企業文化とは何か―イノベーションや不祥事との関わり方

開催日 2018年9月13日
スピーカー 植村 修一 (元公立大学法人大分県立芸術文化短期大学国際総合学科教授)
モデレータ 坂本 里和 (経済産業省経済産業政策局産業組織課長)
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個々の企業の特徴を表すものとして昨今、社風や企業風土といった言葉がよく使われるが、そうした企業文化といわれるものの定義は必ずしも明確ではない。今回は、元大分県立芸術文化短期大学国際総合学科の植村修一教授が、企業文化に着目した近著『“社風”の正体』を基に、企業文化とイノベーション、不祥事との関係について論じた。そして、近々訪れるであろう企業経営の大変革期を乗り切るためのソフトパワーとして、企業文化を意識的に定着させる必要があることを説いた。また、近年頻発する企業・官庁の不祥事の背景には、大企業特有の体質である「大企業病」があると指摘し、企業文化を超えて安全文化やリスク文化が問われる時代になってきていることを強調した。

議事録

今なぜ企業文化なのか

植村修一写真日本銀行時代にさまざまな企業を訪れる機会があり、企業によっていろいろと雰囲気が違うと感じたのが、私が企業文化に関心を持つきっかけでした。それで4年前に企業文化に着目しはじめ、不祥事に関する本を出しました。

最近はいろいろな不祥事があり、組織風土の問題がよく取り上げられます。先日出たスルガ銀行の第三者委員会の報告書でも、組織風土が取り上げられていました。やはり不祥事が起こる原因や、それを防止する方法を探るのには、単純に体制や枠組みだけの議論にはとどまらないのだろうと思います。

企業経営の環境は数年おきに大きく変わるといわれますが、私の過去40年の経験から見てもその通りだと思われます。単に企業や産業の在り方だけでなく、一人一人の働き方にも変化が現れます。この10年、20年の間で多くの企業・業種がなくなるグレート・エクスティンクション(大絶滅期)が起こると推測されます。

このような状況の中で、企業には単なる体制やガバナンスだけではないソフト的なものがあらためて問われています。特に、グローバリゼーションによってITの世界で標準化が進んでいますが、国民性や文化といったソフトパワーもその在り方が問われるでしょう。一方で、人口動態の変化によって働き方も変えなければなりません。それは企業文化と全て絡んできます。

企業文化とは何か

1980〜1990年代、心理学者エドガー・シャインは企業文化に関する書籍を出しました。それによると企業文化は、「グループが対外的課題をこなし、内部の人間関係に対処する中で獲得してきた、集団内で共有された暗黙の仮定」と定義されています。ここでいう暗黙とは、文章化されていないという意味では決してなく、明言されなくても共有されているという意味であって、明文化されているものも含めた概念です。

しかし、“営業畑”や“経理畑”といった職場内のサブカルチャーや、業界ごとの文化が存在することもまた事実です。過去を見ると、1960〜1970年代は、計画主義的、管理主義的に精緻なチャート硬直的に定義する企業経営論が盛んになりましたが、1980年代にはもう少し生々しい話も取り込んだ企業経営論が必要だという発想が強まりました。

また、経営学者のジェイ・バーニーは、各企業が持つ経営資源を重視する「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を提唱し、カネ・モノ・ヒト(財務資本・物的資本・人的資本)に加えて組織資本の概念が非常に重要だと主張しました。とくに、他社がまねようと思っても簡単にできないことが組織文化において重要になると主張しました。

ここであえて企業文化を分類してみます。経営学者のリチャード・ダフトは、「競争的な環境が組織に対してどの程度の柔軟性や安定性を要求するか」、つまり環境が非常に競争的に厳しいか、静態的なものか、「戦略的な集中や強みがどの程度内部的・外部的なものか」、つまり内向きに考えている経営か、外向きに考えている経営かという2軸で、「起業家的」「ミッション重視」「仲間的」「官僚主義的」という4つに分類しています。本当にベンチャー企業で、非常にダイナミックな企業もあれば、非常に落ち着いていて家族主義的な企業もあるし、その中間もあるという発想で捉えられています。

企業の成長やイノベーションを促す企業文化

成功した企業の文化は、場合によっては競争に不利になるというジレンマがあります。成長企業の文化はあえて変える必要もないと考えてしまうし、どっぷり浸っていると、いつの間にか負けてしまうことがあります。

企業文化と企業の成長・イノベーションの関係においてよく使われる固有名詞がヒューレット・パッカードです。ヒューレットとパッカードの二人が西海岸のガレージで立ち上げたIT企業が非常に大きな企業になりました。その企業の特徴は、軍隊的な上意下達の管理的なものではなく、一人一人を尊重する組織文化、つまりHPウェイでした。その後、自社の行動理念や企業理念を標榜するものとして「○○ウェイ」という言葉が使われるようになりました。ポストイットを開発したスリーエムという企業もイノベーションを重視していて、自分の時間の15%を自由な研究開発に使って良いという15%ルールを持っています。

ただ、いろいろ研究があって、大抵は定量的なものと定性的なものを組み合わせて分析することが行われていますが、企業文化が本当に成長やイノベーションを生み出したのかどうかという、因果関係の判別は非常に難しいのです。

早稲田大学の入山章栄氏は、イノベーションに関して「知の深化」と横断的な「知の探索」の両方が必要であり、そのための文化を醸成しなければならないとしています。知の探索という点では、オープン・イノベーションという言葉が当たり前になっていますが、オープン・イノベーションをすれば当然、他社の文化との関係も問題になりますし、働き方改革の関係も問われます。

コロンビア大学のデヴィッド・スターク氏は、組織管理の観点からすると、ディソナンス(不協和)がなく、一致団結する組織が必ずしも管理し易いわけではなく、むしろディソナンスを大切にすることがイノベーションにつながると主張しています。単なるオープン・イノベーションや多様性から、意図的に不協和を生み出すことが求められているのです。

企業文化がまだ定着していないスタートアップ企業についてよくいわれるのが、情熱の共有です。エリック・シュミット氏は、グーグルの企業文化について書いた『How Google Works』の中で、「文化は重視されるし、いったん出来上がると変えるのが難しい。だからこそ最初の段階でどういう文化を作り上げるのかが重要だ」と書いています。人を対象とするマネジメントではなく、人がどうやって働くのかという環境のマネジメントを考える時代に入っているといいます。まさにそうだと思います。

それから、事業承継やM&Aも企業文化と関係があります。キリンとサントリーの統合話を聞いたときは、経営統合ができるのか懐疑的な声が多かったと思います。案の定、その話は破談になりました。やはり文化の違いを埋めることはなかなか難しいのです。

経済産業省の新原浩朗氏は、日本の優秀企業を研究した上で、「外形的なコーポレートガバナンスだけでは駄目で、世のため、人のための理念に基づいた自発的なガバナンスが必要である」という結論を出しています。

国民性と企業文化

1980年代、オランダのヘールト・ホフステード氏は、当時グローバル企業の代表格だったIBMの全世界11万人の従業員に対するアンケートを基に、国民性を浮かび上がらせようとしました。結果的には、日本の組織はある程度集団主義的で、男性的価値観中心で、不確実性回避的という答えが出たのですが、直感に合うといえば合います。企業文化も国民性の影響をかなり受けているので、日本企業は日本人や日本社会の特徴を引きずっていることを前提として考えていかなければなりません。

ニューヨーク大学のパンカジ・ゲマワット氏は、海外展開を図る上で重要なこととして「CAGEフレームワーク」(カルチャー、アドミニストレーション、ジオグラフィ、エコノミー)を挙げています。その最初に出てくるのが文化なのです。グローバリゼーションは文化抜きにやっていけばいいのではなく、むしろ文化を考えていく必要があります。

日本人による日本の社会・組織研究は昔からあります。1980年代、野中郁次郎氏らのグループによる『失敗の本質』は、日本企業が伸びていく中で、そうした日本的な組織の特徴を引きずっていたらいずれ厳しいことになると警告していました。具体的にはPMI(M&A成立後の統合プロセス)など、日本企業による海外M&Aの問題が生じています。その中で哲学を伝えることの大切さが重要視されています。

概念としてオープンネスやインクルージョンは当然で、さらに異文化人材の接着剤としての企業理念・企業文化を考えながら国際化することが大切だと思います。

不祥事を生む企業文化

毎日不祥事に関するニュースがあり、その中で組織風土という言葉がよく使われます。上司に逆らえない組織であるとか、厳しさを教えるものとして導入されたものがいつの間にか一人歩きしていることがあります。

よくブラック企業といわれたりします。スルガ銀行の第三者委員会の報告書でも、「統制環境(企業風土)の著しい劣化があったと言わざるを得ない」と書かれています。ただし、違法行為や反倫理的行為が文化や風土という言葉で濁して良いものなのか、非常に疑問に思います。ともすれば、そうした結論によって、どこの誰に責任があるかは言わないという雰囲気になっているのですが、本当にそれで良いのでしょうか。物事には必ず原因があるので、そこを突き詰めていかないと、同じ事が繰り返されるのではないかと思います。

一般的に不祥事の背景として、ガバナンスの不備や、心理学者マックス・ベイザーマンが提唱する「限定倫理性」があります。別に違法行為や反倫理的行為をしようと思っているわけではなく、いろいろな思い込みの中でついついやってしまうのです。だから余計に気を付けなければなりません。それから、大企業病の問題などもあります。これらを補うために、何らかのソフト的な要素を重視しなければならないといわれていますし、企業文化を超えて安全文化やリスク文化が問われる時代になっています。

金融業は、規制業種であることや信用第一などを根拠に、伝統的に真面目なイメージがありますが、バブル期はそれとはおよそ縁遠い行為が行われていました。リーマンショックによってかなり変わったといわれていますが、本当に変わったかどうかはよく分かりません。よく「人心が離れる」という言い方がされますが、多分、業種の中で最も人心が離れているのが銀行業だと思います。

周りの見る目も変わっていますし、必要性も含めて、中にいる人の考え方も猛烈に変わっているので、このまま銀行で働いていていいのかと多くの人が思っています。そういう中で、伝統的な銀行文化を持っている人が残り、そうでない人が辞めていった結果として、銀行文化がこれからも根強く残る可能性は十分あると思います。ですから、変わるとはいわれていたものの、変わっていないではないかと5年後に言われるかもしれません。

企業文化の価値

ゴールドマン・サックスの幹部だったグレッグ・スミス氏は2012年、「なぜ私はゴールドマン・サックスを去るのか」という有名な手記をニューヨーク・タイムズ紙に投稿し、話題になりました。ゴールドマン・サックスは、integrity(真摯さ)を大事にする組織です。それが変わってしまったのが耐えられないとして彼は辞めていったのです。

「ジャーナル・オブ・ファイナンシャル・エコノミクス」の2015年版に、「The value of corporate culture(企業文化の価値)」という論文が掲載されたのですが、研究の動機にスミス氏の投稿を挙げているのです。企業文化が必要であることを認識し、その中でとくにintegrityという概念に着目しています。

それによると、S&P500社の85%は、行動原則や価値観などの企業文化を標榜していますが、それとパフォーマンスに有意な関係はないことが分かりました。一方、「Great Place to Work Institute」が行っている米国企業の従業員を対象とした調査を基にした、従業員の立場から見たintegrityの高さと企業のパフォーマンスには有意な関係にありました。さらには、非上場企業に比べて上場企業がなかなかintegrityを維持できないことも分かりました。

彼らは正直で、integrityとパフォーマンスの関係について、理論的には不完備契約の補完という説明はできますが、integrityの高さがパフォーマンスに結び付くという因果関係を証明できているとは言い難く、実地調査をしないと分からないと言っています。別の要因も考える必要があると思います。

文化は戦略に従う

結論として、「文化とは変わらないもの」という固定観念は捨てましょう。文化を変えるには、トップの強い意志と、当たり前ですが全員参加が必要です。ただ、文化を変えること自体が目的ではありません。文化をソフトパワーに変えてください。そのために、まず自社の文化を把握してください。それから必要に応じて、または戦略に応じて変えてください。そのためのプロセスを検討し、一定のリーダーシップの下に実施してください。その際、ボトムアップによる提案を重視します。そして、文化の意識的定着を図り、PDCAサイクルによって、繰り返していきます。

ということは、従来の文化や社風のレベルではなくなってきて、非常に真逆な言い方をすると、計算手順(アルゴリズム)的な発想が求められる時代になりつつあるのではないかと思います。その点では、アルフレッド・チャンドラー氏の言葉「組織は戦略に従う」をまねると、「文化は戦略に従う」というぐらいに達観する必要があるのではないかと思います。

では、どういう文化が良いのかというと、やはり従業員に向き合っていることがポイントになります。会社は誰のものかというステークホルダー論に絡めて言っているつもりはないですし、いわんや内部留保の使い方を言うつもりもありません。そういう意味では、全て意識や志の問題です。従業員と向き合うことは、ネガティブなことは決して出てこないし、プラスのことばかりだと感じています。

ピーター・ドラッカー氏も文化についていろいろ書いています。優れた組織の文化は、個人の卓越性を完全に発揮させます。卓越性を見いだしたならば、それを認め、助け、報い、そして他の人間の仕事に貢献するよう導きます。したがって、優れた文化は人の強み、すなわち、できることに焦点を合わせているのです。

質疑応答

Q:

日本企業にダイナミズムを生むには、具体的に制度を変えなければならないと思います。

A:

日本企業ではいろいろな問題が起きていて、単にイノベーションが起きにくくなっているだけでなく、不祥事も多いです。その原因は、やはり新卒一括採用にあると思います。ある程度以上の組織であれば、何十年と同じ職場で働くことによっていろいろな問題が生じます。最近は銀行から人心が離れつつあると言いましたが、昔は働く人にとって非常にインセンティブのある組織だったわけで、それが崩れつつあるのです。

従って、問題を解決するにはそこに手を付けなければならないと思うのですが、かといって政府の働き方改革の議論に乗っかるつもりはありません。だからこそ、変えるのは非常に難しいのです。解雇のところだけ容易になると、みんな不安に思うだけで、むしろ守りを固くするだけです。教育サイドも含めて全体として考えていかなければなりません。

Q:

企業ではコア人材だけを社員とし、あとは全く別の扱いにするようなマネジメントが増えています。変化しつつある消費市場を把握しながら、こうしたマネジメントと経営を両立するために考えていることはありますか。

A:

コアの部分以外を別会社がやるのは、コストダウンが目的です。恐らくこれではレベルアップにはならないし、問題解決にはなりません。消費者対応ならば消費者対応のプロをどう育てるかが重要であり、その評価制度をきっちりと整えていかなければなりません。そのためには社内の人事部ではなく、第三者が評価することです。1つの組織を人事部に任せていたのではうまくいきません。

Q:

日本では、集団性を養う教育が自然に行われていると思うので、企業風土だけに変われといっても難しいのではないでしょうか。

A:

おっしゃる通りだと思います。やはり他のところで働いている人が教育現場に行って、さまざまなことを伝える機会を増やし、教育現場も多様性がある社会にしていかなければならないと思っています。

Q:

企業戦略に応じて企業文化を変えるということですが、どういう場合にどういう企業文化にするのが望ましいのでしょうか。

A:

それは今後の課題にしたいと思います。まず自分たちがどういう会社なのかを把握した上で、自分たちの持ち味や経営資源が何なのかを考えることが求められます。そうして自分たちの文化としての立ち位置を考えていくことになると思います。

Q:

企業の不祥事が多いのは、日本特有の現象でしょうか。不祥事が多いバックグラウンドとして何がありますか。

A:

最近の日本企業を擁護している人もいて、「海外にはもっとひどいところがたくさんある」と言う人もいます。日本の消費者は全体的に要求水準が高いので、法律違反ではなくても顧客の要求を満たさないことがばれてしまうような問題がいろいろあるわけです。

これをどう考えるかは実は難しい問題で、性能や安全性にはそこまで影響しません。だから、日本企業はまだ持っているのです。日本企業という高い道徳観、倫理観の下で、それに追随できる技術水準を持っていなければならないのだと思います。でも、中国や韓国も倫理性などの観点も含めてレベルが高まってくると思うので、日本企業が競争力を維持するためには、高い道徳観、倫理観を最低限のこととして克服する発想は必要です。

他で起きたことは必ず自分の会社でも起きます。それぐらいの考え方で社内をいろいろ点検していくと、不祥事対策だけでなく、働き方やイノベーション上の課題がいろいろ出てくると思うのです。そういう発想で社内を総ざらいしていただければと思います。

Q:

今後、日本企業がイノベーションを起こすに当たって、企業文化の観点から何が求められますか。

A:

やはりみんな大企業病にかかっていると思います。これを克服するのは容易ではありません。逆に言えば、克服できている企業は世界でも数少ないです。やはり大きな組織はなかなか難しいので、私は基本的に分割しかないと思っています。ホールディングカンパニーの下でやっていくのも一手ですし、完全に切り離してスピンアウトさせるのも一手だと思いますが、そういうことを柔軟にしていかないと、1つの企業でやっていくのはなかなかしんどいと思います。

そこで制約になるのは日本の場合、「就職」ではなく事実上、「就社」になっていることです。組織から出て行くことや、名前が変わるところに行くことへの抵抗感が強いので、そうではないことを経営全体で真剣に向き合って話しかけていくことが必要だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。