新しい社会と知財のビジョン-「価値デザイン社会」を目指して-

開催日 2018年7月20日
スピーカー 住田 孝之 (RIETIコンサルティングフェロー/内閣府知的財産戦略推進事務局長)
スピーカー 安宅 和人 (ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー(CSO))
モデレータ 池内 健太 (RIETI研究員)
ダウンロード/関連リンク
開催案内/講演概要

今回のBBLでは、2018年6月にまとめられた知的財産戦略ビジョンについて、RIETIコンサルティングフェロー兼内閣府知的財産戦略推進事務局長の住田孝之氏と、同ビジョンに関する専門調査会の委員であり、ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー(CSO)の安宅和人氏が解説した。イノベーションの軸足が需要サイドに傾斜する中で、同ビジョンが示す日本社会の方向性は、特徴を生かしつつ、新しい価値を次々に構想し、発信し、これが価値だと定義してしまうくらい世界にも認められるようになる「価値デザイン社会」である。未来の社会において中核となる価値は何かを、専門調査会の委員と事務局の間でタブーなく議論を戦わせた、その過程を紹介しつつ、今後の日本社会に必要な考え方とは何か、日本の問題点はどこにあるのか、参加者とともに意見を交わした。

議事録

21世紀における価値観の変化

住田孝之写真住田氏:
本日は6月にまとめた知的財産戦略ビジョンについて発表します。なぜビジョンを検討したのかというと、知財の本来の目的であるイノベーションの将来の方向性を明確にする必要があると考えたからです。まずは20世紀と21世紀のデマンドとサプライの関係をまとめました。

20世紀はデマンドの方がサプライより大きい時代でした。現代に比べて物が不足していたため、新しい製品を作りそれが売れればイノベーションが起きて、利益が出れば開発費に充てられる。そのため、特許を取っていれば儲かる時代だったのです。ところが21世紀ではデマンドの方がサプライより小さくなっています。これは冷戦が崩壊し、中国等の旧東側諸国が市場に参入するとともに、各国が軍事にかけていたお金が経済に流れ込んできたために、世界経済の競争が激化してサプライが急増したことが1つの原因です。

これにより、デマンドが市場をリードする、つまり新しい製品を作ってもデマンドに選ばれなければ売れない時代となってしまいました。そして多様な要求をする需要サイドに応えるために、複雑な対応が求められるようになりました。すると1つの会社では解決しきれないことも多いため、複数の会社で開発を進めるオープンイノベーションが必要となります。これが21世紀における大きな変化の1つです。需要サイドの要求内容をよく知るためにニーズやウォンツが重視されるようになり、需要サイドを意識したイノベーションが行われ、製品ではなくビジネスをデザインする「デザイン思考」が鍵となっています。

もう1つの変化は、IoTの進化によって需要サイドの行動データが取りやすくなり、またAI技術によってビッグデータの分析が容易になったことです。20世紀はモノ、供給サイド、技術中心だったのが、21世紀ではサービス、需要サイド、デザイン中心となってきたということです。

ビジョンの検討

需要サイド中心ということは、社会の実情を知らないとイノベーションは起きません。そこで社会の未来を考えるために、この知的財産戦略ビジョンを作り始めました。未来を語れる12人の精鋭メンバーとともに、知財ビジョンのための専門調査会を立ち上げ去年の冬から議論を始めました。事務局が用意した資料を基に議論するような審議会形式ではなく、委員を3つの小グループに分けて活発な議論を行いました。各グループで話した内容は、全体でも議論して1つのストーリーにまとめていきました。またチャタムハウスルール(*)を採用し、発言者は匿名として、会議の途中で発言内容を訂正できるようにしたことも功を奏し、闊達な議論が進められました。

(*)参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができるが、その発言者を特定する情報は伏せなければならない。このルール下では、自由闊達な議論を確保できる利点がある。

まず現在の変化をまとめ、未来ではどんなことが価値となるのかをまとめました。生き方、働き方の多様性もその1つです。またデジタル化が進むことで、不可逆的にリアルに価値が生まれています。いつでもどこでも連絡ができるようになったからこそ、あえて会うことに価値が生まれます。しかしこれは世界全体で見られる動向です。そこで日本の特徴を採用したり手直ししたりしながら、それを生かした仕組みを作ろうという話になりました。そこで日本の特徴として出てきたのが『バランス感覚』です。「売り手よし、買い手よし、世間よし」などと言っている国は日本くらいで、独り勝ちしないことに価値を置くのが日本の特徴です。また新しいものを受け入れ、それを修正して、さらに編集して高めていくことができることも特徴の1つです。一方で均質的な社会になってしまっているため、これを見直さないと個の多様性が生まれないというのが課題です。

これらの議論を経て、次のようなキーワードが出てきました。「脱平均」、「異能が集まりアイデアが湧く『スカンク状態』」、「やってなんぼ経済」「信用経済、評価ドリブンの貢献GDP」「コンテンツ創造・活用エコシステム」「手入れが行き届いた『インモラル』」「新陳代謝」の7つです。特に面白いのは「手入れが行き届いた『インモラル』」で、コンプライアンスでがんじがらめにせずに、規制など制度に適度な余白をうまく使うといった議論がありました。

こうした日本の特徴をうまく活用し、「価値デザイン社会」に挑戦して、さまざまな新しい価値を創造して世界に発信し、世界のトレンドを作る社会にすることが今回のビジョンの最大のメッセージです。そのために、まずは脱平均によって個々の主体を強化しなければなりません。次にそこで生まれた多くの価値やアイデアを分散して融合する、何らかのプラットフォームが必要になります。また世界の共感を得るためには、国全体のブランドを強化し、世界に多くの「ファン」を作っていくことが大切です。

「デザイン力」を育て、イノベーションを起こすには

そのための鍵を握るのが「デザイン力」です。特にこれが必要となるのは経営戦略を考える人材です。未来の社会をデザインした上で、ビジネスモデルをデザインしていく力が求められます。ただし1人でやる必要はなく役割分担をする、つまりデザインする人と運営していく人は両方いて良いのです。ではデザインやイノベーティブな発想に必要なことは何か、それは楽しむことです。孔子の「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉の通り、知識がある人もそれを好む人には適わず、それを好む人も楽しむ人には適いません。

イノベーティブな発想を起こすには普段のオフィスではなく、第三の場所、第三の時間が必要です。異なる分野の人が集まる「場」、コミュニケーションを活性化させる「仲介者」、闊達な議論を行う「ノウハウ」が求められます。そこでは「楽しい」という感覚が重要になるので、プレミアムフライデーのような仕事から切り離された時間が生かせるといいと思います。現在のプレミアムフライデーは娯楽の時間のようになってしまっているので、今後は方針を見直さなければいけません。そうした時間を作るには、R&Dの世界にあるような「15%ルール」を事務職にも適用することが効果的でしょう。研究者は予算の15%を自身のアイデア創出のための時間に充てられるというものですが、事務職の場合には、例えば1週間(5日)を午前と午後で分けると10コマあるうち、少なくとも1コマを職場以外の「イノベーティブな発想をする場」に行くようにするなど工夫が必要です。

具体的な取り組み

知的財産戦略ビジョンには「Full-moon Project」という取り組みが出てきますが、これは多様な人材が、個々が有する複数の能力を、時間を区切りながら発揮することができるよう、個人の能力や時間と、そうした能力を使いたい側の要望(求める能力・役割と時間)をマッチングするシステムを一般的に利用しやすいものとして整備するというものです。これにより現在光の当たっていない才能にも光が当たり、さまざまな形で自分の能力、時間、意欲を活用できるようになります。こちらはすでに一部の地域で採用を進めています。

また最近注目のSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)についても、さまざまなシーズとニーズをマッチングするプラットフォームが必要であるという意見が出ています。現在のような時代では、すぐに知財として囲い込んでしまうのでなく、情報をオープンにしつつ、誰が何の情報にどうアクセスしたか、その情報がどう使われたかを明確にすることで、マッチングをよりスムーズにできるかもしれません。

その他、コンテンツのマッチングや、ブロックチェーンを使った権利管理のシステムの構築など、多くのアイデアが挙げられました。

世界に共感を得る

最後に、世界に共感を得るという話ですが、AIは共感することができません。つまり共感は人間がやり続けることであり、これはとても重要なことだといえるでしょう。

1つの方法として、「クールジャパン」という取り組みがあります。これは日本人が良いと思う日本固有の魅力ではなく、外国人が良いと思う日本の魅力のことです。ウォシュレットや弁当箱など、日本人からすると意外なものが魅力として挙げられています。こうした外国人が良いと思う日本の魅力について、その理由を詳しく分析して、効果的に発信・展開するという活動です。

関連分野としては、物質的なものから精神的なもの、古いものから新しいものまで多岐に渡りますが、ここまで幅広い魅力を持つ国は珍しいです。入口が多いので、まずは関心を持ってもらえたら、他の分野にもつなげていくことで共感を深めることができます。ただし、国によって関心を示す場所が違うので、その点は注意してマーケティングすることが必要です。

日本に関心を持つ外国人を登録して一定の便益を供与するなど、「日本ファン」を増やす取り組みを推進していきます。それをベースに、さまざまな目的で日本に長期滞在・定住を志向する外国人を増やす取り組みを推進し、より多くの外国人にクールジャパンの需要者、さらには担い手としての活躍を促すことについても検討を行っています。

イノベーション創出のために日本ができること

安宅和人写真安宅氏:
専門調査会での議論は非常に面白い場でした。住田局長の度量で、画期的な議論が行われました。議論の中で感じたことをいくつか述べたいと思います。

日本は、一人当たりのGDPや生産性、論文数、大学の分野でも世界におくれを取っています。非常に危機的な状態です。社会では人間による判断がAIに置き換わったり、分子レベルの機械が誕生したり、これまでのものづくりとはかけ離れたものづくりが始まろうとしています。さらに経済の中心が久しぶりにアジアに戻ってきていて、日本にとってはチャンスでもあります。こんな多面的に確変モードの千載一遇のチャンスにある中で、日本のポテンシャルを生かすにはどうしたらいいのかが議論の中心でした。

特に大切だと感じたのは次の3つです。1つ目は、未来は予測できないということです。同じことが起きても、結果は同じになるとは限りません。地球の歴史を繰り返しても人類は生まれないでしょう。未来は、夢なり課題を技術で解決し、デザイン的にパッケージしたものです。つまり未来は目指し、作るものなのです。「これからどうなるか」を考えるかより「どういう姿を目指すのか」「どういう世界を作りたいのか」が圧倒的に重要だということです。

2つ目に、富の生まれる方程式が変わってしまったということです。もはやスケールでは富にならず、アップデート(刷新)、ゼロからイチを生み出せるか、が富を得る鍵となる時代なのです。その背景には、先ほど述べた通り、多面的に技術革新が進んでいること、また、主要先進国および中国が人口調整局面に入ったことがあります。この結果、昨年春にテスラの事業価値がGMの事業価値を追い抜いたような、「下剋上」があらゆる分野で起こりやすい局面にあります。イノベーションの創出、異質な組み合わせが必要であり、そのためには生態学的な意味での多様な社会のニッチ(生態学的な空間・場)が必要です。多様性と言っているのはこのことで、これらをどうやって意図的に生み出せるかが大切です。

3つ目は、それを生み出せる人材はこれまでと違い、普通の人とは明らかに違う「異人」(異能な人材)であるということです。これらを踏まえて「価値デザイン社会」と言っているのであり、日本は常にイノベーションが起き、僕らの作りたい未来を創る国、ゾクゾクするようなものが果てしなく生まれる国であってほしいと思っています。日本の持つ素材とユニークさを生かしてイノベーション、そういう人が沸き立って集まる場作りを仕掛けていこうというのが私たちの議論の中心であり、今はとても面白い局面を迎えています。

質疑応答

モデレータ:

専門調査会について、進め方が特徴的で、委員も異能な方々が集まっていたと思います。今回のような、ゴールがはっきり見えない議論において、困難や課題があれば教えてください。

住田氏:

今回はあえて座長を設けませんでした。その分、よりオープンな議論ができました。しかし事務局が議論をまとめると、委員から「もっと熱い議論をしたはずだ」とか「こういうのはまとめなくていい」という意見も出て、事務局側は苦労しました。しかし、達成感を感じた委員も多かったので、成功だったと思います。

安宅氏:

おっしゃる通り、まとめる側は相当苦労したと思います。やってきたものを形式化すると大事なものがそぎ落とされてしまうので、議論の中にいる人が感じたことをうまく言葉にするのが難しかったと思います。

住田氏:

そのあたりは、資料の中にもある、7つのキーワードにまとめたつもりです。うまく言葉にできたかは分かりませんが、ある程度は伝わるものになったと思います。

安宅氏:

この報告書には、視点というものがたくさん含まれています。よくある冒頭を読めば分かるというものではなく、真ん中の方に重要な点が多く含まれています。

住田氏:

このビジョンの冒頭にもエグゼクティブサマリーはあります。これはかなり熱量を込めて作っているので、ある程度分かりやすいものになったと思っています。

Q:

この審議会を経て、これまで気づかなかった視点や、新しい発見があれば教えてください。

住田氏:

たくさんありますが、たとえば、デジタル時代にリアルの価値が向上するなど、価値観の多様性については考えさせられました。また日本の特徴をどう生かして制度設計をするかについては、特に難しいと感じました。日本の経済産業省や産業界は未だ供給サイドの視点を捨てきれないということも感じました。成功している企業は需要サイド、つまり社会の側からよく見てデザインしています。特許から入るのではなく、サービスなどアウトプットから入っていかないとこれからのイノベーションは起きないのですが、それがなぜなかなか広がらないのか不思議に思っています。

安宅氏:

このような不連続な変化が進む時代においては、今までの大企業は自ら刷新するか、それができなければ縮小する運命にあります。経団連に代表される大企業群は、今ある世界と企業ランドスケープの刷新をはかるべきです。カネや信用など大きなパワーを持つ人たちが、いかに新しい人材を生み出せるか、新しい動きや事業体の強烈な母体になれるかが勝負になります。160年前に藩主や豪商がスポンサーになって、あるいは戦後に多くの信用を持つ人達が、若い人たちに莫大なチャンスや、お金、パワーを与えたおかげで日本の現在があるわけです。現代でも経団連企業、経済産業省や内閣府などを励まして、こういう未来をつくる若い動きに対するスポンサーになってもらうことが大事です。1990年代前半ぐらいまでは経団連の幹部層にも起業家たちが何人もいましたが、今はいません。今こそ日本はそこに立ち返って、どんどん世代を変えていく必要があるでしょう。

Q:

デジタルからリアルという話がありましたが、リアルには都市や街も含まれると思います。日本最大の都市である東京は、東京大学を含めそれなりの研究水準がありますが、一方で生産性についてはシリコンバレーやボストンなどと比べ芳しくないように思います。東京のような日本の大都市が他国の大都市に比べてうまくいかない理由について意見をお聞かせください。

またAIや自動運転を街に実装していく上で、新しい生活をデザインしていくことが大事だと思うのですが、日本がすべきこと、またはした方がいいことなどがあれば教えてください。

住田氏:

1つ目の質問について、特に東京の人は失敗を恐れてチャレンジをしないことが1つの要因です。大阪では「とにかくやってみよう」という精神がより普及しているので、そういった精神を東京圏にも持ち込めば、かなり変わると思います。

2つ目の質問については、ドラえもんシティーのようなものを作って、アニメに出てくるようなアイデア製品をどんどん作ってみたら面白いと思います。多くのアイデアがあるのに、なぜ日本では実際に作ってみようとしないのでしょう。もちろん安全には気を付けつつも、いろいろな実験を繰り返して失敗できるような場所を作るといいと思います。

安宅氏:

東京はそれほど悪くないと思いますが、日本という意味でいうと、なんでも東京と大企業頼みであることが原因だと思います。今までの仕組みを作り、それを回すことが主たる業務である大企業から何か画期的なものが生まれることはそもそも難しく、それを期待すること自体が間違っています。

また日本では莫大な経済的リソースが、シニア層と地方を中心とするインフラに投下されています。道のないところに道を作ることは未来投資になりますが、道があるところに道を引き直すことは未来投資にはなりません。投資利益率(ROI)を見て投資をすべきなのに、日本は豊かであるがために、お金の使い道を間違えてしまっているのです。大企業頼みではなく新しい世代にも投資する、ROIの良いところに投資する、これだけで劇的に変わると思います。

また人材モデルも刷新すべきです。夢を描ける、デザイン力のある新しい人材モデルが必要です。いつまでも30年前のモデルを踏襲していたのでは変わることはできないでしょう。

Q:

自身はまさに供給サイドですが、自動車産業は自動運転の発展によって、あと10年もすれば傾き、20年もすれば崩壊するでしょう。これは家電産業や出版業界ではすでに起こっていることです。そんな中で日本はどうなるのかと懸念しています。メリカリなど細かなところでは面白い動きもありますが、アメリカのGoogleやFacebookのような大きなイノベーションは起きていません。日本は時代の変化の中に沈んでしまうのでしょうか。

教育の問題としては、従来のように全ての人を平均的な人材に育てるのではなく、アメリカのように飛び級制度で優れた者を早く世に送り出すなど、思い切った改革が必要でしょう。これらの点について、ご意見をお聞かせください。

住田氏:

このまま行けば、先行きは暗いです。これは誰もが分かっていることなのに、なかなか誰も動かないのが実情です。幹部クラスは定年まで逃げ切れるかもしれませんが、若年層はそうはいきません。そこをもっと焚きつける必要があります。才能やポテンシャルのある人材もいるはずです。本気で動けば変化は起こります。政府にできることは、もっと危機意識を高めることでしょう。今回のビジョンの目的もこれで、1人でも多くの人が危機感を持って臨んでほしいと思っています。

安宅氏:

繰り返しになりますが、普通に考えれば今の大企業は変わらない限り、いずれ消えます。当然のことであり、そう考えられないことの方が問題です。若い才能と情熱を解き放ち、境界・異質な領域をガンガンと作っていく必要があります。

GAFAなどに代表されるデータやAIを使い倒す産業については、データ量とその処理力、優秀な人材が必須条件です。この視点から考えると、日本は大幅におくれています。まず基礎的な情報量については、言語面で不利があります。英語圏と中国語圏にはかないません。これはどうやっても変えられないことなので、絶対に勝てない「入口」(入力側の情報処理)側で戦うことはやめて、日本の得意とし、データをそもそも握ることが出来る「出口」(産業別用途)側の産業に力を入れるべきです。

次にデータの処理力ですが、日本はビッグデータ技術などは米国などに握られている上、深層学習など最近熱い分野の研究者の層も薄い。さらに情報処理コストも米中と比べてかなり高く、足かせとなっています。

最後に人材についても深刻な課題がありますが、現在、産官学で三位一体となって取り組んでいます。国家のレベルはリーダー層のレベルの高さで決まるので、そこの高みをどんどん高める必要があります。飛び級の議論を考える以前に人材育成モデルを刷新することが必要です。これまではスケール型時代に適した文系の人材を多く生み出してきたため、理系の層が薄くなってしまいました。先程申し上げたとおり、課題を技術で解決してパッケージ化することが、これからの価値を生みます。従ってデータリテラシー、デザイン素養のある人材を生み出すことが大切です。

できないことを批判するより、できることをやるべきです。確かに危機的な状況ですが、打つ手がないわけではありません。歴史においては、日本はこの小さな国土で大きなイノベーションを数多く起こした国です。深く考えずに、まだ体力やお金があるうちに問題が起きていることを幸運と捉え、問題をすり替えずに正直になって取り組めばまだ間に合います。頑張りましょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。