FTAの一考察:理論的側面を中心に

開催日 2016年3月10日
スピーカー 石川 城太 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学大学院経済学研究科教授)
モデレータ 渡辺 哲也 (経済産業省通商政策局通商機構部長)
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議事録

イントロダクション

石川 城太写真戦後の貿易自由化は、GATT・WTO体制の下で進んできました。その原則は、無差別(最恵国待遇・内国民待遇)・互恵主義です。貿易自由化の交渉は、ラウンドという形で加盟国が一堂に会し1948年から始まっています。とくに注目されるのは、ウルグアイラウンドの結果として1995年にWTO(世界貿易機関)が設立されたことです。

主なラウンドを振り返ってみると、ケネディラウンド(1964年5月〜1967年6月/62カ国)や東京ラウンド(1973年9月〜1979年7月/102カ国)までは、基本的に財の貿易自由化を図るため関税を下げる交渉が中心でした。重要な交渉では、いくつかのリーダー的な国が集まって、密室で議論されていたといわれています。第8回ウルグアイラウンド(1986年9月〜1994年9月/123カ国)は画期的といわれています。WTOの設立や財貿易だけでなくサービス貿易、知的所有権、農業問題などにも踏み込んだ議論が行われました。ただ、各ラウンドの交渉年数はだんだん長くなっています。加盟国が増え、よりセンシティブな問題に対し合意を得るのが難しくなっているためです。

現在は、第9回目のラウンドとしてドーハ開発アジェンダ(2001年〜/162カ国)が行われています。聞くところによると、途上国が「ラウンド」という言葉を使うことを嫌がったようです。中心となる一部の国がルールをつくり、それを途上国に押しつけるという従来のイメージに抵抗があり、「開発アジェンダ」と名称を変えたということです。WTO加盟国は、昨年11月末時点で162カ国となりました。

貿易自由化には、3つのアプローチがあります。まず「マルチラテラル(多角的)」はWTOによるラウンド交渉が典型的で、多数の国が集まって議論する方法です。2つ目は「リージョナル/バイラテラル(双方的)」です。少数の国によって交渉が行われるもので、地域貿易協定(Regional Trade Agreement:RTA) が挙げられます。関税同盟やFTA(Free Trade Agreement)/EPA(Economic Partnership Agreement)が、地域貿易協定の典型例です。FTAとEPAは基本的に同じものですが、財貿易だけでなくサービスや投資を包括的に扱うという意味で、FTAよりもEPAの方がより適切だとして日本が使い始めた言葉です。3つ目として、「ユニラテラル(一方的)」に貿易の自由化を図るという形があります。

FTAと関税同盟の違いをA、B、Cという3つの国のケースで説明すると、A国とB国でFTAを締結した場合、A国とB国では自由貿易を行いますが、A、B両国は域外のC国に対しそれぞれ独自の通商政策をとることができます。関税同盟の場合は、基本的にA国とB国で自由貿易を行うのは同じですが、域外のC国に対しても共通の通商政策をとることになります。最近の地域貿易協定の流れをみると、ほとんどがFTAとなっています。

地域貿易協定は、WTOの枠組みの中で、GATT(関税および貿易に関する一般協定)24条を満たす限りにおいて例外として認められています。GATT24条のポイントは3つあり、第1に、メンバー国間で実質上すべての貿易(substantially all trade)について貿易障壁を撤廃しなければなりません。第2に、貿易障壁の撤廃は妥当な期間内に完了しなければなりません。第3に、非メンバー国への貿易障壁の水準を締結前よりも上げてはなりません。これらを満たせば、例外として地域貿易協定を締結してもよいことになっています。

地域貿易協定数は、現在では260を超えます。東京大学の伊藤元重先生は、1994年のNAFTA成立によってゲームのルールが変化したと述べています。世界の通商システムにおいて多くの国が想定する慣行が変わり、通商交渉の流れは一気に変わりました。それまではGATT・WTOの下で多角的な貿易交渉をして世界全体のルールを決めていたわけですが、90年代になると、少数の国の間で交渉が行われるようになりました。それによって、90年代前半から協定数が急速に増加しています。

日本で現在発効しているEPAは、シンガポール(2002年11月)、メキシコ(2005年4月)、マレーシア(2006年7月)、チリ(2007年9月)、タイ(2007年11月)、ブルネイ(2008年7月)、インドネシア(2008年7月)、ASEAN(2008年12月)、フィリピン(2008年12月)、スイス(2009年9月)、ベトナム(2009年10月)、インド(2011年8月)、ペルー(2012年3月)、オーストラリア(2015年1月)の14協定となっています。

メガFTAは、大規模なFTAを指します。環太平洋パートナーシップ協定(Trans Pacific Partnership:TPP)は12カ国で署名され、その規模は2014年のGDPで28兆ドル、全世界(77.3兆ドル)の40%弱を占めます。人口では8億人(全世界は72.5億人)となります。また東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership:RCEP)は、ASEAN10カ国および日本、中国、韓国、ニュージーランド、オーストラリア、インドで交渉が行われていますが、GDPは22.6兆ドル、人口は34.5億人となっています。その他、日EU・EPA(GDP23.1兆ドル、人口6.3億人)、日中韓FTA(GDP16.4兆ドル、人口15.5億人)といったメガFTAにも日本がかかわっています。環大西洋貿易投資パートナーシップ協定(Transatlantic Trade and Investment Partnership:TTIP/GDP35.9兆ドル、人口8.2億人)は、米国およびEU28カ国の自由貿易協定で、現在交渉中です。

経済学的側面

なぜ地域貿易協定が急増しているのでしょうか。まず、よくいわれるのは、加盟国の増加(162カ国)によるWTOの機能の麻痺です。ドーハラウンドは15年目に入り、一部ではもうやめようという声も上がってきています。しかしWTOの紛争処理機能については、多くの人が評価しています。次に、地域貿易協定を梃子に、自分たちに有利なルールの早期確立、政治的リーダーシップの獲得などを目指す動きが見られます。途上国にとっては、地域貿易協定によって先進国から直接投資(FDI)を呼び込み、雇用創出や技術のスピルオーバー、産業構造の高度化を図るという思惑もあります。そして、周辺国で協定が次々と結ばれていくと、自国だけ取り残されまいとして地域貿易協定を積極的に進めようとするドミノ効果が働いて、地域貿易協定が急速に増えている状況にあります。

なぜ、関税同盟よりFTAが多いのでしょうか。それは、FTAがよりフレキシブルなためです。FTAはメンバー国が他国と自由にFTAを締結できる一方、関税同盟は単独で他国とFTAを締結することはできません。典型的な関税同盟はEU(GDP18.5兆ドル、人口5億人)でしょう。たとえば、英国だけが日本とFTAを締結することはできず、EU全体として日本とFTAを交渉しなければなりません。

しかし、FTAには原産地規則が必要となります。関税同盟の場合は、域外の国に対し共通の通商政策をとっているため不要です。たとえば、日本はメキシコとFTAを結んでいます。一方、メキシコは米国、カナダとFTA(すなわちNAFTA)を締結しています。すると、日本から米国やカナダへ商品を輸出するときに、まずメキシコへ輸出し、そこから米国やカナダへ輸出すれば関税がかからないことになります。つまり、日本(NAFTAの域外国)で生産された商品も実質関税ゼロで米国(NAFTAの域内国)に輸出できてしまうのです。こうした関税を逃れる迂回輸出を防ぐため、NAFTA内の生産かどうかを判断するための原産地規則を定めているわけです。すべてのFTAは何らかの原産地規則を定めています。

原産地規則には、関税番号変更基準、付加価値基準、加工工程基準、それらを組み合わせた基準があります。こうした原産地規則はそれなりに必要だと思いますが、問題点もいくつか指摘されています。まず、「原産地証明の手続が煩雑」で、とくに中小企業では輸出するための費用負担が大きくなります。原産地証明が大変だから関税を払って輸出してしまうケースもあり、せっかくFTAを締結してもゼロ関税のメリットを享受していないケースもあります。

またFTAが重複すると、どちらの原産地規則を使うべきかという混乱も生じます。たとえば、日本はASEANのメンバー国7カ国とそれぞれFTAを結んでいますが、ASEAN全体ともFTAを結んでいます。しかし、メンバー国とのFTAの原産地規則は、ASEAN全体とのFTAの原産地規則と必ずしも同一ではありません。さらに、原産地規則があることによって「生産における歪み」を生じる可能性もあります。たとえば、ある製品に関して日本企業が自社内で日本とメキシコで生産工程を分業している場合、米国にゼロ関税で輸出できるように、メキシコでの生産工程を意図的に増やすようなことが考えられますが、それによって生産の効率性が犠牲になる可能性があります。他に、「間接貿易屈折効果」が原産地規則の回避(抜け道)として使われることが考えられます。間接貿易屈折効果とは、たとえば次のようなものです。日本とメキシコで全く同一の商品が生産されているとしましょう。日本企業が関税ゼロでメキシコへ輸出した分がメキシコ国内で消費され、メキシコ企業がメキシコで生産した同量分を米国へ関税ゼロで輸出すると、実質的には、日本から米国へ関税ゼロで輸出しているのと変わらないのです。

地域貿易協定の利点として、多角的貿易交渉よりも柔軟な交渉ができ、知的財産権、サービス貿易、人の移動、投資など交渉範囲の広いことも挙げられます。これによって国内の制度改革が促進され、非メンバー国に対する交渉力も向上します。一方で問題点として、特定グループ(とくに生産者)の声ばかり反映されることが多いこと、政府内において多角的交渉から地域貿易協定交渉へと人的資本が移動する傾向があることを挙げることができます。"実質上すべての貿易(substantially all the trade)"といったGATT24条の曖昧さも指摘されているところです。

コロンビア大学のBhagwatiは、地域貿易協定は全世界での自由貿易への「積み石」になる可能性もあるし、「躓き石」になる可能性もあると言っています。とくに彼は"スパゲティ(ヌードル)・ボウル現象"、つまりFTAが乱立することでルールが複雑化し、結局は自由化が行きづまってしまうことを懸念しています。また「我々の市場はすでに十分大きいから、これ以上メンバー国を増やす必要はない」、あるいは「加盟国の市場は我々の市場であるから、非メンバー国には市場を開かない」といった閉鎖的な動きが出てくる可能性もあります。

地域貿易協定の理論については、Baldwinが説いた2つのアンバンドリングの概念に基づいて、2つに分けて考える必要があります。1st unbundlingは、大量輸送可能な交通手段の発達に伴って財が国境を越えるようになり、生産と消費が切り離されるようになったことを指します。そして、80年代以降、情報通信技術の発達によって2nd unbundlingが起こりました。国境を越えて生産工程を配置する分業生産ネットワーク(つまり生産の国際的なフラグメンテーション)が構築されたのです。

有名なVinerの伝統的な理論は、主に1st unbundlingの下での地域経済統合に関する理論です。それによれば、FTAによって経済厚生にとってプラスに働く「貿易創出」効果が生まれる一方、輸出先が非メンバー国からメンバー国となることで非効率化する「貿易転換」効果も生まれます。そのため、最終的にFTAによって経済厚生が上がるかどうかは、ケースバイケースだといえます。

実際にチリでは貿易転換効果が起こりました。2004年に韓国・チリ自由貿易協定(FTA)が発効(乗用車関税6%がゼロ)したことによって、韓国車の輸出台数は日本車を上回りました。しかしその後、2007年の日本・チリ経済連携協定(EPA)発効によって再逆転しています。さらに、2012年3月には米韓FTAが発効し、米国の乗用車関税(2.5%)は2016年に撤廃されます。一方、TPPでは15年目から削減開始、20年目で半減、25年目で撤廃予定ですので、貿易転換効果が起こるかもしれません。

2nd unbundlingが起こったことによって、フラグメンテーションが国境を越え、グローバル・バリューチェーンが生まれています。グローバル・バリューチェーンには、フラグメンテーションの費用(ネットワーク・セットアップ費用、FDIに関わる費用)、サービス・リンク費用(貿易・通信などにかかわる費用)、そして生産費用(賃金など)がかかります。それらの費用を下げるためには、投資保護、貿易円滑化、知財保護、競争政策、紛争処理、サービス貿易といった非関税分野における制度改革や調整が重要です。制度やルールの統一や相互認証、および、一貫性や透明性の確保も求められます。

メガFTAが構築されると、地域全体として国境の障壁が同時に引き下げられ、グローバル・バリューチェーンの構築・再編が行われます。とくにTPPでは先進国と途上国が混在しているで、グローバル・バリューチェーンの特徴を最大限に生かすことが可能です。たとえばR&Dは先進国で行い、実際の生産は賃金や地代の安い途上国で行といった分業体制を確立できます。メガFTAにおいてグローバル・バリューチェーンの優位性を発揮するためには、国の異質性がカギとなります。他方、TTIPはメンバー国がいずれも先進国で同質のため、グローバル・バリューチェーンの利点をあまり享受できません。

TPP交渉妥結は、他のメガFTAの交渉を促進することでしょう。実際過去には、NAFTAが締結されたことによってウルグアイラウンドの交渉が決着したり、日本のTPP交渉参加によって交渉が膠着状態にあった日豪EPAが成立したりしました。日豪EPAでは、豪州が米国に牛肉の輸出において負けないよう早期に有利な立場を確保しようとして、交渉が進んだという経緯があります。

政治経済学的側面

TPPの賛否については、時事通信の世論調査によると、2011年11月時点で「交渉参加すべき(52.7%)」が「交渉参加すべきでない(28.8%)」を上回り、TPPは国民に支持されていることがわかります。一方、2011年10月の全国農業協同組合中央会によるTPP交渉参加反対に関する国会請願では、民主党国会議員の賛同は29%、自民党国会議員の賛同は83%となっています。

2012年7月の世論調査でも、やはり「交渉参加すべき(57.6%)」が「交渉参加すべきでない(21.7%)」を上回りました。しかし政治的には、2012年12月の衆議院選挙においてTPP反対を条件にJA(日本農業協同組合)グループが推薦した自民党・公明党約170名の候補者が当選しています。

その背後にある理論として、オルソンの集合行為論(collective action)を紹介します。たとえば、貿易自由化により国全体として10兆円の利益があるとします。一方、貿易自由化による損失が国全体で8兆円生じるとしても、差し引き2兆円の利益となりますので、自由化を進めるべきだということになるでしょう。利益10兆円を日本国民の数で割ると、1人当たりの利益は約10万円となります。仮に、損失を被る人が200万人だとすると、1人当たり400万円の損失となります。つまり、利益は国民に薄く広く分配される一方、損失は特定のセクターに集中するのです。損失を被る敗者の損失額が多額なので、それらの人々がロビー活動を積極的に繰り広げることになります。また、損失を被る人が少ないほど、組織的にロビー活動や投票の呼びかけを展開できるのです。

結び

今後の課題として、「ゲームのルール」がFTAや関税同盟といった地域貿易協定に流れている状況を押し戻すのは難しいでしょう。とくに、WTO交渉が行き詰っている現状においては、地域貿易協定を積み石(building block)にする努力が必要となります。TPPあるいはRCEPをアジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of the Asia Pacific: FTAAP)につなげていかなければなりません。そのためには、TPPとRCEPの実質的リーダーである米国と中国がどこかの時点で妥協し、両国にFTAAP実現のためにリーダーシップを発揮してもらわなければなりません。

WTO交渉は停滞しているものの、多角的な自由貿易交渉とバランスをとっていく上で、WTOの紛争処理の機能は重要です。政治経済学的歪みの打破も必要でしょう。日本は、6つのうち5つのメガFTA交渉に参加しています。そこでイニシアティブをとって規律やルール作成に積極的に関与し、アジア太平洋地域の通商秩序を築き上げていくべきだと思います。

質疑応答

Q:

今後の流れとして、世界の貿易・投資の自由化はメガリージョナルに任せ、それ以外のところはWTOでやっていくという方向にならざるを得ないのでしょうか。その見通しや問題点について、どのようにお考えでしょうか。

A:

基本的に、ルールはWTO全体としてつくり進めていくべきだと思いますが、それができていないのが現状です。加盟国が増えていく中、以前とは異なり途上国が発言力を持ち、収拾のつかない状況にありますので、この流れを元に戻すのは難しいでしょう。それに伴って地域貿易協定は広がり、2国間に留まらずメガFTAが形成されています。

そこで私がもっとも心配しているのは、やはりスパゲッティ・ボウル現象です。たとえば、日本は14協定を結んでおり、それぞれに原産地規則や例外規定があります。TPPに関しても、自動車とトラックでは関税撤廃のスケジュールが異なるなど、たくさんのルールがあるわけです。TPPは5年後に再交渉することになっていますが、規則や規定をその都度整理していかなければ、結局は積み石にならないと思います。WTO交渉は難しい状況ですが、諦めるべきではありません。地域貿易協定の締結に際しては、GATT24条を秩序保持ための抑止力として用い、積み石にしていく努力が求められます。

Q:

世界中でいろいろなレベルのFTAが出てくることによって、低いレベルのFTAで満足するグループが現れることは問題だと思います。2nd unbundlingにおいて投資や人の移動をFTAとして認めるならば、何らかの基準があるべきではないでしょうか。

A:

FTAの規定としてはGATT24条がありますが、基本的にGATT24条は、もともとベネルクス3国の取り込みを目的としてつくられたものです。また、財の貿易に関する規定です。当時、直接投資や人の移動はあまりみられませんでした。WTOの中でもたとえば投資に関する議論は行われていますが、今後、地域貿易協定を規定するようなものを新たにつくるのは難しい気がします。総論では、あったほうがいいと皆が思ったとしても、各論になると先進国と途上国の利害関係が生じてくるためです。

Q:

WTOが停滞する中で、TPPのメリットを享受できず参加できない途上国もいくつかあると思います。そういった国々は、将来的に排除されてしまうのではないでしょうか。

A:

TPPは非常に高いレベルの自由化を求めていますので、現状において、中国などは参加できないと思います。高いレベルの貿易自由化によって自国経済が一気にダメージを受ける可能性のある国は、入りにくい状況といえます。ただしTPPとしては、そのような国を排除しようと考えているわけではなく、自分たちに合わせてくれれば歓迎するという姿勢だと思います。現在も、たとえばベトナムには国有企業の問題がありますし、マレーシアのブミプトラ政策など、独自の政策をとる国もあります。今後そういった国がTPPに入ってくれば、他の国も、どの辺りを落としどころにすべきか探ってくるようになるでしょう。今は敷居が高くても、参加した国の状況を見ながら自国にできることを考え、状況によっては参加してくると考えられます。

中国に関しても、TPPが拡大していけば、戦略を考えるはずです。すでに中国と米国の経済依存関係は非常に強く、お互いの国なしではやっていけない状況です。この2つの国が参加して自由貿易が実現すれば、世界にとって大きなメリットになると思われます。TPPには、高いレベルでないとあまり意味がなく、高すぎると加盟国が増えないというジレンマがあります。RCEPは、レベルを低くすることによって敷居を低くしていますが、それが実際にどの程度メリットにつながるかを考えると、やはりTPPに比べれば限定的といえます。

Q:

メルコスール(南米南部共同市場)やSAFTA(南アジア自由貿易圏)など、中所得国では独自のFTAをつくる動きがみられますが、大きな市場へのアクセスが難しいのが課題だと思います。そこでRCEPがモデルとなって構造改革を進め、自由化が進展すれば、中所得国のTPP参加も促進するのではないでしょうか。アジアにおける取り組みは、世界の貿易システムに貢献できるような気がします。

A:

その通りだと思います。GATT・WTOでは、途上国同士が緩めの条件で地域貿易協定を結ぶことが認められています。場合によっては、いろいろな抜け道ができてしまう恐れもありますが、徐々に経済がうまく回っていけば高度な協定に参加できる可能性が高まります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。