中国のベンチャービジネスに関する最新状況

開催日 2019年2月20日
スピーカー 大川 龍郎 (新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)北京事務所 所長)
コメンテータ 村口 和孝 (日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表)
モデレータ 安藤 晴彦 (RIETIコンサルティングフェロー / 経済産業省大臣官房審議官(戦略輸出総括担当)兼 貿易経済協力局戦略輸出交渉官)
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開催案内

中国のベンチャービジネスについては、深センのハードウェアスタートアップ活動を中心に日本のメディアでも多く取り上げられてきたが、2018年以降その報道の数は減少し、注目を集めたシェアリング自転車事業についても撤退や破綻のニュースが目立っている。しかしながら、深センに劣らぬ北京の活発なスタートアップ活動、そして人工知能(AI)やバイオの領域においても中国独自の技術開発が行われていることは意外と知られていない。本セミナーでは「中国ベンチャービジネスの動向」と題し、プライベートエクイティの水面下で起きているさまざまな動きについて、NEDO北京事務所の大川龍郎所長にご講演いただいた。コメンテータには日本のトップキャピタリストである村口和孝NTVP代表を迎え、日本におけるスタートアップ投資活動促進に向けた、新たな法制度策定の重要性についてご提言いただいた。

議事録

世界の政策不確実性指数の動向

大川龍郎写真注目を浴びている中国ベンチャーキャピタルビジネスの現状、そして急激な成長を遂げた背景にある、中国で再現されたシリコンバレー流のエコシステムについて、事例を交えながら次の3つの点を中心に話を進めたいと思います。
・ITジャイアントによるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動がベンチャーの「ケイレツ化」を促進する。
・中国のベンチャー集積は深センよりも北京である。
・引き続き注目を集める中国のイノベーション。

中国の新四大発明であるシェアリング自転車

日本でも中国のベンチャーの状況が盛んに報道されていた2017年頃、中国国内で「中国の新四大発明とは何か」というアンケートが実施されました。これは一帯一路の参加国20カ国の協力により行われたものです。

このアンケートでは、「モバイルペイメント」「シェアリング自転車」「高速鉄道」「ネット通販」の4つが最近の中国を代表する発明であるという結果が出ました。高速鉄道とネット通販においてはさまざまな見解があるかもしれませんが、モバイルペイメントとシェアリング自転車は、中国を起点にして大きな成長を遂げた分野です。

まずシェアリング自転車ですが、中国のシェアリング自転車の最大の特徴は「街中のどこでも乗り捨て可能」ということです。何十社もの企業がこの市場へ参入し、爆発的に拡大していきました。

その中で、最初に参入した「モバイク」と「ofo」が二大企業となり、それぞれ中国国内で1,000万台以上の自転車を各都市に配置して事業を進めました。モバイクはテンセントから出資を受け、ofoはディディなどから投資を受け、どちらへも大手企業から過熱した投資が行われていました。

国内事業で軌道に乗った両社は、2017年に海外展開に乗り出します。残念ながら、結果は2018年のうちに海外事業はほぼ頓挫し、中国以外の地域からは撤退しているという状況です。

2015年12月から2016年11月の間に参入した40社以上の企業は、その多くが約1年後には経営が悪化し、破綻や撤退に至りました。これにより街中には放置された自転車が溢れかえり、深センではこれらが片付けられずに山積みになっている状況がニュースでも伝えられました。

トップ2社は安泰かというとそうではなく、モバイクも、2018年4月、ネット出前サービスの大手であるメイタンに約37億ドルで買収されます。シェアリング自転車ビジネスの特徴として、1回の利用につき1元(約17円)ほどしか回収できないにも関わらず、1千万台の自転車の原価に加えて、街中に散乱する自転車を片付けるために何千人という数の作業員が雇用され、月当たり70億円ほどの経費がかかることが経営悪化の一因となっています。

シェアリング企業の同様の買収・出資の動きは他にも見られます。アリババは「ハローバイク」や「ofo」へ出資を行い、ネット予約タクシーのディディは「ブルー・ゴー・ゴー」を支援しています。このように先行している大手IT企業がシェアリング自転車企業への出資や買収を行い、自社の系列に組み込んでいくということが特徴です。シェアリング自転車企業は、多くが撤退し、またトップ企業でさえ赤字で買収されている状況ですから、その他の企業も多くは赤字であると考えられます。大手IT企業が、なぜ赤字のシェアリング自転車企業を買収するのか、ということについては後ほど述べます。

モビリティサービスを巡る覇権争い

中国のネット出前サービスの市場は2016年には約5.7兆円と巨大な市場規模に成長し、外食産業の1割に達しています。昼食時の北京の道路は日々、ネット出前のバイクで埋め尽くされています。

ネット出前サービスにも栄枯盛衰があります。2017年8月の時点では、メイタン、ウーラマ、バイドゥワイマイの3社がこの市場でシェアを占めていました。ある調査では当時の各社のシェアは、メイタンが41%で1位に君臨し、アリババ系のウーラマが35%で2位、バイドゥ系のバイドゥワイマイが18%で3位と続いていました。

ここで、2位のウーラマが動き出します。2位のアリババ系のウーラマが3位のバイドゥワイマイを買収し、1位のメイタンに対抗しようとしました。ただしネット出前サービスの世界の買収はこれだけではなく、バイドゥワイマイを買収したウーラマを、さらにアリババが完全子会社にしています。

これまでにご紹介したシェアリング自転車市場、ネット出前市場に加え、ネット予約タクシー配車市場もまた重要な市場の1つです。これらはモノやヒトの動きに関する、いわば「モビリティ」に関する市場ですが、3つの市場の中で競争・買収が行われるだけではなくそれぞれの市場の間でもまた競争が起こっています。

タクシー配車市場は3つあった企業をいち早く統合し、ディディがこの業界で95%以上のシェアを有するようになりました。ネット出前市場は先ほど説明したように、メイタンとウーラマの2つに集約されています。シェア自転車市場には多くの企業が割拠しており、また収益力が低い状況です。

そこで、有力企業を輩出していないシェアリング自転車市場で買収・投資の動きが始まります。タクシー配車市場でトップのディディは、シェアリング自転車市場のブルー・ゴー・ゴーやofoに投資を開始し、ネット出前産業トップのメイタンはシェアリング自転車市場のモバイクを買収しました。

モビリティサービスを巡る覇権争いはこれで終わることなく、タクシー配車市場1位のディディは続いてネット出前市場へも攻め入ります。まずはいくつかの有力な都市で実験的に運用を開始すると、ディスカウント料金を設けたことが功を奏し、無錫市では30%の市場を獲得します。一方でネット出前市場1位のメイタンも同様に、北京や上海などの主要都市でディスカウント料金の提供、そしてドライバーへも好条件を提示し、タクシー配車市場への進出を果たしていきます。

ITジャイアントによるCVC活動がベンチャーの系列化を促進する

大手IT企業が買収・連携をすすめる背景に、各社が自分たちのエコシステムの構築と顧客の囲い込みを進めていることが挙げられます。例えば、中国のメッセンジャーアプリ「WeChat」では、WeChatペイを用いたペイメントサービスを提供していますが、WeChatペイによる基本的なペイメントサービスだけでなく、ユーザーが必要とするオンライン・オフラインのサービスをウォレットページに集約してワンストップサービスの提供を行っています。

アリババとテンセントを筆頭に、ECからシェアリング事業まで網羅したラインアップを揃え、自社サービスへの顧客囲い込みの動きが見られます。これまではネット上で行われるビジネスの系列化が目立っていましたが、近年、ネットサービス以外の領域へもこの系列化の波が押し寄せています。

中国ベンチャーの最近の状況

2012年以降に増えたベンチャー投資も2015年頃からエンジェルやアーリーステージへの投資件数はピークアウトとなり、2018年に新しく組成するファンド額は2017年度のものに比べて約半分以下となっています。投資件数、投資額は随分絞られてきている状況です。

設立10年未満、非上場、時価総額10億ドル以上という3つの条件を揃えたベンチャー企業は「ユニコーン企業」と呼ばれています。米CBインサイツが公表しているユニコーン企業のリストを国別に分けて観察すると、2017年8月の時点では、総数214社に対して米国は107社であり、世界のユニコーン企業数の50%を占めていました。中国は56社で、米国の半分の26%を占めていました。

翌年2018年8月には、米国が世界に占めるユニコーン企業の割合は47%、中国は30%となりました。この1年で中国のユニコーン企業数は約1.5倍に増加し、米国に追いつく勢いです。また、この1年間で全体のユニコーン企業数は昨年に比べ41社増えていますが、この純増数に占める各国の割合は、米国の29%の増加に対し、中国は49%となっており、中国は急激な追い上げを見せています。

こういったユニコーン企業は主にテック系の企業ですので、近年の貿易戦争に見られるように、米国は中国に驚異を感じる要因の1つとなっているのではないでしょうか。

中国で増加しているユニコーン企業の多くは、B to Cの領域で事業を行っています。B to C領域でユニコーン企業が盛んになった背景として、中国の14億人という人口の多さ、モバイルネット利用人口の急激な増加、ユーザー1人当たりの消費額の増加などが挙げられます。

モバイルネット人口の増加については、例えば世界に先駆けてネットが流通した2000年代、日本のモバイルネット人口は7,000万人〜8,000万人ぐらいだったでしょうか。一方で、中国は7億人がいきなりモバイルネット利用者となり、スマートフォンを起点としたビジネスの発展に寄与していると考えられます。

近年の中国ユニコーン企業の中で、私が個人的に注目しているのが、サプライチェーンなどのB to B系やAIの分野です。具体例を挙げると、人工知能関連では「Face++」や「バイトダンス」、B to Bではソフトバンクも出資している「マンバン」という企業など、こういった領域でもユニコーン企業が増えてきています。

シェアリング自転車にしても、モバイルペイメントにしても、B to C事業というのは誰もが利用できて、日本からの旅行者なども実際に利用することができます。しかし、こういったB to B事業やAI関連分野は、なかなか目につきにくく、その成長は実感しにくいのですが、実は生産性向上に貢献しており、今後注視すべき分野であります。

中国のベンチャービジネスの集積は深センよりも北京である

2015年時点の中国全体における都市別のベンチャー投資状況を投資金額で見ると、1位が北京市で30%、深センは3位で10%を占めています。その背景の1つに、北京には大学が多いということが挙げられます。

江沢民主席は国際的な研究型大学の構築を目指し、1998年5月に「985プロジェクト」という名の下、39の大学を重点大学として選定しました。20年前に指定された39大学の立地を見てみると、北京市には8校の大学がありますが、深センには大学が1つもありません。

これについては深センも問題意識を持っており、北京にある清華大学や北京大学の分校を設立したり、海外の大学を誘致するなどの取り組みを見せています。しかしやはり多くの重点大学は北京に存在し、これらの大学は有力な人材を輩出することでベンチャービジネスに貢献しています。

大学が貢献しているのは人材を輩出することだけではありません。大学は直接創業支援も行っています。清華大学の三大子会社のうちの1つ、TUSは、2017年には約3.5兆円の総資産を保有しています。このうち、1兆円ほどを使って60本のファンドを運用し、EVで最近名前を聞く「バイトン」へも出資を行っています。起業家教育も行いつつ、ベンチャー投資についてはエンジェル投資に360億円相当の出資を行い、投資元として質の面でもベンチャーキャピタルビジネスに貢献しています。

清華大学の卒業生がつくった「Face++」は、2011年の創業から2016年までほぼ収入がなかったそうです。この間さまざまな企業が投資をして支え続け、2015年のドイツのCEBITで行われたFace++技術を使ったデモンストレーションをきっかけに名前が知れ渡りました。

こういった研究型大学を卒業した卒業生が地元に帰らずに北京で起業し、利益を生み出せるか分からない事業へも、成功したITジャイアント企業が数年にわたり資金支援を続けて支えているという環境が北京にはあります。

人工知能の企業立地においても北京が圧倒的な数を占めており368社、第2位の広東省の2倍ぐらいの企業があるという状況です。

大手IT企業による有力ベンチャー企業の「ケイレツ化」

テンセントは2015年時点で1年間に2,000億円を超えるベンチャー投資をしており、日本のベンチャー投資額にも匹敵するような金額の投資を1社単体で行っています。ネット企業のみならず、EVやハードウェアのAIチップ事業へも投資を拡大しています。

ネット事業を超えた領域でもいろいろな「ケイレツ化」が行われていますが、こういった動きはベンチャー企業にとっては成長のチャンスではあるものの、一方で独立系のベンチャーが育ちにくかったり、これまでのように全く新しいビジネスが起こりにくいという面もあるようです。

中国が得意とするサービスイノベーションやキャッチアップ型研究開発、組み立て型製造業等のイノベーションも、2010年以降、長期の研究開発を行う土壌が整ったことにより、今後、革新的なイノベーションが出てくる可能性があります。引き続き中国イノベーションの動向に注目したいと思います。

コメント

コメンテータ:
2000年頃に日本の中小企業政策を紹介する目的で訪中したのですが、残念ながら、中国は日本式の中小企業政策ではなく、シリコンバレー流のベンチャー立ち上げの手法を導入したことにより、独立的資本の力を生かした活動でベンチャーを育て、アリババ、テンセント、バイドゥをはじめとする現在のエコシステムを築き上げました。

日本は1970年代に世界の中でもいち早くシリコンバレーのベンチャーキャピタル手法を導入したのですが、中国が2000年にそのやり方を取り入れるや否や、日本はあっという間に中国に抜き去られてしまい、今や中国は日本の何十倍もの資本を有しています。

日本のスタートアップにおいては法的環境が未整備のまま、歴史的問題を解決することなく既存の中小企業施策、銀行あるいは証券の法律をシリコンバレー流の経営方法の上に準用したため、ベンチャー企業市場が育たないまま今に至っています。

事業を大きくするには資本と人が必要ですが、日本のベンチャーキャピタルマーケットは米国や中国の数十分の一ですので、マーケットがあったとしてもユニコーン企業を輩出するのは難しい状況です。

それは日本で安心してスタートアップが発展をするためのエコシステムの法体系がまったく整備されていないことが原因だと考えます。明治から平成における金融商品取引法や過去の中小企業政策を意訳しながら無理やりつくり上げたのが日本式のエコシステムです。それに比べれば、過去の企業を解体してでも、法律のまだない発展途上国の方がスタートアップ活動が発展しやすい環境なのではないでしょうか。

そこで私が提案したいのは、過去の法律環境から切り離したスタートアップの未来投資活動促進法を策定するということです。従来のさまざまな法律をかき集めて策定するという手法を改め、新たな未来の法律を策定することが必要だと考えます。

例えば、金融機関はファンドを通じて10年以上10%以上のベンチャー株を持つことができません。従ってベンチャーキャピタルファンドが金融機関から出資を受けた場合、ファンド開始より10年で、ファンドを経由した投資先の持株比率が10%を下回るように売却しなければなりません。

この10年という縛りは米国のルールを準用したものです。日本のベンチャーは米国よりも立ち上げに時間がかかるにも関わらず、10年を境にそれらの株を売却しなければならないため、そこでエコシステムが遮断されてしまいます。

このように過去の法律の整合性をとろうとした法律環境が日本のスタートアップ投資のエコシステムの妨げとなっているのです。現在の日本の法環境は二階建て、三階建の仕組みになっています。この事実を認識し、新しい未来の法律を整備しない限り、中国に追いつくことはできないでしょう。

質疑応答

Q:

今後中国で伸びそうなスタートアップの分野や具体的に芽となる事業を教えてください。

A(大川氏):

その質問に答えられるのであれば、私が先に株を買いたいと思います。逆説的ではありますが、めぼしいスタートアップに対しては先行したジャイアント企業がすでに出資をし、出資されたところが成長しています。これから注目を浴びている分野としては、EV、人工知能、ブロックチェーンです。米CBインサイツの統計では、2018年、ブロックチェーン領域で中国のユニコーン企業が1社誕生しており、EVにおいては「NIO」と「Xpeng」がユニコーン企業として成長しています。

Q:

中国は共産党一党支配という中で、大変な統制色を強めているのではないかと考えます。大学の副学長クラスにも党の指導者を配置して政策の決定を図っている一方で、本日ご紹介いただいたような自由闊達なスタートアップの動きはどう両立しているのでしょうか。中国のこれからを見る際に、この統制色に対していろいろな若者の自由を求めることがどこかで発火点に到達するのか、それとも実態は非常に自由闊達な社会活動ができており、そのような発火点はあり得ないと見るのか、どのように判断すればよろしいでしょうか。

A(大川氏):

中国にも政府系ベンチャーファンドが山のようにあるものの、効果的には運用されていないのが現状です。政府の意向はあると思いますが、サンドボックス制度を活用してある程度柔軟な運用を許容している部分があると思います。共産党がベンチャーと相容れるのかという点は壮大な実験ですが、現状まだ経済全体が成長しており、ベンチャーの入る余地が大きいため、うまくいっていると考えます。今後、経済成長率の低下や政府による非合理的な資源配分が行われる部分にはフリクションが起こる可能性もあります。

A(村口氏):

中国は軍事、外交、宇宙産業の領域は国家統制の直下において事業を進め、それを支える裾野である製造業やコンピューター産業等は民間に任せているように感じます。1つは共産党が指揮を執る領域、もう一方は民間の私欲に任せて活動させたほうが世界との調和や情報収集の観点から有益だと思われる分野を明確に分け、資本主義が効率よく稼働するように棲み分けを行っていると考えます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。