我が国における産学連携の状況

開催日 2015年11月25日
スピーカー 山本 貴史 (株式会社東京大学TLO代表取締役社長兼CEO)
モデレータ 山城 宗久 (RIETIコンサルティングフェロー/独立行政法人情報処理推進機構参事兼情報処理技術者試験センター長)
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国立大学法人化から11年が経過した。日本における産学連携については様々な議論がなされているが、統計から見ると我が国の状況は決して悪いものではなく、むしろイノベーションの芽が出始めている。この状況を実例をもとに説明し、今後取り組むべ き課題について言及する。取り分け、共同研究・ライセンス・大学発ベンチャーの状況を掘り下げて、我が国がイノベーション立国を実現するためには、何が重要かという議論を行いたい。

議事録

ニルス・ライマースという技術移転の父

山本 貴史写真 MIT Martin Trust CenterのWilliam Aulet教授は、イノベーション=インベンションではなく、イノベーション=インベンション×コマーシャライゼーション、つまりイノベーションは価値であるという話をされています。

日本は、インベンションは素晴らしいと思います。大学ランキングは落ちてきたといわれますが、世界の有名な大学の技術移転オフィスの人たちに具体的な案件の話を聞いていて、日本の大学の技術が劣ると思ったことは、ほぼありません。むしろ海外の大学は、こんな技術でベンチャーを作って大丈夫かと思うことのほうが多いのです。つまり日本は、インベンションはいいのですが、コマーシャライゼーションがまだ弱いと感じます。

ニルス・ライマースは、1968年よりスタンフォード大学でリサーチ・マネージメント・オフィスを開始し、1969年にOTL(オフィス・オブ・テクノロジー・ライセンシング)を設立。大学の技術マネジメント界で成功し、その後、MIT、UCバークレー校、UCサンフランシスコ校などの技術移転機関の立ち上げに携わっています。私が彼に会ったときは、UCサンフランシスコでの立ち上げの最中でした。彼の確立したマーケティングモデルを実践しているのが東京大学TLOといえます。

産学連携のベンチマークは、やはり米国でしょう。ニルス・ライマースがライセンスしたコーエン・ボイヤーの遺伝子組み換え特許は、当時、約300億円のロイヤリティを得ました。その後ボイヤーが設立したのが、ジェネンテックです。

ちなみにヤマハのシンセサイザーも、ニルス・ライマースがライセンスして生まれた製品です。当時のヤマハは、世界の高級ピアノブランドを志向していたため、シンセサイザーなどを作ったらブランドイメージが下がるといって社内は反対していたといいます。また技術面でも、ピアノ用の木や絃に関してはプロフェッショナルでしたが、シンセサイザーのICチップを作れる人はほとんどいませんでした。しかし、専務がスタンフォード大学からシンセサイザーを借りてくると、ボタンを押すといろいろな楽器の音色に変わり、これは面白いということで賛同を得られたということです。

このシンセサイザーの技術はエレクトーンにも応用され、ヤマハ音楽教室が全国に広がるなど、ある種の音楽産業が生まれることになりました。大学の技術がイノベーションの始まりとなったわけです。

ベンチマーク 米国における産学連携と日米比較

Googleの最初の技術もスタンフォード大学のTLOから出願され、最初はYahooやNetscapeに紹介されたのですが、誰もライセンスを受けませんでした。そこで、自分たちでガレージを借りてベンチャーを始めます。スピーカーのBose、シスコシステムズ、Sunマイクロシステムズなども大学発ベンチャーです。つまり米国では、産学連携がイノベーションのエンジンになっているといえます。

実は日本でも、帝人、TDK、味の素、荏原製作所などは大学発ベンチャーです。TLOも知財本部もない頃から、農耕民族の我が国でも産学連携が行われていたわけです。ですから、日本でも十分にイノベーションは起こせるはずですし、それをいかにシステマチックに早く起こすかが、私たちの使命だと思っています。

米国における産学連携の実態(2011年AUTMサーベイより)として、新規発明届出件数は2万1865件、特許出願件数は1万9905件、総ライセンス件数は6000件でした。また、大学の技術を用いた製品・サービスの売上合計は10兆円以上ということです。70万人以上の雇用を創出しており、大学の技術移転が中小企業支援にもつながっています。

日本は、2011年の新規発明届出件数は8448件、新規出願件数は9124件、総ライセンス件数は1541件、継続ライセンス件数は4509件、総ライセンス収入は18.3億円でした。これが2013年には、新規発明届出件数8346件、新規出願件数9303件、総ライセンス件数2463件、継続ライセンス件数6127件、総ライセンス収入29.7億円となっています。内閣府や文科省のデータを見ても、産学連携のデータは右肩上がりで伸びています。ですから日本の産学連携は、けっして暗い状況ではありません。

継続ライセンス件数は日米ともに順調に増加しており、産学連携の好調ぶりがうかがえます。オープンイノベーションの加速とともに、産業界が大学の技術を使って新製品を生み出し、大きな収益を得ているわけです。

ただし日本では問題もあります。出願件数は多くてもロイヤリティが少ない、また出願件数・ロイヤリティともに少ない地方大学の群がみられ、3層ほどになっている状況が課題といえるでしょう。そして産学連携にもみられるようになった格差は、このままいけば、さらに広がっていくことが予想されます。その要因は明確で、ライセンスに注力しているところは、どんどん伸びているのが特徴です。

当たり前のことですが、いい技術があれば産業界にライセンスでき、その技術を使って製品が生み出されるはずです。そして出願後20年間、売り上げの数%がロイヤリティとして積み重なっていきますので、ライセンスに注力しているところはどんどん伸び、そうでないところはずっと自転車をこぎ続けるという傾向があります。

日米の違いでいうと、米国は15%程度の大学の技術が大学発ベンチャーにライセンスされ、約半分は中小企業にライセンスされています。一方で日本は、ベンチャーが少ないことが大きな違いとなっています。

日本における産学連携例 イノベーションは始まりつつある

東京大学というと、大手企業とのアライアンスが多いイメージをお持ちかもしれませんが、実は米国に近く、ベンチャーや中小企業へのライセンスが多い状況です。ペプチドリーム株式会社は、東京大学先端科学技術センターの菅裕明教授(現・理学部教授)により開発されたRAPIDシステムを用い、創薬プロセスでもっとも重要なステージである医薬候補化合物の探索に特化したベンチャーとして、2006年7月3日に設立。7年後の2013年6月には上場しています。

はじめは、日本の製薬会社ばかり回っていたのですが、第一三共や三菱田辺製薬の2社以外はなかなか興味を示しませんでした。そうこうしているうちに、ノバルティスやアムジェンといった海外の製薬企業から次々問い合わせがあり、すでに10社以上の大手製薬会社とアライアンスを組んでいます。

ペプチドで薬を作ろうと思ったら、ペプチドリームと組むのが圧倒的に早く、こことやるしかないというのが彼らの判断です。さらにノバルティスなどは、アライアンスだけでなく一部出資をしています。ノバルティスが出資しているということで上場も早まり、時価総額は1500億円を超えました。

株式会社ワカイダ・エンジニアリング(板橋区)は、従業員12人の小さな会社です。東大アイソトープ研究所(野川憲夫先生)との共同研究により、放射性物質を実験終了後に回収する安全装置としてヨウ化メチルを99.7%以上吸着できるフィルターの開発に成功しました。そのとき偶然にも3・11が起こると、急遽、福島第一原発で採択され、その後第二原発にも納入されることになったわけです。

その後、このフィルターはセシウムやPM2.5も吸着できることがわかりました。そこで通販企業のフェリシモとワカイダ・エンジニアリングが手を組み、WACフィルターを応用したマスクを昨年12月から発売しています。フェリシモの新ブランドintelligent & cuteでは第2弾として、抗がん剤を服用して爪が傷んでしまうような方が塗っても痛くないマニキュアを販売しています。

このように通販企業と新たな取り組みをすることで、ライセンス・製品化できていない技術の活用手段を増やし、消費者の身近な製品として大学の技術を世の中へ広めることができます。それをプロデュースするのが私たちの仕事ですが、フェリシモの事例は、当社で特許管理をしている入社数年の女性がアイデアを出し、自分たちで当たって実現した事例です。

富士通研究所と東大の産学連携で発明されたチタンアパタイト配合の抗ウィルスフェイスマスクも、タマガワから発売。セーラー万年筆では、光触媒技術を活用した抗ウィルスボールペンを発売しています。

東大の尾崎研究室では、米ぬか成分に含まれるγオリザノール中のCAFを発見。保湿剤として実用化され、株式会社ナチュラルサイエンス(江東区)から発売中です。これは、発明から1年を待たずにライセンスされました。現在、ペット用としてのライセンスについて話が進んでいるところです。私たちは、どこの会社を通じて世に出せば、一番困っている人の手に届くかを考えてプロデュースしています。

タッチエンスは、2011年6月15日に日経新聞朝刊で紹介された東大発ベンチャーです。IoTが注目される中、情報理工の下山研究室と稲葉研究室の触覚センサを事業化するために起業されました。たとえばアップルウォッチを製造・販売しているアップルも、センサの技術は外部から買っています。つまり、センサを使いたい会社は自社で作りたいと思っていないため、いろいろなセンサを作っているタッチエンスには多方面から問い合わせがあり、試作品をどんどん作っているところです。佐竹製作所が新規事業の柱として出資した同社では、研究室のポスドクが取締役を務めています。

その他にも、京都大学のiPS理研では網膜再生医療研究開発プロジェクトが始まっています。大阪大学の岸本元総長のIL-6は、中外製薬にてIL-6阻害剤アクテムラとして上市されました。当時、自治医大にいた間野教授(現・東大)の技術は、ファイザーで肺癌治療薬クリゾチニブ(ザーコリ)として実用化されています。

コマツの最新型建設機械には、東京大学生産技術研究所の鹿園教授の技術による熱交換器が搭載されています。建設機械では、排ガス規制と騒音規制が同時に厳しくなりました。排ガスを抑えようとすれば騒音が大きくなるという二律背反のニーズに対し、この技術によって従来よりも安く、かつ小型のオイルクーラーを作れるようになりました。しかも、粉塵などによる目詰まりもありません。

2014年9月25日には、株式会社リボミックがIPO企業となりました。また、日本でライセンスできなかった案件をもとに、米国でVedanta Biosciencesというベンチャーが起業し、ヤンセンファーマと241ミリオンドルのアライアンスが決定しています。他にも、2017年上市予定の大型案件などがあります。

産学連携の成長曲線は、出願費用や人件費で最初は沈んだ後に伸びていくことから、ホッケースティックカーブといわれています。実は、スタンフォード大学は黒字になるのに18年かかっていますし、MITも10年かかっています。つまり数年で成果が出ることはあまりなく、時間がかかるということです。

日米の大学における発明開示件数を見ると、ベスト10に日本の大学が5つも入っています。東京大学は2位(627件)となっていますが、1位(1196件)のカリフォルニア大学システムは10大学の合計ですから、実質的には東大がトップです。実は近年、大学の先生方の意識は大きく変わっています。私がこの仕事を始めたときは、研究室を訪れても特許出願には興味が薄かったと思います。しかし今では、発明届を出された先生にヒアリングをして、産業界で価値があるとは判断できない発明をリジェクトするのに苦労している状況です。それほど先生方は、特許出願やベンチャーを作ることに積極的になってきました。

東京大学TLOの業績として、発明届出件数は3・11が発生した2011年は529件に落ち込んだ後、回復を見せましたが2014年には570件に減少。80件ほどの大学の技術を直接ライセンスしました。ロイヤリティ総額は、ペプチドリームが上場した2013年に大きく伸び、2014年は落ち着きました。今年は、半年の時点で2014年分を超えています。2000~2014年までで、ロイヤリティ総額(累計)は56億円を超えました。

産学連携からイノベーションを実現させるには

欧米の大学を中心に設立されたATTP(Alliance of Technology Transfer Professionals)では、RTTP(Registered Technology Transfer Professional)という技術移転のプロを認定していますが、日本には私を含めてまだ11人しかいません。米国AUTM、欧州ASTP-Proton、豪州KCA、南アフリカSARIMA、英国Praxis Unico、スウェーデンSNITTS、ドイツTechnology Allianz、トルコUSIMPと日本のUNITT(大学技術移転協議会)がメンバーとなっています。

このように産学連携の技術移転のプロフェッショナルには、どのようなスキルが必要かという世界基準ができつつあります。アジアでは唯一、日本だけがATTPのメンバーとなっており、世界で認められる技術移転のプロ(RTTP)の育成が急務となっています。

また欧米の大学には、GAPファンド、あるいはプルーフ・オブ・コンセプトファンド(POCファンド)と呼ばれるものがあります。これは、いわゆるベンチャーファンドではなく、基礎研究の事業化に向けた研究を促進させるためのファンドであり、比較的アーリーステージの大学の技術について、コマーシャライズの可能性が高いものを技術移転機関が選定し、発明者とアプライするものです。

通常3段階程度のフェーズに分かれており、選定された研究には一定期間でのマイルストーンが設定され、それをクリアすれば次のステップに移行します。それで成果が出れば、ライセンスやベンチャー起業につながるわけです。日本でも、大阪大学など一部の大学はスタートしていますが、これを全国で推進する必要があります。

また、共同研究マネジメントやコンサルティングの機能をより充実させるべきだと思っています。現在、多くの大学がURA(University Research Administrator)を雇用していますが、ほとんどは任期付きで、国の予算が切れれば全員解雇になるかもしれません。すると、本当に有能な人が辞めざるを得ないため、その受け皿が必要です。そこで、大学の先生の知見を産業界に技術指導していくことをマネジメントする組織があってもいいと考えています。

現在の産学連携評価指標は、共同研究やライセンスの件数・額、ベンチャーの起業数・IPO数ぐらいしかありません。本当にイノベーションを考えるのであれば、ベンチャーあるいは共同研究でできた製品がいくつで、その売り上げがいくらであったか、ということまで出すべきでしょう。そこまでやらなければ、本当の意味での科学技術投資の効果を評価できません。

エンジェル税制の拡充(法人適用)も求められます。企業がベンチャー投資した額に対し税金の控除枠(たとえば上限5億円)を設定することで、一時的な減税にはなりますが、投資を受けたベンチャーが成功すれば結果として税収は増える可能性があります。

UNITTアニュアルカンファレンスは、大学技術移転協議会によって開催される日本版AUTM型の実務者のための研修です。単なる講演やパネルディスカッションではなく、参加者が自由に意見交換し、ネットワークをつくるために行われます。本年9月には、東京理科大学金町キャンパスにて第12回UNITTアニュアルカンファレンスを開催し、約500名が参加しました。2016年5月には、東北大学で開催予定です。また、米国の大学ではAUTM-ASIAを実施しています。2015年はクアラルンプールで行われ、来年はタイで開催予定です。

新技術のご紹介として、東京大学先端科学技術研究センターの神崎研究室では、遺伝子導入によって目的の物質の匂いに特異的に反応するカイコガの作成に成功しました。超高性能臭いセンサとして、爆薬センサ、麻薬センサ、危険物質センサなどの用途が期待されます。

質疑応答

Q:

東京大学TLOでは、コマーシャライゼーションについて、どのように取り組まれているのでしょうか。

A:

多くの場合、この技術を使ったら、こういう事業ができるのではないかというシナリオを私たちが作ります。そのシナリオを、企業の当該事業担当者にぶつけるケースが圧倒的に多いです。幸い当社の社長は文系のため、社長にわかりやすく説明できることがポイントとなります。企業に対して毎日10件ほど提案し、成功しているのは年間80件程度というのが実態です。

技術がどういう事業につながるかを想起できなければ、うまくいきませんので、そこを掘り下げていくことが重要です。その中で、お客さんが困っているポイントなどを聞き出すことができ、情報が蓄積されていきます。

Q:

ベンチャーへの出資や合弁について、企業の関心やリテラシーは進展してきているのでしょうか。また、スタンフォード大学のように運用益があればいいですが、ホッケースティックカーブのへこみ部分は、どのように埋め合わせているのでしょうか。

A:

企業の方とのコミュニケーションは、随分円滑になっているという実感があります。かつては、大手企業の研究所が大学の研究をライバル視して反対する向きもありましたが、今はそうも言っていられない状況のようです。ただし、金融とのコラボレーションは遅れているように思います。

Q:

産学連携の担当部署やTLOには、どのような人材を置けばいいのでしょうか。

A:

一言でいうと、ファーストステップには「お見合いのおばちゃん」に適しているような人が大事です。フットワークがよくて情報収集力もあり、適度におせっかいだけれども本質的に嫌われない。そして良い点を、うまく指摘できる。口下手の男性を「この人は包容力がある」などと褒められる能力が、最初の段階では必要だと思います。

高度になってくると、事業としてのシナリオを描く能力などが必要になってきますが、間違っても、特許に詳しいからといって特許部出身の人を置くべきではありません。とくに大企業の場合、特許部は自社の事業を守る能力が高いわけですが、大学はディフェンスではなく、新規事業の提案といったオフェンスをしなければならないためです。ですから、新規事業開発室にいるような人のほうが向いているでしょう。

当社では、部下が上司を勝手に使えるようになっています。新入社員でも、「初めて行く先生なので、一緒に行ってください」と、私のスケジュールを勝手に入れられる組織になっているのです。垣根を越えて、専門技術を持つ人の知見を共有できることが重要だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。