『グローバル・ニッチトップ企業論』への招待-事例を中心に

講演内容引用禁止

開催日 2014年5月29日
スピーカー 細谷 祐二 (RIETI コンサルティングフェロー/経済産業省地域経済産業グループ 地域政策研究官)
コメンテータ 井上 達彦 (早稲田大学商学部教授)
モデレータ 金子 実 (RIETI総務ディレクター)
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日本には独立性が強く特定の分野で極めて高い競争力を有するニッチトップ(NT)型企業が多数存在する。

全国に広く分布し、製造業のプレゼンスが日本列島から薄らいでいく中で、地域を代表する企業、プロダクトイノベーションを完遂できる主体として、その存在感を増している。スピーカーは長年NT型企業を振興する政策に携わり、直面する政策課題を克服するため、NT型企業の中でも特に優れたグローバル・ニッチトップ企業の成功の秘訣を明らかにし、それをモデルに他のNT型企業への支援に活かす研究を続けてきた。そして、代表的NT企業40社のインタビュー調査、全国のNT型企業2,000社対象にRIETIが行ったアンケート調査の解析を通じ、NT型企業の経営戦略に関する我が国初めての体系的分析を行い、本年3月『グローバル・ニッチトップ企業論』を出版した。本セミナーでは本書のエッセンスを事例を中心に紹介する。

議事録

※講師のご意向により、掲載されている内容の引用・転載を禁じます

ニッチトップ企業とは

細谷 祐二写真ICカードのICチップとプラスチックカードを接着する「ガラスエポキシ樹脂テープ」を作っている企業が大阪にあります。日本はICカードを欧州から輸入していますが、同社はフランスの企業から、「うちの隣の敷地を貸すからフランスで製造してくれないか」と言われて、断ったそうです。なぜかというと、「外へ出ていけば、必ず技術を盗まれてしまうから」ということで、あくまで日本で作り続けて輸出をしています。現在、世界シェアは84%に上ります。日本は、ガラスエポキシ樹脂テープを輸出して、ICカードを輸入しているわけです。

飲料用アルミ缶のフタには、ステイオンタブが付いています。このタブには、開けやすく、衝撃に強い微妙な切れ目が入っているのですが、その金型屋さんが横浜にあります。アルミ缶のフタの金型では国内シェア50%を占め、それ以外にも飲料用の金型に特化しています。ペットボトル飲料のフタは、柔らかく簡単に締まるけれども、けっして漏れないという、フタと本体のネジの関係も金型の技術によります。このように、特定の分野に特化して、非常に高い性能を発揮するのがニッチトップ企業の特徴です。

今回、『グローバル・ニッチトップ企業論』で取り上げているのは、ものづくりの中小企業ですが、ニッチトップとは戦略であり、規模に関係のない概念です。本年3月に製造産業局が「グローバル・ニッチトップ企業100選」を公表しましたが、そこでは大企業も含めて顕彰の対象にしています。新日鐵と合併した住友金属工業は、新幹線などの車両用車輪・車軸では国内100%のシェアを持ち、世界にも輸出しています。大企業であってもニッチトップ製品を持っている企業はたくさんあります。

そして、製造業だけに限った話ではありません。サービス産業でも、ニッチトップ戦略はあります。特定の分野で差別化し、他と違うサービスを提供し、ブランドとして確立することは、サービス産業でもできるわけです。たとえば弁護士事務所が、「中小企業をメインに、M&Aと国際展開を組み合わせて総合コンサルティングをやっています」というのも、まさにニッチトップ戦略そのものといえます。

地域からGNTタイプ企業の創出を目指すこれまでの政策

ものづくりの特定分野で非常に高い競争力を持つGNT(グローバル・ニッチトップ)企業が、全国に分布しているのは、実は昔からよく知られている事実です。重要な点は、日本に残って日本で作り輸出をしているということで、最近、大企業がどんどん海外展開し、大企業のプレゼンスが低下する中で、むしろ存在感を高めているという特徴があります。また、次から次へと新製品を生み出すイノベーション能力が極めて高いという特徴があります。

こういう企業を増やしていこうと、1999年に制定された「新事業創出促進法」に基づく地域プラットフォーム事業は、中核的支援機関を全国の都道府県、政令市に置き、研究開発から販路の開拓まで、中小企業が必要とするものをすべてワンストップで提供するという政策です。このときの目標は、高い国際市場シェアを誇る小さなグローバル企業を増やしていくことで、まさにGNT企業を育てることが目標だったわけです。2001年から各地域の経済産業局の主導で始まった「産業クラスター計画」の当初の中心的な目的も、世界に通用する国際競争力を有する産業・企業を創出することです。

体系的把握のためのインタビュー調査とアンケート調査

前述の「産業クラスター計画」の実施を通して、3つの課題が明らかとなりました。それは、「大企業との連携」「広域連携」「海外需要の取り込み」の必要性です。GNT企業は、「ものを作ったけれども売れない」という一般の中小製造企業と異なり、3つの課題を人に頼らず自らの力で克服し、その結果として市場を開拓しています。こうした成功事例、成功した本当の理由、プロセスを他の企業に伝え、真のグローバル企業へと脱皮させていくために、今回、徹底的な調査・分析を行いました。

まず2011年1~8月にかけて、全国でとくに優れたニッチトップ型企業31社(その後40社まで拡大)を対象にインタビュー調査を実施しました。その後、RIETIの「優れた中小企業(Excellent SMEs)の経営戦略と外部環境との相互作用に関する研究」の一環として、全国2000社のニッチトップ型企業などを対象に、2012年7~8 月にかけてアンケート調査を実施しました。

これらの調査から、40社のGNT企業は、業種・製品・業態・企業年齢・従業員や売上高の規模がまったく異なるにもかかわらず、多くの点で共通点のあることがわかりました。それは、1)製品開発パターン(ニーズのキャッチ、シーズの確保、企業間連携・広域連携の活用)、2)競争優位を保持し他社の模倣などを防ぐ努力(戦略的ポジショニング、差別化戦略の採用、模倣困難性の確保)、3)輸出を中心に自然体で進む海外市場への浸透(例外ではない輸出の国内販売への先行・自然体での輸出、手順を踏んで慎重に進められる海外拠点整備、外部資源・外国人の活用)、4)スーパー新連携の動き、といったものです。

とくに、模倣困難性の確保についての具体例を紹介したいと思います。1つは、日本のものづくりでしかできないものを、日本でやっているという事例です。半導体製造に使われる電子線描画装置は、極めて精巧なレンズ加工を必要とするため、日本の協力企業でしか作れないものを使っています。2つ目は、水族館のアクリル水槽を作っていますが、十数枚の素材を貼り合わせていることがわからないほど透明性が高いのです。生産プロセスのノウハウに由来する極めて高い技術によって、差別化・競争力を確保しています。

3つ目に、冒頭で紹介したガラスエポキシ樹脂テープを作る会社では、社内でも数人にしか重要な製造プロセスを見せないのだそうです。自社の営業員ですら見ることができず、徹底的に隠しています。

海外展開については、福岡のポンプメーカーでは、ユーザーの現場で組み立ててカスタマイズすることで、一品物と言っていいほど綿密な調整を行っています。ですから海外へ輸出するには、メンテナンスできる現地の拠点やパートナーが必要となります。現在60カ国に輸出していますが、パートナー企業として海外のポンプメーカー、モーターメーカー、商社、エンジニアリングなど26社と契約し、輸出をしています。さらに現在は、ポンプメーカー同士の国際アライアンスを結ぼうとしています。

新しい企業連携=スーパー新連携の動き

GNT企業がハブとなって、新しいものづくりに取り組む動きが各地で強まっています。ゼネラルプロダクションは、インドのドイツ企業の工場などから高度な加工技術を必要とする付加価値の高い自動車部品の量産を受注し、東大阪をはじめとする加工メーカーに発注する「共同受発注企業」の仕組みを構築しています。

加工サービスの企業が自社製品を持つためにはニーズをキャッチすることが重要ですが、東成エレクトロビームは、独自の先進技術を用いた異なる加工サービスを提供するGNT企業5 社の広域ネットワーク「ファイブ・テック・ネット」を立ち上げました。

こうした企業をハブとして、他の中小企業をリードするプロジェクトを全国で展開できれば、ノウハウも移転され、国際展開を目指す「揃い踏み企業」(中小企業向け3施策を揃い踏みで利用しているが、相対的にパフォーマンスは低い。海外売上高比率が低く、ドメスティックな企業が多い。)にとって、いい刺激となることが期待されます。

GNT企業は、海外見本市をうまく活用しています。ただし彼らが言うには、見本市に1回出しただけで成約できると思ったら大間違いで、同じ国の同じ見本市に5回、10回と出す中で、ようやく成果に結びつくということです。それだけ大変だけれども、やる価値があるということですので、ドメスティックな企業には、そういう武者修行の場を増やしていくことが重要だと思います。

類を見ない研究

コメンテータ:
ニッチトップ企業は特別なタイプの中小企業で、これまでにない連携など、単なる逸脱事例では済まされない動きが出ていることがわかってきました。研究分野としても、特別な理論研究のフロンティアと呼べるものがあるのではないかと考えています。

なぜ細谷氏は、こうした類を見ない研究ができるのでしょうか。まず、自身のライフワークとして取り組み、長年にわたる現場調査のキャリアを積み重ねていることが挙げられます。地に足の着いた問題意識で研究しているため、重みが違うわけです。

また、同氏はアクションリサーチができる立場にあり、公表されていない裏付けも得ることができます。そして既存の研究にとらわれず、3つの系統(経営、集積、クラスター)といった観点がGNT企業の発見につながったのだと思います。

グローバルな価値連鎖に埋め込まれるためには?

さまざまな仮説の中でとくに印象的なのは、「グローバルな価値連鎖に埋め込まれるためには?」という問題意識です。これはニッチトップ企業に限らず個人、日本人として素晴らしい資質を持った個人としても、世界で活躍するためにはどうしたらよいか――という汎用性の高い考え方だと思います。

そのための戦略として、「企業の戦略」というのは、自らをどのようなネットワークに埋め込んでいくかを10年超のタイムスパンで考えることです。一度、あるドメスティックなネットワークに埋め込まれると、そこから抜け出してグローバルに「再埋め込み」されるのは困難です。

そこで、再埋め込み可能なタイミングで、能力と柔軟性のある企業をグローバルな価値連鎖に埋め込ませるためにはどうすればいいのかが、今後の課題だと思います。

また、必要な能力と具体的方策として、イノベーションコーディネーション機能を果たす能力や海外見本市への継続的な参加といった国際競争の機会が示されています。

タイミングには、「内(組織内)のタイミング」と「外(環境)のタイミング」があります。グローバルな価値連鎖に埋め込まれる際には柔軟性が必要ですから、創業間もなく、あるいは経営者の世代交代時などは「内のタイミング」といえるでしょう。「外のタイミング」としては、事業機会(需要の爆発)が必要です。たとえば現在のアジア市場を見て爆発の要因があるならば、大きな追い風になることを感じました。

質疑応答

Q:

国内のニッチトップ企業がグローバルに展開する際、最大の壁となるのはどのような問題でしょうか。政策当局などは、どのように後押しすべきでしょうか。

A:

王道はないのだと思います。まずは外へ出て暴露する(さらす)ことが重要なので、そのために国は、ニーズの高い見本市や展示会へ参加するための直接費用の補助を充実させてほしいと考えています。

また、これからは「海外展開」という言葉を定義して使うべきだと思います。これまでの海外展開支援は、海外生産をしたい企業が海外工場を立ち上げるための支援に、資源配分が偏り過ぎているのではないでしょうか。我々が今、力を入れるべきは輸出振興です。国内で作り、海外へ輸出することを、アジア各国もドイツなどの欧州諸国も手厚く支援しています。そういった基礎的な考え方を変えていくことが重要だと思います。

Q:

サービス産業の海外展開については、どのようにお考えでしょうか。

A:

昨日、北九州の会合に参加してきました。北九州といえばものづくりの町だと先入観を持っていたのですが、出席者の3分の1が製造業、残る3分の2は商業・サービス業でした。そして人材派遣、通訳、物流、釣具の小売など、非常にユニークなサービス産業の全国区の企業が生まれているというのです。

どうやら、ものづくりの伝統がサービス産業の新しい芽につながっているようです。かつて八幡製鉄所、新日鐵の大規模工場があり、物流や人材などの製鉄所向けの要求に長年こたえてきて、そこからスピンアウトする形で、新しいビジネスモデルのサービス産業が出てきているわけです。このように、日本で歴史を積み重ねてきた地域の「ビジネスの記憶」が残っているところからは、新しいサービス産業、新しいものづくり企業が出てくる可能性があります。

その他、たとえば金属洋食器で知られる燕三条でも、まったく金属とは関係のない画期的な新製品を生み出していることが、アンケート調査から見えてきました。「ビジネスの記憶」がある地域から、新たなビジネスが誕生するプロセスの究明が、今後の地域の発展の芽を考える上で、重要ではないかと感じています。サービス産業においても、ニッチトップ戦略による新しい芽は十分考えられます。

Q:

外資企業が日本の中小企業をM&Aのターゲットにする動きが活発化しているようです。日本の技術の流出を防止するために、どのような対応があるでしょうか。

A:

調査対象40社の皆さんが、「模倣されないのは不可能だ」と言っています。その対策として、「品質で差をつける」というのが今のおもな方式です。「いずれ、それもどうなるかわからないけれども、我々は常に先へ先へと行くしかない」と、話されています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。