復興の空間経済学―人口減少時代の地域再生

開催日 2018年3月27日
スピーカー 浜口 伸明 (RIETIファカルティフェロー・プログラムディレクター/神戸大学経済経営研究所教授)
モデレータ 近藤 恵介 (RIETI研究員)
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東日本大震災から7年が過ぎた。被災地では津波などの傷痕がいまだ深く残っており、東北地域の復興は依然として道半ばである。震災直後から現地の実証分析を続けてきた藤田昌久・甲南大特別客員教授、浜口伸明・神戸大教授、亀山嘉大・佐賀大教授の3名は、空間経済学の視点から、被災した地域が持続可能な経済を回復するにはどのような条件が必要なのかを分析した『復興の空間経済学ー人口減少時代の地域再生』(日本経済新聞出版社)を刊行した。東日本大震災は人口減少時代に日本が直面した最初の大規模自然災害であり、これまでの災害復興とどのように条件が異なるのか。繰り返し自然災害が起こりうる自然条件の下で、人口減少時代にあっても地域の多様性を維持することが日本全体にとってなぜ必要なのか。自然資源の活用、地方中核都市の役割など、地方経済の視点から分析した結果を報告する。

議事録

『復興の空間経済学』の刊行について

浜口伸明写真今回取り上げる『復興の空間経済学―人口減少時代の地域再生』という本は、私と藤田昌久前所長(甲南大特別客員教授)、亀山嘉大佐賀大教授の3人が、東日本大震災直後から被災地を継続的に訪問し、「定点観測」という形で実証分析してきた成果をまとめたものです。

私たちは、副題にした「人口減少時代の地域再生」に注目しており、東日本大震災は日本が人口減少時代に入って初めての大規模自然災害だったと捉えています。そういう時代における震災復興は非常に困難であり、被害の大きさはもちろん人口減少という現状を前提に考えなければ、復興についてクリアなアイデアを描けないと思い、あらためて空間経済学の視点から考えてみることにしました。

人口流出の要因

震災後の人口変遷で注目すべきは三陸沿岸部で、津波被害を大きく受けた地域では2011年以降、大幅に減少しました。一方、仙台都市圏は、震災をきっかけに逆に人口が増えました。復興作業も含め仙台を拠点に活動する方が増えたこともありますし、沿岸部から仙台を中心とした都会に移住した方が多かったからです。

われわれは、三陸沿岸部からの人口流出を引き起こした要因を5つ挙げました。1つ目は、住宅の喪失によって住む所がなくなったことと、それに代わる安全性が確立された住居地域を形成するのに非常に長い時間がかかったことです。

2つ目は、中心市街地の機能がすっかり失われて生活の利便性が格段に落ちてしまったことで、それが移住を促進してしまった面もあります。

3つ目は、雇用のミスマッチが起きたことです。水産加工や工事の仕事はたくさんありましたが、たとえば事務職を探している人にはなかなか仕事がありませんでした。水産加工業はむしろ人手不足によって立ち上がりが遅れたのですが、求職者がそういう仕事を選ばなかったという要因もあります。

4つ目は、交通手段が非常に劣化したことです。鉄道がなくなったことに加え、道路が非常に混雑し、他市町村への通勤が不便になりました。交通インフラの問題や雇用のミスマッチといった理由が複合的に移住を促進した面もあります。

5つ目は、三陸沿岸地域には高等教育機関が全くないため、18歳を機に多くの若者人口が流出することです。そういう地域は日本にたくさんありますが、震災の影響で他県への大学進学や就職という選択肢が増えてしまい、若者の人口流出が進んだ面もあると思います。

産業の動向

被災三県(岩手、宮城、福島)の主な産業は漁業です。漁業は震災前と比べると6〜7割の生産量となり、復興が遅れています。全国的に下降トレンドにある中、全国レベルの生産量の伸びには戻ったという見方もできるかもしれませんが、震災前の水準には戻っていません。

捕る方の漁業(海面漁業)は問題が複合的で、事業者の高齢化が進んでいたところへ船が流されてしまい、新しい船に投資せずそのまま廃業してしまうケースも多かったようです。また、資源の枯渇や日本全体で魚の需要が減っていることもあって、漁業の復興は遅れています。

一方、この地域では養殖業が非常に盛んです。しかし、震災による落ち込みが海面漁業よりも格段に大きく、震災直後は2割程度の水準まで落ちました。やはりさまざまな養殖設備が破壊された影響が大きかったと思います。単にいかだや船がなくなっただけでなく、陸上のさまざまな施設も同時に失われてしまいました。何か1つ足を引っ張るボトルネックがあると全体が復興しないので、時間もかかります。

ただ、養殖漁業は、海面漁業の下降トレンドと違って上昇局面にあります。養殖業の方が高齢化しても続けられるという面もあって、震災をきっかけに「捕る漁業」から「育てる漁業」へのシフトが全体的に進んだと考えています。

この地域では観光も非常に重要な産業です。宿泊客数を見ると、被災三県では全国を上回る水準で増えています。しかし、震災以降の日本に起こった重要な変化の1つであるインバウンドブームを加味すれば、外国人宿泊客数の全国的な伸びに対して、三県はそのブームをつかみ切れていない面があります。この点も復興の遅れを示す1つの現象だと思います。

それから、サプライチェーンの寸断で、三陸だけでなく日本全国に生産の落ち込みの影響が及んでいます。被害は日本国内のみならず、アジアやアメリカの自動車生産の顕著な落ち込みを招き、影響は非常に広い範囲に及びました。

復興まちづくりにおける土地利用

復興に当たっては、さまざまな形のまちづくりがあります。津波で浸水した所には家を建てないことが決められたので、その地域を何に使うかということで、大きく3つのパターンに分かれます。1つ目は、ほとんどかさ上げをせずに公園や緑地として利用するものです。2つ目は、店舗や水産加工団地などの産業用地として使う考え方です。3つ目に、水産加工のような産業がない地域では、かさ上げして中心市街地機能を回復する考え方があります。しかし、かさ上げ工事は進んでいるものの、その後の活用はまだ明確にイメージできていません。

大きな課題は、高台住居と商業地・中心市街地の公共交通が失われていることです。また、中心市街地では店舗が戻ってきておらず、人々の生活の不便は解消されていません。つまり、住居は復興しても、人々がそこに住み続けたいと思うような魅力あるまちづくりが進んでいないのです。津波や地震に対する安全性を確保することが中心で、生活の利便性や経済的な活用にまではなかなか話が進んでいないのが現状です。

二兎を追う「復興の空間経済学」

われわれは、この研究を進めるに当たって、2つの目標を掲げて考えました。 1つは、被災した地域を復興させていくことにスポットライトを当てた考え方です。震災や自然災害がなくても人口減少が進んで過疎地が増えていくような地方では、大規模災害が起こると消滅してしまうというリスクを抱えています。ですので、自然災害は今後日本中どこでも起こり得るという前提で、こういった地域を復興させるにはどうしたらいいかを考えました。

もう1つは、復興させること自体が日本全体にとってどういう意味があるのかという考え方です。人が少ない地域を大きなコストをかけて復興させることは、日本全体の国土づくりや地域システムを考えたときに正しい選択かどうかも併せて考えます。すなわち、被災地自体の復興の問題とともに、日本全体の国土システムをどうやってより良い方向に導いていくかを同時に考えることが、「復興の空間経済学」であると考えたわけです。

そこで重要な論点になるのが人口問題です。日本全体が人口減少していることに加え、少子高齢化が進行している状況で復興の問題を考えていくことが、われわれの研究にとって非常に大きなチャレンジであり、そのチャレンジは今も続いています。その中間的な成果として、今回この本を刊行したわけです。そこで何となく解として見えてきたのは、多様性の促進を通じて発展、復興していくことで、これは日本全体の国土システムをより良い形に導く上で非常に重要なキーワードになると思っています。

今までは規模の経済によって、人口が増えればそれだけ日本経済全体が活性化されていき、日本全体の国土システムも良い形に導かれていくということが、市場メカニズムを通じて起こっていました。しかし、人口減少過程においては、それが通用しなくなります。規模の経済が失われる中で、より多様性に富んだ国土システムをつくっていくことが重要だと、われわれは考えるようになりました。

また、われわれは被災地で活用できるツールに自然資源があることに、思い当たりました。自然資源は人口減少が起こっても減ることはなく、逆に人口1人当たりでは増えていきます。これをうまく活用して復興に役立てるのです。そして、多様性という観点においては、自然資源に基づいた生産をいかに差別化して行い、日本全体の製品のバラエティを増やしていくかという点をより深く考えるようになりました。

復興が必要な理論的理由

当初は、復興した方がいいというのは自明のことと考えていたのですが、人口が減っているにもかかわらず大規模な土木工事を行うのは、一見すると無駄ではないかと思えてしまいます。その中で、被災地を維持・復興させていくことに意味があるという結論に至るには、空間経済学の視点から2つの理論的な理由があります。

1つは、いろいろなパターンの空間構造が成り立ち得る中で、地方の小さな都市を分散的に維持していくことは、少なくとも維持可能な限り、あるいは復興費用が高過ぎない限りは、地方の人口を維持する上で重要だということです。東京のような大都市に過剰に人口が集中し、混雑効果が生まれるのを緩和するため、地方にある程度人口を分散させることが重要です。

混雑効果はさまざまな形で捉えられていて、典型的には地価が高かったり、都市空間が広がり過ぎて長距離・長時間通勤が日常的になったりするのに加え、最近は都市の過密化は少子化と結び付いているともいわれています。目に見えるものだけでなく、少子化など目に見えないものでも混雑によるデメリットがさまざまに考えられる中、日本は国土がそれなりに大きいので、人口が減って1人当たりの土地が増えるのであれば、それを有効に活用することで日本全体として良い状態に導くことができるのではないでしょうか。

もう1つの考え方は、地域の歴史や自然、文化を背景とした国内の多様性を維持することは、日本全体にとっても意味があるということです。地方の特産品が一例で、経済学ではよく、消費の多様性が人々の満足度を高めるといわれます。それは都市で生産されるサービスや工業製品についていわれることですが、魚や米などの農水産物についてもさまざまな差別化を図ることは可能で、バラエティを全国的に増やすことが日本人全体の消費のバラエティを高めることにつながると考えます。

そして、最近思ったのは、人材の多様性もこうした地域の自然や文化に基づくところが多々あるということです。このことを思いついたのは、冬季オリンピックを見ていたときです。冬季五輪で活躍する選手は、北海道や長野などの出身で、小さな頃からそのスポーツに親しんできた人たちが多いわけです。そういった環境が地方の多様性の喪失によって失われるとすれば、日本が冬季五輪で金メダルを取ることはできなくなるかもしれません。日本が世界で戦うためには、こういった人材や地域の多様性を維持することは重要ではないかと考えたのです。

東京はこれまで、地方からたくさんの人材を吸収して成長し、イノベーションを起こしてきましたが、地方からの人材が枯渇すると東京に入ってくる人も少なくなり、東京の人材の新陳代謝が進まない可能性があります。それがひょっとしたら日本全体のイノベーションの活力を失わせる原因になるかもしれません。そういった観点からも、地方の多様な人材を維持することは意味があるでしょう。自然災害に対して強靭な地域を維持することは、日本全体にとって意味があるのです。

規模の経済で、人口が増えれば東京が成長し、東京が成長すれば地方の多様性もある程度維持されるという時代は恐らく終わっていて、人口が減少する中でも東京が人口を吸収し続けていくと、地方はどんどん衰退していって多様性が失われます。その中では、政策的に地域を維持していくことが日本全体にとって必要だと考えたのです。

自然資源に基づく創造的復興に向けて

震災をきっかけに、東北では新たな創造的復興が試みられています。たとえば水産物の場合、これまで国内で賄っていた需要を海外の市場に求めたり、そのために高度な衛生基準をクリアするような設備を備えた漁港を整備したり、地元生産者が共同で海外市場にプロモーションしたりといったことを、これまで以上に積極的に行うようになりました。水産加工場の近代的な設備の水準も上がってきています。

そして、観光も含めたサービス業、製造業、水産業を有機的に結び付ける6次産業化も、以前より意識されるようになりました。また、湾内のいかだの密集がある程度解消されていかだの数が少なくなったことで、そこで育つカキやホタテの成育が早くなり、かつ大きく育って、生産性が上がったところもあります。ですから、今まで以上に生産密度をコントロールすることも考えられるようになりました。

地域コミュニティの再生と連携

規模の経済が失われていく中で、市場メカニズムに任せていても成立しないようなことを、地域が協力して進めていくプロジェクトは日本全国にさまざまあります。

たとえば、島根県海士町では岩ガキがブランド化されています。ブランド化のためには東京の市場に出すための特殊な冷凍設備が必要だったのですが、市場に任せておいたのでは恐らく実現しませんでした。地元の行政が中心となり、第3セクターで近代的な冷凍施設を導入したことで水産業を維持でき、地元に残る人が増えました。利益の上がる水産業を育てているのです。

海士町では並行して、高校に国内留学生を受け入れることで廃校になるのを防ぎ、若者が島に残って水産業を維持できる態勢を整えました。これはコミュニティづくりを目的として行ったプロジェクトで、市場での利益を最大化するという目的とは必ずしも一致しませんが、規模の経済に立脚した市場メカニズムを補完するのは、コミュニティの力によるものです。

ですから、規模の経済が失われて人口減少が進む中では、復興を進めるために不可欠な要素として、コミュニティを再生し、連携を新たに組み直すことも考えるべきだと思いますし、自然資源に注目し、地域社会のこともあらためて考えながら、安全で住みやすいまちをつくることを目指していくべきだと思います。

世の中はそんなにうまくいかないと思いますが、復興はさまざまな複雑な連立方程式を解くようなものです。それでも新しい環境の中で取り組んでいかなければならない問題があるということをご理解いただければ、大変ありがたいと思います。

質疑応答

モデレータ:

人口増加時代には復旧の先に復興があったかもしれませんが、人口減少時代においては復旧という行為が必要なのか、実は復旧と復興は同じルートを通らないのではないかという問題提起もあります。その点についてどうお考えですか。

A:

今の復興の過程を見る限り、集積を生かしたコンパクトなまちづくりは起こらないでしょう。どんどん人口は減っていますし、コンパクトなまちづくりといっても、安全を優先して住居は高台、商業集積は低地というふうに分散化されています。当初は想定もしていなかったようなさまざまなニーズや状況が生まれ、実際に今なされているのは分散化されたまちづくりであり、集積の経済は非常に弱いのです。規模の経済が失われている中、まちづくりは非常に難しい状況にあるといわざるを得ないと思います。

復旧が人口減少下において非常に無駄をもたらすのであれば、ある程度の人口減少トレンドを意識しながら、どういう状況なら持続的に維持できるかを考えていくことが求められるわけで、それは復旧というルートではないということが見えてくると思います。

Q:

養殖漁業は、新たにゼロリセットしてできる点で非常にいいと思うのですが、全国平均に比べて伸びが足りないのはなぜでしょうか。

A:

担い手が減っていることと、以前少しやり過ぎていた面があると思います。湾内に密集するよりも、少し隙間を空けて大きなものを育てる方向に進んだ方がいいでしょう。

Q:

戦後の復興が今回のまちづくりに比べて進んだのは、コミュニティがうまく出来上がっていたからではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

A:

1960年代のチリ津波当時、東北地域の人口流出は既に始まっていましたが、被災したはずの三陸沿岸地域では人口が維持されました。このとき何が起こったかというと、養殖漁業が始まったのです。東北地域ではそれまで捕る漁業が中心でしたが、養殖漁業が成長し、漁のできない冬に出稼ぎへ行っていた人たちが年間を通じて地域で生活できるようになったことで人口が定着したのです。つまり、元に戻すのではなく、創造的復興が起こったということです。

Q:

復興には都市づくりももちろんあるだろうし、物流などある程度総合的に見て、良いものを作っていかないとうまくいかないと思うのですが、それは誰が行えばいいのでしょうか。

A:

新たな創造的復興を政策として促進できるかというと、実際のところはよく分かりません。今までの成功例としては、先ほどの海士町の他に、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」があります。これも政策的に誘導されたものではなく、地元の人たちがコミュニティを維持していくために知恵を絞って、ようやく出てきた発想です。地域内でうまく連携をつくり出していくよう東京から政策的に働き掛けることは、かなり難しいでしょう。ですから、地元のさまざまな創意工夫によらざるを得ず、各地域でいろいろなことが考えられていくことを期待するしかないかと考えています。

Q:

分散構造を復興させても人口減少がさらに進めば分散構造が失われるとすると、将来失われるかもしれない分散構造をもう一度復興させる意味はあるのでしょうか。

A:

先を見越すのであれば、全てを元通りに戻すのではなく、ある程度集約化しながら残していくという考え方が恐らく望ましいのだと思います。そうすると、地域コミュニティの連携が重要になるのですが、それも今あるものを全て残していくのではなく、生活に必要なインフラや産業・雇用、公共サービスは人口が減少すれば、恐らく今の地方公共団体単位では維持できなくなるものもあるので、集約化することになります。そのときには、コミュニティ内の連携だけでなく、コミュニティ間の連携という話にもなりますし、2つの地域が共存しながらも連携して広域的なまちづくりをしていくという考え方になると思います。その辺をどうしていくかをこれから考えたいと思っています。

モデレータ:

被災者の立場からすると、元の生活に戻りたい人がいるのは確かで、やはり元の生活に戻すようなまちづくりも必要だと思います。その間の調整は難しいと思うのですが、実際にまちづくりを見ていて感じていることはありますか。

A:

住民のニーズ・要望と、実際にできることのギャップは非常に大きく、時間もかかります。新しくて良いものをつくろうとするとどうしても時間がかかってしまって、それを嫌って住民が出ていってしまうということも起こります。

あるいは、若い人は戸建てを新たに高台に買うという選択もありますが、ローンを抱えることが難しい高齢者は、市町村が提供するマンション型の集合住宅に住むという選択をする場合があります。これは家賃が補助されているため、市町村として非常に大きな住宅のストックを抱えることになり、この先不良資産化する可能性もあります。そういう時間的な軸で考えたときの復興の難しさにも思いをいたす必要があって、非常に難しい状況にあると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。