育児と介護を同時に担うダブルケアの現状と課題

開催日 2016年6月21日
スピーカー 伊藤 誠一 (内閣府前男女共同参画局調査課長)
スピーカー 野崎 祐子 (RIETIコンサルティングフェロー/内閣府男女共同参画局調査課男女共同参画分析官)
コメンテータ 宇南山 卓 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学経済研究所准教授)
モデレータ 藤澤 秀昭 (経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長)
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議事録

育児と介護のダブルケアの実態に関する調査

伊藤誠一写真伊藤:
近年、晩婚化・晩産化を背景に、育児期にある人が親の介護を同時に引き受けるダブルケアの問題が指摘されるようになってきています。この問題は国会でも取り上げられ、昨年6月に取りまとめられた「女性活躍加速のための重点方針」において、「育児と介護のダブルケアに関する実態調査」を行うことが盛り込まれました。これを受け、内閣府は、今年4月28日、調査結果を公表しました。

今回の調査では、2つの公的統計(就業構造基本調査、国民生活基礎調査)の個票による再集計およびインターネットモニター調査を通じて、ダブルケアを行う人の数や割合、就業への影響、施策・制度の利用状況と望ましい支援など、ダブルケアの実態把握を行いました。

まず、就業構造基本調査(平成24年)から、ダブルケアを行う人の数は、約25万人(女性約17万人、男性約8万人)に上ると推計されました。これは15歳以上の約0.2%、育児を行う人の2.5%、介護を行う人の約4.5%に当たります。

平均年齢は男女とも40歳前後で、育児のみを行う人と比べると4〜5歳程度高く、介護のみを行う人と比べると20歳程度低くなっています。年齢構成では30〜40代が最も多くて全体の8割を占めており、育児のみを行う者とほぼ同様となっています。

男性は9割以上が働いていますが、女性は約半数が無業です。しかし、無業の女性のうち、6割は就業を希望しています。この結果は、育児のみを行う人とあまり大きく変わりません。就業希望の無業女性が望む雇用形態としては、非正規が約8割近くを占めており、これも育児のみを行う人とそれほど大きな違いはありません。

インターネットモニター調査

ダブルケアを行っている人の意識を聞くために、インターネットモニター調査も実施しました。周囲からの手助けの状況を聞いたところ、配偶者から「ほぼ毎日」手助けを得ている人は、男性は半数以上であるのに対し、女性は4人に1人にとどまっています。配偶者以外についても同様の結果で、女性の方が周囲から手助けを得られていない状況が分かりました。

ダブルケアに直面する前後の業務量・労働時間を見ると、労働時間・業務量を変えなくて済んだ人は、男性が約半数であるのに対して女性は約3割にとどまり、労働時間・業務量を減らした人が男性約2割、女性約4割となっています。とくに、ダブルケアに直面した後に離職して無業になった人が、男性は2.6%であるのに対して女性は17.5%に上り、就業に与える影響は女性の方が大きくなっています。

業務量・労働時間を変えなくて済んだ理由を男女間で比べると、「家族の支援が得られた」と回答した人の割合は、女性が男性よりも20%ほど低くなっています。逆に、労働時間・業務量を減らした理由は、女性では「家族の支援が得られなかった」が一番多くなっていて、男性と大きな違いが出ています。

行政に充実してほしいと思う支援策は、男性は「保育施設の量的充実」が、女性は「育児・介護の費用負担の軽減」が最も多くなっています。また、男性に比べて女性で多かったのが「手続きの簡素化」で、女性がさまざまな手続きの場面に遭遇することが多いからだと思われます。

勤め先に充実してほしいと思う支援策としては、男女とも「子育てのために一定期間休める仕組み」が一番多く、とくに男性より女性で多かった回答は「休みを取りやすい職場環境の整備」でした。逆に、女性より男性で多かったのは「残業をなくす/減らす仕組み」でした。

調査結果のまとめ

就業構造基本調査では、ダブルケアを行う女性と育児のみを行っている女性とで、就業状態にそれほど大きな違いはありませんでした。また、無業女性が就業を希望する割合も、希望する形態も、ダブルケアを行う女性と育児のみを行っている女性でそれほど違いはありませんでした。

インターネットモニター調査は、ダブルケアを行っている人だけに聞いているので、育児のみを行っている人との違いは明らかではなく、ダブルケア独自の問題とは言い切れないのですが、男性に比べて女性の方が家族や周囲の支援を得られていない実態も分かりました。

待機児童や介護離職が問題となっている中、育児・介護の問題にしっかりと取り組んでいくとともに、男性の家庭生活への参画促進の取り組みについてもしっかりと進めていくことが必要と考えています。

ダブルケアに関する実態調査結果から(国民生活基礎調査の集計による補足を中心に)

野崎:
私の方からは、調査結果の「ポイント集」ではページ数の制約などで取り上げることのできなかったいくつかの点について、主に国民生活基礎調査の結果から報告いたします。

「男女共同参画白書 平成28年版」によると、平成26年の平均初婚年齢と平均第1子出生年齢は、昭和45年と比べて5歳以上後倒しになっています。平均寿命も74.66年から86.83年になっており、日本の高齢化と女性の晩婚化・晩産化はかなり進んでいることが分かります。

こうした結婚・出産行動の変化の他に、ダブルケア問題を考える上で欠かすことのできない視点として、育児あるいは介護をどう捉えるか、という問題があります。介護というと、一般的には高齢者介護がイメージされますが、身体的・精神的な障害を持つ(必ずしも高齢者だけではない)人々の介護もあります。これには近年社会的関心の高い「ひきこもり」を含んで議論する場合もあります。また、「育児」についても同様に、その対象が広がっています。

・育児
今回調査で個票分析に用いた「就業構造基本調査」と「国民生活基礎調査」では、育児の対象をどちらも未就学児に限定していますが、子どもが小学生まで、あるいは中学校卒業まで、精神的なケアまで考慮すると大学生までは育児と考えるといった研究も多くあります。たとえばアメリカでは、第二次世界大戦直後のベビーブーマー世代で、子どもが(進学・就職などで)いったん親元を離れても、失業などでまた親元に戻ってきた(「ブーメラン・ジェネレーション」と呼ばれる)ため、自分の父母・祖父母のケアに加え、成人後の子どものケアを二重で抱えるサンドイッチ・ジェネレーション(板ばさみ世代)と呼ばれる問題が深刻化しています。育児の対象をどう捉えるかで、ダブルケアの規模も異なってきますので、調査結果については幅を持って考える必要があります。

・介護
(広く報道されている)就業構造基本調査では介護者・被介護者の属性や、続柄を特定できませんが、今回の調査では、そうした情報が得られる国民生活基礎調査の3調査年分データ(2001〜2013年)を用いて補完的に分析を行っています。その結果、被介護者を(便宜的に高齢者と仮定して)40歳以上とした場合のダブルケア世帯は約10万ですが、40歳未満の場合も約6.5万世帯あり、若年層でケアが必要な人が少なからずいることが初めて明らかになりました。

また、同調査から被介護者から見た介護者の続柄について集計したところ、「配偶者」は2001年から2013年にかけて一貫して25%前後でした。配偶者介護は、ゆくゆくは老老介護になってしまうわけですが、割合はこの12年間ほぼ横ばいです。注目すべきは、「子の配偶者」が介護する割合が減少する一方で、「子」が自分の親を介護する割合が増加していること、とりわけ自分の親を介護する男性が増えてきているということです。

ダブルケア推計人口・世帯数をどう捉えるか

今回の調査では、ダブルケア人口・世帯が増加するかどうかの推計は行っていませんが、いくつかの規定要因について考えてみたいと思います。

国民生活基礎調査によると、育児を行う世帯は減ってきていますが、介護を行う世帯は非常に増えてきています。介護者について年齢階層別に見ると、50歳代がここ数年で急激に上昇しており、介護の開始時期の早期化が懸念されています。また、年齢人口に占める6歳未満の子を持つ人の割合は、30歳代で減少、40歳代で増加しており、晩産化が進んでいることも示されました。こうした傾向が強まれば、育児期と介護期が重複するケースが増える可能性があります。

その一方で、在宅介護ではケアの度合いが軽い人が増えており、介護施設の入所者も増えています。介護保険の浸透とともに、家で介護するという概念が薄れてきている可能性もありますので、自宅外介護(介護の外注化)が浸透すれば、ダブルケア人口の増加は抑制されるかもしれません。

コメント

宇南山:
ダブルケアは1人の人が育児と介護の両方をしなければならないという点で極めて負担が大きく、無視することはできないのはもちろんですが、社会政策上もしくは経済政策の観点から本当に重要なのかは、あらためて問い直す必要があると思います。ダブルケアがマジョリティであればもちろん極めて重要な示唆をもたらしますが、実際には約0.2%です。

これは考えてみれば当たり前で、子育て世帯は相対的に若い世帯であり、介護が子育てと同時に発生するリスクは確率的には低いので、子育てと介護は別々の事象と見ても大きな間違いではないように見えます。

ただし、数が少なくても、特有の対応が必要とも考えられます。内閣府としては管轄外かもしれませんが、報告書の中にはほとんど言及がなく、その点では若干物足りません。子育てと介護が独立に発生するものであるなら、子育て支援と介護支援の両方を進めて、ダブルで受給できる体制さえ整えれば十分ではないかという疑念に関して、回答がない状態と考えられます。介護だけを理由に保育所に入れるのかというような問題が生じるかもしれませんが、この調査結果だけでは明らかにはなりません。

さらに、介護と子育てがダブルでかかってくると、1+1が2ではなく、3にも5にもなってしまう可能性も考えられます。シングルケアよりも負担が重そうだということは明らかですが、子育てのためにやむを得ずいったん仕事を辞めてしまった人に追加的な介護負担が生じることは、もともと専従者がいなかったところに発生する介護リスクよりも負担は小さいと考えられます。つまり、1+1は1より大きいけれども、2よりは小さい可能性があるわけです。

しかも、就業希望に大きな差がないことを考えると、ダブルケアがものすごく社会生活を破壊してしまうものであるとは感じられません。その点はハッピーなことではありますが、ダブルケアの一体何が問題なのかをもう少し示すと、調査結果の意義があるように思います。

子育ては一定程度、自分でタイミングを選ぶことができますが、介護は自分の選択とはほぼ関係なく、空から降ってくるようなリスクです。そう考えると、典型的なダブルケアは、子育てをしている途中で介護ショックが発生したというケースと考えられます。

インターネットモニター調査の問15では、80〜85%が「子育てのタイミングの方が先だった」と答えています。つまり、子育ての最中に親や祖父母が倒れてしまったという状況です。逆に言うと、介護ショックが先に発生した場合には、介護者がダブルケアを避けるために出産を控えてしまう状況があると考えられます。

その意味では、「ダブルケア予備軍」、すなわち子育てをしていてもおかしくない世代でありながら、先に介護ショックに見舞われてしまった人たち、をケアしていくことが、少子化対策という観点からも、個人の意思決定の自由という観点からも非常に重要な問題です。そういう観点で、この調査をより充実・活用していくといいと思います。

あとは、Webでいろいろな調査結果を見ようとすると若干構成が見にくいので、改善していただきたいと思います。

伊藤:
育児・介護それぞれの対策を進めることは当然ですが、それぞれの手続きが別々のところであると、1人であちこちに行かなければならず、大きなコストになっている可能性があります。保育所と介護施設の両方に同時に預けなくてはならない場合、仮にそれを1人でやるとなれば、単純に負担が1+1=2以上になる可能性もあると思います。

自治体ベースで手続きが一括して行える窓口を設けるような工夫も必要かもしれません。また、保育所の優先入居の要件に介護を入れるなど、育児と介護の負担が同時にかかっている方々への対策は検討されていいと思います。この点は、すでに取り組みとして一部なされている部分もあると思います。

Webの件は、見づらくなっていて大変恐縮です。男女共同参画局のホームページでは、スマホからでも見られるようにと、1つのファイルのサイズを制限するためにやむを得ず分割しているのですが、なるべく見やすくなるよう検討したいと思います。

野崎:
まず、子育てと介護が互いに独立した事象かということについてですが、海外の先行研究に育児をしている人ほど介護を引き受けやすいという結果を得ているものもありますので、慎重に検討したいと考えています。

介護はほぼ外生的なショックであるというのは私も気が付かなかったところでした。(親が)年を取ることは誰もが直面するリスクなので、介護、年金、高齢者医療は社会的な合意が得られやすい一方で、育児は自己選択的(自分で選ぶことができる)なものなので、(税金を投入するなどの)社会的合意は得られにくい面があります。介護と育児の政策を包摂化するという案も出ていましたが、こういったところが難しいポイントとして出てくるかもしれません。

ダブルケアによる追加的な負担の増加は非線形かというご指摘については、負担をどう捉えるか、といった視点が必要だと思います。金銭的なものだけではなく、心理的なもの、とりわけ時間制約による心理的な負担はかなりのものです。また、負担の重さから、介護者自身も支えが必要になる二次的依存という問題も出てきます。介護(育児)が加わったことによって、どのような負担がどれだけ増すかというのは、非常に悩ましい問題だと捉えています。

また、インターネット調査の問15(「育児が先か、介護が先か」)に関して、介護ショックが先に発生して、出産を控えてしまう「若年介護者」と「ダブルケア予備軍」についてのご指摘は、政策を検討する上でも大変重要なポイントだと思います。ありがとうございました。

質疑応答

Q:

今後、ワークライフバランスに対する企業のあり方がより重視されるようになってくると思いますが、仕事と介護の両立、仕事と育児の両立を全く同じように考えてもよいのでしょうか。それぞれの施策の違いがもう少し研究されてもいいのではないかと思います。

伊藤:

おっしゃるように、育児、介護それぞれに固有の事情もありますし、働いている場合は企業によっても配慮がそれぞれ違う部分があると思いますが、とくに介護は家庭で丸抱えしなければならないと思い込んでいる方が結構多いと思います。しかし、実際には重度であれば、施設での介護も当然必要になります。

5月20日に閣議決定した「女性活躍加速のための重点方針2016」の中には育児・介護休業の取得促進という項目があり、介護休業の分割取得を認める改正も今年行われています。介護休暇は家で介護する期間だと思われている方もいると思いますが、介護施設に預けるための手続きやいろいろな準備をするために分割して取得することもできるのです。このような制度的な環境づくりや職場の理解促進なども進めていく必要があると思いますし、介護者自身が制度をしっかり理解することも重要だと考えています。

男性が家庭生活に参画するプロジェクトや、国民運動的なことをしようという話もありますし、重点方針には働き方を工夫した先進事例を集めて積極的に発信するといったことも盛り込んでいます。さらに、男女が役割分担しながら生活しやすい環境をつくる大前提として、長時間労働をはじめとする働き方改革をしっかり進めなければいけません。

従来は、女性の活躍促進に向けて、指導的地位に占める女性の割合を上げることばかり言っていたのですが、今回の5カ年計画では男性中心の働き方を見直すことを一番大きな柱として掲げ、政策面でも考え方をしっかりシフトしていく取り組みを進めています。

Q:

調査結果を見て、男性の数字がとても多い印象を受けました。夫婦で親の介護をする場合、夫はあまり実際の介護をしていなくても介護者としてカウントされているのでしょうか。

伊藤:

たとえば、年間30日以上介護をしているかというような一般的な目安はありますが、就業構造基本調査では本人が介護をしていると思っているかどうかしか定義がないので、女性が思っている程度と男性が思っている程度に、若干ずれがある可能性はあると思います。だからといって、その差を厳密にいえるわけではないので、難しい問題だと思っています。

ただ、インターネットモニター調査で、ダブルケアの世帯で育児と介護をそれぞれ「主にやっている」と回答した人の割合は、女性は約半数に対して男性は3割ほどでした。これは1つの結果としていえると思いますが、そのあたりを厳密に測るのは難しいと思います。

Q:

ダブルケア世帯のうち、80〜85%は子育てが先という結果でしたが、何人目の子育てかという要素が重要だと思います。

伊藤:

インターネットモニター調査の問15では、第1子か、第2子かというところまでは聞いていません。着目したのはあくまで、子育てと介護のどちらが先に起きたかということだけです。

Q:

ダブルケアであることが大変なのは事実ですが、他の何と比べてどれぐらい大変かというのが今ひとつよく分かりません。子どもを産み育てやすい環境をつくる上で介護がどれぐらい影響しているのかをもう少し探究しないと、ダブルケアだけがものすごく特異な事情であるとはとても思えません。子どもを何人産むかは、介護以外の要素がかなり大きいような気がします。

介護保険の負担が今後ものすごい勢いで増えていく一方で、若年層にもっと資源を配分すべきだということになると、1つのパイをどう配分するかという議論をしない限り、国民負担はどんどん増えてしまいます。その辺の選択を行うための材料をもう少しうまく整理して、比較検討していただければと思います。

伊藤:

問題意識として私も非常に共感するところであり、少子化対策にも高齢化対策にもしっかり取り組まなければならないと思っていますが、今回調査を実施したもともとのスタートは、男性と女性の格差を縮めることにあります。それ以上のところに踏み込むことには一定の限界があることだけはご理解いただきつつ、これからも男女共同参画政策を進めていく大前提としてしっかり考えていきたいと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。