指数から読み解く日本の政策不確実性の特徴

開催日 2017年7月14日
スピーカー 伊藤 新 (RIETI研究員)
スピーカー 見明 奈央子 (国際通貨基金(IMF)アジア太平洋地域事務所エコノミスト)
モデレータ 及川 景太 (RIETIコンサルティングフェロー/金融庁監督局保険課課長補佐)
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開催案内/講演概要

世界経済は政策の不確実性に直面している。米国ではトランプ政権の減税政策や医療保険制度改革をめぐり不確実性が高まっている。他方、英国ではEUからの離脱交渉をめぐる不確実性が強まっている。新聞に掲載された記事を活用して作られた政策不確実性指数(グローバル指数)はこのところ過去20年でもっとも高い水準で推移している。メディアや政策当局のあいだでは、この指数に大きな関心が寄せられている。グローバル指数を構成する日本の指数には、Economic Policy Uncertainty Project (http://www.policyuncertainty.com/)、IMFアジア太平洋局、RIETIの共同研究から得られた指数が使われている。このBBLでは、まず日本の指数について解説し、そのあとその指数をもとに過去30年間のわが国における政策の不確実性の特徴を概観する。

議事録

共同研究の問題意識

見明奈央子写真見明:
このたび、RIETI、シカゴ大学、国際通貨基金(IMF)の共同研究により、伊藤研究員が中心となって日本の政策不確実性指数を作成し、先般、ワーキングペーパーとして発表しました。

日本において政治や政策の不確実性は経済活動にどう影響を及ぼすのか、どのようなショックが起きると経済活動は影響を受けるのか、そして安定政権の経済運営に死角はないのかという問題意識の下、各政策を分析して不確実性を見ていきました。まず、政策の不確実性を計量化するために政策不確実指数を作ることにしました。加えて、全体の不確実性を各分野に分けて見た場合にどうなるかということで、日本に関して財政・金融・貿易・為替の4分野に分けてでサブ指数を作成しました作ることにしました。指数を作成するに当たり、シカゴ大学のデイビス、ブルーム、ベーカー教授の作成手法を用いております。

共同研究のプロセス

共同研究のプロセスは、3段階に分かれています。第1段階は指数作成にあたっての条件設定です。まず、政策の不確実性を計量化するために政策不確実指数を作ることにしました。加えて、全体の不確実性を各分野に分けて見た場合にどうなるかということで、日本に関して財政・金融・貿易・為替の4分野でサブ指数を作ることにしました。

また、不確実性について新聞で言及されるということは不確実性が高まっていると考えられるので、「経済」「(各)政策」「不確実性」にかかるキーワードを選定し、英語と日本語の対訳をチェックした上で、各キーワードが用いられる文脈を確認しました。

第2段階は指数作成です。「読売新聞」「毎日新聞」「朝日新聞」「日本経済新聞」のデータベースでキーワードが出てくる記事数をカウントし、それを基に指数を組成して、不確実性指数が上がったときにはどういうイベントがあったかを特定していきました。たとえば、株主総会のときに記事数が大幅に上がる増えるのですが、そのようにミクロの事象でマクロの事象が押し出されていないかなどをチェックし、季節性を調整しますます。

第3段階は分析です。まず、全体の指数と4つのサブ指数の関係を分析し、海外の指数との関係も見ていきました。次に、政策の不確実性ショックに対する経済活動の影響を分析しました。多変量自己回帰モデル(VARモデル)によって、不確実性が高まると経済のパフォーマンスが低下することが確認されています。

政策不確実性指数の活用

政策不確実性指数は、かなりファジーでアナログな指数だと思われるかもしれません。がしかし、、非常に計量的な分析を行ったところ、多くの示唆が得られました。セクター別の経済活動を見てみると、消費よりも投資の方が不確実性の高まりによる減衰効果が大きいことが立証されました。また、消費財よりも資本財の方が影響を受けやすいことも分かりました。これからは、セクターごとの株価や活動指数等を用いて不確実性の影響を分析していく予定です。

私どもの研究は、グローバルな不確実性指数の組成にも貢献しました。シカゴ大学では、購買力平価(PPP)調整済みの国内総生産(GDP)の比重をかけてグローバルな不確実性指数を作成しており、この中でも日本の指数が大きな割合を占めています。

不確実性指数は、実際の政策分析や政策提言にも活用されています。IMFは昨年の「対日4条協議終了にあたっての声明」で、財政政策に関する不確実性について日本政府に対して意見表明をしました。その中では、補正予算がかなり恣意的に出されていて、経済活動を予見する上でボラティリティかく乱要因になっているのではないかと指摘しています。また、財政分野の不確実性が、中長期的な財政目標を毀損するような、過度に楽観的な経済見通しの下に基づいて立っていることで、財政余地出動規模が今後どれくらいあるのかが見えにくくなっているとも指摘しています。

その上で、補正予算の出動をできるだけ抑えてよりも本予算に重点を置きで何とかするとともに、プライマリーバランスをゼロにするための経済成長率などの推計値を、より現実的な前提をきちんと踏まえたものにすべきであるて作り直してもらいたいと提言しています。

また、今年は金融政策にも不確実性を減じるべきであるとの提言を行っています。テーマが向いていて、マイナス金利や長短金利操作の突然の導入により金融日本国債市場が非常に大きく変動したこと荒れたことを踏まえ、日銀はフォワードガイダンスをもっと強化するべきであり、日銀執行部の見解もきちんと公表してほしいとコメントしています。さらに、マーケットはあまり信用していないので、日銀は国債80兆円購入という目標を取り下げた方が現状を反映しているいいのではないかとも言及しておりますいうことまで言っています。

不確実性の研究はこれからも続くので、皆さまからのコメント、ご要望などを伺って、今後の研究につなげていきたいと思います。

政策不確実性指数から分かったこと

伊藤新写真伊藤:
私は、日本の政策不確実性についてこれまでに分かったことを紹介します。先月の月例経済報告のなかで、世界経済は政策をめぐる不確実性に直面していることに留意する必要があると書かれています。日本でも政策の不確実性に関心が持たれています。

しかし、日本では政策の不確実性がどのようなときに高まるか、政策の不確実性を生み出すのはどの分野の政策であるか、政策の不確実性の予期せぬ高まりに対して実体経済はどう反応するかについてほとんど知られていません。その理由として、そもそも政策の不確実性を測る物差しがなかったことが挙げられます。そこで、私たちの研究グループは新聞記事を活用して政策の不確実性を捉える指数を作りました。

指数から分かったことは、主に5つです。1点目は、日本では首相の交代や激戦となった国政選挙のときに政策の不確実性が高まること。2点目は、1997〜1998年のアジア通貨危機や2008年の世界金融危機、2011年の米国での政府債務をめぐる民主・共和両党の激しい対立、2016年の消費増税再延期やBrexitのときに政策の不確実性が高いこと。3点目は、世界金融危機以降、日本は外国の政策をめぐる不確実性に、以前にも増して直面していること。4点目は、日本の政策の不確実性を生み出しているのは、主に財政政策と金融政策の2つであること。5点目は、政策の不確実性の予期せぬ高まりは、その後の経済活動が弱まる予兆となることです。

指数の作り方

これらを詳しく見ていくために、まず日本の指数がどのように作られているかを説明します。日本の指数は米国の指数の作成方法に準拠して作っています。そこで、まず米国の指数について説明することから始めるのが良いと思います。政策の不確実性を定量化するために、シカゴ大学のデービス教授やスタンフォード大学のブルーム教授らの研究グループは新聞記事数に目を付けました。彼らは、家計や企業が政策の不確実性に直面しているとき、世の中ではその不確実性について頻繁に報じられているはずだと考えたのです。

彼らが捉えようとした不確実性は、次の大統領選挙で誰が勝つかといった、誰が政策決定を行うかについての不確実性、どのような政策がいつ実施されるかについての不確実性、政策の効果についての不確実性、そして政策が実施されないことにより生じる経済の先行きの不確実性です。

まず、全米主要10紙の記事の中から、economy(経済)、policy(政策)、uncertainty(不確実)の3つのカテゴリーにおける用語を、少なくとも1つ含む記事を拾い出しました。ここで、policyカテゴリーの6つの用語は次のようにして選び出されています。まず、1985〜2010年に掲載された記事の中からランダムに抽出した約1万2000記事を精読し、政策の不確実性について言及されるときによく使われる政策関係の用語として15語を特定しました。15語は、大きく2つの特徴に分けられます。1つは政策運営の担い手に関する用語、もう1つは政策遂行の手段に関連した用語です。

次に、15語をもとに3〜6語で構成される約3万2000通りの用語セットを作りました。1つ1つの用語セットについてコンピュータによる記事検索をおこない、そうして得られた結果を記事の精読により得られた結果と照合しました。その結果、もっとも当てはまりが良かったのが、その6つの用語セットを用いたときでした。

私たちの研究グループは、米国の指数と同様の方法により日本の指数を作りました。具体的には、米国の用語セットに対応する日本語として、economyについては「経済」と「景気」、uncertaintyについては「不透明」「不安」「不確実」「不確定」を採用しました。これらの日本語の用語は、日本語版の記事とそれに対応する英語版の記事を精読することにより選び出しています。

policyについては米国の指数の作成過程で候補に挙がった15語に対応する日本語を32語採用しています。ただし、指数を作る上で最も重要なpolicyに関する用語は、記事を精読して選び出されたものではありません。用語の精度を高めることは今後の残された課題です。

記事の収集は1987年1月からおこないます。収集された月間記事数をその月の総記事数で割ることにより相対記事数を算出します。その相対記事数には季節性がみられるため、季節調整をおこないます。そして、各紙で異なる相対記事数のデータ特性を合わせる作業、すなわち正規化をおこない、最終的に1987〜2015年の平均値が100となる指数を算出します。全政策の指数に加えて個別政策の指数も作ります。個別政策の動向にも関心があることと、政策の不確実性の源泉はどの分野の政策であるかを知るためです。

1987年からの指数の動き

1987年以降の政策不確実性指数の推移から2つのことが見て取れます。

第1に、日本では4つの時期に指数が高い水準に達しています。1つ目は1990年代後半、アジア通貨危機や衆参ねじれ現象が生じた頃です。2つ目は2000年代後半、世界金融危機が起きたとき、3つ目は2010年代初め、欧州通貨危機が生じたときや鳩山・菅両首相が辞任したときです。最後の4つ目は、昨年の消費増税再延期やBrexitのときに不確実性が高まっています。

第2に、指数が急上昇しているときが何度かあります。たとえば、2000年6月におこなわれた総選挙では連立与党が大敗し、大きく議席を減らしました。このとき政権運営への不安から、指数が急上昇しました。2008年3月にも指数が大きく上昇しています。このとき、政府が国会に次期日銀総裁の人事案を提出しました。しかし、当時の国会は衆参ねじれの状態にあり、野党が政府の人事案をことごとく否決しました。総裁任期が終わる直前にこういう騒動が起きたため、金融政策をめぐる不確実性が高まりました。指数はそのことを如実に映し出しています。昨年の米大統領選挙のときも指数が上昇しています。先月の指数は100を下回る水準まで低下しています。この指数にもとづけば、足元の政策の不確実性はそれほど大きくありません。

日本の過去30年の政策不確実性の特徴を類型化すると、大きく2つに分けられます。1つは、大きな経済ショックの発生がきっかけでそれに対する政府の対応が問題となり、政策に関する不確実性が高まるというパターン。もう1つは、与党が選挙に負けたり、首相が辞任したりといった政治的な要因で政策の不確実性が高まるパターンです。

米国の指数も日本の指数と同じように、世界金融危機後に高い水準に達しています。また、指数は大統領選挙のときや2011年に連邦債務の上限引き上げをめぐり共和・民主両党が激しく対立したときに上昇しています。ところで、米国の指数と日本の指数のあいだに見られる大きな違いは安全保障政策に関する不確実性です。米国では1991年の第一次湾岸戦争、2001年の同時多発テロ事件、そして2003年の第二次湾岸戦争のあたりで指数が大きな値を示しています。一方、日本ではそうなっていません。

日本を含む世界18カ国の政策不確実性指数をGDPで加重平均して作ったグローバル指数を見ると、指数はロシア危機、米国での同時多発テロ、第二次湾岸戦争、世界金融危機、欧州債務危機、米国での財政をめぐる問題、Brexit、そして昨年の米大統領選挙といったイベントがあったところで高い値を示しています。先月の指数は150強のところまで下がっていますが、その水準は過去30年で高いほうです。世界経済が直面する政策の不確実性は依然として大きいことが指数からは見て取れます。

世界金融危機前後で日本の指数と欧米の指数、グローバル指数との相関を見ると、危機前は日米の相関係数は0.3、日本とグローバルの相関指数は0.21でした。ところが、危機後にはそれぞれ0.63と0.57に上昇しています。この結果は、日本が世界金融危機以降、外国の政策をめぐる不確実性に以前にも増して直面していることを示唆しています。

政策の不確実性の源泉がどこにあるかを調べるために、個別政策別に記事を収集し、それらの記事数が全政策の記事数に占める割合を算出しました。政策ごとの割合の推移を見ると、財政政策の割合が最も高く、過去30年で平均すると57%です。割合は時間を通じて上下変動していますが、趨勢的には横ばいです。

2番目に割合が高いのは金融政策です。財政政策と異なり、割合は2000年代から上昇傾向にあります。日本ではその頃に伝統的な金利政策に代わり非伝統的な金融政策、つまり金融市場調節の操作目標を量的指標とする政策が導入されました。これまでさまざまな試行錯誤が重ねられてきましたが、それとともに日銀の金融政策をめぐる不確実性が高まっています。

財政政策や金融政策と対照的に、通商政策や為替政策の割合はそう大きくありません。また、割合は趨勢的に減少傾向にあります。もっとも、貿易政策の最近の割合はトレンドから乖離して上昇傾向を示しています。これは環太平洋経済連携協定(TPP)の合意や批准手続きをめぐり不確実性が大きく高まったことを反映しています。

時系列分析によるエビデンス

最後に、政策の不確実性の予期せぬ高まりと経済活動の関係性について実証的なエビデンスを紹介します。それを分析するためにマクロ経済の研究者のあいだでよく利用されるのが時系列分析と呼ばれる手法です。ここでは、政策不確実性指数、TOPIX、政策金利、雇用者数、経済活動指数の5つの変数からなる月次多変量自己回帰(VAR)モデルを推定し、正の政策不確実性ショックが生じたときに経済活動指数や雇用者数がどう反応するかを調べます。

世界金融危機前(2005〜2006年)の政策不確実性指数の水準と危機後の2011〜2012年の指数の水準の差に相当する規模(65ポイント)の正のショックが生じた場合、経済活動指数はショックが起きた時点ですぐに反応しませんが、時間が経過するにつれて低下していきます。減少率が最大となるのは、ショックが発生してからおよそ1年後であり、それ以降はショック発生前の水準まで徐々に戻っていきます。一方、雇用者数もショックが起きてすぐには反応しませんが、半年が経過した頃から減少し始め、7四半期後に減少率が最大となります。

さまざまなセッティングのもとでも、それと同様の結果が確認できます。たとえば、消費者態度指数、グローバル指数、あるいは日経平均VIを追加したより大きなモデルを用いたり、ラグ数を替えたり、さらには変数の並べる順番を替えたりするなどさまざまなセッティングをしても、正の政策不確実性ショックに対する経済活動指数の負の反応が引き続き見られます。

以上をまとめると、政策不確実性指数を用いた計量分析からは、政策の不確実性の予期せぬ高まりは、先行きの経済活動を弱める予兆となることが分かりました。

質疑応答

Q:

政策不確実性指数は、先行指数としては使えないのでしょうか。

見明:

必ずしも不確実性が高まった直後に景気後退が起こるわけではないので、景気予測などにどれだけ使えるかということに関しては、指数をさらに精緻化し、もう少し予見可能性を高めていければと思っています。

Q:

レーティングのときに、BクラスやBBクラスぐらいの国でこの指数があったら重宝するのですが、そういう国を相手にIMFでこういう活動をする予定はないのでしょうか。

見明:

現在のところ、私の存じ上げている範囲では、IMFの中でBBクラスの加盟国で同様の研究をする動きは残念ながら限られていますありません。エマージング国では中国については不確実性指数が作成されています。不確実性指数の作成に当たっては、メディアの中立性や言論の自由がかなり制約条件になるほかなっているので、指数作成には膨大な労力が必要で、なかなかそこまで手が回らないという事情もあります。

Q:

海外ではメディアも相当多極化していますし、オンラインメディアも出てきています。さらに、グローバルメディアなどを使うかどうかによっても非常に違うと思うのですが、そのあたりはどうされているのでしょうか。

見明:

可能な限りローカルなメディアを使っています。るのですが、しかし、たとえば中国の指数を作る上では香港の新聞を使っているので、ある意味でグローバルメディアを使っている部分はあります。日本に関しては、現地のメディアの方が優位性があるので、今のところは国内4紙を使っています。ネットメディアに関しては、本プロジェクトは過去にさかのぼってトレンドを見ることがとても重要なので、まだ採用していません。

伊藤:

日本の置かれている状況をよりよく分かっているのは、日本人記者の人たちのほうだと思います。そうだとすれば、国内の新聞を用いることで政策の不確実性を的確に捉えられると見ています。国内の新聞を使ったときと海外の新聞を使ったときとで結果が大きく異なることを示す良い例が1つあります。それは金融政策不確実性指数です。私たちの指数は、日銀がマイナス金利政策を導入したあたりで大きく上昇しています。他方、FRBのエコノミストがフィナンシャル・タイムズ、ニューヨーク・タイムズ、そしてウォール・ストリート・ジャーナルの記事をもとに日本の金融政策不確実性指数を算出しています。私たちの指数と異なり、彼らの指数はマイナス金利政策の導入前後で顕著に上昇していません。

Q:

民間企業の立場からすると、世の中の先行きがどうなるのか分かるといいと思います。そういう予見可能性は、この研究から導き出されるのでしょうか。

伊藤:

さきほど述べたように、マクロデータを用いた分析結果によれば、政策の不確実性の予期せぬ高まりは、先行きの経済活動を弱める予兆となります。また、米国の企業レベルのデータを使った分析からも、政策の不確実性の高まりと企業の設備投資、雇用者数との間には有意な負の関係があることが明らかとなっています。

Q:

財政政策の不確実性指数と政治不安定性指数の比較は面白いと思うのですが、何らかの印象論があればお聞かせください。

伊藤:

政治が不安定であるとき、財政政策に関する不確実性が高まるという特徴が見られます。たとえば、1990年代後半、2000年代初め、そして2000年代後半から2010年代初めにかけての時期です。もっとも、政治が安定していても財政政策の不確実性が高まることがあります。その1つの良い例は、2016年の消費増税の再延期です。首相は2019 年の税率引き上げがどう担保されるのか、財政余剰をどう生み出していくかについて明確に示しませんでした。財政政策不確実性指数はそれを反映して急激に跳ね上がっています。

面白いのは、政治が非常に不安定であるとき、財政政策の不確実性はそれほど大きくないという点です。たとえば、1994年に政治不安定性指数はかなり高い水準に達しています。いくつかの政党が連立政権から離脱したため、羽田政権は少数与党政権となりました。そうした状況下で政権は何もできないことが確実であると見られた結果、財政政策不確実性指数は顕著な上昇を示していないと考えられます。また、2012年の民主党政権の末期には、政治不安定性指数は過去最高の水準まで上昇しています。一方、財政政策不確実性指数はさほど上がっていません。与党内の激しい対立により政策の停滞が確実であると見られたためと考えられます。

Q:

政策の不確実性を下げることが良いことだとすれば、予見可能性を上げる政策が望ましいことになります。将来の見通しや政策のコミットメントを入れたときに、不確実性が下がったという検証は、この指数によって可能なのでしょうか。

見明:

たとえばギリシャのように、法律によって何年までにプライマリーバランスをゼロにするという形でコミットする国もありますが、日本はまだそこまでやっていません。経済財政諮問会議の枠組みの中で内閣府が見通しを立てて財政再建策を示していますが、市場でそれを実行可能だと見ている向きは非常に少ないです。なので、不確実性を減じるための制度は、日本はまだ他国と比べて弱いのではないかと見ています。

消費税に関しても、政治的な意思決定ですぐにまた先延ばしになってしまうのではないかという懸念が市場には常に残っている点で、私どもはもう少しハードな枠組みで不確実性を抑える込む工夫が要るのではないかと考えています。

Q:

現在の100という不確実性の指標と、10年前の100という不確実性の指標は、本当に同じと判断していいのでしょうか。

伊藤:

政策不確実性指数は、新聞では世間で起きていることが的確に報じられているという考えのもと、政策の不確実性に関する記事の掲載頻度に基づき作られています。時点間の指数は比較可能です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。