米中間選挙とトランプ政権の行方

開催日 2018年11月8日
スピーカー 久保 文明 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
モデレータ 谷澤 厚志 (経済産業省通商政策局米州課長補佐/RIETIコンサルティングフェロー)
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2018年の米中間選挙は、トランプ大統領率いる共和党が上院の多数を維持したが、下院では野党・民主党が多数党に返り咲き、いわゆるねじれ現象が生じた。米中間選挙は本来、政権選択選挙ではないが、下院議員全員と上院議員の3分の1が改選されるため規模が大きく、その議席構成は今後の米国の内政・外交に極めて大きな影響を与えることが予想される。本セミナーでは、東京大学大学院の久保文明教授が、米中間選挙の結果の分析をもとに、共和党、民主党それぞれの進路について考察を加えるとともに、トランプ政権の行方について展望した。国際社会に目を転じると、最近は日本や中国などとの通商問題も焦点となっており、トランプ政権の政策に中間選挙がどのような影響を与えたかについても論じた。

議事録

2018年中間選挙の結果

久保文明写真米中間選挙は、上院で共和党が多数党となり、下院では民主党が逆転しました。しかし、そもそも日本人にとって、中間選挙の正確な意義付けは意外と難しいのかもしれません。なぜなら、米中間選挙は政権選択にあまり関係がなく、中間選挙で大敗した大統領でも辞任した例はないからです。

他方で、選挙の規模が大きく、議会が持っている権限に大きく影響します。米議会は日本の国会と違って非常に独立性が高く、行政の意図とは無関係に自立的に法案を通します。最も極端な例は、民主党政権のクリントン大統領の下で行われた1994年の中間選挙だと思います。民主党は上下両院で大敗し、共和党はニュート・ギングリッチという指導者が公約集まで用意して多数党にのし上がり、公約を自分たちで可決していったのです。

もちろん大統領には「最後の砦」として拒否権はありますが、予算案など重要な法案でそう簡単に拒否権を行使するわけにもいかないので、限界があります。その点で、中間選挙で議会勢力の逆転が起きるのは、意外と大きな痛手になると思います。

米中間選挙には「与党敗北の法則」というものがあり、特に下院ではかなりの確率で起こります。今回は、与野党の立場は逆ですが、オバマ大統領の最初の中間選挙である2010年の結果と非常に似ていて、共和党が下院で多数党の座を失いましたが、上院では多数党の座を何とか維持しています。

共和党・民主党の動向

そもそもなぜ「与党敗北の法則」があるかというと、まず投票率が関係しています。大統領選では60%前後の投票率であることが多いのですが、中間選挙は35~40%と極めて低いのです。つまり、強い関心を持った人、つまり与党(大統領)の政策に不満を持っている人が投票に行くわけです。今回は終盤で共和党の投票意欲(enthusiasm)がだいぶ高まっているという報道もあったので、ひょっとするとやや異なる結果になるのではないかと思っていました。

それから、終盤にメキシコ以南の国々から、キャラバンといわれる数千人規模の移民集団が米国境に迫りました。それに対してトランプ大統領が激しく反発し、国境に1万数千人の米軍を配置すると宣言したのです。すると、保守系のニュースばかり見ている人にとっては、米国は侵略されようとしているという心理状態になり、トランプ大統領を支持しないと駄目だという雰囲気になりました。しかし、中間選挙では投票率が若干上がった可能性はあるものの、民主党支持者が政策に不満を持って投票意欲を高める一般的傾向を覆すほどではなかったと思います。

それから、民主党は今回、上院で守りの選挙を強いられました。改選35議席のうち、民主党は26議席でした。ですから、議席を全部守った上で上積みするという民主党寄りの強い追い風は今回ありませんでした。もう少し同数ぐらいの改選だったり、上院も全員改選だったりすれば、民主党が逆転することもあり得たと思いますが、今回たまたまこうした改選数だったが故に、民主党は上院で多数党になることができなかったのだと思います。

トランプ大統領は、下院で早くから逆転阻止は難しいと考えていたようで、非常に精力的に遊説していました。現職大統領がほとんど執務をしないで選挙運動ばかりするのはかなり異例です。トランプ支持者は熱狂的で、そういう人が多い所で演説をすれば絶対に拍手されるので、トランプ大統領はますます遊説が好きになり、トランプ大統領が特に強く支持した人はかなり忠実なトランプ支持者になると思います。

特に重要なのは、不法移民の問題に厳しい態度を取っていることです。もともと共和党の基本的な方向性は自由貿易主義でしたが、トランプ大統領の下でかなり保護主義的になりつつあります。これが中長期的に、日本が最も懸念しなければならない影響だと思います。

何といっても、それまで共和党ではタブーだった保護主義で選挙戦を戦い、孤立主義、国際主義に反対する立場で戦い、なおかつ不法移民問題をアピールして戦う路線によって共和党内で指名を取れることをトランプ氏が実証したことは、今後の共和党の進路に大きな影響を与えたと思います。

過去の大統領選挙で両党がいつも競り合っていたオハイオ州の農村部などでは、トランプ大統領の支持率が68%と驚異的に膨れ上がりました。もちろん彼の個人的な魅力もありますが、政策的な部分があるからで、特にオハイオやミシガンなどでアピールしたのが保護主義であり、それで反NAFTA(北米自由貿易協定)、反TPP(環太平洋経済連携協定)の人たちが一挙に民主党から共和党支持に変わったと思います。

これは最近の米政治における分極化のほんの1つの側面です。白人対黒人の分極化もよく知られていて、黒人の90%ぐらいが民主党に投票します。もう1つは信仰心の強い人と世俗的な人たちの分極化もかなり顕著です。これは白人の中における分極化であり、現在の米国の分極化の隠れた一面だと思います。

民主党が、アイデンティティ・ポリティクス(ジェンダーやLGBT、人種などの政策)の方向にどんどんこだわり、割と高学歴の価値観に引き寄せられる一方で、低学歴の人たちにとって非常に重要な雇用や経済の問題をあまり重視しなくなった結果、こういった形の乖離が生まれたのです。逆に、民主党は白人の低学歴層を支持基盤として、巧みに共和党を追いやるようにして党の方針を選んできたといえます。

それが故に、マイノリティの人口は1990年代前半と比べて格段に増えていますが、その割に民主党は選挙でそれほど優位になっていなくて、いまだに五分五分です。それは民主党が白人票、特に低学歴の男性票を失っているからだと思います。その点で、共和党がかなり保護主義に向かっていることは今後の注目点です。

中間選挙の影響

中間選挙の結果、共和党が上院で多数党の座を失うと、行政府や連邦司法部の人事で主導権を完全に民主党に奪われ、思ったような人事ができなくなるわけですが、今回それを避けることはできたといえます。

ただ、厄介なのは、下院議員団が上院より結束力が強いことです。ですから、共和党としては、民主党の多数体制を切り崩すのは相当大変だと思います。民主党はかなり一致結束して、さまざまな法案成立やトランプ政権の追及に力を発揮すると思われます。

米国の予算は、日本のように政府が提出するシステムではなくて、原案も議会で作り、普通の法案と同じように議員が提案して、議会の主導権で作っていきます。今回、民主党が下院で多数党になったので、今後は共和党が多数党の上院と十分擦り合わせる必要があります。それにより、共和党的な予算ができる可能性はほぼ皆無で、全て民主党・共和党、上・下両院の妥協になります。

そのことから、例えば追加減税のような共和党的な法案が通る可能性は非常に低いです。インフラ投資は割と超党派で通る可能性がありますが、かなり同床異夢で、民主党は支持基盤の大都市を中心とした公共事業に予算を使いたいと考えています。トランプ大統領も割と同じようなイメージだと思います。

他方で、共和党は支持基盤の農村部に予算を付けたいと考えています。共和党が望むインフラの投資促進は、政府がお金を付けるのではなく、むしろ環境アセスメントなどの規制緩和なのです。米国では建設や開発のための手続きが非常に複雑で、2~3年かかることも珍しくなく、せめて2年で終わるようにしてほしいと共和党は要望しています。しかし、環境アセスを緩めると環境破壊を促進することになり、民主党はかなり反対するので、そう簡単ではなく、あまり楽観できません。

民主党が最も力を発揮できるのはスキャンダルの追及です。米国では多数党が全ての委員長を独占するので、民主党は各委員長の下で行政官庁に対しさまざまなスキャンダルを追及できます。ですから、民主党はじわじわとトランプ政権を痛めつけ、彼らがいかにひどい政権であるかを2年間であぶり出すことができます。

それから、民主党は弾劾決議を通すことが可能です。米国には不信任の制度がなく、選ばれた以上は任期を全うするのが原則ですが、例外的に弾劾の制度が設けられています。これは行政部の個人を裁く制度で、下院で弾劾決議が通れば、上院が裁判を開始します。上院の出席議員の3分の2以上が有罪票を投じれば、大統領を解任することもできます。

ただ、3分の2は高いハードルであり、下院の民主党があまり合理的でないことをする可能性はないように思います。マイナスなのは、弾劾の議論が始まるだけでワシントンの政治が数カ月は機能不全になる可能性があることです。

他方、トランプ大統領は先日、セッションズ司法長官を解任しました。そうして暴れていくと、共和党内からもまずいと思う人が出てきて、民主党とすれば弾劾した方がいいと考えるでしょう。中間選挙直後、大統領は「これからは協力して政局を運営していく」と言っていましたが、最初の行為が司法長官解任ですから、超党派のムードはあまり期待できないと思います。

トランプ大統領と通商問題

それから、トランプ大統領にとって通商問題は数少ない信念の1つです。トランプ政権を考える際には、中間選挙の結果で議会の構成がどうなるかを考えるよりも、通商問題に注視した方がいいのではないかと思います。トランプ大統領が特にこだわるのは、貿易赤字であることは確かです。貿易赤字が政治的なストラテジーとして米国内で歓迎する支持基盤があることは確かで、民主党議員の多くはもともとそういう考えでしたし、共和党が白人の労働者階級で急速に支持基盤を拡大しているのも、通商問題に強い態度を取ってきたからです。

例えば中国に対しては、この瞬間にも首脳と妥協する可能性があると思います。これまでもEU(欧州連合)やメキシコ、カナダ、韓国に対して、最初はかなり強行でしたが、そこそこのところで妥協した面もあります。

中国は最初、トランプ大統領を割と御しやすいと考えていたと思います。たくさんお土産を持たせれば、機嫌がかなり良くなるからです。しかし、2~3週間しかもたなかった。ただ、日本やEU、韓国と全く違うのは、今のワシントン全体が中国について相当厳しくなっている点です。ですので、米中関係についてはそうした側面も十分視野に入れておく必要があると感じています。

仮に今、トランプ大統領が態度を変えても、トランプ大統領がいなくなっても、米国は中国に対して相当厳しいままだと思います。その根拠は、ペンス副大統領が10月初めに行った演説です。非常に包括的な演説で、通商問題だけでなく、安全保障や人権などにも触れて中国を批判しており、今までに米高官が行った対中演説の中で最も強硬なものでした。

そういう態度は多くの政府高官にも共有されていますし、場合によっては議会の方がもっと厳しいともいえます。トランプ大統領が、ある中国企業に対する制裁を緩めようとしたら、議会側が阻止したケースもありました。それから、トランプ政権が発した幾つかの行政部の公式外交文書でも、中国について相当厳しい認識がすでに披露されています。

昨年12月に公表された国家安全保障戦略などでは、中国、ロシアに絞った警戒心がかなり率直に表現されています。今の米国の安全保障政策は、中国、ロシア両国に対して厳しい認識となっています。対中政策が少し良くなったのはニクソンからで、それまでは米国は割と中国とソ連を一体的に見ていたので、その時代は中国、ソ連両国に相当厳しかったのですが、それ以来のことになると思います。

ロシアはどちらかというと衰退しつつある帝国であり、中国はこれからも強くなるというニュアンスがあるので、中国にますます警戒心が傾斜していくという気はしますが、中国を封じ込めるためにロシアとは和解するのか、それともロシアにも厳しいままなのかはまだ分かりません。トランプ大統領は、そういう複雑なことは考えないと思います。

トランプ大統領は今年7月、ヘルシンキでプーチン大統領と会談しましたが、ホワイトハウスの人たちが最も恐れているのは、通訳だけを介した1対1の首脳会談です。トランプ大統領自身が発言内容を覚えているか不安ですし、実際何を言っているか分からないからです。

あの会談で問題になったのは、プーチン大統領がロシア疑惑を否定したことを受けて、トランプ氏が「自分はプーチン大統領を信じる」と会見で述べたことです。大統領が自国の捜査機関よりも相手の国のことを信じると公言するのは極めてまれです。このことは米国の政府要人や議会の人々を怒らせました。こうした部分は今後も残ると思うので、通商政策でも不確定要素は残る気がします。

民主党にとっては、トランプ大統領が通商問題で非常に強硬であることが1つのジレンマになっていると思います。もともと民主党が保護主義で、通商問題で非常に強硬な態度を取ってきました。しかし今は、共和党支持者が相当保護主義に変わっています。それは、トランプ氏から支援されたことやトランプ氏の人気を見て、議員たちが態度を変えているのかもしれないという点は懸念材料だと思います。ですから、今後は民主党も共和党も保護主義的な傾向になるかもしれないので、中長期的に注視しておく必要があると思います。

民主党からすればトランプ大統領を支持するとは言いたくないのですが、トランプ大統領の通商政策に関しては正しいと考えています。シューマー上院議員も「自分たちの政策をトランプ大統領は正しくやっている」と言っています。すると、民主党としてトランプ大統領との違いを際立たせる部分は何かというと、トランプ氏が大統領になる適格性がないということです。これはそこそこ正当な議論かもしれませんが、その他にもアイデンティティ・ポリティクスの問題を強調して、今後も対立が続くのではないかと思います。

質疑応答

Q:

トランプ大統領はかなり規格外れなことをしているのに、白人のブルーカラー層から固定的な支持を得続けているのはなぜですか。

A:

米国では、マイノリティであれば周りの人が同情してくれますが、白人のブルーカラー層は誰も自分たちに目を向けてくれないという感覚をずっと持っています。そこに現れたのがトランプ氏で、真っ向から自由貿易主義を批判し、不法移民の問題でこれでもかと攻撃するわけです。そうすると、自分の声を代弁してくれる政治家が初めて現れたと感じた部分もあると思います。

こうした人々は、トランプ大統領の一挙手一投足でいちいちがっかりすることはなくて、ホワイトハウスにいるだけで満足だと考えている人が多いのだと思います。それはある意味、黒人の代表であるオバマ大統領の裏返しであり、そこが岩盤のような支持率に当たる部分だと思っています。

Q:

同盟国に与える安全保障上の影響は何かありますか。

A:

中間選挙の結果から直接大きく変わる部分はそれほどないと思います。ただ、これまでは共和党が下院でも多数党だったので、外交政策について行政部が嫌がる公聴会などは設定しませんでしたが、民主党の関心からすると、北朝鮮問題などで公聴会を開き、問いただすこともあるでしょう。

それから、下院は軍事力増強というトランプ大統領の掛け声に懐疑的だと思います。国防については民主党の方が慎重ですし、逆に社会保障に使いたいと考えているので、中長期的には米国の安全保障政策に影響があると思います。

Q:

今までグローバリゼーションの恩恵を受けてきた経済界との関係は、今後どうなるのでしょうか。

A:

経済制裁をしないでほしいというロビーイングは相当強くホワイトハウスに向けられていたようですが、トランプ大統領には全く効かなかったようです。他方、中国でビジネスをしていて、知的財産権の侵害や国内優先の政策に不満を感じている企業もあります。つまり、1つの企業体が二面的な意見を持っている可能性もあると思います。

あまり大きく報道していませんが、中国は関税を下げたり、輸入を増やしたり、知財侵害について懲罰的賠償制度を導入したりして、トランプの圧力に屈した印象をあまり与えずに、いろいろと譲歩していることは確かなので、かなり効果は出ていると思います。その点で、意外と米国の方が頑強で、本気になって中国に立ち向かえばかなりの脅威を与えられることを実証した面はあると思います。

モデレータ:

トランプ大統領は2020年を見越して、どういった成果をアピールするのでしょうか。

A:

トランプ氏が一番期待しているのは、今の好調な米経済がそのまま持ちこたえることだと思います。それから、彼は「Keep America Great」という新スローガンを掲げており、自らの4年の任期で米国は復活したということをアピールするでしょう。あとは、不法移民の問題等で厳しい態度を取り続けると思います。彼にとって通商問題は一丁目一番地であり、追加減税はあまり成果が上がらないかもしれません。

Q:

将来、民主党がグローバリズムに代わって、民主・共和両党の立場が入れ替わることはあり得ますか。

A:

一般的に民主党の支持者は高学歴が多いし、多人種・多民族的な構成なので、閉鎖的な見方はしていません。ただ、民主党は、圧倒的に保護主義の労働組合と環境団体の支持を受けていますし、自由貿易は多国籍企業や大企業のためという固定観念を持っている議員が多いようです。それが民主党の一般的な支持者と議員との間にギャップが生じている大きな要因だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。