生活者視点の商品開発

開催日 2014年8月27日
スピーカー 大山 健太郎 (アイリスグループ会長)
コメンテータ・モデレータ 寺家 克昌 (経済産業省製造産業局住宅産業窯業建材課長)
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開催案内/講演概要

売上に占める新商品の割合が50%を超え、1年間に発売される新商品数は1000アイテムにも及ぶ。なぜ次々と新商品が開発できるのか。生活者視点の商品開発とは何か。プラスチックメーカーがなぜ家電製品を開発するのか。アイリスオーヤマのビジネスモデルを語る。

議事録

アイリスのビジネスモデル

大山 健太郎写真アイリスオーヤマ(本社:宮城県仙台市)は、国内工場8カ所、海外工場12カ所(米国2カ所、欧州1カ所、中国8カ所、韓国1カ所)を展開するグローカル企業です。メーカーベンダーとして、製品設計、品質管理、商品化を行っています。中国へ進出して18年になりますが、「失われた20年」の間も国内工場を増やしてきました。1万8000アイテム近い品ぞろえのうち、プラスチック製品の構成比は近年20%に縮小し、金属製品、木製品、紙製品、ペットフードといった広がりをみせています。

私が高校3年生のときに父親ががんになり、進学をあきらめて家業を継承することにしました。大阪の零細企業でしたが、21歳の頃、水産関係や農業関係のプラスチック資材をつくるようになると、日本の農業・水産業の大きな集積地である仙台でも生産をするようになりました。その後、国内の産業資材メーカーとして拡大していきましたが、オイルショックで壊滅的な被害を受け、明日にも倒産という経験をし、業態転換に踏み切りました。

そのときに考えたことは、ただ1つです。「いかなる時代環境においても利益を出せる会社をつくりたい」――そのためには無から有を生み出すしかないと考え、技術を生かしてプランターなどのプラスチック園芸用品を開発し、一気に市場を構築することができました。

需要を創造するキーワードは、「快適生活を支援する」ということです。すでに世の中でたくさん売れている必需品は、市場は大きいものの過当競争のため、新規参入で利益を上げられるような甘い業界ではありません。当社が35年前に園芸用品を始めたときは、「豊かになってくれば、家庭にも緑・花ものが普及するだろう」という仮説のもとで商品化しました。そして当時、全国に広がりつつあったDIYのホームセンターに市場を求めたわけです。2000年代以降のペットブームも、当社が作り上げたといえます。

既存マーケットの中で新商品開発をすると、半年もすればキャッチアップされて単価が下落するものです。当社は過去35年にわたって、好不況にかかわらず経常利益率10%を確保しながら成長を維持してきました。その間、世界を変えた商品といえば収納用品です。当時、2年がかりの原料開発から始めましたが、その結果、世の中の収納コンテナは、一気に色つきから透明に変わりました。

3年間は独占の状態でしたが、徐々に類似品が出回るようになりました。当社は、いくら自分でつくった市場でも、儲からなくなればやめます。ですから「新商品(発売3年以内)比率50%以上」を基本とし、次々と新商品を開発しています。

その後、収納用品を米国に展開したところ飛ぶように売れ、また2~3年して類似品が出回るようになると、今度は欧州に出ました。常にマーケットインの中で苦しみながら、ユーザーイン発想の商品開発をしてきました。

LED照明の開発

当社では、すでに10年前からガーデニング用のLED電球をつくっていました。これを製造する大連工場は、ピーク時8000人いましたが、今は2000人です。しかし売り上げは3倍になっています。中国に進出した多くのメーカーは労働集約型でしたが、当社では1人の工員が10台の成型機を管理しています。おそらく自動車メーカーに次いで多数のロボットを導入し、中国の工場は24時間稼働です。また業態メーカーベンダーとして、アイリスオーヤマは世界一の自動倉庫を持っています。

そして、LED電球を2000円で発売したところ、初年度に数量ベースでトップになりました。その後、競争が激しくなると価格はあっという間に下がり、現在は1000円を切っています。

2011年には東日本大震災が起こり、仙台本社は大変な被害を受けました。そして計画停電を経験する中で、直管LEDランプ(蛍光灯タイプ)をやるべきだと考えました。しかし業界は、新たに日本規格を導入しようとしていました。そうなれば既存の照明器具ではLEDランプに対応できず、お客さんは器具ごと買い替えなければなりません。そこで当社は、既存の照明器具でも使える安全設計のLEDランプを発売したところ、お客さんに支持されたわけです。

現在、市場に普及しているのは新規格ではなく、当社が採用した世界規格です。アイリスオーヤマは、LED電球、直管LEDランプ、シーリングライトで市場を創造しました。しかし、この業界は1年後にはすぐキャッチアップされます。あいかわらずLED照明の販売数量はナンバーワンですが、お客さんが喜んで、お互いに利益をとれるビジネスを心がけています。

家電製品の開発

昨年から、大手家電メーカー出身の優秀な人材を40名ほど迎え入れ、家電製品の開発を進めています。代表的な事例はIHクッキングヒーターです。お年寄りの1人暮らし、2人暮らしが多い昨今、ガスの消し忘れは心配なものです。そこで当社は、100Vで2口のコンロを作りました。これも、ガスレンジを安く、簡単、便利にIHに換えられるというユーザーインの発想です。おかげさまで一気に市場が伸びました。これもオンリーワンだったわけです。こういう発想でいくと、家電もまだまだ商品開発の余地があります。

さらに、IH対応の鍋でないと料理ができませんので、IH対応フライパン、無加水鍋など、いろいろな調理器具も作っています。単に調理器具が儲かるからやるのではなく、IHを普及させるためには、それに対応した便利な鍋類が必要なわけです。

つい先月発売したノンフライ熱風オーブンは、日本の食卓を変えると思っています。単に家電製品を開発するのではなく、おいしい料理をどう作るのか。「簡単、便利、おいしい」がキーワードだと考えています。

なぜ、コメビジネスか

なぜ、アイリスオーヤマがお米なのか――。その原点は、震災被災地の復旧・復興です。私は東北ニュービジネス協議会の会長を務めていますが、昨年1月、仙台で15代続く農家の被災者と会う機会がありました。その方の話では、おいしいお米はいくらでも作れるけれども、今の流通が駄目だというのです。おいしい米も、まずい米も1つになってしまうためです。

お米は、5kg、10kgと家庭で保管している間にも劣化します。しかし、15℃で保管・精米し、そのまま小分けパックに入れて酸素をカットするトータルコールド製法ならば、1年保管可能で新米の味が残ります。つまり包装技術が重要なのです。他の食品加工では当たり前にやっていることなのに、なぜお米はやらないのか。ポリ袋に5kg、10kgの米を詰め、飼料のような扱いで売るのか。これまで講演などでも話してきたのですが、一向に改善されていません。

日本は、風土に合ったおいしいお米をつくることができます。1膳(150g)のお米の量は65gですから、1kgあたり500円のお米を買っても、1膳36円程度にすぎません。それに比べ、他の食材は1人前数百円とするわけです。つまり、高価な魚や肉を選んでいながら、お米だけは安いものを求めようとするのが日本の食文化といえます。私は、この文化を変えるべきだと思います。

日本人は、40年前に比べて半分以下の量のお米しか食べません。一番大事なことは消費量を増やすことです。私自身、40年前のパンはまずかった記憶がありますが、今のパンはおいしくなったため、人々にパン食が広がったのでしょう。やはり、「簡単、便利、おいしい」というキーワードが食品産業を支えるといえます。そうした視点で、日本の食文化を変えること、そして基幹産業である家電の再興に取り組んでいるわけです。

TPPなどは全然こわくありません。どれだけ安くでも、カリフォルニア米を日本へ持ってきたら、まずくて食べられません。米国で食べるとおいしいのですが、日本へ持ってきたら食べられない味になります。タイ米が入って来たときも、ほとんどが食べられずに飼料へ戻されました。やはり、皆さんにおいしいご飯をしっかり食べていただき、それが日本の農業を変える基本であるということを啓蒙しているところです。

質疑応答

Q:

年間1000点に上るという新商品開発について、もう少し詳しくうかがいたいと思います。

A:

商品カテゴリごとに開発チームがあり、毎週月曜日にプレゼン会議が行われます。それ以外の曜日はやりません。情報を共有するためです。特許、応用研究、製造・物流、営業の各担当者が同席した中で議論される内容が共有され、私自身が責任をもって決裁をします。決まれば、早いものだと3カ月後には商品化されます。

Q:

国内と海外の事業展開について、どのようにお考えでしょうか。国内では、成長戦略などで「グリーンとライフ」とよくいわれます。アイリスオーヤマには、グリーンはすでにLEDがありますが、ライフの分野である介護用ベッドや車いすなどを扱う計画はありますか。

A:

海外関連会社はたくさんありますが、開発センターは基本的に日本のみです。海外工場では欧米のクリア収納がメインとなっており、競合のないスペシャリティストアで当社製品のシェアを高め、業態の差別化をしています。韓国、中国、日本では、インターネット販売の比率が急速に拡大しており、アイテム数の多い当社の優位性が高まっています。介護ベッドもやりましたが、やめました。購入には補助金が交付されるため、高額商品が好まれるようです。

Q:

国内工場を増やしているとのことですが、採算はとれるのでしょうか。

A:

国内工場はプラスチック製品が中心で、ロボットを使ってオートメーション化しています。LEDの組み立ても一部国内で行っていますが、ほとんどロボットで生産しています。最近、中国と日本の人件費は1:3まで地域差が縮小していますから、省人化を進めることでコストの吸収を図っています。当社はメーカーベンダーとして、工場にインターネット販売や店舗向けの在庫を保管する機能も必要です。そのため「物流センターの中に製造部門を持つ」という考えで、物流立地を基本とし、その他の人手のかかる部分はできるだけ大連(中国)に移管しています。

Q:

国によって家庭の生活ぶりは相当違うと思いますが、それぞれの国で売るための工夫があれば教えていただきたいと思います。

A:

たとえば米国にも、韓国、中国、日本人の巨大なマーケットがあります。当社の場合は、大きな母数よりもニッチマーケットを獲りにいきます。そこには競合もいません。米国はバイイングパワーが強すぎて、なかなか新商品が出ませんでした。欧州は保守的で、新商品を今年発売しても、ヒットするまでに2年ぐらいかかります。スピードの遅い中での競争といえます。

国内では、メーカーベンダーの強みとして、北海道から沖縄までの販売データを蓄積しています。とくに重視しているのは、商品のストアカバレッジです。店舗での回転率も、毎週のデータから見えてきます。一般的なホームセンターで3000~5000アイテムの当社製品を扱っていますから、先週の商品の動向がよくわかります。直営のホームセンターでは、新たなホームセンターのモデル店舗として顧客ニーズを収集しています。

当社は、SAS(セールス・エイド・スタッフ)という派遣社員1000人を、ラウンダーではなく店舗に固定で配置しています。各店舗では人件費を削減しているため、売場が置き場にかわっている状況がありますが、きちんと接客すれば、売り上げは3割増加します。

モデレータ:

順調に業績を伸ばしておられますが、今後の展望をうかがいたいと思います。

A:

より多くの利益を出し、多くの社員を雇用し、豊かにするのが企業としての役割です。その上で今、一番考えているのは、日本が持つソリューションの需要をどのように創造するかということです。はっきり言って、コメのビジネスのスタートは非常に苦労しています。だからこそ、アイリスオーヤマがやるべきだと思っています。そして「簡単、便利、おいしい」ですから、間違いなく普及します。それまでは当社が売り上げ以上に広告宣伝し、啓蒙し、消費者に理解していただこうと思っています。実際、園芸用品のスタートもそうでした。

Q:

新入社員は、どのような視点で選考されていますか。

A:

大卒の採用は男子70名、女性25名ほどで、その他は高卒です。優秀な高卒女子は、大卒よりも高い能力を持っています。大学で4年間勉強した優秀な学生よりも、アイリスオーヤマで4年間仕事した人のほうが間違いなく優秀だということです。

インターネット販売では、250名の女性社員に対し、男性社員は10名しかいません。高卒の店長もいますし、大卒1年目、2年目の店長もいます。意欲があって任せれば、人は仕事の中でスキルがアップすると考えています。私自身、独学で仕事をしながら自分流をつくってきました。しかし当社の社員には、先輩がいて、私もいて、インフラもあるわけです。ですから単に年功序列ではなく、若手にチャンスを与えることが大事だと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。