内外経済の情勢-日本の持続的成長に必要なものとは

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開催日 2018年7月25日
スピーカー 武田 洋子 (三菱総合研究所政策・経済研究センター長)
モデレータ 井上 誠一郎 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省経済産業政策局調査課長)
開催案内

2018年の世界経済、日本経済は緩やかな成長が見込まれるものの、トランプ大統領の主導による米国の保護主義化が強まり、また米中が貿易戦争に向かいつつあるなど、複雑で混沌とする世界情勢の中で、リスクは高まっている。三菱総合研究所の武田洋子政策・経済研究センター長は、そうした世界経済、日本経済の現状をひもときつつ、米国に端を発する保護主義が世界に連鎖することが最大のリスクであると指摘。日本企業が自律的な成長を遂げるためには、いかに付加価値を高めて生産性を上昇させるかという点に目を向けた取り組みが必要であると述べた。また、日本経済の持続的成長に向けたポイントとして、イノベーションで社会を変革すること、「学び」「行動する」人材の育成、人生100年時代を支える財政・社会保障制度への変革について重点的に説明した。

議事録

世界経済の現状と展望

武田洋子写真世界経済は今年、米国の減税などもあって緩やかな成長が続くと予想されますが、政治、外交、地政学的リスクが懸念されます。保護主義が進んでいる背景には米国の中間選挙が意識されている面もありますし、欧州ではBrexit(英国のEU離脱)の行く末、不安定な中東情勢といったリスク要素があります。そして、米中が貿易戦争に突入しつつある中、世界経済にどういった影響を及ぼすのかが注目されます。従って、焦点はむしろ2019〜2020年の世界情勢だと思っており、ここへ来てその懸念がやや強まっていると思います。

米国経済は堅調であり、企業・家計のマインドが強いことと雇用市場が極めて良好であることによって支えられていると思います。やはり減税が効いているのではないでしょうか。米連邦準備制度理事会(FRB)も持続的な景気拡大と労働市場の強さを理由に緩やかな利上げが望ましいと判断しています。ただ、2019年になると成長が鈍化する可能性が高いので、FOMCが中立的と考えているFF金利水準を超えた後さらに引き上げるのか、そこからは様子見になるのか、2019年以降の利上げベースが焦点になるでしょう。

では、トランプ氏がなぜここまで保護主義に走るのでしょうか。彼は「米国ファースト」ではなく、「自分ファースト」だからだと思います。明らかに米経済に悪影響が出ると分かっていながら、保護主義を歓迎する人たちの支持を得るために保護主義的な通商政策を続けています。

実際、トランプ政権の支持率は4割を維持しているものの、興味深いのは共和党支持層と民主党支持層が真っ二つで、中でも共和党支持層の支持率が極めて高い点です。レーガン氏のときも共和党の人気は高かったのですが、レーガン氏よりもトランプ氏の方が共和党支持層の支持率が高いという驚くべき結果が出ています。

トランプ大統領は、なぜ中国をターゲットにするかといえば、それだけ中国経済が米国にとって脅威になっているからなのでしょう。習近平国家主席は、世界の大国として舞台の中央を狙う姿勢を取り始めています。背景は2点あります。1つは中華民族の偉大な復興をかなえる時期が来ていると判断しているのだと思います。中国はいまや米国に次ぐ世界第2位の大国ですし、清王朝時代、あるいは中華民族という点では明王朝のレベルまで豊かになることを目指し、「偉大な復興」を遂げる時期がみえてきたのだと思います。それを意識して一帯一路投資なども拡大しています。

もう1つの背景は、米大統領にトランプ氏が就任したことです。恐らく習氏自身は中華民族の復興を目標に掲げていると思うので、その点では世界に認められるリーダーを意識し始めたのではないかと感じます。

実際、国家主席の任期を撤廃したので習近平政権が長期間続くことは確実であり、今後は経済が本当に持続可能かどうかが注目されます。私は中国経済が中期的に成長率は鈍化するもののGDPの拡大は続くと予測していますが、その根底にあるのは技術力だと考えます。中国はAI産業市場も急速なペースで伸ばそうとしていて、2016年以降の3年で3倍の規模になりつつあります。また、知的財産の国際特許出願数も日本を抜いて世界2位に躍り出ています。

しかしながら、中国は債務の問題を抱えています。中国の民間債務のGDP比率は日本のバブル崩壊時のピークをも上回っており、現在それをデレバレッジする段階に入りつつあります。これから高齢化が進む中、社会保障制度がきちんと整備されない状況で国民の不満を押さえられるかという点も大きな課題です。この光と影のペースのどちらが速いかによって中国経済は左右されるでしょう。

欧州は、リーダー不在が一番の問題です。当面注目されるのはBrexitですが、英国のメイ首相は閣僚の辞任が相次ぎ基盤が揺らぐ中、Brexitの実質的な交渉を進めるのはなかなか難しい状況にあると思います。また、EU不支持が多い国々のGDPは、EU全体の44%を占め、中長期的なEUの持続可能性という点でも、今の状況を乗り越えられるかどうかが注目されます。

世界経済をまとめると、現状は堅調ですが、保護主義の連鎖が最大のリスクであり、世界経済に影響を与える経路として3つ考えられます。1つ目は金融市場のリスク回避姿勢の強まり、2つ目は米中経済の同時失速、3つ目は世界的に企業の投資活動が低迷することです。

日本経済の展望と課題

日本経済は、1〜3月期にマイナス成長に転じましたが、緩やかな拡大基調を維持している見方は変わりません。ただ、短期的なリスクとしては3つあると思います。

1つ目は、西日本豪雨の影響が短期的に現れます。全国の製造業出荷額の8%が被災地になっており、完全復旧に1カ月以上かかれば四半期レベルでネガティブな影響が出ると思います。2つ目に、保護主義の影響です。付加価値源泉国という観点で見ると、中国からの輸出のうち電気機械の10%、輸送用機械・一般機械の5%が日本です。そのため、大きな影響ではないにしろ、ボディブローのように効くでしょう。3つ目が世界の半導体需要の行方です、現在は非常に好調ですが、トレンドを大幅に上回って伸びてきたため、一服してもおかしくありません。

次に消費ですが、これだけ失業率が低下し賃金も緩やかに上がる中、消費が力強さを欠く状況が課題です。弊社では生活者の方に、消費が前向きになるために何が必要かというアンケート調査を続けていますが、一番多い回答が賃金上昇、2番目が将来の社会保障制度への不安でした。従って、しっかり賃金を上げることに加えて社会保障制度を持続可能なものにし、安心感を国民に示すことが重要ではないかと考えます。

自律的な成長に向けて企業の取り組みも非常に重要だと思います。人手不足を懸念する声をよく聞きますが、人手不足に対する対応で製造業・非製造業ともに圧倒的に多いのが業務改善による生産性向上です。これは言い方を換えれば現場のガッツで乗り切っているようなものであり、人材育成や設備投資、AIやIoTの活用、賃金引き上げなどはできていません。

この状況を変えていくには、いかに付加価値を高めて生産性を上昇させるかという点に目を向けることが必要です。これは恐らく半年や1年では成果が出ないけれども、3年後の日本を大きく変えるのではないかと思います。しかし、企業が中長期的な成長市場開拓への取り組みをどのくらい行っているかというと、「取り組む予定がない」という企業が半数を超えます。これを転換し、取り組みを加速する環境をつくることが日本の重要な課題だと思います。

長期的に世界を左右する潮流

そうした環境をつくることの重要性は、中長期的な世界経済の潮流をみても増しています。多極化が進み、国家資本主義国のGDPシェアがより一段と高まります。ブロックチェーンなどにより分権化が進むのか、プラットフォーマーによってデータの集権化が進むのかといったあたりもポイントになると思います。

経済面では、アジアへの経済重心のシフト、米中・日印のGDPの逆転が2030年までに展望されます。社会的には、高齢化社会、社会の分断が進み、シェアリングの加速による循環型社会が実現するでしょう。さらには現実社会とサイバー社会の融合、AI、IoTはもとよりバイオや医療の世界で大きな変革が起こると予想されます。

日本経済の持続的成長に向けて

世界の状況が大きく変わるとともに、技術面でも動きが加速する中、日本経済が持続的成長を遂げるのには何が必要でしょうか。三菱総合研究所では5つ挙げていますが、本日は3つご紹介いたします。

まず、イノベーションで社会を変革することです。日本は人口が減少するから、どんなに成長戦略をとっても無駄だという声をよく聞きますが、成長率を決めるのは人口だけではなく、それ以上に生産性の動きが成長率を左右しています。

日本は起業が少ないとよくいわれますが、戦争直後はむしろ起業が活発に行われ、人も流動化していました。したがって、日本人が起業が苦手なわけではないし、時代を下るにつれ起業が少なくなったと思っています。

人口構成が変わるということは人々の求めるニーズが変わるということです。人が求めるものを企業が追求していけば、ポテンシャルはあります。そして、それを実現するための技術基盤、デジタル基盤として何が必要かという視点を持つことはイノベーションのヒントになります。

それを証明するために、弊社では生活者に対し「未来のわくわくアンケート」を実施し、これから起きるであろう先端技術を用いた財・サービスへの支払意思額を聞いたところ、ウェルネス、安心・安全、モビリティ、環境・エネルギー、自動化・効率化などへの消費者のニーズが極めて強く、約50兆円の新しい市場が潜在的にあることが分かりました。この潜在ニーズを顕現化させるためには、企業が中長期的に新しい市場を開拓するという意識を持つことと、政府が規制の壁を取っ払うことが必要です。

中でも日本の産業構造に今後大きなインパクトを与えるのがモビリティ革命です。このまま電気自動車(EV)とシェアリングだけが普及し、日本が新たなサービスを打ち出せなければ、新たに生みだされる自動車生産額は減っていきますから、自動車産業が生みだす付加価値額は減ることになります。

しかし、自動走行を行えるようにし、自動走行を行えるからこそ広がりを持ち得るモビリティサービスにつなげられれば、付加価値は全体としてプラスに転じます。従って、日本が積極的にモビリティ革命をチャンスと捉えて新たな市場を切り拓く方向にかじを切るかどうかによって、2030年の付加価値は大きく変わり得ると思います。

2つ目のポイントは、人材が何よりも大事だということです。日本では今後、労働供給が減り人手不足がますます厳しくなるという見方と、AIやロボティクスの広がりで人手が余るという2つの見方がありますが、時間軸によってプラスマイナスの影響の出方は異なるようです。2020年代半ばごろまでは人手不足が顕著ですが、AIやIoTが進めば単純労働が不要となり、クリエイティブな業務に人々がシフトすることで人手不足が解消し、専門人材は不足するけれども事務人材は余剰になります。すると、人手不足ではなく、職種のミスマッチの方が問題になります。

そのミスマッチを解消するため、日本の人材ポートフォリオを明らかにしてみました。縦軸をノンルーティン(創造的なタスク)とルーティン(定型的なタスク)、横軸をコグニティブ(分析的なタスク)とマニュアル(手仕事的なタスク)とし、4象限に分けたところ、日本はルーティンの人材量の方が多く、これをどうやって引き上げるかが課題になります。

4象限で国際比較すると、日本はノンルーティン・コグニティブの割合が英米に比べて低く、ルーティン・マニュアルが高くなっています。われわれの試算では、人材のミスマッチを解消するには少なくともノンルーティン・コグニティブを10%、ノンルーティン・マニュアルを16%増やす必要があります。

そのために必要なものとしてFLAPサイクルを提言しています。まず、今の自分の適性と職の適性のギャップなどを知る事(Find)。学ぶ(Learn)事に関しては、日本の学士課程入学者に占める25歳以上の割合は2.5%ですから、OECD平均の17%まで引き上げることです。それを受けて行動(Act)するためには、企業も制度改善や環境整備が求められます。そして、新たなステージで活躍する(Perform)ためのサイクルが必要です。

そして、最も大きなポイントは社会保障制度の改革だと思っています。人手不足で失業率が低いにもかかわらず、賃金が上がらず、消費の伸び方が鈍いのは、社会保障の影響が大きいと考えています。企業からすれば社会保険料負担が年々上がり、消費者からすれば将来不安があるため貯蓄するという行動に効いています。

一番強調したいのは今後支え手が減るという事実です。高齢者が働けばその問題は解決するという人がいますが、必ずしも正しくありません。シニアが社会に貢献することは重要ですが、それだけでは解決しません。生産年齢人口の定義を74歳までにしたところで、レベルは上方へシフトしても下がっていく方向性は変わりません。では、社会保障改革をどう進めていくかというと、小さなリスクは自助で、大きなリスクは皆で支えるという原理原則にもう一度立ち返るべきだと私は思います。

とくに喫緊の課題は、団塊世代が75歳に達する2022年問題です。75歳になると後期高齢者となり、大部分が1割負担になります。そうしたときに日本の医療制度は本当に持つのかという危機感を持って、2022年に向けて政治レベルで決着を付けなければならないと思います。

ただ、こうした痛みを伴う改革だけでは国民が受け入れない可能性があります。むしろポジティブに捉えるには、まず社会保障制度改革をなぜ行うのかという説明が必要であり、最も重要なのは高齢者にとって社会保障制度の持続可能性の重要性をきちんと説明することだと思います。なぜなら、20年後に社会保障が持続しなくなると、一番困るのは団塊世代だからです。いよいよ働けなくなったころに制度がしっかり持続しているためには、今改革を行うのだということをしっかり伝えることが重要です。

しかし、全てを公的セクターが担うのはなかなか難しいです。そこで、新技術の活用が鍵となります。ポテンシャルは高まっていると思います。シニアにもコミュニティで力を発揮していただき、社会の支え手も増やしていくことをしっかり組み合わせて考えることで、人生100年時代においても質の高い人生を過ごせる社会を築けると思います。そうすれば、三菱総研が日本経済のあるべき姿として掲げる「挑戦と変革がゆたかさを育む社会」を実現できることでしょう。

質疑応答

モデレータ:

来年の消費税率引き上げとオリンピック後の反動減の影響についてどうお考えですか。

A:

2019年の日本の成長率予測は消費税を織り込んで0.7%ですが、これは潜在成長率並みの成長です。実質所得の落ち込みが発生するため、その分成長率は低下します。今後、経済政策なども行われると思うので、それがどのような内容になるかもみていく必要があります。

むしろ心配なのは、中長期の日本経済です。われわれは2030年にはほぼゼロ成長と予測しています。

0%台の成長まで下がっていくのをただ見ているのか、企業が新たな成長市場開拓に本気で取り組むのかによって、中長期の成長率は左右されると思っています。

Q:

地域が持続的に発展する社会に向けて、いつまでも東京目線で全体平均的にマネージするのは難しいと考えると、地方分権や道州制の議論に結び付くと思うのですが、この辺りでもう少し突っ込んだ研究はありますか。

A:

人口減への対策は、後ろ向きだけれども対応しなければならない部分と攻めに転じなければならない部分があり、過疎化していく地域は残念ながら前者に懸命に取り組まなければなりません。政府も「コンパクト・プラス・ネットワーク」を推進していますが、国全体として各自治体にビジョンや方向性を示す必要があります。集積すれば経済が良くなるという分析もあるので、一定程度はまとまっていくことは守りの部分の対応として必要だと思います。

一方、ネットワークでつながるようになると、地域にとってメリットも増え、それが経済の自立につながるのではないかと思っています。なぜなら、テレワークや仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などにより、住む場所と働く場所、消費する場所が同じでなくなる可能性が十分あるからです。この点は地域にとってプラスの面が大きいと思います。

グローバルに直接つながる可能性も増え、そこから得たヒントを基に新しい商品・サービスをグローバルに打って出るチャネルも増えます。地域でイノベーションがより生まれ、ニッチだけれども世界トップになるような企業がもっと生まれるようになるでしょう。

Q:

日本市場だけではやっていけないので、スタートアップ(起業)でどんどん海外へ打って出ようという雰囲気に変わってきていると思うのですがいかがですか。

A:

そう思います。実際、スタートアップは増えていますし、学生の意識も大企業に入れば良いという雰囲気から、ベンチャーをやってみようとか、スタートアップに行くのが格好良いという意識に変化してきています。また、大企業でもオープンイノベーションを模索する動きが加速しています。もう1年ぐらいすれば、日本は変わってきたなということがより統計的に実感できるかもしれません。

Q:

日本でもまだまだノンルーティン、コグニティブの仕事が多いと思います。

A:

今回紹介した人材ポートフォリオは、米国のO-NETを使って、米国の職業の人たちがどんな特徴を持っているかをまず抽出し、それを日本の職業に当てはめて分析しています。日本の現場においては、それぞれの工夫でうまく暗黙の了解で進められている強さがありますが、こういう分析ではそこを織り込めない難しさがあります。

実態としては、ルーティンに見えている業務の中にノンルーティンの要素が3〜4割あるのではないか、ノンルーティンの中にもその逆が入っているのではないかということで、確かにその点は気を付けて分析・提言していきたいと思います。

Q:

日本は既得権に縛られた構図が強く、規制緩和のアプローチをもう少しきちんとやっていかないと変わっていかないと思います。

A:

特に課題だと思っているのが、社会保障の分野です。しかし技術によって解決できることも増えています。画像診断や遠隔診断、データ活用が国民にメリットのある形で行えるようになることが大きなポイントで、国民にとって良いことなのだということがもっと示されて実装されれば、抵抗も解消されていくと思います。併せて、制度改革、規制緩和も同時に進めていくことが大切であると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。