内外情勢の変化に対応した警備業の新たな挑戦

開催日 2015年3月20日
スピーカー 青山 幸恭 (綜合警備保障株式会社代表取締役社長)
モデレータ 上野 透 (RIETI 国際・広報ディレクター(併)上席研究員)
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開催案内/講演概要

わが国に警備業が誕生して半世紀を越え、市場規模としては3.3兆円、従業者数54万人まで成長したが、企業数は9,100余を数え構造的な問題が山積している。サービス業の中でも特異な性格を持った「生活安全産業」としての警備業は規制当局が公安委員会である。

1972年の業法制定以来規制強化の流れの中で、労働力不足の少子高齢社会にどう対応するか、従来の侵入盗や雑踏警備等の事件発生の抑止、事故防止を念頭に置いた警備から更に進んで国際テロ対策への取組の展望、2020年東京オリンピック・パラリンピックにどう対処していくか、機器開発とシステムの現状、サイバーセキュリティを含めた業界としての取組とALSOKの企業としての取組について概略を説明するとともに、今後の警備を中心としたサービス業の官民の分担の在り方、規制の在り方、国際展開等について論ずることとしたい。

議事録

警備業を取り巻く環境の変化

青山 幸恭写真警備業の歴史は、それほど古くありません。1962(昭和37)年に日本警備保障(現セコム)が発足し、1964年の東京オリンピックの際に選手村の警備をしました(発注側の組織委員会の責任者(事務局次長)は、弊社の創業者の村井順)。1965年には綜合警備保障(ALSOK)が発足。以後、大阪万博などが警備業の更なる認知度向上と成長の契機となり、高度経済成長期を背景に警備業は急速に発展を遂げました。

現在、警備業者数は約9100社、警備員数は約54万人、売上高は約3.3兆円(平成25年)となっています。中小企業が多く、警備員数100人未満の警備業者が全体の約9割を占めています(平成25年末現在)。警備業の目的は防犯や事故防止であり、もともと警備会社には警察の補完的役割が求められていましたが、現在は、健康・生活サポートにまで求められる役割が広がってきています。2003年の犯罪対策閣僚会議の中では、警備業の位置付けとして「生活安全産業としての警備業」という言葉が初めて使われるようになりました。2013年12月に閣議決定された「世界一安全な日本」創造戦略には、「警備業法の適切な運用を通じて、生活安全産業として警備業の質の向上を図る」という項目が盛り込まれています。

警備業法は、昭和40年代の労使紛争などにおいて悪質な警備業者が存在したことから、これを規制するために1972年に制定されました。当初は届出制が導入されましたが、1982年には認定制に改正され、機械警備業に関する規制が新設されるなど、累次の改正(1982、2002、2004年)が行われてきました。

2004年になると、警備員の質向上のため、警備員指導教育責任者や警備員等の検定制度が導入されました。現行の警備業法においては、警備業は公安委員会の認定制となっており、指導教育責任者や警備員検定、機械警備業の届出、即応体制の整備が求められています。

警備業の業態は、警備業法において1~4号業務に分類されています。1号業務は「施設警備」で、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地などにおける盗難などの事故の発生を警戒し、防止する業務。2号業務は「交通誘導・雑踏警備」で、人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷などの事故の発生を警戒し、防止する業務です。3号業務は、「貴重品輸送(現金輸送)・原燃等輸送」で、運搬中の現金、貴金属、美術品などに係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務。4号業務は、「身辺警護・緊急通報サービス」で、人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警成し、防止する業務となります。

ステークホルダーとしては、「顧客(官公民、個人、海外)」は、さまざまな領域の法人、金融、官公庁、個人、海外進出法人他と多岐にわたります。「サプライヤー」は、機器関係メーカー、通信・IT・システム企業、設備防災・工事関係企業、ビルメンテナンス関連などです。この他、「株主・投資家」(株主資本関係、金融機関関係)、「従業員」、「地域・社会」(公共領域と地域社会の安全安心)が挙げられます。

全国警備業協会は1980年に設立され、現在約6800社が加盟しています。同協会は2014年5月、アジア10カ国・地域の自主的な組織であるAPSA(Asian Professional Security Association)に加盟。国内では、47都道府県にそれぞれ警備業協会が設置されています。

わが国の治安情勢について、刑法犯の認知件数は、昭和48年の約119万件をボトムとした後、平成14年には約285万件まで増加。それ以降減少に転じ、24年には14年の半数以下に減少しました。

ただし、刑法犯認知件数は減少傾向にあるものの体感治安は良くなっていないのが現状です。暴行傷害、通り魔、性犯罪、生活経済事犯、スキミング、サイバー犯罪、強盗、侵入盗、万引き、すりといった従来の犯罪に加え、DVや学校・職場のいじめ、ストーカーといった「身近な犯罪」が増加しています。さらにテロの脅威、経済事犯(振り込め詐歎など)、犯罪組織、公安情勢などから、国民の不安感が増大しているわけです。

「世界一安全な日本」創造戦略では、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催を視野に、犯罪をさらに減少させ、国民の治安に対する信頼感を醸成し、「世界一安全な国、日本」を実現することを目指しています。

この中では、1)世界最高水準の安全なサイバー空間の構築、2)G8サミット、オリンピック等を見据えたテロ対策、カウンターインテリジェンス等、3)犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進、4)社会を脅かす組織犯罪への対処、5)活力ある社会を支える安全・安心の確保、6)安心して外国人と共生できる社会の実現に向けた不法滞在対策、7)「世界一安全な日本」創造のための治安基盤の強化、という7つの施策を掲げています。

防犯・テロ対策では、官公庁庁舎等公共施設、教育施設、病院・介護施設、空港・港湾・鉄道・倉庫等物流施設、原発等発電所、マスコミ・放送局、金融機関などにおけるセキュリティシステム設計が求められています。また防災・減災(阪神・淡路大震災、東日本大震災以降)では、被災地域の警備、原発避難地域のATM回収と現金精査などに貢献してきました。2011年には、全国警備業協会と警察庁との間で「災害時における緊急支援活動に関する覚書」が締結されています。

警備業の現下の課題

警備業協会加盟各社の喫緊の課題として、第1に、中小警備会社の経営基盤の脆弱性が挙げられます。社会保険未加入の企業もあることから、平成29年以降、社会保険未加入企業は下請企業として選定されなくなります。デフレ脱却の今、業界団体としても単価の向上に取り組んでいるところです。

第2は、警備品質の向上と安全安心ニーズヘの対応として、テロ対策、防災対策、サイバー空間への対応、子供・女性・高齢者を狙った犯罪の抑止、反社会的勢力対策です。第3は、2020年東京オリンピック・パラリンピックヘの取り組み。第4は、国際化・標準化です。

とりわけ2020年東京オリンピック・パラリンピックヘの取り組みについては、招致時の警備計画として2万1000人の警察官、1万4000人の警備員、9000人のセキュリティボランティアという枠組みが前提となっており、警備業界において「少ない人材をどうやって活用するか」、「警備のレベルをどの程度上げられるか」が課題となっています。

警備業の外延の広がり

創業50年のALSOKのこれまでの取り組みとして、警備本業では、人的警備(常駐警備)、機械警備、金融機関アウトソーシングの深堀り、公的部門のサポート(PFI、公共施設管理他)では、刑務所、原発などの重要施設、国・自治体の施設管理、公共インフラの点検、有害鳥獣対策、海外大使館などへの人材派遣(1980年~)、ATM管理といった金融機関のサポート(1990年代後半~)なども行っています。

さらにビルメン、プロパティマネジメント、ファシリティマネジメントなど民間施設メンテナンスや「家屋財産(施設警備)も個人(身辺警備の拡大、緊急通報・相談など)も守る」という観点で、安否確認から介護ケアまでの展開を進めています。犯罪防止、事故防止のさまざまなソリューションとして、機器開発、システム開発や人材養成にも取り組んでいます。

これまでALSOKでは、昨年のソチオリンピック(ジャパンハウス警備)、2012年IMF・世銀東京総会、2008年洞爺湖サミットをはじめ、国内主要イベントの大規模警備を務めてきました。今後は、生損保との協業や海外プラント・海外進出企業への支援、官公庁・地域におけるPFIなどの役割拡大、その他飲食業、サービス業、流通関係など、業界の枠を越えたコラボレーションによって、新たなイノベーションを生み出していくことが重要と考えています。

機器開発と先端技術

新しい機器を活用した事例として、2014年10月より既存の契約先を対象に、飛行ロボットで空からメガソーラー発電施設を見守るサービスを開始しています。飛行することにより固定式カメラより広範囲の撮影・監視が可能で、サーモカメラで撮影することによって、パネルの異常箇所の有無を確認することも可能です。

個人向けでは、お年寄りの転倒や徘徊、女性・子供の安全など、個人を守る通話機能・安否確認付き多機能モバイルセキュリティ端末「まもるっく」を新たに発売します。また、センサー付きWebカメラを利用して外出先からご自宅の画像を確認し、必要に応じてALSOKに駆けつけ要請ができる「HOME ALSOKアルボeye」の販売を2014年9月より開始しています。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを目指して、センサー、通信、ソフト、カメラ画像認識、ロボット(飛行ロボットなど)といった機器開発・活用が求められます。この点については、国内の空港で使われているX線機器といった検査機器の多くは米国などの海外製です。日本として、テロ対策の機器などハードウェアの分野における新しい産学官や企業間連携が重要です。

同様に、オリンピック・パラリンピック向けの産学官連携、省庁と企業連携(各省庁の安全安心プロジェクトとの連携)、省庁間の縦割り問題の排除とテロへの対策、サイバーテロ対策と省庁連携などが求められます。

これからの日本とALSOKの対応

我が国経済社会を取り巻く環境、具体的には少子高齢社会、人口減少・労働力不足、国際競争の激化、災害リスクと防災・減災、官民のインフラ老朽化、公的債務の累増といった状況の中で、ALSOKは「官と民の間」で、犯罪・テロ、事故、災害などから企業や地域の人々を守る役割を担っていきたいと考えています。

ALSOKは、全国約2400カ所の待機施設、グループ約3万人の社員を抱える体制を生かし、公共サービスをサポートする立場として、ガバナンスと説明責任、開示責任と警備ビジネスの立場を守り、利益とパブリック性を追求する中での適切な利益確保と株主還元、顧客還元に努めていきたいと考えています。

また犯罪・テロ、事故、災害等から企業や地域の人々を守る役割として、高齢者福祉のさまざまな分野においても、ALSOKは役割を担えると思っています。元気なお年寄りへの介護サービスだけでないプラスアルファの第三分野的なサービス展開も、その1つといえます。

また、持続可能な財政を確立するためには、民間の役割を拡大する必要があります。介護保険や健康保険といった国営保険と民間保険の交錯という視点や、民間金融資産の個人による「活用」のために、金融庁と各省庁の省庁間施策のコラボレーションを進めていく必要があると思います。

未だ発展途上の業界ではありますが、海外でのさまざまな警備サービス提供の手法確立、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた復興支援と「世界一安全な国、日本」の創造への貢献、地域振興のモデル確立など、5年後、10年後の展開に大いに期待して頂きたいと思います。

質疑応答

Q:

警備員の人材確保や品質管理について、どのような工夫をされているのでしょうか。

A:

人手不足の中で人材確保は大変な問題ですが、高卒・大卒含め、それなりに希望者は集まっています。海外へ行く機会や昇進の可能性も魅力になるでしょうし、技術系の開発ニーズもあります。

しかし今後の少子高齢化の中では、機械警備でできる部分をいかに増やしていくかという流れになると思います。また高齢者の再雇用や女性の活用など、いろいろなことが考えられますが、いずれにしても一番難しい問題といえるでしょう。

Q:

日本の警備業のグローバル化、国際競争力について、どのようにお考えでしょうか。また、ビッグデータの活用状況と今後の見通しをうかがいたいと思います。

A:

英国大手のG4Sは従業員数60万人、売上高1兆円という規模で、競争力という面では、先に出たところが勝ちといえる部分があります。東南アジアですら欧米企業が先に出ていますが、生産性は極めて低い状況です。警備自体を当該国で行うというアウトバウンドのアプローチはなかなか難しいわけですが、東南アジアなどへの機器販売・点検を含めた技術的な進出は狙い目だと思っています。

国内でのビッグデータの警備での活用は遅れていますが、画像処理や保存レベルが高まるにつれ、クラウド技術も活用されてきています。

Q:

ビッグデータの活用に関連して、犯罪率の多い地域はサービス価格が高い、あるいは出動回数の実績に応じて料率が上がるといった仕組みはあるのでしょうか。

A:

全国チェーンで展開していると、限界集落が進んだ地域では採算のとれないところも出てきます。そこだけ料金を上げるわけにもなかなかいきません。また、ビルの密集地は集積のメリットがありそうですが、犯罪発生率も高く警備員1人当たりの出動件数が増えるため、費用逓減というような価格メカニズムは働かないと思います。

Q:

機械警備では、今後どういった技術・機器に注目されていますか。

A:

やはりネットワークカメラだと思います。価格も下がっていますし、画像認識機能を使って、顔パスでゲートが開閉するようなシステムは既に販売しています。また、液体持ち込みの際のX線検査機器などは、もっと進化してほしいところです。具体的な何らかの基準が策定された上で、国内メーカーの開発を期待したいところです。

Q:

復興支援には、どのように取り組まれていますか。

A:

たとえば、震災発生直後から被災地にホームセキュリティを入れてもらっています。その他、地域ごとの安全安心サービス、復興住宅における見守りサービス、福島での原発周辺地区の防犯サービスなどを含め、いろいろと取り組んでいます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。