活力ある地域は何が違うのか? —地域を元気にする処方箋—

開催日 2015年3月26日
スピーカー 木村 俊昭 (東京農業大学生物産業学部地域産業経営学科教授)
モデレータ 若井 英二 (経済産業省経済産業政策局地域経済産業グループ審議官(地域経済産業政策担当))
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開催案内/講演概要

今、全国の各地域では、少子高齢化、人口減少や人口流出、合併後の中山間地域の衰退など諸課題が山積し、独自には解決できず厳しい状況にある。なぜ、みんなで汗しても、地域は元気にならないのだろうか。

今一度、ここでよく考えてみよう。私たちは「できない理由」探しに時間をかけていないだろうか。自己分析やまち分析を充分に行わず、心地いい仲間とだけ、ネットワーク構築をしていないだろうか。周りではバラバラに構想・実現が行われていないか。地域が一体となっているか。上から目線の「説得」によって物事が進められてないか。地域活性化のものさし(基準)を創り、常に検証し、構想・実現しているか。

地域活性化の基本は、(1)地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こし、研き、地域から世界へ向け発信するキラリと光るまちづくり、(2)未来を担う子どもたちを地域で愛着心あるよう育むひとづくりと考える。

今こそ、嘆いていないで、目配り、気配り、心配りを大切に、「笑顔、感動と感謝のまちづくり」を推進しましょう。地域の「部分・個別最適」を、急がず焦らず慌てず近道せずじっくり、けっして諦めず、「広聴」、実学・現場の視点を重視し、「全体最適」思考で構想・実現しましょう。

今回のBBLセミナーでは、木村氏にこれまでの実学・現場重視の視点から地域活性化を推進してきた実践家としての視点からお話しいただきます。

議事録

自己紹介

木村 俊昭写真私は、小学校、中学校、高校時代を北海道の遠軽町で過ごしました。小学生の頃は「あがり症」で、授業で先生に教科書を音読するよう言われると、ドキドキして行を飛ばしてしまうほどでした。そこで、これでは駄目だと奮起し、1年生で学級委員長に立候補したのです。しかし、小学校1年生、2年生、3年生になっても、まったく改善しませんでした。

中学校では生徒会の副会長を経験し、高校では生徒会長になりました。生徒会として、遠軽町内をチームで回りました。すると町の人々はみんな、「この町は、林業もじり貧で将来は厳しいから、一生懸命勉強して町を出なさい」と同じことを言うのです。本当は町に残ってほしいのにそう言わないとならない現状がありました。そこで、自分たちで場をつくらなければ町は変わらないと思い、将来、役場の職員になろうと決めたのです。

当時、私は北海道212市町村のうち20程度しか知らなかったため、本当にまちづくりをしていくためには全国を回るべきだと思い、大学へ進学することにしました。そこで、まちづくりを教えてくれる先生はどこにいるのかと、大学に片端から電話をかけて探し、7人の先生に「住み込みの弟子にしてください」と手紙を出しました。ところが、誰からも返事はありませんでした。

そこで、また7人の先生を選んで手紙を出す準備をしていたところ、1人の先生から返事が来たのです。そこには便箋に1行、「合格せよ」と書かれていました。つまり、「大学に合格してから言いなさい」という意味だったようです。しかし、超プラス思考の私は合格すれば弟子入りだと思いこみ、一生懸命勉強して、遠軽町から上京しました。

背中に布団を背負い、住み込みの用意をして先生を訪ねたところ、弟子入りも住み込みも認めないと言います。そこで埼玉の叔父のところへお世話になり、弟子入りだけは何とか認めていただきました。こうして「弟子入り」と「住み込み」のうち、一方の願いだけは叶いました。つまり、打率でいえば5割です。あのイチローの打率は3割ですばらしいわけですから、モチベーションは上がります。

これは地域へ行く際にも、しっかり伝えていくべきだと思います。「2つのうち1つが駄目だった。これは幸先がつらいぞ」と考えるのではなく、「すごい。どんどん面白くなりますね」と言わなければ、モチベーションは上がっていきません。

大学生になって全国を回ると、知り気づいたことがありました。「地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こし、研き、地域から世界に向けて発信できるキラリと光るまちづくり」と「未来を担う子どもたちを地域で愛着心あるよう育むひとづくり」が大切だということ、そして、商店街や温泉街といった部分だけでなく、町全体の視野をもって実践すべきであると知り気づきました。個別ではなく、全体最適の思考を持つべきだということです。

大学4年生になると、徹底的にまちへ入っていきました。そして遠軽町の職員採用に応募しようとすると、高卒の新卒者1名しか採用しないと言われました。そこで、子どもの頃からよく遊びに行き関心の強かったまち、小樽市役所の採用試験を受けることにしました。

自ら知り、気づき、感じ、行動へ!

小樽市役所の採用試験では「地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こし、研き、地域から世界に向けて発信できるキラリと光るまちづくり」「未来を担う子どもたちを地域で愛着心あるよう育むひとづくり」をしていきたいと語り、結果採用となりました。最初に配属されたのは、なぜか納税課でした。

私はまず、ラーメン屋を回ってマップをつくり、それぞれの特徴や店主のこだわりなどを徹底的に把握しました。その次は、うどん屋、そば屋、そして134軒の寿司店です。頭の固い周囲の人は、無理だと言いましたが、1軒につき2~3貫の注文なら、1日に何軒か回ることできます。20軒回る頃には、寿司店の間で「2貫王」というあだ名が私についていました。

人は、自ら知り、気づかない限り、行動することはありません。そこで134軒すべてを回った後、寿司店評価基準チェックリストをつくりました。私が店主に「こうしないとうまくいきませんよ」と言っても、なかなか聞き入れてもらえるものではありませんので、自ら知り、気づく機会を少しでも提供したいと考えてのことです。「勉強しなさい」とうるさく言っても、子どもは勉強するものではありません。それは、上から目線の説得だからです。説得ではなく、納得・理解がない限り、人は動きません。

洋野町(岩手県)には、天然ほやラーメンを出すお店があります。その店のお母さんは、来る人、来る人に「どこから来たの?」「今度来たとき、何作っておいたらいいと思う?」と聞いているのです。そのやりとりの中から、ほやから出る塩を使ったオリジナルのおにぎりが生まれました。そして価格も、お客さんからの声を参考にして決めています。このようにして商品開発を進め、「ほや塩」は特許を取得しました。

現在、私は、「五感六育(食育・木育・遊育・知育・健育・職育)」に取り組んでいます。人は8歳までに8000個、12歳までに1万2000個の味蕾(みらい)ができ、その後は減少していくそうです。ですから、それまでに「甘い」「塩辛い」「酸っぱい」「苦い」という4つに、日本では「旨み」が加わり、5つの味を何度となく体験させることが「食育」につながります。ですから、「苦かったら残していいよ」と言っていると、子どもの脳に刺激を与える機会を失わせていることになります。学校給食や家庭で「食育」を進めることが大切です。

笑顔・感動・感謝のまちづくり

やねだん(鹿児島県鹿屋市串良町柳谷集落)は人口313人(130世帯)のコミュニティで、17年前から、文化振興と子どもたちの育成に取り組んでいます。私は33年前から「地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こし、研き、地域から世界に向けて発信できるキラリと光るまちづくり」「未来を担う子どもたちを地域で愛着心あるよう育むひとづくり」をしていきたいと実践していますので、やねだんとパートナーを組み「五感六育」を導入していこうと考えています。

過疎地だとしても、さびれて何もない集落だとしても、四捨五入をしないで、いかにみんなで創りあげていくか。その取り組みの中で、「長」と名の付かない人たちの存在が消えていくのではモチベーションが上がりません。ですから私の関わるところでは、どのような人たちが、どういう思いで取り組みをしてきたかを必ず記録に残します。それを小学校、中学校、高校に配布するとともに、図書館に収蔵します。自分の生まれ育ったまちは、どんな人たちが思いを持ってつくってきてくれたか。それをどう伝えようとしているのか。それを動画なども通じて見てもらい、愛着心を持っていただきます。

「笑顔・感動と感謝のまちづくり」を継続、進化させるためには、事業構想が重要となります。パートナーと協力して、足りないところを補完しながらやっていきます。上に立とうが、どのような立場でも、目配り・気配り・心配りをけっして忘れてはなりません。子どもが歩いてきたら、大人自ら挨拶をします。すると、子どももおのずと挨拶をするようになります。

一般的に、地域活性化をするには、企業誘致をし、既存の主産業に関連するかに関係なく起業を推進しようとする傾向があるようです。しかし私は、その考え方には反対だと考えています。地元の企業の税金は減免しないのに、なぜ外部から来る企業は優遇されるのでしょうか。それでは地元企業のモチベーションは下がります。まずすべきは、地元企業に市場の動向、情報を伝えていくなど、地元にある産業を一番に考えて、いかに活性化するかを徹底的に協力、応援するべきです。

私は、地元産業を大切にしながら関連する企業を立ち上げ、その次に企業を誘致していくといった取り組みを地域で進めています。笑顔もなく、「こんな集落にいてもどうせ駄目」だと言い聞かされていたような地域には、子どもたちも残りません。一方、「ここで暮らしたい」とIターン、Uターンで戻ってくるようになったまちでは「笑顔で感動・感謝のまちづくり、ひとづくり」を、急がず、焦らず、慌てず、近道せず、じっくり、けっして諦めず、情熱を持って本気でやり、それを子どもたちにしっかり見てもらおうという地域づくりをしています。

また、全国各地で、20~40代の産学官金の皆さんが一緒になって学ぶ機会をつくっています。それはやはり、自ら知り、気づく機会をつくらなければ、人は行動に移さないからです。難しいことを言っても、人は動いてくれません。説得ではなく、数値化し分かりやすくして、納得・理解のまちづくりを心がけています。

質疑応答

Q:

地域活性には、「若者」「ばか者」「よそ者」がカギを握るといわれますが、やはり地元の人々の取り組みが必要だと思います。多くの現場をみて、実際に「若者」「ばか者」「よそ者」がキーパーソンになっているものでしょうか。あるいは、地元の人がキーパーソンになるべきなのでしょうか。お考えをお聞かせください。

A:

「ばか者」というのは、情熱を持ってがむしゃらに実践する人のことですが、この「若者」「ばか者」「よそ者」の他に、もう1つ大事なのは「夢語り者」だと考えています。「将来、こういうことをやっていこう」と言っていくことが大事だということです。

まちづくりには、地域をわかりやすく一言で表現するキャッチコピーも大事です。小樽市にある昆布屋さんは、悩みに悩みぬいて「7日食べたら鏡をごらん」というコピーをつけて、製品を売り出しました。

そして、お客さんから「7日食べたけれども何も変わらない」と言われると、「個人差がありますので、あと7日食べてみてください」と勧めたところ、2週間経つ頃には、定期購入の顧客になったということです。「7日食べたら鏡をごらん」というコピーを見たお客さんは、「7日食べたら、こうなるのではないか」という夢を描いているわけです。

まちづくりには、目標設定と期限をつくることが大切です。また、数値化することも重要です。ちなみに、「7日食べたら鏡をごらん」の次には「150歳若返るふりかけ」「となりのトロロ」が発売されました。

Q:

人の流れがなくなり、人材もいない中、お客さんがコンビニエンスストアやショッピングモールに流れてしまう状況がありますが、全国のシャッター通り商店街は、どうすればいいとお考えでしょうか。

A:

平成21年および24年に実施された中小企業庁の調査において、「あなたの商店街は繁栄していますか」という問いに、「繁栄している」と答えた商店街は全体の1%、「繁栄する兆しがある」と答えた商店街は2.3%でした。つまり、あとの96.7%は繁栄する兆しもなく、これから先どうなるかわからない現状にあるわけです。

そこで、ヒアリングに訪れて繁栄しない原因を聞いてみると、商店街は「駐車場がないためだ」と答えます。しかしお客さんに聞くと、「買うものがない」「商店街は暗い」「店に入ると何か買わなければならない」と答えるわけです。

ある港町の商店街では、地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こそうと、水揚げされた海産物のコロッケや漁の網を使ったキーホルダー工房、あるいは漁業・農業・林業の各組合の女性部が協力した取り組みが始まりました。

このように地域の特色を出しながら、一緒になって商店街を創りあげ、そこに子どもたちも関わることが大切です。そして必ずDVDに撮って記録を残し、互いに知り、気づく場をつくり、地域活性化を図っていきます。

Q:

地域のリーダーを掘り起こし、育てていくために、どのような取り組みをされていますか。

A:

私は2カ月に1回、小樽合宿(1泊2日)の地域リーダー、プロデューサー人材養成塾を10名限定で実施しています。やねだんでは、地域リーダーを養成するために3泊4日の合宿を行っています。その参加者は、さらに「スーパー塾」に参加することになります。1回の合宿で50名を全国から公募しますが、あっという間に満員となります。そこでは、本気で町を何とかしたいという地域の人たちの思いを徹底的に学んでいきます。

課題がわかっているのに解決に至っていないのはなぜでしょうか。人は、説得ではなく、なぜその経過に至ったのかを数値化し、わかりやすく説明することで、自らが知り、気づかなければ、行動に移してくれません。それを徹底して学んでいく中で、人財を育てています。教育は「引き出し力」です。地域の人たちをしっかり認めて能力を引き出す人財になってもらうため、私は養成と定着の取り組みを進めています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。