

2016年の消費税引き上げ再延期のときは結構高まったと思うのですが、その前の延期のときは目に見えるような変動はなかったと思います。起こっている事象はほぼ同じなのに指数の動きに違いが出るのはなぜですか。

A:

私の解釈はこうです。1回目の延期のとき、安倍首相は記者会見で「再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします」と話されました。この首相の表明から財政健全化が頓挫したわけではないと受け止められ、消費増税の不確実性について書かれた記事が少なかった結果、指数は大きく上がらなかったと思われます。しかし、再延期のときには、前回と違って、消費増税に対する首相のスタンスが消極的と受け止められ、消費税率の引き上げをめぐる不確実性について書かれた記事が増えた結果、指数が上昇したとみられます。

Q:

こうした政策の不確実性は、企業活動にどういう影響を及ぼすのでしょうか。

A:

これまでの研究で政策の不確実性と企業行動の間には関係性があることが報告されています。具体的には、政策の不確実性が高まると設備投資や従業員の採用が減ったり、現金保有が増えたりすることが実証的に明らかにされています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。