世銀グループMIGAからみる日本企業のアフリカ投資

開催日 2015年1月7日
スピーカー 本田 桂子 (世界銀行グループ MIGA(多数国間投資保証機関)CEO長官)
コメンテータ 岡田 江平 (経済産業省通商政策局中東アフリカ課長)
モデレータ 松田 尚子 (RIETI研究員/東京大学政策ビジョン研究センター特任助教)
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開催案内/講演概要

TICADや首相のアフリカ投資の推奨もあり、日本企業も海外投資のフロンティアをアフリカにまで大きくのばしてくるのではないか、と期待する向きも多い。しかし、アフリカ向け投資は、米国向けの3%にも満たない。一方MIGAからみるアフリカ投資の光景は大きく異なる。中国に加え、英国、フランス、米国等々の民間企業が、MIGAなどを活用してリスクをマネージしつつ、電力等へ投資をしており、日本企業のかなり先をいっている。欧米企業は、どのような国でどのような投資をしているのかを例にとりつつ、日本企業への意味合いを考えたい。

議事録

日本の対外直接投資先

本田 桂子写真日本の対外投資先をストックベースでみると、総額1兆376億ドルのうち米国が28%、中国とオランダがそれぞれ9%、豪州6%、英国5%、ブラジル3%などとなっていますが、南アは0%、南ア以外のアフリカでも1%に過ぎません(資料:UNKTAD)。たとえば、マレーシア1国に対する投資が1%ですから、それと同じ規模の投資がアフリカ全体に散らばっているという状況です。

2010~2012年の対外投資合計額をみると、中国が356億ドルで突出して高く、ブラジル166億ドル、タイ98億ドル、インドネシア79億ドル、インド78億ドルと続き、アフリカは18億ドル程度しかありません。そのうち半分以上の9億ドルを南アが占め、リベリア7億ドル、エジプト1億ドルの他は本当に少ないわけです。

アフリカ投資:思い込みと実状

日本企業に限らず、アフリカ投資と聞くと「エボラがアフリカ全体に蔓延している」「高成長だが低リターン」「資金調達は困難」といった思い込みがあるようですが、実情は異なります。現在のところ、エボラが課題となっているのはギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国のみです。それにもかかわらず、間違った思い込みのため、西アフリカを中心に投資の減退がみられています。

世界銀行の予測では、アフリカの今後3年における成長率として、エボラのマイナス効果を含めても5%強が見込まれています。国連の調査でも、米国企業による投資リターンは、南米14%、アジア15%に対し、アフリカは20%の高水準にあります。

資本市場での起債は、ザンビアは4月に10億ドル、コートジボワールは7月に7億5000万ドル、セネガルは7月に5億ドル、ガーナは9月に10億ドルとなっており、加えてインフラ投資ニーズも豊富です。労働力人口(15~64歳)についても、現在の5億人強から2040年には11億人に増加することが予測され、インドと中国を足した数よりも多くなる見通しです。

GDP成長率の予測として、2014年は世界2.6%に対しサハラ以南アフリカは4.6%でしたが、2015年は3.2%に対して5.2%、2016年も3.3%に対し5.2%となっています(資料:世界銀行 2014年10月)。なお、これはエボラの影響を加味して下方修正した数値です。

アフリカへの対外直接投資で今後留意すべきポイントとして、まず、サハラ以南アフリカへの対外直接投資は、2014年に2013年比10%減となってもなお290億ドルの規模で、プロジェクトもあり、投資家も多い状況です。とくに中国、フランスの企業の動きが活発といえます。

また、ソブリンウェルスファンドによって一部の国が戦略的な投資を行っています。CIC(China Investment Corporation)は、2011年に南アのShanduka Groupの20%を2億5000万ドルで買収。シンガポールのTemasekは、2013年にタンザニアのガス田の20%を13億ドルで取得しました。このように投資家の裾野が広がっているわけです。

資源価格の下落に伴い、欧州や中国の投資家を中心に事業・投資の見直しも行われています。鉱業や石油・ガスの採掘プロジェクトがいくつか休眠状態に入っている一方で、しばらく動きのなかった発電プロジェクトが復活してきました。しかし残念なことに、日本企業からの問い合わせはまだありません。

資本市場では、ケニアで20億ドルの調達に対し80億ドルの応札がありました。投資家の内訳は、米国ベース(68%)、英国ベース(25%)、その他に欧州(4%)、アジア(2%)、アフリカ(1%)となっています。とくに日系企業の応札は非常に少ないのですが、それ以外の地域の企業は活発に応札し、投資ポートフォリオの分散を図っているようです。

コートジボワールでも、7億5000万米ドルの調達(クーポン5.6%)に対し6倍強の応札がありましたが、やはり欧米系企業が多く、日本からの応札はなかったということです。

投資家が憂慮するリスク(Source: MIGA-EIU Political Risk Survey 2013)としては、第1に「途中で規制が変わる」が挙げられています。次いで「契約が守られない」、「兌換できない」、「内乱」、「政府の利払い拒否」、「収用・国営化」、「テロ・戦争」となっており、アフリカに限らずアジアでも同じように起きている要因といえます。

MIGAのアフリカ投資支援

MIGAによる2013年度の新規保証額は28億ドルとなっていますが、そのうち半分強の15億ドルをサハラ以南アフリカが占めており、今後も力を入れていきたいと考えています。

MIGAの提供する商品は、政治リスク保険(送金と兌換保証、契約不履行保証、収用保証、戦争・内乱保証)と信用保証(国、地方政府、国営企業)です。とくに政治リスク保険では、ムーディーズやS&Pといった格付会社によるCC格以下の国では、私たちがマーケットリーダーとなっています。

MIGAの民間投資家のアフリカ投資はインフラ関連が多く、現在、31カ国で67のプロジェクトを支援しています。戦争・内乱リスクの高いフラジャイルな国(FCS)でも行っており、複雑なプロジェクトも多いため、アジア開発銀行などの開発金融機関や世銀グループの他社、国際機関との提携が多いことは、あまり知られていないようです。

これだけ関係者が多ければ国としても軽視できず、何かあってもロスを共有することが可能です。このように複数の支援をうまく誘導するのはフランス企業が得意だと思いますが、日本や中国の企業はそうではないようです。最近は、米国のOPIC(海外民間投資公社)やEBRD(欧州復興開発銀行), JBIC(国際協力銀行)との共同プロジェクトも行っていますが、今後はNEXI(日本貿易保険)とも協力していきたいと思っています。

アフリカの国々では、うっかりミスのため送金できなかったなど、日本では考えられない問題が時に起こりますが、MIGAは、政府との意見の相違や誤解などの課題解決も支援しています。また民間投資を促すために、政府の予算のマネジメントやガバナンスなどについて、意見を述べることもあります。

現在アフリカでは、最低でも930億ドル程度のインフラ投資プロジェクトが必要といわれていますが、すでに450億ドルは資金調達済み(アフリカ政府の資金65%、ODA14%、民間投資21%)となっています。残る投資について世銀では、効率性向上によって170億ドルの資金調達が不要になると分析しています。

そこで、日本企業による付加価値のポテンシャルとして、ライフタイムコストやメンテナンスを含めたトータルでの強みをアピールすることで、受注できるプロジェクトがあるということを、世銀内部で議論しているところです。

MIGAは1988年に設立された後、2001年のドットコムバブルの崩壊、2008年のリーマンショックといった危機のたびに新規保証額を大きく伸ばし、右肩上がりを続けてきました。現在の保証残高は約130億ドルとなっています。

アフリカは遠い存在かもしれませんが、ビジネスの機会はあり、隣国の中国をはじめフランスなどの企業は、それをうまく使っています。米国の企業も動き始めています。投資の分散という観点でもアフリカへの投資は有効ですが、リスクフリーではないため、ぜひMIGAのような機関をご活用いただきたいと思います。

MIGAが自らを評価する際に重視しているのは、開発効果です。2014年度は32億ドルの保証をしましたが、それによって2600万人が新たに電力へアクセスできるようになり、7635人が就業することができました。このようなプロジェクトでぜひ支援したいと考えています。

コメンテータ:
ちょうど1年前、安倍総理が「地球儀を俯瞰する外交」の一環として、アフリカを訪問されました。西アフリカの仏語圏は、これまで歴代の総理が訪れたことのない地球上で唯一の地域であったのですが、コートジボワールを訪れたことで、最後の空白が埋まったことになります。また、次回のTICADは2016年に開催される予定となっており、アフリカに対する機運は盛り上がってきています。

日本企業は従来、ODAに基づくアフリカ進出がほとんどでしたが、戦争が減り、情勢が安定してくる中で、資源開発が進められてきました。ガーナでの石油ガス開発、アンゴラでの鉄鉱石鉱山開発や油田開発をはじめ、大きなプロジェクトには日本企業も参加するようになっています。

インフラ開発に関してもサブサハラ・アフリカ全域にわたって参加していますが、多くの場合、まず中国が道路や発電所などの基礎インフラをつくった後に、日本企業が入っていくパターンが多いようです。

資源やインフラ以外には、日本企業の進出は自動車や重機、家電・AVの分野に限定されていましたが、ここ数年は、B to Bビジネス、消費財、ソーシャルビジネスといった新しい分野での企業進出が目立ちます。

一方で、アフリカにおいて、製造業の投資はなかなかハードルが高いといえます。とくに製造業の賃金がアジア諸国に比べても一般に高いため、日本企業としては南アジア、東南アジアのほうが行きやすく、遠く離れたアフリカへわざわざ投資する理由も見当たらないというわけです。

加えて、欧州の植民地として、長い間培われてきたアフリカの既存市場に日本企業が食い込むのは難しい面もあるでしょう。また、多くの国が人為的な国境で区切られているため、内陸国も多く、輸送コストの問題も考えられます。このような悪条件もあるリスクの高いアフリカでの投資において、民間の金融リスクを軽減するMIGAのような国際機関の役割は大きく、日本企業が投資を進めていくためには不可欠だと思います。

質疑応答

Q:

これまでに、MIGAと各国ECAとの共同プロジェクトの経験はありますか。

A:

米国のOPICとは、互いのプロジェクトの再保険を引き受けるなど、いろいろやっています。両機関ともワシントンD.Cにあり、環境社会面のガイドラインが近いことや保険料率が近いことも、その理由です。KfW(ドイツ復興金融公庫)とは、南米のプロジェクトを一緒にやっています。アジアではJBICと始めており、JICA(国際協力機構)とも検討を進めています。NEXIとも小さい芽はありますので、ぜひ実現すればいいと思っています。

Q:

昨年、ザンビアを訪れた際、メイズといった付加価値の低い作物の農業で、なぜ国際投資が成り立つのかと驚きました。どういう状況なのか、ご説明いただきたいと思います。

A:

アフリカの場合、人件費が安くないのと同様に、食料品価格もそれほど安いわけではないのです。生産性が低いと価格が上がるという例であり、メイズも適切に灌漑すれば、効率性を上げられる余地があります。たとえば、通常は収穫できない乾季に出荷することで成り立つのだと聞いています。ザンビアには、小規模ながら十数件もプロジェクトがあります。

コメンテータ:

むしろ、農業生産性が低く食料品価格が高いため、賃金、即ち人件費が高くなってしまうということだと思います。農業ビジネスに関していえば、ムガベ政権にジンバブエを追い出された白人の農民が、ザンビアに移って農業で成功しているという話も聞いたことがあります。

平野克己氏 (日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 上席主任調査研究員):

アフリカの農業はグローバルにみても、実は儲かるということで注目されています。典型的には、ザンビアの国内企業が利益を上げて多国籍企業になっている例もあり、まさに末端の食料品をつくって儲けているわけです。しかし、そういったビジネスがもともと日本国内にない日本の企業は浸透していません。今日の話を聞いて、農業にビジネスが入ることを禁じてきた日本の弱みが、アフリカ投資に表れていると感じました。

しかし、味の素のようにアフリカで高い収益力を示している日本の企業もあります。日本がこれからグローバル化していかなければいけない中で、アフリカは体力を高める道場のような存在といえるでしょう。ファイナンスのリスクをどのようにマネージするかを学んでいく場として、考えていく必要もあると思います。

A:

実はアフリカではM&Aが盛んで、既存農場を買い上げて改良するなど、ブラウンフィールドで成功している欧米企業があります。買収によって、うまくやっている日本の企業もみられます。

Q:

MIGAでは、プロジェクトの経済性と現地への貢献のバランスについて、どのように考えているのでしょうか。

A:

基本的に世銀グループは、開発効果を第一義としています。第2に、こちらの財務の健全性に問題がないかどうか。第3に、環境社会面で問題がないかどうか。この順番で検討しています。

Q:

日本の企業は、複数の国際機関からの支援を得るのが苦手ということですが、その要因は何でしょうか。

A:

複数の機関を巻き込むと、手間がかかるのは確かです。機関ごとに判断が異なりますし、アフリカ開発銀行や民間の投資家も含めて、すべて英語で調整していくのは大変なので、日本語でJBICやNEXIのみと進めていくほうが、時間的な効率性が高いためだと思います。

MIGAがなぜアフリカ開銀と共同するかというと、ときに持っている情報が違う場合があるからです。補完関係のある人たちと組むことが大事です。案件によっては、MIGAからアフリカ開銀へ情報を出していることもあります。危ない案件は、手間暇かかっても複数の機関を入れるべきだと思います。

Q:

これまでMIGAがカバーした債務不履行などの保険事故案件は、どのようなものでしょうか。

A:

これまで750件のプロジェクトのうち15%程度で何らかの問題が起き、結果的に7件で支払いが発生しました。うち5件の要因は戦争・内乱、残り2件は収用でした。最近、よく起きる保険事故は、移動体通信のテレホンタワーです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。