インダストリー4.0について

開催日 2015年9月18日
スピーカー 木本 裕司 (前ジェトロベルリン事務所長)/岩本 晃一 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省地域経済産業グループ産業政策分析官)
モデレータ 上野 透 (RIETI 国際・広報ディレクター(併)上席研究員)
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開催案内/講演概要

木本 裕司氏:
ドイツのインダストリー4.0に世界的な関心が集まっています。一方、その実態は当のドイツにおいても様々に語られ定まっていないように見受けられます。単なるバズワードなのか、次の世代の製造業、情報産業の変革の鍵になりうるのか、現地で過去3年間の見本市や政府の発表資料、関係者への取材などを行ってきた結果を紹介します。
インダストリー4.0の語られる背景と主な関係者を鳥瞰し、とくにドイツの国家ITサミットとの関係を考察します。
本年のIT見本市CeBIT、ハノーファーメッセなどから、中国などのドイツにおける動きも見逃すことができなくなっています。
以上を踏まえて、これからの日本企業にとってインダストリー4.0をどう捉えるべきかを、一緒に検討していきたいと思います。

岩本 晃一氏:
まず、インダストリー4.0を導入することによる生産性の向上、及びそのメカニズムについて紹介することで、日本のものづくりにインダストリー4.0を導入しなければ、グローバル競争に大きく遅れてしまうことを説明します。次いで、インダストリー4.0が日本のものづくりに与えるインパクトを概観した後、日本にインダストリー4.0を円滑に導入するための課題について問題提起します。

議事録

インダストリー4.0 関心の高まり

木本 裕司写真木本氏:
私が赴任した2012年当時、ドイツでは脱原発に向けたエネルギー政策の見直しが議論されていました。こうしたエネルギー問題に加え、情報セキュリティなども関心事となっていましたが、ドイツ国内においても「インダストリー4.0」はまだ一般には広く知られていませんでした。

2013年4月には、産業見本市「ハノーバーメッセ2013」が開催されました。その頃、日本では3Dプリンターを活用した新しいものづくりが注目を集め、日本からテレビ局も取材に来ていました。しかし、ハノーバーメッセではもはや3Dプリンターは当たり前の技術になっており、人工骨を作製するといった医療応用が紹介されていたに過ぎませんでした。その代わり、さまざまなブースで「インダストリー4.0」というキーワードが見られました。

製造業関連の主要業界団体であるドイツ機械工業連盟(VDMA)、ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)、ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)の3団体は、合同で2013年4月に「プラットフォーム インダストリー4.0」を設立し、ハノーバーメッセに出展していました。その後、私はプラットフォーム インダストリー4.0の事務局を訪れて話を聞きましたが、日本でなかなか産業界同士が手を組むことが無いなかで、コンピュータ業界と製造業が一緒に取り組んでいることに強い印象を受けたものです。

日本では、経済産業省の中でも情報産業と製造業では担当局が異なり、具体的な政策連携も難しい状況でしたから、これは大変なことが起きるのではないかと感じて報告したことが、今でも記憶に残っています。しかし、そのときの日本の反応は、「そんなことはもう十分やっている。ドイツは今ごろになって何をやっているのだ」という鈍いものでした。

2013年9月には、工作機械の世界3大見本市の1つである「EMO2013」において、インダストリー4.0をテーマにJETRO‐GTAI日独イノベーション政策ワークショップを行いましたが、結局100名入る会場に20名ほどしか来てもらえず、日本の関心の低さがわかりました。

ITの見本市である2015年3月の「CeBIT2015」は、中国をパートナーカントリーとして開催されましたが、その開会式にあたって習近平主席は、中国もインダストリー4.0に積極的に取り組んでいくという内容のビデオメッセージを送っています。

日本でインダストリー4.0への関心が高まったのは、2014年の9月以降です。その頃、日経新聞がインダストリー4.0に関する囲み記事を掲載し、それから急に日本から「インダストリー4.0とは何だ」という問い合わせが、私のいるベルリンへ届くようになりました。JETROから日本に情報発信を行ってもほとんど反応がなかったのに、このときは、日経新聞の影響力の強さを如実に感じたものです。

その結果、2015年4月の「ハノーバーメッセ2015」には、日本からもインダストリー4.0に関心を持つ多くの人々が来独しました。JETROはインダストリー4.0をテーマとした第9回日独経済フォーラムを行いましたが、このときは、立ち見が出るほど関心を集めました。しかし会場を見て回ると、インダストリー4.0というキーワードはもう当たり前に使われ、それによって出展者間の差別化はできない状況です。もはやドイツでは、熱がすでにインダストリー4.0から移りつつあり、その先に何があるのかを各社が訴えようとしている印象を受けました。

その1つは、物流にあると感じています。自動倉庫やスマホを使って工場内の工作機械のアタッチメントを交換するといった展示も、ちらほら見られます。インダストリー4.0のピークは昨年で終わり、今年に入ってからはインダストリー4.0の先をドイツ企業が見据えてきたといえるでしょう。

これからのインダストリー4.0

インダストリー4.0のイメージは人によってバラバラで、必ずしも統一されたものはありません。なぜならば、産官学がそれぞれ自らのインダストリー4.0を抱えて走っているのがドイツの状況だからです。つまり、産業界、研究機関、政府には、それぞれの立場でのインダストリー4.0があるわけです。

しかし、バラバラに動いているインダストリー4.0では、必ずしもドイツ全体としての競争力につながりません。また、インダストリー4.0が製造業における製造ラインの合理化だけに使われ、労働者や製造現場のIT投資を十分できない中小・零細企業が置き去りになってしまうことを危惧する声が、とくに左派から強く出てきました。そこで現在、インダストリー4.0に加えて「労働4.0(Arbeiten 4.0)」というコンセプトで、労働者のIT教育の強化やIT人材の育成・高度化、熟練技術のデジタル化、「中小企業4.0 (Mittelstand 4.0)」の名でIT投資を行う中小企業に対する政策金融の枠組み整備といった取り組みが進められています。

日本では、すでにFMS(Flexible Manufacturing System:フレキシブル生産システム)などで製造現場のIT化を実現していると言う方もいます。しかし、企業グループや業態を超えて標準化を進めるという発想は、まだないようです。

ドイツの場合、たとえばボッシュは、メルセデスにもBMWにもフォルクスワーゲンにも部品を納めています。各メーカーに横串を刺し、発注システムや設計データなどを標準化することによって、どこにでも同じものを納入できるようにしているのです。つまりドイツでは、企業グループを超えてデータや物流の標準化を進めていくのがインダストリー4.0であると理解されています。

中国も、インダストリー4.0を進めています。それによって、ドイツの物流や製造プロセスの中に中国企業が違和感なく入っていくことが可能となります。あるいは、企業買収をしてもすぐに社内システムに取り込めるわけです。こうした取り組みを、日本でも進めていく必要があるでしょう。

インダストリー4.0導入による生産性の向上

岩本 晃一写真岩本氏:
製造業のネット化の波は、世界中に同時に押し寄せており、国、地域、企業、人によって呼び方は異なります。ドイツは、「インダストリー4.0」というかっこいいキャッチコピーで、先進的な取り組みというイメージのアピールに成功したといえます。日本には国全体での呼び名はなく、メーカーそれぞれで独自の名前をつけていますが、内容は同じものです。

インダストリー4.0が導入されると何が出来るようになるかを一言でいうと、「生産性の向上」です。効率化や合理化、無理・無駄の解消、コスト削減に加え、企業トップの考え方によっては人員削減に及ぶこともあり得るため、ドイツの労働組合は懸念を表明してきました。一方、新しいビジネスが創出されて売上高が増加し、雇用が生まれるという側面もあります。

かつて、私たちのオフィスにパソコンが導入され、インターネットに接続された際も、業務の効率化・合理化が図られましたが、それとは別に、ネット金融、ネット販売、音楽配信といった対個人サービスを中心とする新しいビジネスが生まれ、膨大な雇用が生み出されたわけです。

これと同じように、工場のロボットがインターネットに接続されると、効率化・合理化が図られるだけでなく、対事業所サービスを中心とした新しいビジネスが生まれ、新たな多くの雇用が生まれることが期待されます。

ドイツ政府は、5年間で労働生産性が18%向上し、人口減少・少子高齢化が進む中でも年率1.7%の成長が可能という見通しを示しています。かたや日本の潜在成長率はほぼゼロに近く、とくに最近は設備投資の寄与度がほとんどない状態になっています。その結果、製造設備が古くなっていることが国際競争力低下の原因の1つといわれます。

日本企業を対象とした調査では、ICT投資のおもな目的は10年前と変わらず「通常業務の合理化・コスト削減」となっていますが、これでは従業員の前向きな協力が得られません。日本でICT投資が企業の業績にあまり反映しない背景と考えられます。一方、数は少ないもののCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)を置くような企業では、ICT投資は、「ROE拡大、海外進出・新規事業など売上増の手段」として活用されており、従業員も積極的に協力しています。

国際IT財団によるこの調査では、日本のICT投資が企業業績に反映しない理由として、通常いわれている人材不足説を否定し、真の理由は企業トップの理解のなさ、日本企業のIT戦略の欠如にあると指摘しています。

生産性向上のメカニズム 高率化・合理化

以下では、インダストリー4.0を導入すると、具体的にどのようにして生産性が向上するのか、そのメカニズムを説明します。富士通では2003年以降、TPS(トヨタ生産方式)をベースとして発展させた「FJPS(Fujitsu Production System:富士通生産方式)を全社に適用し、直近3年間で平均300億円/年のコストダウン効果を生み出しています。また三菱電機は、ロボットセル生産システムによって、面積生産性を従来比で3倍近く高めることに成功しています。

機械がインターネットに接続されると、機械同士がおしゃべりを始めます。同じ工場だけでなく外国にある機械ともおしゃべりを始め、さらに人間と機械もおしゃべりを始めることになります。社長は、世界中どこにいても自分の情報通信端末から、まるで自分が工場の中にいるかのように、ライブカメラで状況を見ながら工場内の各機械設備にアクセスし、あらゆるデータをリアルタイムで確認したり、その場で判断して直ちに部下に指示を出したりすることが可能となります。

工場を可能な限リ「バーチャル化」することで、長く無駄な時間を排除することもできます。人間も機械も、定常状態に達するまでの立ち上がりに、非常に長い試行錯誤が必要ですが、そこをコンピュータに任せることで、一気に短縮することが可能です。そのコンピュータがサイバー・フィジカル・システム(CPS:Cyber Physical System)といわれるもので、実データを取り込んで、サイバー空間でシミュレーションして現実空間に戻します。コンピュータ内で開発、設計、製造の試行錯誤や最適化が行われるため、現実の世界で最適化にたどり着くまでの時間が格段に短縮されます。また、生産ラインには、機械が遊んでいる空き時間があるため、そこに別の製品を流すことで、同一の時間内に、より多くの生産が可能となります。

富士通のシステムは、自動車メーカーなどで採用され、日本のものづくりの強さの源泉と言われている「摺り合わせ型開発」の大幅なスピードアップを実現しています。設計ミスなどによる長い試行錯誤の設計工程を、ビッグデータ・データベースのサポートで一気に短縮することもでき、設計者の負担を大きく軽減しました。

DMG森精機では、従来5000人と1000台の最適な組み合わせの表を長い時間をかけて職人が作成し、工場の壁に貼り付けていましたが、今後は、コンピュータで一気に作成できるということです。

日立製作所が目指す「共生自律分散制御システム」では、たとえばA社が世界中に保有する工場、協力工場、取引企業の工場など、サプライチェーン、バリューチェーン上にあるすべての工場がネット接続されることで、バーチャル上、あたかも「1つの工場」のように全体がシステムとして稼働するため、単独では出来なかった多くの新しいことが「自律的」かつ短時間で出来るようになり、全体が「最適化」されて「生産性」が大幅に向上します。

また、ある工場での取り組みが良い結果を生み出したならば、それを瞬時に世界中の工場に伝達し、実践することができます。つまり、一部で実現された最適レベルに、世界中の工場を瞬時に合わせることが可能となるわけです。このように個々の工場の制御システム同士を接続し、全体として最適化を目指すシステムは「システム・オブ・システムズ(System of Systems)」と呼ばれています。

私の所感では、強い会社の社長は気が短いため、「今すぐやれ」という要求にこたえるシステムであり、これによって作業員の無理・無駄な負担を軽減することができます。DMG森精機の森雅彦社長いわく、「インダストリー4.0は、強い者がより強くなり、それをいっそう助長する仕組みである」ということでした。これまでの話をお聞きになっておわかりのように、インダストリー4.0を導入した際の生産性向上は、「%」でなく「割」でカウントされています。

生産性向上のメカニズム 新しいビジネスによる売上増

日立製作所は、お客様が要求仕様を決め、それを請け負い、製造・納入するといった事業スタイルはもう過去ものであり、日立グループとお客様が情報を交換し、課題を共有する場をつくり、相互に価値形成を図る時代になっているといいます。要するに、大量生産の製品を売り切りにする時代は終わったということです。英国には、海外初となる車両工場を建設し、IoTを活用して製造から保守作業まで担える環境を整備。その環境を生かして27年間の保守契約を締結するなど、今後、収益に貢献していくことが見込まれています。

「障害予知」サービスは、ビッグデータ解析による新しいビジネスとして現在、実際に多くの企業で検討されています。工業製品には、メーカーが「寿命」としている時期がありますが、必ずしもすべての機器が「寿命」の時期に故障するわけではなく、「寿命」よりも早く故障する場合もあれば、「寿命」をはるかに超えて使える場合もあります。前者の場合、予期せずに故障されると企業活動の一部が停止し損失をもたらし、後者の場合、まだまだ使えるのに新品と交換する必要はなく、最後まで使い切ればコスト削減に役立つでしょう。

ショベルカーなどの建設機械、工場の検査機器、あるいは上下水道、ガス管、橋梁などの社会インフラにセンサーを組み込み、送られてくるデータをモニターすることで、事前に故障や破損を察知することができ、そうなる前に部品交換やメンテナンスをすることで空白期間を埋めることが可能となります。

販売した自社製品の最適な使用方法を顧客に指南し、そこから生まれた利益の一部を還元する取り組みとして、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)は、「インダストリアル・インターネット」という事業を展開しています。

ジェフ・イメルト会長兼CEOは、「これからメーカーが提供するのはサービスだ」と言い、10億ドル以上を投じて2011年11月、カリフォルニア州サンラモンにグローバル・ソフトウェアセンターを設立。1000人以上のソフトウェアエンジニアを一気に採用しました。

そして、顧客に最適運用ソリューションを提供するための共通プラットフォームとして、基本ソフトウェア「プレディックス(Predix)」、ビッグデータを収集保管するデータベース「データレイク(DataLake)」を開発しました。GEは、これまで同社が販売した産業機器(航空機エンジン2万8200台、風カタービン2万2800基、貨物列車2万1500両、ガスタービン3900基など)のうち1%を効率化できれば、15年間で、航空機エンジン300億ドル、発電機660億ドル、鉄道270億ドルのコスト削減になると試算し、その一部をサービス提供代としてGEに還元してほしいというビジネスを進めています。

こうしたデジタル技術が支える成果ベースのアプローチが功を奏し、GEは2012年に15億ドル以上の収益を上乗せし、2014年にはさらに30億ドル増、2015年には、60億ドル増となる見通しです。

今後の課題 問題提起

システムを工場に提供する立場の業界において、日本企業は、特定分野の技術力を見れば、ドイツを凌ぐといっても過言ではありません。ドイツのコア企業は少ないのですが、政府、学会、産業界などが国を挙げて1つにまとまっています。一方、日本は、他の産業分野と同様、高い技術力を持つ企業は多いものの、バラバラに進められています。ですから日本もドイツ同様に、全体でまとまってバーゲニングパワーを持つことが肝要といえます。そして、日本全体で戦略・戦術を持つことが重要と考えられます。

システムを工場に導入する立場の業界では、企業がシステムを導入しなければ意味がありません。社内にエンジニア集団を抱えていない企業では、世界の潮流に乗り遅れる可能性があります。システムを購入するだけなら、お金を払えば済むことですが、自社に最適なシステムを選んで導入し、十分に使いこなせるかどうかが課題といえます。

「インダストリー4.0が日本のものづくりに与えるインパクトは何か」と問われれば、ネット化の波にうまく乗れた企業は、ますます強くなり、飛躍できることだと、私は考えています。すなわち、波にうまく乗れた企業は大きく飛躍し、乗れなかった企業との格差が益々拡大するということです。日本の中小企業にとってのビジネスチャンスとして、1)自らIoTシステムを導入し、新しい「サービス」を顧客に提供することで、他社との差別化を図る。2)ビッグデータ解析事業、解析ソフトウェアの生産販売、ビッグデータ解析に必要なデータベースの生産販売、ビッグデータ解析用クラウド環境提供サービス。3)センサー、ライブカメラ、計測器など、ビッグデータを収集する機器の生産販売。この3つの分野を挙げることができます。

業界全体にとっての今後の課題としては、まず「中小企業向け低価格・簡易機能版の開発」が求められます。ドイツが中小企業向け「プラグ・アンド・プレイ方式」を考え出したように、中小企業が産業基盤を支える日本においても、中小企業へのシステムの導入について考える必要があるでしょう。今のままですと、大企業数十社が、富士通、日立、三菱電機などの数十億円のシステムを導入して、ハイ終わり、ということになってしまい、日本全体への広がりがありません。

2点目に、「高速大容量の通信環境の整備」が挙げられます。大量のセンサーが全ての機械に埋め込まれ、電波を飛ばすようになるので、早晩、通信回線がパンクしてしまいます。大衆が使用する回線をloTで使用することに、セキュリティ上の不安を抱える事業者は多いため、これを機会にloT専用回線を整備し、新たな通信事業会社を設立するのもいいと思います。

3点目は、「働き方の変化の研究、労働組合による懸念への対応」です。ドイツでは、インダストリー4.0プロジェクトの中の1つとして、働き方の変化に関する研究が「(独語)Arbeiten4.0プロジェクト」「(英語)Work4.0プロジェクト」として行われています。今、日本では人工知能が人間の仕事を奪うという議論がなされ、人々の不安を煽り、とてもまずいと思います。やはり日本でも、IoTの導入によって人々の働き方がどのように変化するかを研究し、正確にビジョンを打ち出していかなければ、いずれ労働者からの反発を招くことが危惧されます。

さいごに

日本の製造業は、「輸出力」で世界の競争に負けています。とくに、日本の競争力が強いとされてきた品目でさえ負けており、日本のものづくりが強かったのは、もはや昔物語といえます。しかし、このネット化の波は、近年減少傾向が続いていた日本の製造業が反転攻勢に出るビッグチャンスです。日本の製造業は、ぜひこの大きな波に乗って、世界に力強く羽ばたいて欲しいと思っています。

質疑応答

Q:

ドイツにおける中小企業の動きについて、もう少し詳しくご説明いただきたいと思います。

木本氏:

ドイツでは、「中小企業」を意味する「ミッテルスタント4.0(Mittelstand 4.0)」というキーワードも出て来ています。従業員数が数百~1000人程度の規模が中小企業に相当するわけですが、そこへの支援を厚くし、インダストリー4.0によって競争力を高めることを目指しています。より零細な十数人規模の町工場は、インダストリー4.0の流れの中でふるい落とされることが危惧されており、底上げするための支援策が議論されているところです。

Q:

ドイツは、米国でGEなどがやっている「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」をどのように見ているのでしょうか。

木本氏:

ドイツ連邦政府は、米国を明確にコンペチターと位置づけています。一方で、産業界はすでに国境を越えて連携し、一緒に進めていくことで米国の動きに取り残されないようにしているようです。

岩本氏:

ドイツは、GEの「プレディックス」をIIC参加企業間で共通に使用することで通信プロトコルのデファクトスタンダードが決まっていくのではないかと脅威を感じていると思います。ですが、ドイツが本当に脅威を感じているのはグーグルでしょう。GEはものづくりの企業なので、シーメンスにとっては十分戦える相手ですが、グーグルのようにデータだけで市場占有を高めるような企業はドイツ人の発想外です。グーグルにデータを持たせたら一体何をするかわからない、という恐怖感があると思います。実際、「グーグルフォビア」という言葉が存在します。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。