フランスの欧州改革への新たな意志

本セミナーは講師のご意向により、報道関係者の参加をお断りしております

開催日 2018年2月7日
スピーカー Laurent PIC(ローラン・ピック) (駐日フランス大使)
モデレータ 南 亮 (経済産業省通商政策局欧州課長)
開催言語 日本語/フランス語(同時通訳あり)
開催案内

EU統合や仏独関係、仏英関係、またロシアなどヨーロッパでのさまざまな動きに対するフランスの見方や日仏関係について、ローラン・ピック駐日フランス大使にお話しいただきます。

議事録

ポピュリズムの台頭

ローラン・ピック写真今年は日仏の外交関係が樹立して160周年に当たります。また、経済連携協定(EPA)の大枠が決まりましたが、私どもはこれを2019年の欧州議会選の前には発効させ、さらに戦略的パートナーシップ協定(SPA)につなげていきたいと考えています。このような時期にヨーロッパについてお話しするのは、とても意味のあることだと思っています。

日本のマスコミを見ていると、EUの今後に対して、その安定を疑問視しているような気がしてなりません。その中で、ここ数年、ヨーロッパで行われた多くの選挙で、ポピュリズムに大きな関心が集まっていることも承知しています。

ポピュリズムの動きの背景には、まず代表制による民主主義のあり方に対する疑問が生じていることがあると思います。国民からすると、誰が何を決定するのかが不明瞭であり、自分たちが抱える問題に対して、誰がどういう形で回答してくれるのかがよく見えません。EU全体としても、自らの運命が明確でなくなってしまい、多くの国々がグローバル化の中で誤った方向に向かっているのかもしれません。それは、イギリスのブレグジット(EU離脱)に関する国民投票やアメリカのトランプ大統領誕生に反映されていると思います。

アメリカではトランプ大統領誕生によってポピュリズムの台頭が明らかになりましたが、EU各国ではポピュリズムに対して抵抗していることが分かります。昨年のフランス大統領選でも、フランスの選択を明確に証明している気がします。とりわけフランスは、自由貿易が必要であり、第3国との交流が必要であるとの意思表示を、国民が大統領選でしたと思います。さまざまな課題を解決するためには、より強化されたEUが必要であると国民は理解したのだと思います。ポピュリズムの芽が全て摘まれたわけではありませんが、フランスやEUの国々は良い選択をしているといえます。

ブレグジットの行方

今回のブレグジットの責任が、決してEU側にないことは分かっています。むしろイギリス国内の問題であり、保守党内の内紛が招いた結果だと思います。メイ首相は保守党内で自分の地位を守ろうと国民投票を行ったのですが、結果は保守党に大きな打撃を与えることになり、党内はすっかり分断されています。ですから、EUとの離脱交渉に関してどういう方向性を見定めたらいいのかが、はっきり分からない状況です。

そして、EU内で居場所を失ったイギリスが、これからどうしていくのかもはっきりしません。どこの国と連携を強めていけばいいのか、さまよっている状況にあると思います。中でも、経済力を付けている中国に対して、EU全体で共に関係を築いていく場合と、イギリス1国で関係を築いていく場合との違いをひしひしと感じているのではないかと思います。

日本企業にとっても、これから先どういう関係を築いていくのかという問題があります。日本企業の多くはイギリスに進出していますが、そうした企業にとっては、もはやヨーロッパはイギリスのみの市場になってしまうので、他のEUの国々と今後どのような形で関係を築いていくのかが課題になります。

税関に関しても同じことがいえると思います。ある意味でEUとイギリスの「離婚」が成立したわけであり、今後どのような形で移行していくのかを定めなければなりません。そのためには、十分な時間が必要です。

そして、イギリスはEUとどのような関係を築いていきたいのかを示されなければならないのですが、まだはっきりとしたビジョンを出せていません。自分たちが何をしたいのか、何を選択したのかということも一切明確にしていないため、EU加盟国としても、どう付き合っていけばいいのかがはっきりしません。イギリスに分かってほしいのは、かつてEUにいたときと同じような関係をこれからも継続することはできないということです。ですから、今までとは異なる関係を築いていかなければなりません。

ブレグジットについては、EU側でもヨーロッパの人々の希望を叶えることすらできない、課題の解決策を見いだすことができないと批判されています。これまでもEU加盟28カ国の意見をまとめるのはなかなか難しかったのですが、苦労しながらも何とかまとめて、解決策を見いだしてきたわけです。その結果を見ていかなければならないと思います。

欧州統合の深化に向けて

たとえば、金融危機がありました。これはヨーロッパ発ではなく、大西洋を越えてきたわけですが、EU内でも非常に大きな反応がありました。私たちは、それまで防波堤となるような措置を取ってこなかったことを反省し、もしまたEU圏外でそうしたトラブルが発生した場合、どのような形で国家の主権を前面に出しながら解決できるかを考えました。そうした経験を経て、イタリア、ギリシャ、ポルトガルといった国々が金融危機に直面したときに、適切な措置を取ることができたのだと思います。

経済面でのさまざまな取り組みがなされましたが、それが完璧ではないことも承知しています。ですから、マクロン大統領は、これからもそういった方向性で進め、EU域内で起きる問題に対処するメカニズムを構築し、導入していくよう指示しました。

移民問題については、EUは多くの国どうしが国境を接しているため、とても多くの移民が船などを使ってヨーロッパ大陸を目指してきます。そして、大変残念なことに、航海の途中で命を落とす人たちもいます。

そこで、トルコと私どもは協調して課題の解決に向かうことに合意し、紛争地域から逃れてくる人たちを受け入れる態勢を取ることにしました。そして、そのシステムが決して崩れることなく、今後も統合された形で実行できるように努力しています。もちろん政治的な問題でもあるので解決が難しい面もありますが、たとえば教育や社会保障の部分を調整しながら、今まで以上に移民の人たちを受け入れられやすい国をつくろうとしています。もちろん宗教の問題もありますし、時間もかかる大変難しい分野でもあるのですが、少しずつ解決に向かって進んでいるところです。

安全保障についても、私どもはテロの台頭を未然に防ぐことに取り組んできたわけですが、そのためには何よりも情報交換が必要です。さまざまな機関が収集している情報を私どもが入手、分析することが必要となります。EU域内のパートナーだけでなく、域外のパートナー、とりわけアメリカからの情報が非常に重要です。中東で決してテロの火が絶えていないことを考えると、今後も情報収集と分析によって、テロを未然に防ぐ努力を続けていかなければなりません。

EUは以前から情報収集に取り組んできました。そして、何らかの目標を取り決めた場合、持っている全ての手段を駆使して、その目標に向けて努力を続けてきました。また、日本と同じように、私どもも法の遵守を何よりも必要としています。必要な場合には、国際司法裁判所の手を借りることもあります。そのような形で私どもは取り組んできました。

金融危機のときには、困難な状況に直面している国々を支援するためのメカニズムを、域内に導入しました。マーストリヒト条約には、財政赤字を3%以内に抑えるなど、安定のための条項が定められています。そのようなGDPに対するさまざまな経済指数が守られている限りは、そうした国々を支援していく方向に全く変わりはありません。

移民問題についても同じです。シェンゲン条約で、EU加盟国は域内流通の自由が約束されています。一方で、EU圏の国境をしっかりと守り、EUとは関係のない人々に流通の自由は与えないことが明確になっています。EU圏内外の明確な違いが定められており、EU域外と国境を接するブルガリアやイタリアなどについては、監視を強くすることになっています。ただし、難民などについては、一定の基準に基づいてEU域内に入るのを許可しています。さらに、各国が警備・警察力を強めてテロ対策を強化し、安全保障を強化してきました。

このように、EUは決して悲劇的な道を歩んではいないことをご理解いただけると思います。完璧ではないことも事実ですが、さまざまなメカニズムを持つことにより、私どもは今後もEUの存在を示していきたいと思っています。中でもフランスは強い意志を持っており、マクロン大統領ほどEUの選択を前面に出している人はいないと思います。

ヨーロッパを守るために

2005年、フランスとオランダではEU憲法の批准を巡る国民投票が行われ、いずれも否決されました。それからというもの、フランス国内の全ての政党でEUの選択肢をぼやかしてしまう傾向があります。もちろん、歴代のフランス大統領は、EUが何よりも大切であり、問題が発生したときにはEUとして解決することが重要であると唱えてきましたが、国民に対して十分に説明しなかったのです。ですから、必ずしもEU推進が国民の票につながらなかったわけではなかったと思います。

ところが、マクロン大統領は大統領選の際、EUをこれからも推進していくということを明確に打ち出しました。そして、今後もそれをまっとうすることが、大統領としての使命だと考えています。そこがもしかすると歴代大統領と違うところかもしれません。EUの他の国々も追随してほしいと思っています。EU全体をフランス1国だけで変えることができないことは分かっています。ですから、何よりもドイツとの連携が必要不可欠です。そのことを大統領も承知していますので、メルケル新政権が誕生したところで、そのあたりを強化していきたいと考えているのです。

そして、マクロン大統領自身は「ヨーロッパを守らなければならない」と言っています。その背景にはグローバル化があります。グローバル化に対して政治家が非力であると思っているフランス国民は、ある程度いるかもしれません。その中で、何よりも前面に出していかなければならないのは、EU域内を軍事的に守れる体制をつくることです。

たとえば北大西洋条約機構(NATO)の存在があります。NATOは北大西洋間の機構なので、その役割は重要ですが、それだけでは十分ではありません。アメリカも、EUの防衛をもっと強化すべきと言っています。それだけ多くの脅威があるので、そのあたりを私どもは欧州レベルで今後も検証しなければならないと思います。

貿易においては、各国が自分の利益を大切にしなければならないことは明確です。しかし、決して保護貿易主義に走るのではなく、多国間でWTOなどにあるような共通のルールを導入することにより、または自由貿易協定の交渉を行うことによって、公正で相互主義的な形での貿易枠組みをつくっていかなければなりません。

そうでなければ、自由流通に関して多くの国民が疑問を抱くと思います。とりわけ、アメリカ大統領の世論に対するアピールが、非常に不公平を生んでいることは事実です。ですから、マルチラテラリズム(多国間主義)を今後も大切にしていかなければならないと思います。

同じことが、税制問題についてもいえると思います。経済は常に流動的なものです。デジタル空間が非常に広がっていますし、サービス提供や生産の拠点も今までとはすっかり変わってしまいました。すると、社会で今まで使われていたルールが全く変わって、それぞれの地域で通用しているルールだけでは不十分になります。たとえば公共サービスにしても、社会保障にしても、共通のルールが存在しないことには不公平が生まれてしまいます。

労働者の権利についても、EU域内でどのような形で保障していくのかを考えていかなければなりません。各加盟国で持っている労働法や労働者の権利を共有して、不公平が生じないようにしなければならないと思います。つまり、同じ国の同じ現場で労働している人々は、同じ扱いでなければいけないということです。

今までは、契約をそれぞれ交わした国の所在地によってルールが適用されていたため、大きな不公平が生まれていました。そこで、大統領は、フランスの国籍も非常に大事だけれども、国の主権をまずはEUの主権の下に置くべきであると主張しています。近年は、1つの国で解決できる問題が少なくなってきました。ですから、自分の国の条件が不利な場合は隣国に移るというようなことが起きないようにしなければなりません。たとえば温室効果ガスを見ても、必ずしも自分の地域だけでなく、他の地域にも悪影響を与えていることを忘れてはいけないと思います。

決して自分たちの国だけでは問題を解決できないと考えると、今後は主権はEUにあるという形にしていかなければなりません。また、エコロジーやエネルギー、イノベーションに関しても、EUはデジタル化に適応したルールを活用していかなければなりません。経済や金融に関しても、EUは今後どのような形で拡大していくかという議論になっていくと思います。

ユーロ圏の拡大

そもそもユーロ圏は、私どもが想像する以上に大きく成長したことは事実です。しかし、もっと拡大・深化していく必要があると思います。とりわけ単一通貨があっても、必ずしも各国の経済政策が一致しているわけではないので、そのあたりの努力をこれからしなければなりません。かつては、ギリシャのように、ユーロ圏にあるという立場をうまく活用することで、他のルールを無視したようなこともありました。その点で、ユーロ圏の通貨統合をより一層進めていかなければなりません。

それは、たとえば貯金の保証にもつながりますし、銀行全体のシステムの統合も進めていかなければなりません。それによって、個人レベルで起きた経済的な問題が国に波及しないことにもつながりますし、さらに全体的なルールが非常に重要になると思います。それは、当然ながら企業を守ることにもなるでしょう。

それだけでなく、通貨や経済政策のより一層の統一が求められると思います。とりわけ予算に関して、一層の統一性が必要になるでしょう。ユーロ圏内におけるマクロ経済の不平等を是正することによって、危機の芽を摘むことも重要だと思います。そして、各国の財政に関しても統一性が必要であり、問題が発生した場合には速やかに介入するメカニズムを導入しなければなりません。

長期的な視野からは、私どもはユーロ圏として統一された財政を設けることにより、外部から何らかのショックを受けた場合、それに十分対処できるようにしたいと考えています。大統領は、なるべく早い段階でドイツにもそういった方向性で共に協力してほしいと願っています。

民主主義におけるヨーロッパの存在も忘れてはならないと思います。全ての国民に納得してもらわなければならないということです。ですから、今後取り決めをしていく際には、全加盟国の国民の意見を聞きたいのです。これからのヨーロッパを考えたときに、今までは大きな距離が生じた部分もありましたが、より一層近づけるようにして、国民参加型のEUにすることを心掛けていきたいと考えています。

質疑応答

Q:

昨年9月以降、独仏のバイラテラルな協力によって、EU改革に資することが進んでいるものがあれば教えてください。

A:

まずはデジジョンメーキングが可能な政府がドイツに誕生することを待っている状況です。新しくできた連立政権と私どもが協力し合っていくのは当然のことだと思います。

税制面での統合は、各国で付加価値税(TVA)が異なることが足かせとなって進まなかったわけですが、そうしたより具体的な問題を俎上に載せて、早く解決しなければなりません。EUとして新たな条約を導入するとなれば、批准が必要です。ですから、大統領が言うように、物事を隠した状態で進めるのではなく、国民に対してきちんと説明を加えることで、納得してもらうことが大事だと思います。

Q:

FTA、SPAの発効を前提として、日本企業にどういう期待を持っていますか。

A:

EPAを設けることで、それぞれが持っている経済モデルを、より統合させる方向に導いていくのではないかと思います。フランスは日本にとって単なる市場ではなく、生産地でもあり、研究開発の地でもあり、それが成長してイノベーションの地にもなっています。こうしたことを日本とEU間でさらに活性化しなければならないと思います。

Q:

EUは2004年のビッグバン的な拡大で、加盟国が15カ国から25カ国になったころからおかしくなってきたと思います。ヨーロッパの人々は拡大を急ぎ過ぎたことへの反省が足りないのではないでしょうか。

A:

忘れてはならないのは、平和を築くためにEUが誕生したということです。一方で、拡大には必ず政治的な理由がありました。ギリシャが加盟したのも、独裁政権から抜け出てヨーロッパの理念に沿う国になったからで、旧ソ連の国々もEUの価値を崇拝して、加盟したいと言ってきたわけです。そういった国々もEUの理念をしっかりと考えてもらわなければならないと思います。ですから、拡大はある意味で一生不可欠なものではないかと思います。

しかし、EUへの加盟に際しては全てのルールを守ることを約束させなければなりませんし、EU自体もまだ加盟していない国々を受け入れられるように、しっかりとした母体になることが求められます。

Q:

中国と中東欧諸国による「16プラス1協力」は、EUを分断するような動きではないかという見方もありますが、どう思われていますか。

A:

東ヨーロッパでは、かつてのようにヨーロッパに関心を持たなくなっている国があるかもしれませんが、そのあたりはしっかりと見つめていかなければならないと思います。とりわけ、労働者の問題があります。大統領が今回の選挙で選ばれた背景にもそのあたりのことがあるわけですが、今後どのような形で労働者問題を解決していくのか。拡大は既になされたことであり、その中で全ての問題がうまく解決されたわけではないかもしれません。

しかし、1つ1つの国々と話し合うことによって、たとえばポーランドにおいても解決策が得られました。つまり、必ずしもEU統合に賛成していなかった国々からも、賛同の意が得られたのです。ですから、私どもも志を必ず持ち続けて、今後も物事をしっかりと進めていかなければならないと思います。ヨーロッパとしての元々の理想をなかなか遂行できなくなってしまう国もあるのですが、そのあたりを私どももしっかりと見つめることによって、これからも統合を進めていかなければならないと思っています。

中国に関しては、中東欧諸国とのコンタクトを怠ってはいません。それは日本も同じであり、安倍首相もつい最近、バルト3国、ルーマニア、ブリガリア、セルビアなどを歴訪しています。これは当然のことだと思います。そして、既にEUとしての連帯感は出来上がっていますが、それは決して日本に対してというわけではありません。ヨーロッパは中国に対しても恐らくしっかりとした戦略を持っていると思います。たしかに中国はヨーロッパでの存在感を示すために分断を試みたのかもしれませんが、それ以上に強い団結力があったということではないかと思います。EU諸国は貿易面だけでなく、戦略的な利点も自分たちの共通のアプローチとしていくと思いますし、その点に関しては日本ともこれから対話を進めていくべきだと思います。

日本とEUの国々は、国際法を遵守すること、価値観、経済社会体制など、共通のものをたくさん持っています。ですから、戦略的な分野における投資など、経済産業省が大きな関心を持っていらっしゃる分野についても意見交換することができると思いますし、これからも関係を深めていきたいと願っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。