最近のエネルギー情勢とエネルギー基本計画の概要

開催日 2014年6月20日
スピーカー 後藤 収 (資源エネルギー庁大臣官房審議官(エネルギー・環境担当))
モデレータ 上野 透 (RIETI 国際・広報ディレクター(併)上席研究員)
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開催案内/講演概要

我が国のエネルギー情勢は、2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故等により、国の内外で大きく変化し、エネルギー政策は大幅な調整を迫られることとなった。震災前に描いていた戦略を白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。これがエネルギー政策を再構築するための出発点であることは論を俟たない。このような状況を防ぐことができなかったことへの深い反省を一時たりとも放念してはならない。

我が国は化石燃料の大宗を海外に依存するという根本的な脆弱性を抱えており、安定的なエネルギーの確保は国の安全保障にとって不可欠なものである。我が国の経済・産業を守るため責任あるエネルギー政策の構築が必要である。エネルギーコストの上昇や温暖化効果ガスの排出量の増大に対しても、その取組を強化する必要がある。そのためにも、世界の叡智を集め、徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの導入加速化、石炭火力や天然ガス火力の発電効率の向上、分散型エネルギーシステムの普及拡大、メタンハイドレート等の国産資源の開発、安全の確認された原発の再稼働、放射性廃棄物の最終処分問題やその減容化・有害度の低減等をしっかりと進めていかなければならない。

議事録

エネルギー基本計画について

後藤 収写真エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法(2002年(平成14年)公布・施行)に基づき、エネルギー需給に関して総合的に講ずべき施策などについて、関係行政機関の長や総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて、経済産業大臣が案を策定し、閣議決定するものです。

本年4月11日に閣議決定された第4次エネルギー基本計画は、従来の「安定供給」「経済性」「環境」の視点に加え、「安全性」「国際性」「経済成長」を考えながら作られました。

とくに、東京電力福島第一原子力発電所事故で被災された方々の心の痛みに、しっかりと向き合い、寄り添っていくことが政策の原点だと思っています。福島の復興・再生に全力を挙げ、反省のもとに政策を策定していくことが、今回のエネルギー基本計画のスタートラインです。

また、中長期(今後20年程度)のエネルギー需給構造を視野に、今後2018年~2020年頃までを「集中改革期間」と位置づけ、この期間におけるエネルギー政策の方向性を示しています。国民生活と経済・産業を守るための責任あるエネルギー政策を立案・実行するために、原発依存度ゼロといった方向性をここでは示していません。

1. 我が国のエネルギー需給構造が抱える課題

わが国が抱える構造的課題として、海外からの資源に大きく依存し、中東情勢などの変化に左右されやすい国内供給体制、人口減少や技術革新などによる中長期的なエネルギー需要構造の変化、新興国の需要拡大などによる資源価格の不安定化と世界の温室効果ガス排出量増大が挙げられます。

東京電力福島第一原子力発電所事故と、その前後から顕在化してきた課題としては、原発の安全性に対する懸念および行政・事業者に対する信頼の低下、化石燃料依存の増大(輸入の増加)による国富の流出拡大、中東依存の拡大、電気料金の上昇、わが国の温室効果ガス排出量の急増といったことが起こっています。

時期を同じくして、シェールガスの生産拡大などによって北米が世界のエネルギー市場から自立する状況となってきて、エネルギーセキュリティやエネルギーコストの国際間格差の問題が広がっています。

日本は、原子力を推進することで化石燃料依存度を2010年に62%まで下げてきたわけですが、原発がすべて止まり、火力で代替することで、2013年には88%まで上昇しました。わが国のエネルギー自給率は、OECD34カ国中、2番目に低い水準となっています。貿易収支は震災以降18.1兆円悪化しましたが、最大の要因は、化石燃料輸入額の10兆円増です。

電気料金は、電力自由化や設備投資の抑制によって継続的に低下していましたが、震災発生以降の平成25年度は22年度と比べ、電灯(おもに一般家庭)で19.4%増、電力(おもに工場、オフィス)で28.4%増と大幅に上昇しています。

こうした電気料金の上昇傾向は、今後も継続することが予想されます。原子力発電所の再稼働が遅れている中で、再値上げを検討している電力会社もありますので、震災前に比べて50%増になることも考えられます。すでに、電力多消費型産業は相当の悲鳴をあげている中で、これをどう考えていくのかは大きな論点だと思っています。

燃料費を対GDP比でみると、今の状況は、第1次、第2次の石油危機と同水準、リーマンショック時を上回る状況になっています。ですから、しかるべき緊張があってもいいと思うのですが、3年かけて段階的に上がってきているためか、世の中の危機感は薄いようです。

震災以降の温室効果ガス排出量は増加しており、2012年度の排出量は2010年度比0.84億トン増となっています。非電力部門では排出量が若干削減しているものの、電力部門では原発代替のための火力発電の焚き増しにより、2010年度比1.12億トン増という状況です。

現在、2020年以降の法的枠組みにかかわる国際交渉が継続中です。COP19では、すべての国が2015年のCOP21に十分先立ち(準備のできる国は2015年第1四半期までに)、自主的に決定する削減目標案を示すこととされています。原子力のない中で、CO₂削減、エネルギー政策と環境との調和をどう考えるかが、この1~2年の重要な論点となります。

2. エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針

エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針として、各エネルギー源がもつサプライチェーン上の強みが最大限発揮され、弱みが他のエネルギー源によって補完される『多層的』な供給構造が作られること。また、制度改革を通じて多様な主体が参加し、多様な選択肢が用意される『柔軟かつ効率的』なエネルギー需給構造が作られること。この2つが掲げられています。

世界各国の電源構成(2011年)をみると、「脱原発」を宣言しているドイツや、「原発依存」を推進するフランスもありますが、欧州全体で見れば、石炭、石油/天然ガス、原子力、再エネ/水力がほぼ4分の1ずつとなり、バランスのとれたものとなっています。

各エネルギー源の位置づけとして、まず再エネ(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス・バイオ燃料)は、温室効果ガス排出のない有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源であり、3年間、導入を最大限加速し、その後も積極的に推進していくこととしています。

原子力については、低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源であるとしています。

その上で、原発依存度については、省エネ・再エネの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる。その方針の下で、わが国の今後のエネルギー制約を踏まえ、安定供給、コスト低減、技術・人材維持の観点から、確保していく規模を見極めることとなっています。

石炭は、安定性・経済性に優れた重要なベースロード電源として再評価されており、環境負荷を低減しつつ活用していくエネルギー源であり、天然ガスは、ミドル電源の中心的役割を担う、今後役割を拡大する重要なエネルギー源となっています。

また石油は、運輸・民生部門を支える資源・原料として重要な役割を果たす一方、ピーク電源としても一定の機能を担う、今後とも活用していく重要なエネルギー源とし、LPガスは、ミドル電源として活用可能であり、平時のみならず緊急時にも貢献できる分散型のクリーンなガス体のエネルギー源と位置づけています。

3. エネルギーの需給に関する長期的、総合的かつ計画的に講ずべき施策

安定的な資源確保のための総合的な政策の推進として、資源国との人材育成分野を含む多面的資源外交の推進と、リスクマネー供給拡大などによる北米・ロシア・アフリカにおける上流進出・供給源多角化の推進が重要であり、価格や権益獲得で交渉力の強化を図る包括的な事業連携などの新しい共同調達を後押しすべく、JOGMECによる出資や債務保証の優先枠を効果的に活用するとともに、仕向地条項の撤廃などを実現したいと思っています。

また、シェールガス生産が拡大する北米からのLNG供給や取引条件多様化の推進、アジアの消費国間の連携などを通じて、日本を中心としたアジア地域大の安定的で柔軟なLNG需給構造を将来的に実現することを目指しています。 将来の国産資源の商業化に向けて、メタンハイドレート、金属鉱物等海洋資源の開発を加速するとともに、鉱物資源の安定供給確保に不可欠なリサイクルおよび備蓄体制の整備を進めていく考えです。

省エネ強化の取り組みとしては、業務・家庭部門においてトップランナー制度の対象を拡大し、2020年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化していく方針です。民生の需要をいかに低減していくかが、今後の省エネの大きな論点だと思います。

再生可能エネルギーの導入加速については、2013年から3年程度、導入を最大限加速し、その後も積極的に推進していきます。また、これまでのエネルギー基本計画で示した水準を上回る水準の導入を目指し、エネルギーミックスの検討にあたっては、これを踏まえることとなっています。

わが国では、固定価格買取制度が開始された2012年7月以降、再生可能エネルギーの導入が急速に拡大しています。こうした固定価格買取制度の適正な運用を基礎としつつ、環境アセスメントの期間短縮化の規制緩和などを今後も推進するとともに、低コスト化・高効率化のための技術開発、大型蓄電池の開発・実証や送配電網の整備などの取り組みを推進していく考えです。

福島第一原発の事故の対応における現在の主な進捗として、4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しがあります。2014年5月28日現在、1533体のうち946本が移送済みとなっています。5月21日からは、地下水バイパス(汚染されていない地下水をくみ上げて海に排水する対策)の運用を開始し、放水前の水質調査、放水後の周辺海域のモニタリングを実施して問題がないことを確認しています。6月2日からは、凍土遮水壁の本格工事に着工しました。

原子力利用における不断の安全性向上と安定的な事業環境の確立については、原子力の「安全神話」と決別し、世界最高水準の安全性を不断に追求していく必要があります。そして、原子力規制委員会によって世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、原子力発電所の再稼働を進めるということで、国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得るよう取り組んでいく方針です。同時に、原子力災害対策の強化に加え、関係自治体の避難計画の充実化を支援していきます。全国の原子力発電所の適合性審査の申請がなされたもののうち、九州電力の川内原子力発電所が優先審査の対象となっており、優先して手続き進められています。

世界の原子力発電の見通しとして、IAEAは、2030年までに、世界の原子力発電所の設備容量は約20~90%増加すると予測しており、とくに東アジア、東欧、中東・南アジアなどで大きな伸びが見込まれています。

1980年代以降、世界の原子力プラントメーカーの国際的な再編・集約化が進展しており、近年は、東芝によるウェスティングハウス社の買収、日立とGEによる日米新会社の設立、三菱と仏アレバ社による中型炉の合弁会社設立が行われ、こうした先進国の3グループに加え、中国、ロシア、韓国など、世界でも限られてきています。こういう状況で、日本が本当にやめてもいいのか、よく考えていく必要があるでしょう。

原子力政策を再構築していくためには、対策を将来へ先送りせず、着実に進める課題がありますが、とくに高レベル放射性廃棄物の最終処分場の問題は重要です。将来世代が最良の処分方法を選択できるよう、可逆性・回収可能性を担保し、直接処分など代替処分オプションに関する調査・研究を推進していきます。

処分場選定では国が科学的見地から説明し、また地域の合意形成の仕組みを構築することとし、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針(2008年3月閣議決定)」の改定を早急に実施することとしています。さらに中間貯蔵施設や乾式貯蔵施設などの建設・活用を促進し、政府の取り組みを強化し、放射性廃棄物の減容化・有害度低減のための技術開発も推進していきます。

石炭火力発電については、日本の発電効率は世界最高水準にあり、地球温暖化への貢献も期待できます。今後、更なる技術開発による効率の向上、国内での最新技術の導入促進とともに、海外展開を積極的に推進していくことによって、地球環境問題の解決にも貢献できると考えています。

“水素社会”の実現に向けた取り組みの加速として、定置用燃料電池について、家庭用(エネファーム)は2030年に530万台導入することを目標に、市場自立化に向けた導入支援や技術開発・標準化を通じたコスト低減を促進しており、業務・産業用も早期実用化を目指し技術開発や実証を推進しています。

また、2015年から商業販売が始まる燃料電池自動車の導入を推進するため、規制見直しなどによって同年内に水素ステーション100カ所整備の目標を達成するとともに、低コスト化のための技術開発などによりステーションの整備を促進していきます。こうした取り組みをもとに、CO₂フリーの日本の社会をショーケースとして世界に見せるといった明るい展望も踏まえたエネルギー政策でありたいと思います。

質疑応答

Q:

水素エネルギーはコストが高く、実用化はなかなか難しいという意見もありますが、国はどのように助成していく考えなのでしょうか。

A:

まず、燃料電池自動車の支援策として、水素ステーションの設置を推進しています。また自動車自体にも、クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金(CEV補助金)の対象となります。ただし現状では、ハイブリッド車よりも普及のハードルは高いと思っています。

モデレータ:

スマートメーターの普及は、どのような状況でしょうか。

A:

2020年代の早期に全事業所・全家庭にスマートメーターを導入することを目指し、電力会社に働きかけているところです。スマートメーターは、30分ごとに電気使用量を確定して情報を送ることができますので、「電気料金の見える化」ができ、節電につながります。また、でさまざまな電気の販売メニューができることも期待できます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。