家庭と職場における男女共同参画の規定要因と効果

開催日 2014年6月25日
スピーカー 本田 由紀 (東京大学大学院教育学研究科教授)
モデレータ 坂本 里和 (経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長)
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開催案内/講演概要

「女性の活躍」推進が政策的に強調されつつも捗々しい進展がみられない現状のもとで、家庭と職場における男女共同参画を促進/阻害する要因および男女共同参画がもたらす望ましい効果に関する独自データの分析結果を踏まえ、改めて議論を試みる。

議事録

社会状況・研究動向・問題関心

本田 由紀写真現政権では「女性の活躍」が政策的に推進されています。その背景として、少子高齢化、生産年齢人口減少、国家の財政バランスの悪化などを解決するための方策として、女性の活躍が必要だといわれています。

しかし、最近の育児休業取得のデータをみると、むしろ女性の取得率は減り、男性でもかろうじて0.14ポイント増えているに過ぎず、なかなか目立った成果は見られない状況です。女性の労働力率が増加したといっても非正規が多いなど、既存の構造は変わっていません。

「女性の活躍」のための施策については、待機児童対策、学童保育拡充、企業の役員に占める女性比率の数値目標化、限定正社員といった働き方の多様化、男性の育児休業取得推進など、行政および企業の制度に関する事柄が主になっています。

これらが十分に機能するためには、広範な人々が「女性の活躍(社会進出)」およびそれと表裏一体の「男性の家庭進出」を“仕方のないこと”ではなく“素晴らしいこと”と実感し、それに沿って行動するようになることが必要です。そのための考え方の筋道を打ち出していかなければ、「女性に働いてもらわないと仕方がない」という意識に留まってしまい、日本の社会は変わらないと思うのです。

研究動向として、「女性の社会進出」がもたらす(望ましい)効果に関する実証研究には、経済の活性化や企業収益の増大、もしくは出生率上昇・人口維持などの「効果」に注目するものが多い傾向にあります。また、「男性の家庭進出」については、子どもの数もしくは夫婦関係・メンタルヘルスなどを「効果」とみなすものが多くなっています。「女性の社会進出」を左右する企業要因に関する実証研究は、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みや、職場環境に注目するものが多いようです。

これまで多くの研究がなされてきた中で、突破口として、これまであまり顧慮されてこなかった効果や背景要因を開拓することが必要であると考え、今回の調査・分析を行いました。

ジャーナリスティックな言説の例として、“「幸せな結婚」という偽装工作で男をハメる「タガメ女」とは”(深尾葉子・大阪大学大学院准教授に聞く「家族関係の欺肺の原点」2013.5.10)、“もの凄く古いタイプの上司「粘土層」への接し方”(2014.3.31)、“家事男(カジメン)に注目!結婚相手の選び方”(2013.5.11)といったものが、人気のある記事として世の中に出回っています。

これらのジャーナリスティックな言説をヒントにした問題関心として、「女性の社会進出」「男性の家庭進出」の帰結を、従来よりも広げて考えることが必要であり、単に子ども世代の出生数だけでなく、家族全体のwell-beingや子どもの能力形成という側面なども考慮するべきではないかという点に注目しています。

同時に、「女性の社会進出」「男性の家庭進出」の要因についても、より広げて考えることが必要であり、たとえば職場の制度要因だけでなく、職場の人々の意識といった人的要因や、本人の職業能力の中身なども考慮すべきと考えて、分析を行いました。

データと変数

2014年5月13~15日、インターネットを通じて「女性の活躍」に関するアンケート調査を実施したところ、有効サンプル合計約2000のデータを得ることができました。20代から50代の男女で、日本の人口構造を反映した形で年齢別・婚姻状態別にサンプルを割り当てていますが、今回はおもに既婚者に焦点を当てた分析となっています。

主な変数として、男性の家庭進出については、家事分担比率が40%以上の既婚男性を「カジメン」と定義しています。女性の社会進出に関しては、「バリキャリ/ゆるキャリ/ハウスワイフ」という分類を、昨年の年収が順に「300万円以上/300万円未満/収入なし」の既婚女性としています。

男性の家庭進出・女性の社会進出に関する意識としては、旧ジェンダー意識スコアを算出しています。具体的には、「家族を養い守るのは男の責任だ」「子どもをきちんと育てるためには、子どもが3歳になるまで母親が家にいたほうがいい」「夫よりも妻の収入が高いのは嫌だ」「女性が男性を立てると物事がうまく運ぶことが多い」といった、性別役割分業や男尊女卑を肯定する項目に関して、強く反応する因子を得点化したスコアです。

職場の人的要因としては、家庭と仕事の両立に理解のない中高年男性を「粘土層」ととらえ、職業能力の内実では、「スキル・資格」「性格・態度」について、仕事上の「強み」に関する自由記述をアフターコーディングしました。

自分/子どもの能力形成に関しては、自分/子どもの「てきぱき度」「はきはき度」を、自分および子どもについて、「ものごとをてきぱきと進められるほうだ」「自分の意見をはっきり言えるほうだ」に「まったくあてはまらない」を1点、「あまりあてはまらない」を2点、「まああてはまる」を3点、「とてもあてはまる」を4点として、点数化したものを用いています。

分析結果

得られた結果として、夫がカジメンである場合のほうが、妻がバリキャリの比率が高くなっています。また、カジメンかどうかということとジェンダー意識は密接に関連しています。旧ジェンダー意識が、カジメンは弱く、非カジメンでは強いことが確認されました。

粘土層に関する分析結果については、「家庭と仕事の両立に理解のない中高年男性が職場に多い」場合、男性の旧ジェンダー意識スコアは明らかに高くなります。つまり、発言力の大きい上司あるいは中高年層の考え方に、男性が影響を受けていることがうかがえます。

そこで、企業規模別に「家庭と仕事の両立に理解のない中高年男性が職場に多い」度合い(男性)をみると、相対的に高くなっているのは規模の大きい企業でした。一方、官公庁は「あまりあてはまらない」が比較的高い比率を占めています。

また、統計的に有意ではありませんが、1000人以上の規模になるとカジメン率が高くなっていますが、それ以下の会社では、企業規模が大きくなるほどカジメン率は下がっていくことがわかります。官公庁のカジメン率は相対的に高くなっています。

家族のwell-beingの指標の1つとしての家計収入は、男性がカジメンのほうが、非カジメンに比べて明らかに高くなっています。既婚女性に関しても、バリキャリは女性本人の収入が高いため、ダブルインカムによって家計収入は高くなります。このように、男性の家庭進出・女性の社会進出と家計収入は関連していることがわかります。

女性の収入と家族関係の関連をみると、「家族と仲が良い」に「とても当てはまる」と答えた比率は、バリキャリで突出して高くなっています。家族側の認識はわかりませんが、少なくとも本人の認識では、こうした違いが表れています。つまり、女性がバリバリ働いたからといって、家族間の関係が悪くなるわけではないようです。

この家族関係と子の「てきぱき・はきはき」は関連しており、既婚有子男女で「家族と仲が良い」に「とてもあてはまる」と答えた群のほうが、子どものてきぱき・はきはき度は、いずれも有意に高くなっていることがわかります。

女性の社会進出の度合いと職業能力(スキル・資格)の関連をみると、収入が上がるほど、「スキルや資格を持っている」と答えた女性の比率が高くなります。一方で、愛嬌や時間を守る、几帳面といった性格特性は、女性の社会進出による違いはないことが表れています。

また、女性の収入と本人の「てきぱき・はきはき」には関連がみられ、専業主婦の場合、自分が「てきぱき・はきはきしている」と感じている割合は低いことがわかります。母子の「てきぱき・はきはき」の関連をみると、明らかに母親がてきぱきしているほど子どももてきぱきし、母親がはきはきしていればいるほど、子どももはきはきしているという結果が出ています。

女性の収入と子供の育て方の関連では、子どもと話す量は、親の就労状況による違いはみられませんでした。外で働いているお母さんも、家に帰れば子どもと一生懸命話しているということが、わかります。

子どもの育て方として、ゆるキャリよりもバリキャリのほうが、子どもに家事のお手伝いをさせ、祖父母や近所の人に子どもの面倒をみてもらうといった機会が多くなっていることがわかります。そして、こうした育て方が、子どもの「てきぱき・はきはき」度を上げる方向に働いていることがうかがえます。

結論とインプリケーション

要するに、社会として「てきぱき・はきはき」した次世代を育てたいのであれば、「女性の社会進出」(とくにバリキャリ)と「男性の家庭進出」(カジメン)は、家計や家族関係を安定させるとともに、子どもの自立促進(お手伝い)や子育ての社会化(親以外による子育て)を増大させるため、次世代育成にも良い効果があるということを、もう少し打ち出していけるのではないかと考えています。

「女性の社会進出」を促進するには、女性の職業能力(とくにスキル・資格)を向上させることが役立ちます。また、中規模から大規模の企業に多い「家庭と仕事の両立に理解のない中高年男性」(粘土層)が障害になることを、改めて考える必要があります。そのため「女性の活躍」を進めるには、女性の職業教育訓練と、中高年男性の意識改革が、きわめて重要と考えられます。

なお、「ブラック企業」の存在は、女性の社会進出にとって、もう1つの重要な問題となっています。行政に対して強く要望することを聞いた結果、「サービス残業など不当な働かせ方の取り締まりの強化」の割合が高くなっています。

質疑応答

Q:

「てきぱき・はきはき」という能力に焦点を当てたことについて、自立性や自律性といった性格的なファクターが人的資本における重要な側面であるという研究は、米国で多くなされています。また、母親が仕事をして社会的な幅を持っていることや、両親が育児にかかわり子どものボキャブラリーが広がることは、子どもの成長にポジティブな影響を及ぼすという研究結果もあります。

A:

日本では、コミュニケーション力や人間力といったことが強調されていますが、その部分をあまり強調してはならないという意見を以前から強く持っており、個々の職業に関連する具体的なスキルや資格の形成が、おろそかになっていることを主張してきました。

今回は、調査票の分量の制約から「てきぱき・はきはき」しか質問できませんでしたが、「てきぱき・はきはき」をnon-cognitiveとcognitiveのどちらにとらえるべきか、その位置づけを迷った結果、当面「てきぱき・はきはき」のままで示しました。

Q:

妻がバリキャリの夫婦では、子どもの出生率はどのような状況でしょうか。また日本の状況は、先行している欧米と同じような経路で、女性の労働市場参画が進んでいるのでしょうか。

A:

「ゆるキャリ」と「バリキャリ」で、子どもがいない比率は、それぞれ25%程度で差はありません。一方で、専業主婦の場合、子どもがいる比率は高くなっています。ただし、年齢などをコントロールして考える必要があると思います。

欧米では、子どもへの関心よりも自己実現や男女平等、個人化の強まりによって女性の社会進出が進んできたと思います。東アジアの中でも、日本は韓国と並んで女性の社会進出の進展が遅い国です。家族の関係を夫婦本位よりも親子本位で考えがちなところが強く、その辺りが足かせになっているようです。そのため日本で女性の活躍を進めるためには、欧米とは別のロジックが必要ではないかと考えています。

Q:

子どもの学力との関連については、どのようにお考えでしょうか。

A:

今回は、子どもの年齢層が幅広かったため、学力について質問しにくい調査でした。そこで、どの年齢層にも答えやすい「てきぱき・はきはき」という質問しかできていません。学力との関連をみるならば、もう少し年齢層を絞る必要があると思います。ただし、父親の育児への関与と子どもの成績が関連するという研究結果はあります。

Q:

職業訓練を受けてスキルや能力を身に着けたからといって、実際の収入や社会進出に結びつかない問題が指摘されていることについて、どのようにお考えでしょうか。

A:

職業訓練をしても、なかなか就労に結びつかないということは、90年代後半からフリーターといわれる非正規労働者が増加した頃から指摘されていました。それは日本の企業が、ジョブ型ではなくメンバーシップ型と表現されるように、特定のジョブに関するスキルではなく、non-cognitiveな側面や経歴などを重視して採用しがちであったためであることは承知しています。

「バリキャリ」では、すぐにとれるような資格ではなく、数年間の教育を必要とするような専門性の高い資格が多くなっています。女性の場合、医療、介護、看護系の資格がとくに多く、その職業に必須の資格を持っている場合は有効だと思います。一方、職業訓練で取得できるような資格やスキルを正当に評価してもらうために、ジョブ型の「限定正社員」導入の動きが最近あることについて、私は歓迎すべきだと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。