2014年度設備投資計画調査の概要

開催日 2014年8月28日
スピーカー 桐山 毅 (日本政策投資銀行産業調査部長)
モデレータ 村上 敬亮 (経済産業省経済産業政策局調査課長)
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日本政策投資銀行は、例年「設備投資計画調査」を取りまとめ発表しています。この調査は、わが国産業の設備投資の基本的動向を把握することを目的として、国内単体及び国内外連結の設備投資を調査・分析するもので、1956年より60年近くに亘り継続しています。また調査対象企業及び回答企業の数は、同種の調査としてはわが国最大規模です。

今回のBBLセミナーでは、2014年8月発表予定の設備投資計画調査集計結果をもとに、企業の設備投資の最新動向を紹介するとともに、国内事業環境に関する企業の認識や海外の事業活動等、足元の重要テーマに関する企業の意識・見通しについて解説します。

議事録

国内設備投資動向

大山 健太郎写真2014年度設備投資計画調査の概要を8月5日に発表しましたが、「非製造業が続伸し、3年連続の増加」のタイトルどおり、設備投資全体の3分の2を占める非製造業を中心に大幅な増加となりました。また、副題に「-製造業では海外強化の姿勢続くも、一部で国内機能を再評価する動き-」とあるように、海外への設備投資が一服しています。

今年度は6月26日を期日とし、資本金10億円以上の民間法人企業を対象(ただし農業、林業、金融保険業を除く)に設備投資計画調査を行い、回答社数は2246社(回答率69.7%)となりました。

特徴的な点として、2014年度の国内設備投資(計画)は、全産業で15.1%増と大幅に伸びています。これは24年ぶりの高い伸び率で、製造業(18.5%増)、非製造業(13.2%増)とも2桁増が計画されています。ただし実績になると下振れするというのが、ここ数年の特徴といえます。

2013年度の設備投資実績が計画を下回った理由を調査したところ、製造業、非製造業とも「実施不確定な設備投資が含まれていた」「予算に余裕を持たせていた」が上位を占め、次いで「工期の遅れ」が挙げられています。一方、2014年度の特徴として、「足元の収益下振れ」や「計画策定後に事業環境の不透明感が増大した」と回答する企業が半減しました。アベノミクスの定着とともに視界が見えやすくなり、下方修正幅も小さくなることが期待されます。

設備投資マインドの改善を後押しする要因として、企業の中期的(今後3年程度)な期待収益率は2012年から2014年にかけて「上昇の」割合が5割を超えました。2013年との比較でも「上昇した」もしくは「変化なし」の回答が合わせて8割を超えており、改善基調にあります。また、消費税引き上げが2014年度の国内設備投資計画策定に影響したかという問いに対しては、86.6%が「影響しなかった」と答えています。

売上高、経常損益の見通しは、引き続き改善基調を示していますが、国内設備投資は引き続きキャッシュフローの範囲に留まる見通しです。2014年度の資金計画において、資金計画を高める使途は、製造業・非製造業ともに「国内設備投資」が半数近くを占め、最大となりました。続いて製造業では、「海外設備投資」「研究開発」「人件費」の回答が多く、非製造業では「人権費」「債務の返済」の回答が多くなっています。

事業環境の改善などの観点で必要とする事項(複数回答)については、製造業では「為替レートの安定」「法人税減税などの税制面の改善」「エネルギー安定供給体制の整備」がトップ3となりました。非製造業では、「法人税減税などの税制面の改善」を挙げる企業が突出して多く、続いて「エネルギーの安定供給」「交通・通信などの事業環境に係るインフラ整備」「専門性の高い人材育成への支援」が多い状況です。

業種別の設備投資動向として、製造業では、紙・パルプを除くすべての業種で前年を上回っています。従来、自動車、電機・電子という2大産業が日本経済を牽引してきたわけですが、これに代わって航空機産業の設備投資が顕著であると感じています。紙・パルプについても、2013年に大型投資が行われた反動ですので、各業種とも増加基調にあると考えられます。とくに化学は航空機・エコカー向けや電子・電池などの高機能部材、自動車はエコカー関連の技術開発や基幹部品生産設備などで増加しています。鉄鋼は、高炉改修に加えて工程合理化などによる品質や生産性向上のための投資で増加がみられます。

製造業の投資動機では、「維持・補修」のウエイトが4年連続で過去最高を維持し、最大の投資動機となっています。「合理性・省力化」は鉄鋼、石油、化学など素材型産業を中心に上昇しています。「合理化・省力化」「維持・補修」のウエイトの合計は約4割となりました。「能力増強」は約2割まで縮小しましたが、「新製品・製品高度化」「研究開発」のウエイトは合計で約25%を占め、両者を合わせると「能力増強」のウエイトを上回っています。

非製造業では、鉄道の安全対策や車両の更新、航空機や船舶関連の投資があったほか、消費の拡大・多様化に伴う商業施設や物流施設への投資が継続しています。都心部を中心とした開発物件なども増加するなど、投資の広がりがみられます。通信・情報は、第4世代以前の基地局の整備が昨年一段落したため、少なくとも国内設備投資は一服して減少に転じています。

国内・海外の事業展開

2014年度の海外設備投資(計画)は、連結ベースで全産業において前年比2.0%増と、5年連続の増加ながらも大幅に鈍化しています。とくに製造業では、自動車の投資が一服したほか、化学や非鉄金属で大型案件剥落の反動などもあったことから、同1.6%減と5年ぶりに減少に転じました。非製造業では、資源関連投資により大幅に増加する鉱業が牽引し、5年連続増加する見込みです。地域別では、アジアが5年ぶりに減少に転じています。

製造業の中期的な国内外の供給能力については、7割強の企業が海外を強化する方針をしめしています。ただし国内の供給能力を増加させる比率は28.8%(前年比6.7ポイント増)と若干上昇しており、一部に国内生産を再評価する動きが出始めています。業種別にみると、電気機械・一般機械では、一部で国内外生産体制の見直しがあったことなどに伴い、中期的に国内供給能力を増加させる比率が1~2割前後上昇しています。

国内生産を継続する理由として最も多かったのは、前回に引き続き「国内需要への対応」でした。続いて「技術・商品開発のための生産基盤が必要」「国内生産による高い生産性」「国内サプライチェーンの存在」「専門性の高い国内人材の存在」という回答が多くなっています。やはり、国内の産業集積を維持する重要性が垣間見られるように思います。

企業が今後も国内に残すべき機能としては、「企画・経営管理」「資金調達」などの本社機能に加えて、「研究開発(基礎/応用)」および「マザー工場としての機能」との回答が高い比率となりました。高付加価値品の量産機能については、国内に残すとの回答が3割弱となっています。また、一旦海外に出した機能を再び国内に戻すことについては、検討していない、または実施をしていない企業が9割を超えています。

今年度、為替安にもかかわらず輸出が伸びない状況が続いていますが、海外での供給能力を増加(海外強化)させる企業については、国内からの部材調達は「現状維持」または「減少」が約9割を占めています。企業の海外展開は、国内サプライヤーの生産増加には必ずしもつながらない構造となっています。

2014年初以降の輸出数量の動向として、競争力の高い製品の輸出製品では、約6割が増加したと回答していますが、競争力の低い製品では、約8割の企業が横ばいか減少と回答しています。また、競争力の高低にかかわらず、回答企業の約6割が輸出数量の伸びない理由として、「競合他者の部材・製品との競争が激化」がダントツに高くなっています。今後の課題として、その競争の相手は海外企業なのか、日本企業なのかを調査したいと思っています。

成長・競争力強化に向けた取り組み

今年度はアベノミクスに関連して、企業における成長・競争力強化に向けた取り組みについて、いくつかの切り口から調査しています。当行は、これまで設備投資に関する調査を60年ほど行っていますが、近年のトレンドとして、無形資産が企業の価値や成長に貢献する役割の高まりを感じています。そこで生産設備への投資以外に、どういった分野に企業経営者が注目しているのかを知りたいと考えました。

成長・競争力強化に向けての重要度が増す分野として、製造業では「生産設備への投資」と並んで「研究開発活動」が重要と答えている比率が6割を占めています。続いて、「人的投資への投資」や「事業・組織などの構造改革への取り組み」が4割程度となっています。非製造業の場合は「人的資本への投資」が4割台半ばを占めて最も高く、「事業・組織などの構造改革への取り組み」「マーケティング・ブランド構築」が3割台半ばと続いています。

2014年度の研究開発費計画(連結ベース)は、全産業で前年比4.5%増、業種別では一般機械、電気機械、輸送用機械の伸びが高くなっています。日本企業の研究開発費は、景気の不振にかかわらず設備投資よりも堅調に増加しているというトレンドが続いています。輸送用機械では、次世代自動車の開発に加え、安全技術や環境技術に注力されています。電気機械では、ヘルスケア・医療や環境技術、情報通信技術、インフラ関連など、一般機械や化学でも、医療・環境・エネルギーなどの分野を中心に研究開発が実施される計画となっています。従前にもまして、対象となる最終製品の業界が広がっていることがわかります。

生産設備の海外移転は日本にとって重大なイシューになっていますが、研究開発拠点の海外移転も医薬などを中心に進められているようです。しかし今回の調査では、国内拠点で基礎から応用まで幅広く研究開発を行うフルライン型の割合が高く、その理由として、生産拠点(マザー工場)と一体性のメリットに加え、研究者や共同開発パートナーの存在が挙げられています。また、海外には研究開発拠点を持たない企業が半数を占めており、海外に拠点を持つ企業においても当該企業が担う機能は、現地に根差したサービスが中心となっています。

製造業の中期的な国内外の研究開発活動については、引き続き国内での維持・強化をしつつ、海外でも維持・強化していく方向が示されています。

研究開発活動を収益につなげるための課題として、最も回答が多かったのは「収益性を前提とした開発テーマの設定」で、全体の5割を占めています。それ以外にも、現地ニーズに合わせた応用開発力向上、共同開発やM&Aを含む外部リソースの活用などにも、それぞれ2割弱の回答があり、研究開発のマネジメント全般が課題と認識されています。こういった課題意識に対して、どう答えていくかが今後の課題と考えています。

成長・競争力強化に向けて主力事業での注目分野として、製造業では、2013年度調査に引き続き「新製品・サービス開発・設計」との回答が最も多く、「製造(事業)工程化」「販路(顧客)開拓、拡大」が続いています。非製造業では、「販路(顧客)開拓、拡大」の回答が最も多く、「新製品・サービスの開発・設計」と続きました。2013年度調査と比べると、製造業において「製造(事業)工程の効率化」の比率が4.1ポイント増加しましたが、思ったほどの伸びではなかったという印象です。

国内成長市場への取り組みについては、製造業ではエネルギー・環境関連、次世代自動車関連、医療関連などに注力するという回答が多くみられました。非製造業では、エネルギー・環境関連、インフラ関連、少子・高齢化関連(介護、子育て支援など)に注力するとの回答が多くなっています。ただし、ビッグデータ関連事業が製造業で0.6%、非製造業で2.2%と非常に少なく、「特になし」と答えた比率は製造業で28.5%、非製造業で48.2%に上っています。

海外の成長市場については、製造業では次世代自動車関連、エネルギー・環境関連、インフラ関連、医療関連などに注力するとの回答が多くなっています。非製造業では、海外で成長市場に注力する計画はないとの回答が多数を占めました。また、比率は高くないものの、インフラ関連やエネルギー・環境関連に注力するとの回答もみられました。

競争力強化のための人材面の取り組みとして、製造業では、グローバル人材や研究者などの専門人材、女性や外国人などの多様な人材の活用に注力するとの回答が高い比率を占めています。非製造業では、専門人材の育成が最も高い比率を占め、女性や高齢者の活用、待遇改善などによる優秀な人材確保が続いています。必ずしも士業ばかりではなく、販売・マーケティングのための高度な機能といった質的な面まで人材不足が影響していることを実感し、どう対応していくかが課題だと思っています。

質疑応答

Q:

国内の新規設備投資について、特徴的な傾向があれば教えていただきたいと思います。

A:

量的に大きいものとして、炭素繊維をはじめ航空機を最終製品とする投資の広がりがみられます。米国の競合企業と比べ、航空機分野への日本企業の参入割合はまだ小さく、チャンスは大きいといえます。あとは、産業用ロボットやITシステムによって生産性を向上させる動きが出始めています。人材不足から設備投資に行きつくにはタイムラグがありますから、具体的な投資が出てくるのは来年度以降だと思っています。

Q:

省エネ投資は、どのような動きになっているでしょうか。

A:

2014年の計画では、合理化・省力化目的の投資では、省人化よりも省エネが主体となっています。また、維持・補修目的であっても、たとえば鉄鋼などでは単純な改修に留まらず、エネルギー効率も大幅に向上しているはずですから、省エネは重要なポイントだと思っていますので、動向を注視していきたいと思います。環境投資にも省エネが必ず含まれていますので、今後の課題として、省エネ投資という切り口でも把握していきたいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。