OECDのグリーン成長戦略:東南アジアのケースを交えつつ

開催日 2014年11月25日
スピーカー 玉木 林太郎 (経済協力開発機構(OECD)事務次長)
モデレータ 藤本 武士 (経済産業省通商政策局国際経済課長)
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OECD加盟国のみならず世界経済を牽引する新興経済でも、持続可能なグリーン成長モデルへの転換が求められています。しかしグリーン成長戦略を実施するための万能薬はなく、経済の成長軌道をグリーン化できるかどうかは、政策及び制度、開発のレベル、資源賦存状況、特定の環境負荷のポイント などにかかっています。

また、直面する課題や機会は、先進国、新興国、開発途上国によって異なり、政治・経済状況が異なる国によっても違います。企業や消費者も巻き込み、グリーンな事業への投資推進やイノベーションへの支援も重要となります。なぜなら従来の政策を続ければ気候変動によるGDP損失は年々増大することが予測されるからです。

今回は、11日にインドネシア・ジョグジャカルタで開催された「アジア低排出開発戦略フォーラム」で発表した最新の「東南アジアのグリーン成長」報告書のほか、日本におけるOECDのグリーン成長戦略の例などを挙げ、持続可能な経済成長にとってグリーン成長戦略がいかに重要であるかOECDの分析をご紹介します。

議事録

環境問題への意識のギャップ

玉木 林太郎写真私は、3年3カ月もパリ暮らしをして欧州の議論に染まっているわけですが、日本へ来ていろいろな人と話をすると、日本人の問題設定の仕方や切り込み方が欧州と随分違うと感じます。そして、そのギャップが一番極端なのは、環境をめぐるテーマのような気がします。

環境の話は日本では独特の発展の仕方をしており、欧州で一般的にされている話とは違う次元で考えられているようです。もちろん気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書が出れば新聞に大きく取り上げられますが、結局は、日本の優れた環境技術や途上国を支援してクレジットをもらうといった話に収斂してしまいます。

欧州の多くの政策当局者や企業経営者などが考えているのは、そういう問題ではありません。世の中が低炭素経済へ移行していくときに、人々の生活や企業のビジネスモデルがどう変わらなければいけないか、どういう投資をしておくべきか、といったことに人々の関心は移っています。そこで本日は、欧州におけるメインストリームの議論をご紹介したいと思います。

CIRCLE:長期経済成長への影響

2100年までの気温上昇を、産業革命前に比べて2℃までに抑えるという目標を達成するには、内燃機関からのCO2排出量をネットゼロにする必要があります。OECDでは、CIRCLE: (Costs of Inaction and Resource scarcity: Consequences for Long term Economic growth)という気候変動モデルをつくり、世界経済全体への影響評価を行っています。

気候変動の地域別影響評価のグラフにおいて、注目すべきは、南アジアと東南アジアが突出してマイナス幅が大きいことです。つまり、気候変動が進むにつれて、こうした地域は極めて大きなダメージを受けることが予想されるわけです。

たとえば南アジアの典型であるバングラデシュは農業中心の経済であり、河川の灌漑によって支えられている米作が中心な為、大きなダメージが予想されます。また海面上昇が進むと、人口の多いダッカをはじめとする都市部に大きなリスクをもたらします。東南アジアも同様に、とくに農業部門へのマイナス幅が大きく、低所得のASEAN諸国は、降雨パターンの変化によってコメの生産が壊滅的な打撃を受けるに違いありません。また、この地域では、多くの国が海に面した水害の影響を受けやすいところで都市化が進んでいるため、海水による洪水のリスクが高く、経済へのマイナスの影響が大きいわけです。

同じグラフで、OECD Pacificの経済は気候変動によってポジティブな影響を受けることを示していますが、それは主に南アジア、東南アジアの農業生産が打撃を受けることで、農産品価格上昇のポジティブな影響をオーストラリアやニュージーランドが受けるということです。日本や韓国への大きな影響はおそらくないと思われます。

南アジア、東南アジアの国々は、気候変動に対する脆弱性が著しく高いため、緩和(Mitigation)や適応(Adaptation)を促進する投資や政策努力は、極めてリターンが高いといえます。つまり、これらの地域こそ気候変動に備えた投資を今からしておくべきというメッセージになると思います。ところがASEAN諸国の関心がいまひとつ低いことから、OECDは各国の具体的な政策に即した議論を行い、勧告をまとめています。

ASEAN各国のナショナルプランをみると、地域統合や貿易円滑化には多くのページが費やされていますが、環境と格差には、いまだに関心が低い状況といえます。各国の経験をもとに、もっとASEANの国々とナレッジシェアリングをして、次のナショナルプランからは、こういった要素を積極的に入れることが、これらの国々への非常によいアドバイスになると思います。東南アジア諸国は、長い目でみたときのエネルギー組成のあり方について、どういう投資をすればよいか、さらに掘り下げた議論をすべきでしょう。

太陽光発電コストの推移

太陽光発電コストは急速に低下しており、化石燃料による発電コストの水準にかなり近づいてきています。テキサス州の最新の太陽光発電所におけるBest utility‐scale project,2014の発電コストは、ついに従来の化石燃料と同じ水準まで下がりました。1つの可能性として、このまま太陽光発電や風力発電のコストが下がっていけば、従来型発電との価格競争力が出てきます。日本は、発電会社レベルの太陽光発電のコストがダントツに高い状況にあるため、より安価にする余地があると考えられます。

太陽光発電コストが下がってきた背景として、欧州におけるFeed-in Tariff(固定価格買取制度)の効果が顕著に出てきたと思います。とくにドイツでは、これにより莫大な納税者負担が発生しています。いわば太陽光発電コストは、ドイツをはじめ一部はスペインやイタリアの納税者のおかげで随分下がってきたわけです。また、中国の企業が生産能力を拡大したために、さらに太陽光発電コストが下がってきています。そして、化石燃料のコストが視野に入るところまで来ています。

ただし、太陽光発電のコストが下がったからといって、すぐに切り替えればいいという簡単な話ではありません。先進国の多くは、長い歴史をもったユーティリティのシステムがあり、送電システムが大規模な発電所とつながれ、安定した供給を確保しています。そこに太陽光発電所などが新規に加わると、既存のグリッドシステムとの調整が難しくなります。

九州電力などでの買取に関する議論をみても、いかに既存の電力システムとの調整が一筋縄でいかないかを物語っています。しかし、目の前の困難や太陽光パネル生産業界の浮き沈みがあったとしても、再生可能エネルギーの世界が着実に広がっている現実は、想定の中に置いておかなければなりません。

その意味するところは、ナショナルグリッドシステムから独立した電力供給の可能性がますます広がってくるということです。とくに、多くの島からなっているインドネシアのようなケースや、まだナショナルグリッドシステムを完備していないLDC(後発開発途上国)のようなケースに、これからどういう投資をしていくか。日本や欧州のケースを忠実に後追いする必要はないはずです。

私は1994年から世界銀行にいましたが、その頃は、国中にどうやって電話の送電線を張り巡らせるかという議論している最後の時代でした。2000年になると、もう誰も送電線などと考えることはなく、電話線のシステムが完成する前に、いきなり携帯電話が導入されたわけです。太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーをめぐっても、程度の差こそあれ、途中を飛び越えて次の段階へ行くという国がたくさんあると思います。

このような話は、OECDや欧州では比較的普通の議論です。彼らには10年後、20年後、30年後のイメージがあって、それに向けた政策的対応やビジネスモデルの議論を始めなければ困るということで、進められています。それによって足元の議論が左右されるという短絡的なものではありません。

低炭素社会への移行に向けた4つの政策アプローチ

日本で現在起こっていることにはいろいろな側面があって、簡単に話は進まないと思いますが、全体の趨勢として、エネルギーやより広い経済社会システムがどの方向へ行くかを考えながら政策対応するための方策として、1)炭素排出に対する価格付け、2)化石燃料補助金改革、3)グリーンインフラへの投資促進、4)規制・市場の硬直性を克服するための政策調和の確保、の4つを挙げることができます。

炭素の価格付けについては、排出権取引(ETS:Emissions Trading System)がじわじわと広がっています。欧州では依然として大規模に行われていますし、カリフォルニアなどの東部の州、中国でさえ6つの省で実施されています。ある中国の当局者いわく、2016年に国家レベルでのETS導入を考え、準備を進めているということです。ETSは、炭素に価格を付ける有力な手法ですから、その動向には注意を払っていただきたいと思います。

もう1つ、排出課税という方法もあります。かつて日本は、公害健康被害補償予防制度としてSOxやNOxの排出に事実上の課税を行いました。こういった炭素税は、2006年のスウェーデンを皮切りにOECDレベルでは9カ国で行われています。カナダのブリティッシュコロンビアでは、2008年に二酸化炭素の排出1トン当たり10カナダドルの炭素税を導入しました。それを徐々に上げ、現在では30カナダドル/トンまで来ています。

その成果は顕著で、すでに二桁の削減をもたらしていますが、経済成長にはほとんど影響が出ていません。なぜならば、炭素税の税収は基本的に所得税や法人税といった所得や労働に対する税の軽減に使われているためです。このように、政治的にも受け入れ可能な形にして実行している例は、これから炭素税を導入する国にとっては、1つの参考になると思います。

ガソリンや車の所有、運転に対して課税するのも1つのやり方でしょう。間接的な炭素の価格付けについて、環境関連税のGDPに占める割合(2012)をみると、驚くべきことに日本は、米国やカナダ、チリといった国々と肩を並べて、圧倒的に低い水準にあります。ガソリン価格、税率でみても、日本の負担は32カ国中28番目に過ぎません。したがって、日本の環境税はまだ低い水準にあることを強調しておきたいと思います。

OECD加盟国では、いまだに550億〜900億ドル/年の化石燃料補助金が拠出されています。しかし、それ以上に深刻なのはアジアの国々です。とくに東南アジアは化石燃料に対する補助金では群を抜いており、ASEAN10カ国の合計がOECD全体に匹敵します。そしてASEAN10カ国の国家予算合計の11%を化石燃料に対する補助金が占めています。

中でもインドネシアは、いまだに総予算の15%に上っています。もし、この補助金を減らして社会プログラムに転換することができれば、どれほどのプラスになるかは想像するまでもありません。そして、もともとこの補助金は、煮炊きをケロシンに頼っている貧困層に向けたものです。しかし、その安くなった化石燃料の消費を所得階層別に分析すると、ほとんどの補助金は中所得・高所得層のポケットに収まっています。

貧困層を支援という名目があっても、それが十分うまくデザインされたものでなければ、貧困層に十分な裨益は行きません。むしろ貧困層を助けるためには、こうした補助金をやめて貧困層に対する直接的な現金給付に切り替えるか、あるいは失業保険をはじめとする社会セーフティネットを導入するなど、そういった分野で努力をした方が、はるかに貧困層支援の実を上げられるに違いありません。

政策調和が必要:政府は正しいシグナルを送っているか?

政府は、再生可能エネルギーのための研究開発補助金や、Feed-in Tariffをはじめさまざまな補助金を出しています。しかし、それ以上にシーソーが傾いている要素として、化石燃料に対する調査研究の支出をはじめ、日本にはありませんが、カンパニーカーといった自動車利用の非課税特例などは、調和した正しいシグナルではありません。あるいは途上国の化石燃料補助金を含め、世界がこれから低炭素経済へ移行しようとしているときに、全体が調和した姿で1つの方向性を持たなければいけません。

より広範に、どの政策が何をしなければいけないのか。たとえば運輸では、どういう投資をして、どういうものにブレーキをかけなければいけないのか。都市計画についてはどうか。土地利用についてはどうか。総合的にみて、周辺の政策がその環境政策を打ち消し合わない、あるいはその効果を促進するような形で展開されなければいけません。それを環境省や経産省以外の各省庁も理解することが大事だと思います。

質疑応答

Q:

開発と環境のバランスについて、中国をはじめ発展途上の国々は、まだ自分たちは炭素を排出する権利があると主張しています。世界的には、どのような見方がされているのでしょうか。

A:

COP21での議論が長いことされてきましたが、さすがに風向きは変わってきていると思います。また、世界経済全体が低炭素エコノミーにシフトしていくことに関して大きな異論は出ていませんので、その影響について議論することは、COPプロセスにおいて、どの国がどれだけ排出権を取るかといった議論とは別のことです。

途上国の関心は、先進国と差異を縮めています。中国がETSを導入することや、先日の米中合意のように2030年にピークアウトするといった議論は、従来は「自分たちの問題ではない」と言って片づけていた風潮が退いていることの証明だと思います。

来冬に開催されるCOP21に向けて、これから13カ月間、中国がどういうアプローチをとるのかをみていく必要がありますが、いつまでたっても「米国と中国の問題でしょう」と日本が逃げているわけにもいきません。この問題には明確な勝者も敗者もなく、全体が勝者となるか、敗者となるか、どちらしかありません。

Q:

環境よりも経済第一になってしまう日本の考え方を欧州のように変えていくには、どうすればよいでしょうか。

A:

それは、私も長らく疑問のままです。環境の分野だけでなく、日本はODAに力を入れているにもかかわらず、世論をとってみると、途上国援助への支持は欧州とかけ離れて低い状況にあります。たとえば英国の選挙では、「どちらの候補者がアフリカの貧困を改善できる有効なプログラムを提示できるか」が1つの争点になります。欧州の人々の意識には、最貧国への支援は公的部門がなすべき最大の任務の1つであるということが自然に組み込まれているようです。気候変動に関しても、実に優秀な人々が結集し、レベルの高いレポートをまとめ、企業もそれを支援しています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。