アジア経済の展望とアジア開発銀行の役割

講演内容引用禁止

開催日 2017年9月15日
スピーカー 中尾 武彦 (アジア開発銀行(ADB) 総裁・理事会議長)
モデレータ 森川 正之 (RIETI副所長)
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アジア経済の現状と見通しについて俯瞰するとともに、アジアの途上国が直面する諸課題に対するADBの取組み等について議論します。

議事録

ADBとアジア経済

中尾武彦写真今回は、アジア経済の現状を振り返るとともに、このたびアジア開発銀行の50年史を4年ほどかけて編纂したのですが、その作成過程で留意した点や感じたことなどもご紹介したいと思います。

先週私は中央アジア地域経済協力(CAREC: Central Asia Regional Economic Cooperation)プログラムの会議で中国のウルムチを訪問しました。CARECは1997年にADBが主導して立ち上げた枠組みで、中央アジア諸国、パキスタン、アフガニスタン、モンゴルそして中国(活動対象は新疆ウイグル地区)が参加しています。その会議に中国の肖財政部長も参加されまして、今年既に面会するのは4回目となりましたが、ADBと中国の関係などについて話をしました。中国はADBをとても重視しており、良いパートナーだと思っています。中国はアジアの成長の大きな要因の1つであり、アジアにおける地政学的に重要な要素であり、さらにアジアの枠を超えて世界的な影響力を持っていますので、私も高い関心を寄せています。もちろんアジアの成長は中国が全てではないですが、中国が政治的、経済的にどのような方向に進んでいくのかは、中国自身の利害のみならず、周辺国あるいは世界にとって相当な影響をもたらしています。ADBの機能としては、その中国ともエンゲージしながら各国の協調関係を強化していく役割とともに、中国の改革志向の部分を助けていく役割があると考えています。

現在ADBの加盟国は67の国・地域となっています。ADBに中国が加盟したのは1986年で、中華民国(台湾)は1966年の発足当初から加盟していました。1980年に世銀とIMFに中国が加盟した際には、国連に沿って中国と台湾が入れ替わりました。しかしADBでは、当時の藤岡総裁のご努力もあり、台湾はタイペイ・チャイナとして残るとともに、中国もADBに加盟しました。ちょうど同じ時期に、ADBはインドへの貸し出しも開始しています。

1966年にADBができた当時の状況を顧みると、日本は戦争への反省があってアジア諸国を助けようとしていましたし、アメリカはベトナム戦争や、共産党への対抗意識もあって東アジア、東南アジアを非常に重視していたと思います。そういう時代にADBは発足しました。その後の進展の中で私が注目するのは、インドネシア、インドを含む多くのアジア諸国が、当初、輸入代替的な政策や国有企業の高いウエイトが示すような保護主義的な政策を取っていたことです。それはすなわち、他の先進国の企業に強い影響を受けたくないという気持ちが強い、反植民地的な政策でもありました。

プレビッシュの「中心周辺理論」というのがあります。それは、中心の国というのは工業を持っている一方、周辺の国には農業しかないので、交易条件がどんどん中心の国に有利となり、周辺国はいつまでも周辺国のままであるという理論です。この理論に従えば、周辺国のステータスから脱却するには工業化を進めなければなりません。そのために輸入代替工業化を進めよう、との考えの下、結果的にインドもインドネシアも、非常に非生産的、非効率的な経済を作ってしまいました。

日本の場合も、もともとは相当保護主義的な政策を取ってきました。戦時体制の中でトヨタや日産が出てきましたが、戦後、「放っておくと直接投資、あるいは貿易を含めて日本の産業が育たなくなる恐れがある」ということで、輸入の為替割当てや関税、物品税、技術協力など、さまざまな形で産業政策をとってきました。しかし最終的には市場が大きいことに加えて、1964年にOECDに加盟した時に経常取引を自由化し、資本取引についてはOECDの自由化コードを受け入れた。そしてOECDの輸出信用ガイドラインやガットの貿易の措置を遵守するなど、全体として自由化の方向に進めていかなくてはいけないという政府の指導者や産業界にも合意があったのではないかと思います。しかし、多くのアジア諸国は輸入代替を志向する政策をとり、そして、うまくいっていない状況が見られました。それはガバナンスや汚職の問題などもあったかもしれませんが、国内市場が小さい中で輸入代替と言っても仕方が無い、したがって極めて非効率な経済を中国、インド、インドネシアは作ってきたということがあります。しかしその後、それらの国はどんどん自由化を実施しました。

私は東南アジア諸国連合(ASEAN)の人たちに、ASEANの影響は自分たちが考えているより大きいと言っています。ベトナムやカンボジア、タイ、そしてミャンマーなどASEANの国々は中国、インドなどに対抗する役割を持っていたはずで、結局はそうした国を市場経済、自由主義の中に取り込んでいった影響はとても大きいものがあります。さらに言えばASEAN+3、ASEAN+6がプラットフォームとしての役割を果たしていると思います。ベトナムやカンボジア、タイは当初よりADBに加盟していたのですが、紛争の中で延滞を起こし、関係が止まっていました。それが1990年代にどんどんリエンゲージされ、そうした中でADBはGreater Mekong Subregion(GMS:メコン河流域圏)のイニシアティブを立ち上げてこの地域における地域協力・開発を進めていきました。

中央アジアにおいても、1990年のソ連邦崩壊以後、旧ソ連の共和国がそれぞれ独立する中で、旧ソ連時代には中央計画経済の下でつながっていたそのコネクティビティやバリューチェーンを復活させるかということで、ADBが関与して Central Asia Regional Economic Cooperation(CAREC:中央アジア地域経済協力)の枠組みを作りました。中国が最近「一帯一路」を提唱していますが、ADBは遥か昔から、この地域での地域協力を進めてきたのです。

アジア経済における日本

中国の国内総生産(GDP)は日本の3倍であり、中国の存在感は圧倒的に大きくなっていますが、インドやインドネシアなどもそれほど貧困というわけではなく、全く中国に依存しているわけでもありません。内需が非常に強く、次第に大きな影響力を持つようになっています。一方、アジアの成長における日本の貢献は自分たちが考えているより大きいと思うのです。それは援助や外交で果たしてきた役割もありますが、同時に貿易の相手国としても大きな存在でした。日本は中国にとっても1997年頃まで香港に次いで最大の輸出先でしたし、今でもフィリピンにとって最大の輸出先は日本です。韓国、台湾、タイ、マレーシア、そしてインドネシアにとっても、日本は非常に大きな市場を提供してきました。

またアジアの成長の背景として、プラザ合意以降、直接投資がとても多かったことが挙げられます。それが東アジアにおけるバリューチェーンを作ったという点では、南アジアにはない発展の要素の1つです。日本が一番先に行って、途上国がついていくという「雁行成長理論(フライング・ギース)」というよりも、ある部分では他の国が進んでいるという形であり、内需の成長パターンも輸出より各国の内需にウエイトがあります。

もう1つ指摘しておきたいのは、日本が輸出志向で発展したというのは必ずしも正確ではないということです。日本のGDPに占める輸出の割合はもともとそれほど高くありません。輸出志向ではなく、開放的な政策の下で輸入をするために輸出が必要だったということだと思います。日本は輸出だけ考えた国のように言われることがありますが、輸入しなければならないために輸出していたわけです。固定相場制の下で景気が良くなると輸入が増え、外貨準備が不足することにもなるといったこともあり、景気をある程度抑制せざるを得なかった時代が1960年代半ばまで続きました。常に経常赤字が問題であり、経常黒字になったのは1960年代半ば以降で、その後急速に経常黒字が積み重なったことが変動相場制に移行する要因ともなったのです。

そうしたことも少し誤解されている部分があるのではないかと思います。つまり、輸出もするけれども輸入もするという開放的な政策モデルを示したこと、輸出市場を提供したこと、そして直接投資によってそうしたネットワークを構築し、その時に技術移転をしたことは、アジア諸国に対する日本によるかなり重要な貢献であったのではないかと思います。

アジアの成長ポテンシャル

アジアの成長率は全体として高い状況にあります。「新興工業経済地域(NIEs:韓国、香港、シンガポール、台湾)」を除いたアジアのGDP成長率を見ると5.6%になっており、アジア全体の成長率とあまり変わりません。つまりリーマンショック以降も相当強い成長を続けていることが分かります。特に2010年は10%ほどの成長をしています。これは中国の成長率が非常に高かったこともありますが、むしろ他の国の成長のモメンタムが加速しているといえます。

タイは政治的な不安定性なども含めてやや弱含みであり、ベトナムは国営企業の問題などがいろいろあるものの、成長が続き、実際に中間層が増えています。韓国は1人当たりGDPが日本と変わらなくなっていますが、その割には成長率は高いですね。フィリピンは、ドゥテルテ大統領が貧困層も含めたインクルーシブな成長を考えていて、公共事業も積極的にやろうとしています。決断力もあって支持率が非常に高いです。それは麻薬の問題を解決しなければならないと考えている人が多いということと、お金持ち層の特権的な人たちによる今までどおりの政治に嫌気がさしているということがあると思います。

インドネシアは非常に大きな国で、資源もかなりあるため、資源価格が下がると影響を受けますが、ウィドド政権は思った以上に政治的な力をつけており、基盤は安定していると思います。

インドのモディ首相は、高額紙幣を廃止したり、今年7月から物品サービス税(GST)の導入も実施しました。モディ首相とは2回お会いしていますが、インドは分権化されていて州の力が非常に強く、税制でさえ統一されていないことが問題なので、GSTを入れて1つの市場にしなければならないとの強い意向があると感じました。また、モディ首相は、インフラ整備もさらに進めなければならないし、インドではトイレが不足していて、そのため子供が学校に通いたくなくなってしまう、そうしたことが発展を阻害する要因になってしまうといった話もしています。一方で、インフォシスに代表されるように技術はとても進んでいる面があり、中間層も増えているという状況についてもよく理解されています。しかし、あまりにも課題が多く、貧しい人々は徹底的に貧しいですから、これぐらいの成長をしてもなお中国のレベルに達するのはなかなか難しいと思います。ただ、だんだん成長はしていますし、経済規模が大きくなるに従って世界への影響も大きくなるでしょう。

ADBの概要

ADBは総職員数約3000人、そして専門職員約1100人のうち日本人が150人もおり、日本の存在感が非常に大きい機関です。通常資本ではアメリカと同じ出資比率ですが、よりお金がかかる譲許的資金は日本が多く負担しています。年間投融資承認額は175億ドル(約2兆円)です。借り入れはインドが最も多いのですが、中国も2番目とまだまだ多いです。昨年アゼルバイジャンが多かったのは、資源価格の変動による困難に対応するために財政支援型の融資を出したためです。セクター別では運輸やエネルギーが多いですが、公共政策向けというのは財政支援型の融資です。政府向け融資が多いですが、民間セクター向け融資も増えています。

ADBにはさまざまな国から職員が来ていますが、できる限り女性を増やしたいと思っています。副総裁は6人中2人が女性ですし、局長クラスでも女性は多いです。職員はみな組織に対する忠誠心も強いですし、あまり国籍などを意識することはありません。やはり組織としてはメリットベースで考えていくということだと思います。理事は各国の意見を代表する立場でありますが、ADBが各国にとって大事な機関であるという点について、私は疑問を持ったことはありません。

また、地域局とは別にセクター別、テーマ別グループをつくり、知識をみんなでシェアしています。それから、各国の研究機関とパートナーを組んで取り組むことに力を入れています。

アジア太平洋地域の課題

アジア太平洋地域に残された課題としては、絶対的貧困がまだ多く残っていることが挙げられます。それから、インフラ格差が随分経済発展と福祉を阻害しています。「持続可能な開発目標」やCOP21での合意に示されるように気候変動対策も実施しなければなりません。民間セクターの活動をさらに強化する必要もあります。その中では官民連携(PPP)の推進も必要です。しかし、そう簡単には進みません。特に外国資本をPPPに投入する場合には、送金リスク、為替リスク、規制変更リスク、土地収用リスク、そして収益見込みの変動などさまざまなリスクがあります。一方で、国内の民間資金を投入することも可能です。たとえばフィリピンの空港プロジェクトには地場の銀行から資金が提供されました。米国でも英国でも日本でも、もともと民間が鉄道を作って、それを国有化していますから、そういうコンセッションに基づく民間資金の活用というのはまったく新しい形というわけではありませんから、さらに進めて行きたいと考えています。先進国の発展の歴史を見ますと民間の力が重要で、日本でも戦前から銀座線を作り、丸の内線を計画し、また小田急線を含めて鉄道網を作った民間の力、そうした日本の資本主義的な伝統を私は非常に誇りに思います。

また、ジェンダーの平等の推進も必要です。女性の活躍は世界的なテーマになっており、プロジェクトを行うにしても、女性にどういう恩典をもたらすのかを考えなければなりません。他にも都市化の問題、高齢化の問題、格差拡大の問題などがあります。アジアにおいて人口が増える一方で、貧困人口が急速に減少したのは、中国の成長が大きいですね。

ADBはインフラの需要予測を出しましたが、気候変動への対応を考慮しますと、特に電力セクターを中心に相当の需要があり、現在の資金規模ではかなりのギャップがあるといえます。公的資金と共にかなりの民間の資金が必要となりますし、PPPの活用も重要です。気候変動への対応については、2015年9月にADBは気候関連支援額を倍増する事を発表しました。

ADBの改革

こうした多くの課題に対応するために、ADB自身が改革しなければならないということでさまざまな改革を行っていますが、まずレバレッジをかけていなかった譲許的資金の勘定を通常資本に統合して、双方にレバレッジをかけて活用することで、増資をすることなく、貸し付け余力を高めました。それから、調達手続きの簡素化、28カ所ある現地事務所の権限強化、官民連携部の設置、セクター別やテーマ別のグループを通じた知識の共有、そして職員のモビリティ(配置転換)拡大などに努めています。

たとえば役所などの場合は問答無用で異動がありますが、ADBの場合は誰かが辞めて役職が空いたら、内外を含めて公募して埋めていきます。そうしますと、人の動きは少なくなって、あまり変わろうとしなくなります。私は、日本のシステムはやり過ぎの面もあると思いますが、私自身の経験からしましてもある程度いろいろなことを勉強した方が結果的に組織のためになると思いますし、個人のキャリアの形成でもある程度動かされた方がいいと思っています。ですから、ADBも少し中央集権的な人事体制を入れなければいけないのではないかと検討しています。

アジアの世紀ということについては、いずれアジアが世界のGDPの半分を占めるようになるということですが、既に人口は半分以上を占めているわけですし、それほど驚くことではないと思います。しかし、真にアジアの世紀というためにはソフトの面での蓄積、影響力が重要であり、そうした意味では、15世紀くらいから欧州が発展させてきた資本主義や主権国家の間での国際法の世界ですとか、あるいは音楽や哲学や物理学といった分野で西洋が積み上げてきたものをアジアが抜くということは難しいことだと思います。アジアもじっくりやるべきことをやり、気がついてみたらアジアの思想、影響力が世界の中で強くなっている、そうしたことはあるかもしれません。

ADBの歴史から見えるアジアの発展

ADBの機能としては、貸し付けとナレッジ(知識)を一緒に出してきたことが大きいと思います。それから、政策や地域協力など、お金の問題とは別にいろいろな形で促進してきたと思います。もともと貧困で資金も足りなかったため、資本を外国から引っ張ってこなければならないということで、ADBに域外国も入れることに一生懸命努めました。

アメリカを入れないとアジアの国際機関として不十分ということもありますが、域外の欧米諸国を入れることで信用を高めて、債券を発行したかったわけです。1969年にまずドイツでマルク債を発行し、1970年に日本でサムライ債とオーストリアでシリング債を発行、さらに1971年にAAAの格付けでアメリカで債券を発行しました。サムライ債については、実はADBが最初の発行機関であり、そのときは渡辺武初代総裁が東京証券取引所や大蔵省証券局、日銀などいろいろなところを回って実現しました。というのも、日本は資本を受け入れる側だと長く思われてきたからです。

アジアの経済発展につきましては、ワシントンコンセンサスではなく、何か特別なやり方をとっていたというよりは、インフラ、教育、マクロの安定、開放的な経済政策などさまざまなことをやってきて、そして戦略も良かったということだと思います。

アジアの発展には、日本からの援助も役割を果たしましたが、商業や直接投資といったものがASEANや東アジアの共同体的な気持ちを作ってきた要素なのだと思います。つまり、APEC(アジア太平洋経済協力)あるいはASEAN+3におけるチェンマイ・イニシアティブなど政府が考えて進めてきた枠組みも大事かもしれませんが、やはり商業活動の役割は非常に重要だと思います。

「アジアの域内貿易は最終消費地が欧米なので、リーマンショック後リカバリーできない」と言われたこともあります。しかしこれは誤りで、アジアの発展はアジア自身の需要が支えていると思います。長期停滞論は、貯蓄に比べて投資が少ないというもので、その理由として富の偏在、IT企業も貯蓄ばかりしている、物の陳腐化が早いため投資が進まないといったことが指摘されていますが、これは先進国の話であって、途上国に限って言えば、持てないものがまだたくさんあり、幾らでも消費したいものがあるため、まだまだ成長する余地があると思います。

途上国の経済発展にとって特に重要なのは、経済的、政治的安定です。紛争になればどうしようもありません。その点ではインドやパキスタンにはいろいろな問題があるので、それをマネージしていくためには、完全に解決できなくても協力関係を維持することが大事だろうと思います。

グローバリズムと国益第一主義ということで、国益を第一にするのは当たり前のことですが、問題は長期的にサステナブルな形で国益を大事にするかどうかということで、国益という中には当然各国との協調的な関係が入ってきますから、主権国家を超えるものを求めても民主主義が代表しているのは主権国家ですから、主権国家の機能は大きいということだと思います。

中国に対する見方

中国の成長率は落ちてきていますが、もともと高過ぎたともいえます。短期的な要因としては、過剰生産能力の解消、金融セクターの安定を優先ということですが、今年7月の金融工作会議での議論を見ると、レバレッジが高過ぎるとか、国有企業(SOE)の借り入れが多過ぎるとか、地方財政が赤字になって第三セクター的なプラットフォームのようなもので繕っているとか、そうしたことに対して強い問題意識を持っています。ゾンビ企業という言葉も使っているほどで、日本人がバブルの経験を通して懸念していることを彼らも全て懸念しています。しかし、バブルを一挙につぶそうとすれば、債務は倒産か整理をしない限り減らない一方で、バランスシートの資産サイドは収益力面でも担保価値の面でも急激に悪化することになってしまいますから、非常に難しい調整になるだろうと思います。

中国はそれをよく分かっているのですが、政治的問題や社会的影響も含めて、舵取りが難しいのだと思います。構造的要因としては金融セクターの安定を優先していることが挙げられますし、消費サービスにウエイトを置いていないこと、労働力人口が減っていること、発展段階が高度化していることが挙げられ、今までほどの成長は難しいと思います。

中国に関して最近非常に面白いと思うのは、各会社で定款を変更し、党のガイダンスを明確に位置づけようとする動きがあることです。国営企業などはもともと政府がオーナーシップを持っていますし、各会社に党の委員会がありますから、それを超えてさらに強化することによって、社会主義市場経済といっていた、社会主義つまり共産党によるガイダンスと、市場主義つまり国有制から民有制への移行、計画経済から市場メカニズムという矛盾する概念が一緒になっていた部分が、これからどちらに向かうのかが焦点となります。

つまり、中国は今、分権的な方向をもう一度中央に持っていく必要性を感じているように思えます。それは汚職防止のためなのか、過剰生産の整理のためなのか、国有企業の競争力強化のためなのか、あるいはウェルフェアのためなのか、つまり、拝金主義的なものを排したいと思っているのか、あるいは場合によっては一帯一路への参加を求めるということなど、いろいろな意味があるのかもしれませんが、それは果たしてそうなのか、政治的な問題を含めて中国はどのような方向に向かおうとしているのか、ということがありますが、問題はどういう目的でそうしたことをやろうとしているのか、あるいはそれが成功するのかどうか、ということですね。

と言いますのは、中国が今まで発展してきた理由は、どちらかと言えば、分散的、市場的な決定の方に向かっていたからですし、それを理由はどうあれ集権化するということは、やはり共産主義的な方向に戻っていくということになりましょうし、もともとは共産主義もプロレタリアートのウェルフェアや国家としての強さを狙っていたわけですが、結果的に非効率になってしまった。ですから、私は、中国は出来る限り市場的なメカニズム、自由主義的な方向に政治体制も含めて持っていくと同時に、貧富の格差や貧困の解消に最大のウエイトを置いて税制、財政、教育制度を考えていくべきなのではないかと考えています。

質疑応答

Q:

アジアの地方自治体の財政強化について、ADBはどう考えていますか。

A:

まず、自治体や国営企業にお金があるかどうか、そして政府が保証した形でソブリン融資をすることは、政府が債務のGDP比率を気にしているため難しくなっていますから、そこをどう強化していくのかがポイントで、われわれも自治体や民営化されつつある国有企業に、政府保証なしの貸し付けを拡大しようと思っているのですが、たとえば中国なども地方の債務負担は非常に重いです。それはやっていることが多い割に税収が少ないからです。ですから、税源を与えることと、補助金を紐付きではないものに変えていくこと、それから債券の発行を認めることです。同時に、ウェルフェアな部分をもう少し中央に吸収して、歳入を増やして歳出を抑制することを考えていると思います。どの国でも、地方財政はある程度重要な要素だと思っています。

Q:

アジアにおけるクロスボーダーの金融取引や直接投資が増えてきていますが、ASEAN域内において、ますますこうした取引を活発化する規制緩和などの政策は取られているのでしょうか。

A:

特に先進国から資本を受け入れるだけでなく、域内相互、途上国同士での投資が非常に重要になっていて、ASEAN経済共同体として進めようとしていますし、一方で関税だけでなく、サービスセクターや職業ライセンスの自由化の方向にも向かおうとしています。

Q:

ADBのアメリカの理事が空席になっているという報道がありましたが、もう決まったのでしょうか。

A:

アメリカの理事は今のところ任命されていません。アメリカファーストの政策とADBの存在は矛盾しないはずですが、矛盾しないと考えるのかどうかは直観的な要素もあるので、よく分かりません。しかし、私はそれほど悲観していません。アメリカの財務省はアジア開発基金(ADF)の追加拠出予算について考えてくれていますので、ADBは比較的効率的な機関だと思われているようです。

Q:

アジアインフラ投資銀行(AIIB)についてアメリカの格付け機関が「AAA」と格付けしましたが、その後、AIIBは債券を発行し始めたのでしょうか。

A:

ADBには加盟国から今までの50年間で約70億ドル(約7800億円)の資本提供がありますが、AIIBには5年間で200億ドル払うとされています。AIIBがAAAの格付けを得たのは、貸し付けに対して資本が多いからです。資本が多いと借入分が少ないため、貸し付けが毀損したときにそれほど不良資産化することはありません。つまり、格付けは証券のデフォルトリスク、それから、ビジネスモデルとして健全であるかということがあります。AIIBの場合は先進国からも資金がたくさん入っていますし、貸し付けはしっかりしています。そして十分な資本があります。したがって、AIIBがAAAの格付けを取得したのは当然だと思います。

Q:

中国は多額の財政赤字を国債で賄おうとしていて、ゴールドマン・サックスなどのアメリカの金融機関に扱わせることを恩恵であるかのように言っていますが、それは恩恵なのですか、それともアメリカの金融機関が中国に対して恩恵を与えているのですか。

A:

ゴールドマン・サックスなどの金融機関は、中国の五大国有銀行の株式売却などに関連してもうけていますから、彼らが中国に大きなウエイトを置くことは、彼らにとって大きな恩恵だと思います。中国にとっても、そういう人たちと仲良くしているのは悪いことではなく、日本以上にいい意味でも悪い意味でもクローニー(仲間内)的な要素になっていると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。