新しい社会・価値創造に向けた将来型モビリティ産業の姿とは-現状と今後に向けた課題-

開催日 2018年11月21日
スピーカー 太田 志乃 (一般財団法人機械振興協会経済研究所研究副主幹)
モデレータ 山田 正人 (独立行政法人製品評価技術基盤機構企画管理部長)
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開催案内/講演概要

超高齢化社会を迎える日本において、従来の自動車産業によって蓄積されたさまざまな技術が新たなモビリティを生み出すとともに、ユーザーや地域にフィットした新たなモビリティを選択することが大いに期待されている。本セミナーでは、一般財団法人機械振興協会経済研究所の太田志乃研究副主幹が、国内各地で萌芽しつつある将来型モビリティの事例やヒアリング調査結果を交えながら、国内で普及・展開していく上での課題を指摘した。従来のメーカー中心の開発から、メーカー・ユーザー・地域それぞれの視点に立った取り組みに展開していくことが重要であり、将来型モビリティ産業の形成に必要な法規制やインフラへの対応が今後求められるとした。

議事録

将来型モビリティとは

太田志乃写真モビリティとは移動可能性を広げることであり、自動車や自転車、鉄道などを指します。われわれは将来型モビリティを考える際に、従来型のモビリティだけでなく、人の移動に貢献する移動体全般を含めることにしました。そして、将来型モビリティ産業を、将来型モビリティ自体を提供する経済活動全般に加え、その周辺のサービスも含め、モノづくりだけでなく、サービスまで含む概念で考えることにしました。

今回の調査研究の問題意識は、どのようなモビリティが日本国内で必要とされているのかということです。現状のモビリティ市場・産業において、自動運転やシェアリングの技術やビジネスを中心とするキーワードは多く見られますが、モビリティユーザーの視点から見たモビリティ産業の行く末を検討する動きはほとんどありません。他方で、情報技術(IT)や高度道路交通システム(ITS)の高度化がユーザーとモビリティ、モビリティと社会の関係性を強固にしている今日において、ユーザー視点に立って物事を考えていくことが必要ではないかと考えました。

自動車産業を取り巻くテーマとして、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)などの新しい環境技術、自動運転やコネクテッドカーなどの新しい情報通信技術に加え、コミュニティバスやコミュニティサイクルに代表される新たなタイプの公共交通機関や、カーシェアやライドシェアなどの新たな保有形態といった新しいサービスも内包していると受け止めています。

ただ、従来は、車中心の考え方がベースにあったと思うのですが、今後はユーザー中心のモビリティ社会を考えなければならないと思います。

将来型モビリティを考える背景

そう考えるに至った背景として、日本は「超」自動車保有国であり、かつ既に超高齢社会に突入している状況があります。日本がこれからどのようなモビリティ社会を迎えるのかということは、必ずや先進事例として捉えられると思うので、日本という足元を見てモビリティ社会の今後を考えていく必要があると思います。

高齢化1つを取っても、地域住民がドライバーになって高齢者の移動を支援する取り組みや、地元タクシーを利用した移動支援、買い物支援無料バスの提供、ユニークなところではJTBによる高齢者向けの定額タクシーの実験などが国内各地で行われています。しかし、コミュニティバスやデマンド型乗合タクシーの増加は確認できるものの、それ以外の新たなモビリティを活用した移動支援の取り組みはあまり見られません。

2016年に国土交通省がまとめた「地域公共交通に関する最近の動向等」では、それまでの施策の問題点として大きく3点を指摘しています。1つ目は、連携計画の多くは民間バスが廃止された路線において、コミュニティバスなどで代替するための単体計画にとどまっている点です。2つ目に、数少ない交通ネットワーク全体を対象とした連携計画も一部作成されたものの、まちづくりや観光振興等の地域戦略との一体的な取り組みに欠けている点です。3つ目に、次世代型路面電車システム(LRT)や地方鉄道以外による地域公共交通網の再編について実効性を担保する措置が講じられていない点です。

2014年11月に施行された改正地域公共交通活性化再生法では、地域公共交通を活性化させるために地方公共団体が中心となってまちづくりと連携し、持続可能な地域公共交通ネットワークの形成を図ることが必要になると書かれているのですが、2016年度時点で遅々として進まないことが指摘されているわけです。

この問題点を解決するために、近年の高度化したモビリティ技術を活用することに加えて、モビリティの主たるユーザーや開発・製造メーカー、そしてモビリティ環境を整備する関係省庁が一丸となって、新しいモビリティ社会に対する制度の枠組みを考えていくべきなのではないかと思います。

将来型モビリティの萌芽

ここで、将来型モビリティの萌芽として事例を紹介したいと思います。大手の完成車メーカーやサプライヤーが作ったモビリティでは、トヨタ自動車株式会社の「i-Road」、トヨタ車体株式会社の「COMS」、日産自動車株式会社の「New Mobility Concept」、ヤマハ発動機株式会社の「06GEN」などがあります。「06GEN」に関してはコンセプトモデルで、実体の車両ではないのですが、自前の技術を用いて今後どのようなモビリティを展開できるかという観点に立ったときに、こういった乗り物があると楽しいという意味合いで設けたモデルだそうです。

海外のメーカーでは、フォルクスワーゲン(VW)の完全自動運転のコンパクトカー「SEDRIC」があります。VWの社長は「未来の車は車両付きラウンジである」と明言しています。同様に、パナソニック株式会社も車を「走るリビングルーム」と銘打ち、車が家のような存在になるとしています。要するに、乗り物というよりも移動してくれるものという意味合いで、自動運転・自動走行技術を軸にした展開が今後考えられます。

もちろんこうしたモビリティが普及する可能性は十分にあると思いますし、そうあってほしいと思うのですが、いま一度考えなければならないのは、こうしたモビリティが全ての地域に適用できるものかどうかということです。

というのも、公共交通の本数が減少しているという問題がある一方で、ラストワンマイルの坂を歩くのが大変という場合もあります。そうであれば、地域に即したモビリティをまずは投入するべきという考えが1つあると思います。それと同じように、中心市街地や中山間地、離島などさまざまな使用場面があると捉えられます。

本調査研究事業では、将来型モビリティを展開しているプレーヤーにヒアリング調査を実施しました。その中で、企業事例を5つほどご紹介したいと思います。

NTN株式会社の商品開発研究所が開発しているモビリティは「Q'mo」です。型式認証を取っていないのでまだ公道を走ることができないのですが、ユニークなのはハンドルがスティックバーになっていて、簡単に運転できる点です。もう1つは、インホイールモータシステムを組み込むことで各輪を独立して操舵でき、その場回転や横方向移動ができることです。

「Q'moⅡ」では、ステアリングホイールを採用しています。「Q'mo」と同じシステムなのですが、丸いハンドルになっていて、その場回転や横方向移動が可能なEVとしては世界で初めて、軽自動車ナンバーを取得しました。また、「NTN超小型モビリティ」なども展開しながら、自社の技術を今後のモビリティ社会に適用しようとしています。

glafit株式会社が発表しているモビリティは「glafit」というバイクで、ペダル走行モードでは自転車になり、EV走行モードを選ぶと電動バイクになります。ハイブリッド走行モードでは、電動走行しながら自転車のようにペダルをこいで走行できます。これをクラウドファンディングに出品したところ、2日間で4500万円を突破し、かなり注目を浴びました。

ただ、課題が多く残されているそうで、原動機付自転車としての登録が必要になるため、3つのモードのいずれの場合もヘルメットの装着が法律で義務付けられています。そういった課題を国といろいろやりとりして、規制緩和を求めていきたいという話もありました。自動車のユーザーは駐車場所や駐車代の問題を抱えているので、その点をクリアにするために考えたのがglafitバイクだそうです。従って、都会の若者や主婦層に好まれる乗り物を展開したいと考えて、glafitバイクを開発したということでした。

ヤマハ発動機株式会社が展開するモビリティは、石川県輪島市で展開する「輪島エコカート」と、コンセプトモデルの「05GEN」「06GEN」などです。自社で既に展開しているゴルフカートを活用し、いろいろな地域に導入しながら、その地域の課題解決に向けたモビリティとして実証実験を展開しています。

同社では、さまざまなタイプのモビリティが混在・共生していく上で、人々の移動に利活用できるようなモビリティが今後あるべき姿だと述べています。地域の仕様に即し、地域になじむ交通システムの構築を目的としており、これらがどの地域にでも活用されるモビリティとしてあるべきだとは言っていません。さまざまな地域というよりも、ある特定の地域でこれを展開したいという思いで実証実験を繰り広げているのが特徴です。

新明工業株式会社は、自動車の組み立て設備に関わる事業や特殊車両を手掛けている企業で、コンバートEVを2011年ごろから展開しています。それは、自社の技術力を高めたいという思いから取り組んだ面もあるようですが、新たに取り組んだのが「ビレッジモビリティ」です。軽トラックをコンバートEV化して、中山間地域に適した乗り物として展開しています。

特徴は、中山間地の課題をモビリティで解決したいという思いが開発のきっかけになっていることで、軽トラックのEV化と国内初の軽トラ4輪機能展開によって、坂道走行などの性能向上を果たしています。現在親しんでいる軽トラック自体をコンバートEV化することで、新しいタイプの乗り物にするわけです。ただ、こちらもまだ型式認証が取れていないので、市販には至っていません。

近畿大学工学部ロボティクス学科の竹原研究室は広島県東広島市において、高齢者に適したモビリティの開発に取り組んでいます。東広島市でも中山間地域対策は課題の1つなのですが、世代別の平均身長を見ると高齢になるほど低くなっています。今後は80歳以上でもモビリティを活用したいわけですが、既存の軽トラでは運転が非常に難しいのです。そこで、シートを上下前後に移動・昇降する装置や、ブレーキ・アクセルペダルの位置を変更する装置を内包し、新しいモビリティとして使ってもらうための実証実験を行っています。

将来型モビリティ産業の姿とは

このように将来型モビリティに関して私どもが見てきた中で挙がった問題点を2点にまとめてみました。

1つは、将来型モビリティのメーカー、ユーザー、使用エリアそれぞれの立場に立った取り組みが展開されているかということです。「つくる」取り組みの素地は、日本はものづくりが盛んなので、企業の力を生かせば取り組み自体は数多くできると思います。ただ、ユーザーや使用エリアに関する検証が一部にとどまっているという実態があります。

先ほど挙げた5つの事例は、どちらかというとそれぞれの立場に立った取り組みが展開されていると思いますが、他の事例ではメーカーのみで展開していることも多いのが実態です。メーカーだけでなく、モビリティの使用想定地域を巻き込んで議論する場づくりが必要だと思います。

そこで紹介したいのが、メーカー・ユーザー・使用エリアの立場から展開される社会実装実験です。経済産業省、国土交通省を中心として、ラストマイルの自動走行に向けた実装実験を小型カートや小型バスを使って実施しています。実験実施地域によって使用される背景は異なっていて、石川県輪島市は市街地モデル、福井県永平寺町は過疎地モデル、沖縄県北谷町は観光地モデルとして、モビリティの活用に関する実験をしています。

この実証実験に注目するのは、社会実装に向けて4つの柱を掲げているからです。1点目は、ビジネスモデルを明確化することです。実証実験に終わらせず、将来的にそのシステムを展開するためのモデルが明確であることを目指しています。2点目に、自動走行技術の確立です。先端技術だけでなく既存技術も活用し、コスト面も考えながら技術を投入していきます。これが3点目の社会システムの確立にもつながっていきます。そして、4点目が社会需要性の確立です。関係者の立場から、利害関係者の意見も取り込んだモビリティ、インフラの整備を進めていきます。これらのことを模索している点で非常に貴重な実装実験であると私どもは受け止めています。

もう1つの問題点は、将来型モビリティ産業の形成そのものに必要な法規制やインフラへの対応がスムーズには行われていないことです。例えば、バッテリーや車体そのものの安全性を確認するために破壊テストを行う義務がありますが、そのこと自体が、特にベンチャー的な取り組みを行っているメーカーにとって非常に負担となっています。

テスト費用そのものを賄えないケースや、既存の道路・駐車場事情なども、車以外の新たなモビリティに対してはいまだに意識が低いという指摘もヒアリング調査時にありました。要するに、従来の自動車市場・産業の慣行のままでは、多様化するモビリティニーズに応じることはできないと私どもは考えています。

その際に、将来型モビリティ産業が日本から今後開花していくために、将来型モビリティそのものに対する意識改革、将来型モビリティをサポートする行政サイドの意識改革、モビリティ市場を将来形成するプレーヤーの意識改革が必要です。やはり新たな取り組みでは、例えばある部品を調達できない背景として、完成車メーカー向けの部品が優先されるため、生産台数が少ないモビリティは部品調達が難しいといったハードルがあります。

以上のような議論を踏まえた上で初めて、将来型モビリティとしての価値そのものが評価され、実用化に至るのではないかと考えています。従って、将来型モビリティの関連者が、モビリティに関する価値を共有できるまでの構築過程が重要であって、そこで初めて将来型モビリティ産業としての姿が確立するのではないかと思います。

質疑応答

Q:

自動車メーカー以外で将来型モビリティに手を挙げている業界はありますか。

A:

例えばソフトバンク株式会社とトヨタ自動車の提携など、通信会社から始まっている取り組み事例があると思いますし、glafitの創設者も元々はアパレル事業を営んでいたといいます。それから、地域として取り組みをスタートしている事例もあります。例えばある地域が、地場の中小企業のものづくり力を高めるために、何社かの企業に手を組んでもらってモビリティを生み出すような取り組みも数としては多いと認識しています。

Q:

ビジネスモデルの明確化はこれからとても重要になると思っているのですが、商業ベースに乗せていくにはどうしたらいいのでしょうか。

A:

先ほど紹介したラストマイル自動走行の実装実験は、ヤマハ発動機の電動カートに産業技術総合研究所の自動運転技術を埋め込んで展開しています。ここでのビジネスモデルは、奇をてらったような取り組みとして新しいモビリティを投入したというよりも、北谷町の私有地で展開していたゴルフカートで観光客をホテルから海辺まで送迎する取り組みに組み合わせたものです。

従って、周辺住民の方々も、こういったモビリティが走っていても普通にあるものとして受け止めている雰囲気がもちろん元々ありますし、例えば地域住民がペットを連れて歩いているときに、犬が急にカートの前に飛び出してくることなども想定して実証実験をしています。逆に北谷町では、電動カートが元々走っていた地域なので、こういうシチュエーションがあるということを全て明確にしていたそうです。

もちろん実証実験なので、公募に北谷町が手を挙げて採択されたのですが、採択の背景としては、電動カートが普通に走っていても周りが許容できるような雰囲気があったので、実証実験をスムーズに行える可能性が非常に高いという面もあったようです。

この実証実験自体は今年度で終わるのですが、その年度で終わってしまうと次につながらないケースが多いと思うのです。しかし、北谷町は2019年度以降、フェーズ2の実験を独自にやろうとしています。フェーズ1がうまくいけば、フェーズ2として延長し、観光客に北谷町をより楽しんでもらおうという計画を元々打ち出していたわけです。

従って、産総研の自動走行技術だけでなく、北谷町が観光地としていかに自分たちの地域をアピールしていくか、観光客を呼び込む素地をつくり上げていくかという課題の部分に実証実験が乗っているので、両者のビジネスモデルが非常にうまく合致していた事例として今回挙げました。

Q:

将来型モビリティは、大量生産したら値段も安くなると思うのですが、そういう方向性は何か感じられるものがありますか。

A:

大手の完成車メーカーの取り組みとして、「COMS」という超小型モビリティがありますが、ご指摘のとおり、ある程度のボリュームを出せないとビジネスとしては稼ぎ頭にはもちろんなりません。ただ、実態として、超小型モビリティの法制度自体もそうなのですが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、いろいろな法整備が整えられているのは事実です。

「COMS」に関しては、愛知県豊田市でも実証実験を行っているのですが、本来使用を想定しているユーザーがこれをまだ使っていません。例えば観光客や通学の高校生にも使ってほしいという思いがあるそうなのですが、高校生は法的に乗れない車両です。そういう法律の問題もありますし、ユーザーにどうフィットするかというマッチングがうまくできていません。もちろん地方自治体も加わった実証実験にはなっていますが、どういったユーザーが使いたいのかというユーザー側の声を反映させた実証実験を展開していかなければ、大手メーカーであってもモビリティを今後普及加速化させることは難しいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。