消費増税前後の経済変動はなぜ生じるのか

開催日 2018年3月29日
スピーカー 森信 茂樹 (東京財団政策研究所研究主幹 / 中央大学法科大学院特任教授)
モデレータ 龍崎 孝嗣 (経済産業省経済産業政策局企業行動課長)
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2月20日の経済財政諮問会議で首相は、2019年10月に予定されている消費増税に伴う経済の変動を少なくする方策について検討を命じた。欧州諸国のGDPや物価をみると、消費増税前後でわが国ほど大きな変動は見られない。ではわが国との差異はどこに原因があるのか。欧州諸国の価格の実例や事業者の価格に対する考え方などを見ながら、彼我の相違を考えてみたい。あわせて、その背景にわが国特有の規制があるのかどうか、政策インプリケーションについても議論してみたい。

議事録

消費増税前後の経済変動

森信茂樹写真今回は、ヨーロッパでは消費増税の前後で経済変動がほとんど生じないのに、日本では大きな変動が生じるのはなぜか、その要因についてお話しします。

日本は2014年4月の引き上げ直前に、駆け込み需要により実質GDP(国民総生産)がはね上がり、引き上げ直後に反動減で大きく下がりました。この反動から抜け出すのに1年ぐらいかかりました。

一方、図表1を見てください。ドイツは2007年1月のメルケル政権時に16%から19%に引き上げました。しかし、その前後で経済のフラクチュエーション(動揺・変動)はありませんでした。イギリスも2010年1月、2011年1月と続けて2.5%ずつ引き上げたにもかかわらず、変動はほとんどありませんでした。

消費者物価の図表2を見てください。ドイツとイギリスは消費税引き上げの前月に大きく上がり、引き上げた月は下がっています。ところが、日本はそうなっていません。東大日次物価指数(図表3)によると、日本では駆け込み需要をあおるために引き上げ直前の3月20日ごろから価格を下げ、消費税が上がった日に価格を一斉に引き上げて、その分を全て転嫁しています。そして、転嫁したものの、おそらく売り上げが落ちたので、もう一度値下げています。

駆け込み需要があった後なので当然ながら消費が落ち込み、そのまま景気の足を引っ張る、これが消費税反対論者の最大のポイントだったので、その辺を改善していければ、引き上げはスムーズに行くのではないか、と考えました。

ドイツマクドナルドの値付け

ドイツマクドナルドの例(図表4)を見てみたいと思います。

日本では消費税率が上がる来年10月から、軽減税率が導入されます。標準税率は10%ですが、飲食料品(外食は除く)は8%のままです。

ドイツでは標準税率が19%で、軽減税率は食料品などが7%です。ハンバーガーショップではイートインが標準税率(19%)、テークアウトが軽減税率(7%)なのですが、図表で見ていただけるように、マクドナルドではテークアウトでもイートインでも価格は同じに設定されています。これは、税率が異なると、テークアウトで買ってその場で食べてしまう人が増えるためです。そうなると店側が注意したり、国税当局から何か言われたり、余分なコストがかかるので、税率は違うけれども価格は同じにして、混乱を防いでいるのです。

日本でもコンビニなどに100円コーヒーがあります。今後標準税率と軽減税率をどのように区分し、値段をどのように設定するのか、大変興味があります。店の煩雑さを考えれば、たった2円しか違わないのだから両者(テークアウトとイートイン)で値段を区別するのをやめる店が出てきてもおかしくありません。価格設定は、店に自由度があるわけです。ところが、日本でそれをやると、過剰転嫁ではないか、益税ではないかと非難される可能性があります。しかし、ドイツを見れば、価格は事業者の自由裁量であると認識されていることが分かります。ただし重要なことは、正しい税務申告のためには、お客に聞いて、双方の区分をしておく必要があります。これをしないと、税法上問題になりかねません。

価格は需要と供給で決まる

では、ヨーロッパでは何をメルクマールにして価格を決めているかというと、自らのマージン(利益)です。人件費や原材料費などいろいろなものが日々変わる中で、税率も変わります。消費税はあくまで価格を構成するコストの一部だという考え方です。つまり、税率は変わるが、他のコストも変わる、消費者の需要動向を考えながら価格を付け、自らのマージンを最大化しようとするのです。

イギリスでは2010、2011の両年とも1月に消費税率が2.5%ずつ上がりました。その直前の秋からはクリスマス商戦が始まります。クリスマス商戦は需要が強いですから、価格を少しぐらい上げても売れます。そうして価格を消費税の引き上げ期日と連動させずに、需要の高いときに価格を上げて、マージンを確保しようとしたのです。

クリスマス商戦後には需要が落ち込みますので、この状況の下では、消費税率が引き上げられているのに価格を下げて販売数量を確保していきます。これは日本とまるで逆です。日本は駆け込み前に価格を下げて需要をあおり、消費税が上がった瞬間に値札を貼り替えて価格を上げます。

事業者にとってはマージンを確保することが最大の目的であり、商品ごとに転嫁することが目的ではありません。消費増税にもかかわらず自分のマージンが確保できればいいわけで、転嫁すること自体が重要というわけではありません。長い間接税の歴史の中で、ヨーロッパでは事業者に価格の自由度が与えられているのだと思います。

ところが、日本では逆に、価格の自由度が縛られているのです。消費税転嫁対策特別措置法を制定して、それに基づいて作成された公取・消費者庁・財務省など作成のパンフレットを見ると、「便乗値上げは、いけません」「消費税率の引上げに当たっては、個々の商品やサービスの価格が、新たな税負担に見合った幅で上昇することが見込まれています」「事業者が、他に合理的な理由がないにもかかわらず、税率の上昇に見合った幅以上の値上げをする場合、それは便乗値上げである可能性があります」など、きめ細かく事業者の価格設定に口出しをしています。あらゆる商品に個別に同じ税率引き上げ分だけ増税日に転嫁しなければならないという意識になり、値札を3月31日の夜に一斉に貼り替えるわけです。

ある大手コンビニチェーンから聞いた話です。消費税が8%に上がる際、プライベートブランド商品を従来の3割程度から4〜5割に増やした結果、生産、流通、小売りの状況が一手に分かるようになり、価格の仕組みやどこにマージンがあるのかが分かるようになったので、消費増税以上に値上げした商品と、1円でも値段を上げると売れなくなるので価格を下げた商品という選別戦略を取ったそうです。大手の事業者はそういう自由度を持っています。しかし、中小の小売事業者はまだそこまでいっていません。とにかく1つ1つの商品を値上げしなければならないし、日本では、3月ごろから値上げしていたら、便乗値上げだと批判されるわけです。それから、先ほどのようにテークアウトは8%、イートインは10%だけれども価格を同じにした場合、わが国では益税批判が起きないようにしなければなりません。そういうところをきちんと教育していかなければならないと思います。

また、価格表示も総額表示一本の方がいいのではないかと思っています。ヨーロッパは全て総額表示です。日本の場合、税込み価格と税抜き価格の2つが認められています。本来は総額表示一本だったのですが、8%に引き上げられたとき、総額表示一本ではなく、税抜き価格の表示をしてもいいと暫定的に認められたのです。もっともマクドナルドは税込み表示一本で、100円コーヒーは消費税引き上げ後も100円です。価格設定の自由度と価格表示の問題がどこまで関連しているかはわかりませんが、この問題も併せて議論すべきと思います。

事業者は、駆け込み販売をやると必ずその後に落ち込むことは分かっているのに、隣が駆け込み値下げを始めると自分たちもせざるを得なくなって、価格を下げていきます。それが反動減を大きくしているのですが、本来は、明日から消費税が上がるのであれば、駆け込み需要があるのだから、価格を上げるという選択肢もあっていいのではないでしょうか。そうすれば反動減は小さくなります。

価格は消費税・コストによって決まるのでなく、需要と供給によって決まるということ、これが経済学の基本です。学生に「銀座でコーヒー1000円という店があるのはなぜか」と聞くと、「銀座は土地が高いし、店もきれいにしなければならないから1000円だ」と答える者がほとんどです。正解は、「銀座であれば1000円でもコーヒーを飲む人がいるから」です。

事業者にとって消費税は、お上から降ってきたもの、絶対に転嫁しなければならないものであり、そのためには個々の商品ごとに外税で増税日から確実に加算すべき、という意識が残っています。B to Cのビジネスは需要と供給で価格が決まるものと、意識を変える必要があるのではないでしょうか。政府はそうしたPRをすべきだし、マスコミも便乗値上げというような抽象的な批判はやめるべきではないでしょうか。いずれにしても、小売事業者の価格の自由度を高めるように、転嫁対策の在り方を見直すべきではないか、というのが私の提案です。

アナウンスメント効果の重要性

それから、国際通貨基金(IMF)のワーキングペーパーによると、ドイツで消費増税が円滑に行われ経済変動が少なかったのは、価格の自由度に加えて、メルケル大連立政権が1年半も前から増税をアナウンスした効果も大きいと指摘しています。

日本では安倍政権が何回も増税を延期していますが、ドイツは大連立政権が決定しアナウンスしたので、消費増税が延びるという考えはありません。そうした点が消費税の準備不足や経済変動への影響に結び付いているのではないかとも思います。

今後の消費増税のあり方として、プログラム法を作って、毎年1%ずつ上げていく、政権も事業者も消費者もそれを100%受け入れる。こうすれば日本の価格形成もだいぶ変わってくると思います。

B to B(事業者間取引)の場合

ここからはB to Bについてお話しします。ヨーロッパでは、B to Bで転嫁が問題になったことはないといわれています。当然、転嫁特別対策法のようなものもありません。日本でなぜ転嫁の問題が大騒ぎになるかというと、欧州型インボイスが導入されていないからです。

欧州型インボイス方式とは、商品を適用税率ごとに区分して列記し、全国統一の番号(VATナンバー)を付ける方式であり、2023年10月から義務化されます。インボイスは、それを持っていると仕入税額控除が可能になるものなので、真正なものかどうかを事業者や税務署が確認する必要があり、それがVATナンバーです。

ヨーロッパでは市場が単一化されているので、いろいろな国と取引がありますが、インボイスが、真正な事業者が出したものかどうかわからないと取引時に問題になります。真正なものでなければ仕入税額控除はできません。ヨーロッパでは、もらったインボイス番号を入力すると、即座に真正な課税事業者かどうかをチェックするシステムが導入されています。VATナンバーと消費税額の記載が欧州型インボイスの二大要件です。

日本でも2023年の義務化に向けて、途中段階で簡易的なものが入ります。これは、インボイスは課税事業者にしか発行できないので、突然欧州型にすると、免税事業者が取引から排除されるのではないかという懸念に対応するためです。

分かりやすい例は個人タクシーです。個人タクシーの多くは売り上げが1000万円以下で免税事業者です。免税のままではインボイスが出せません。そうなると、会社がタクシーを使うときに、経理から「個人タクシーに乗るな」と指令が出るはずです。個人タクシーでは仕入税額控除ができないからです。

そうすると、個人タクシーは取引から排除されます。これに備えるため2023年までは、仕入税額控除ができるよう暫定的な対応をしているのです。2023年以降はそれがなくなりますから、免税事業者は課税選択をするかどうかが迫られます。ヨーロッパでは、多くの免税事業者は課税を選択しています。そうすれば、問題はきれいに解決します。インボイスがあるので、納税計算の手間もかかりません。

インボイスの仕組み

インボイスの仕組みがどう動くか、図表にしたがって説明します。売り手Aは、買い手Bに、本体価格(税抜き価格)1000の請求とともに、80の消費税額を別記して請求します。現実には、おなじ請求書の場合が多いと思います。買い手Bは、本体価格の請求額(税抜き価格)と一緒に、消費税額80を売り手に支払います(図の①)。売り手は、その消費税額80を国に納税します(図の②)。買い手は、自分が売り手に支払った消費税額と同額の80を、仕入れ税額控除という形で、国から返してもらいます(図の③)。つまり買い手Bは、Aに支払った消費税額(図の③)を、自らの売り上げにかかる消費税額(図の④)から差し引いて納税するのです。このやり取りを正確に行うために、消費税額が別記されたインボイスが必要となります。

買い手からみれば、売り手に消費税を支払う(①)が、同額が、自らの納税時に控除される(③)ので、差し引きゼロとなり自らの消費税負担はありません。相手側に支払うけれど同額が控除される、こうして事業者は自ら消費税を負担しないメカニズムができあがるわけです。税務当局(国)は、売り手から納税される消費税額(②)と、買い手からの控除消費税額(③)の一致を、インボイスによって確認します。これが消費税の納税メカニズムです。

この制度の下では、事業者間(AとB)の価格は税抜き価格で交渉され、消費税は、税抜き価格に8%を乗じてBからAに支払われるけれど、Bはのちに税額控除されるので、消費税分は相手側に完全に転嫁できることになります。

現在わが国は、インボイス方式ではなく、請求書など取引の事実を証明する書類を用いて消費税額を計算する方式をとっています。この制度では、売り上げから仕入れを差し引いた差額(つまり粗利)に108分の8を乗じた額が、消費税の納付税額になる。そのため、事業者は粗利に課税される直接税という認識になりがちで、事業者間での転嫁がしにくいのです。

このようにインボイスは転嫁が確実に可能になるという大きなメリットがあります。売り上げ1000万円以下の免税事業者は、課税選択をすれば、仕入税額控除もできるし、取引からの排除もありません。

以上、話の結論を申し上げると、B to Cにおいては小売事業者の価格設定の自由度拡大が、事業者間の価格転嫁にはインボイスが必要だ、ということです。

質疑応答

Q:

消費税はB to CとB to Bの論理がくっきり分かれて動いているのですが、シェアリングエコノミーのようなサービスを提供する場合はどうなるのでしょうか。

A:

日本政府はエアビーアンドビーのような、国境を越える役務の提供に対して、プラットフォーマーに消費税を負担させる仕組みを法律改正して対応しています。

Q:

軽減税率は生活に極めて必須なものに適用するものであり、消費者が安く購入できるようにするためにあります。それをコストの自由と見てしまって、消費者にとって同じ価格の方が便利だというのは政策の意図からするとおかしいと思いますが、どう整理されますか。

A:

たしかに、イートインとテークアウトの両方を108円にしたら何のために軽減税率を入れたのかという批判が起きるでしょう。しかし店側は軽減税率の区分を正確にするには余分なコスト負担を負うわけです。一方イギリスでは、ホットフードを店内で食べようが持ち帰ろうがホットフードとして税率を一本にしています。その辺の問題はこれから日本でも議論になるでしょう。

モデレータ:

内税であっても外税であっても、事業者は価格を上げようと思えば上げられるはずです。総額表示にしないと需要をならせなかったり、駆け込み・反動減を防げなかったりする点がよく分かりませんでした。

A:

私も表示の問題がどこまで関係しているのかはよくわかりません。表示の問題は、益税という観点から批判があったことを踏まえての対応という観点もあります。転嫁の問題とは少し違うかもしれません。

Q:

国境や州境を越えたeコマースなどがこれから伸びていくと思うのですが、税金のかけ方はどうなるのでしょうか。

A:

アメリカの小売売上税は、最終消費者にかけるので、州が独自にかけられますし、非課税品目も自由に決められます。けれども、国境や州境をまたいでショッピングが起きるというデメリットもある。日本では事業者を納税義務者にした上で、仕入れ税額控除により最終消費者だけが負担するヨーロッパ型の間接税を入れています。

Amazonがアメリカで爆発的に売れた最大の理由は、州の小売売上税がかからなかったからです。アメリカは州税なので、なんらかの物理的拠点が州内になければ税金をかけられません。しかし、これはおかしいという議論が起きて、最近州税も払うような仕組みに改めたはずです。

日本の消費税は、国境を越える役務の提供に対して、消費者がいるところに課税権があると改め、課税できるようにしました。デジタルエコノミーの下では、間接税だけでなく直接税も、消費者のいるところに課税権が移っていくと考えられます。課税の問題につながっていきます。

モデレータ:

便乗値上げは別に法律で禁止されていないし、価格決定の自由は事業者にあります。しかし、政府としてここまで便乗値上げはいけないこととしているのはなぜでしょうか。

A:

3%から5%への引き上げのとき、マスコミは、消費者の立場から、便乗値上げに対して厳しく批判しました。しかしコストである電気・ガス・水道代なども上がっており、事業者はそれも価格転嫁しなければならないわけで、そのあたり価格と消費税の関係の理解が不十分であったのではないでしょうか。それをなくしていくことは重要だと思います。

Q:

消費税を初めて導入した頃の担当者たちは、価格も自然に上がっていくし、その中で税率もそのときの需要に応じて上がっていくと見ていたのか、あるいは当時から便乗値上げという言葉はあったので、日本ではヨーロッパとどうしても違うものになってしまうという感覚がもともとあったのでしょうか。

A:

導入当時の記録を読むと政府は消費者より事業者を気にしています。間接税だから事業者が負担するわけではないのですが、納税義務者は事業者なので、どうしても自分たちが負担すると考えてしまいます。そこで、彼らが適正転嫁できるという点に政府として力点を置いたのでしょう。

ところが、導入時の1989年4月はバブル期で、過剰転嫁も起きたので、マスコミが批判したという事情もあるようです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。