【ベンチャー・シリーズ第2回】 テラモーターズの世界への挑戦

開催日 2014年4月8日
スピーカー 徳重 徹 (テラモーターズ株式会社代表取締役社長)
モデレータ 石井 芳明 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省経済産業政策局新規産業室新規事業調整官)
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開催案内/講演概要

我が国では、近年、大きく成長するベンチャー企業が輩出されていない状況です。

特に国際的な成長ベンチャーは雇用やイノベーションを創出するほか、我が国の国際競争力を高める重要な存在であり、創業時から世界市場を見据えた事業戦略を構築し、将来的にメガベンチャーとなるベンチャー企業を我が国から輩出することは重要な課題となっています。

ベンチャーBBL第2回目の今回は、設立から2年で年間販売台数約3000台と国内最大手となられた電動バイクのベンチャー企業「テラモーターズ株式会社 代表取締役 徳重 徹 氏」をお招きし、テラモーターズの世界への挑戦についてご講演いただいた上で、国際的に活躍するベンチャー企業の新たな成功モデルの構築について議論いたします。

議事録

最初から世界市場

徳重 徹写真シリコンバレーから帰ってきて、私が一番問題だと思っているのは、日本ではベンチャー企業の数は増えていても、そこから大きく成長する“メガベンチャー”は極めて少ないことです。

テラモーターズは設立してまだ4年の会社ですが、私は月に3~4日しか日本におらず、ほとんどアジアを飛び回っています。日本人社員の半分以上は海外で活動しており、「ベンチャーなのに最初から世界市場」を狙い、「ベンチャーなのに製造業」に挑戦しています。

また、ホンダやヤマハがあるのに、どうやって戦うのかと何百回も言われ、最初は落ち込むこともありましたが、EVという「ベンチャーなのに大手領域」で日本からイノベーションを生み出していくことをモチベーションにやっています。「クレイジー」と言われても、シリコンバレーでは「クレイジー」は最高の褒め言葉だと納得しています。

バイクの年間販売台数は、日本が30~40万台であるのに対し、ベトナムだけで10倍の300万台、インドネシアは700万台、インドでは1300万台に上ります。2020年には、インド市場は2400万台に拡大することが見込まれています。

当社のようなベンチャー企業は、大手企業重視の日本では100の価値があっても30程度にしかみてもらえません。しかし、アジア新興国では、100の価値を300にみてもらえます。それは、日本の企業だからです。日本の企業であることのメリットやバリューは高いのに、我々のようにアジア市場の現地で戦っている日本人は極めて少ないのが現状です。

アジアで思うこと

フィリピンでは、アジア開発銀行が支援する国家プロジェクトとして10万台のEV化を進めており、当社の製品も一部採用される見通しです。日本の大手がなかなかできなかったことを日本のベンチャーとして実現する第一歩として、大事なプロジェクトだと思っています。アジアでは、競合がひどい会社であることも多いため、ベンチャーにもいろいろなチャンスがあります。

インドではAuto Expo 2014に出展しましたが、東京モーターショーに比べ10倍以上の反響がありました。テラモーターズは、インドの業界では有名になっています。

日本のメディアをみていると、これからはアジアだという記事が多いわけですが、私がアジアで思うことは、日本人はもっとアジアでやればいいのに、なぜやらないのかということです。アジアのあらゆる国で、日本人は“NATO(No Action Talk Only)”だといわれます。TalkよりもResearch Onlyとも思うのですが、アジアの人々からすると、Actionがなければまったく意味がありません。

もう1つのキーワードは、「意思決定の速さ」です。アジアではビジネスの話をする前に、ある程度のビジョンを頭に描いておかなければなりません。そうすれば相手は財閥であっても、気に入ると「すぐにやりましょう」と言ってきます。ですから、こちらも用意をしておかなければ中途半端な答えしかできません。とにかく早く、雑でもどんどん決めてくるので、日本の大企業が対応するのは難しいと思います。

日本の戦後もそうだったのかもしれませんが、伸びている市場で早くポジションを置くことのほうが、細かいリスクを考えるよりも重要という「早期進出への価値の重み」を感じます。また「法規制の違い」が大きいため、大企業はやりにくだろうと思います。

サムライ日本人が極めて少ない一方で、韓国勢や中国勢の凄さも際立っています。サムスンの人と話をして感じることは、役員ほど気合が入っていて、役員ほど仕事ができるということです。工場誘致などをとっても、戦略的で交渉上手です。

日本の新しい成功モデル

日本には、新しい成功モデルが必要です。これから確実にアジアが伸びていく中で、彼らのスピード感やビジョンについていくために、日本の起業家は、アジアの財閥と対等に手を組んでいくことができると思っています。日本の会社であることのバリューは高く、「日本の企業家×アジアの財閥」の掛け算で、成長するアジアで一緒にやっていくことは十分あり得ます。そこで、テラモーターズが最初にチャレンジして実績を出していきたいと考えています。

1つ残念な話をすると、かつて日本のあるVC(ベンチャーキャピタル)に融資を断られたのですが、その理由は「過去にアジア市場で成功した日本のベンチャーがないため」ということでした。これには、本当にショックを受けました。VCならば、それこそ「新しい産業や成功事例をつくるのだ」と思うべきなのに、真逆だったわけです。

だからこそ、我々が成功事例をつくらなければ始まりません。野球でいうならば、我々は“ビジネス界の野茂”を目指します。野茂がパイオニアとしてメジャーリーグへの道を開かなければ、最近の田中将大の快挙もなかったでしょう。私はシリコンバレーでも戦ってきましたが、日本人を単体でみたときに、けっして世界に負けているとは思いません。しかるべき人が、しかるべくやれば、間違いなくできるというのが私の信念です。ただ日本人は真面目すぎるため、事例がないと「自分にもできる」と思ってもらえないようです。ですから我々が、新しい成功モデルを示していきたいと思っています。

製造ベンチャーは無理?

EVベンチャーの先駆者である米テスラ・モーターズ社は、たかだか10年前にできた会社ですが、時価総額は31億米ドルに上ります。私の尊敬する創業者のイーロン・マスク(南アフリカ出身)も、かなりクレイジーだと思いますが、テスラのEVに比べればEVバイク市場など知れたものだと自分に言い聞かせながら、同様のポジションを目指してやっているところです。昨秋には、スマートフォンと連動する世界初の電動バイク「テラモーターズ・A4000i」を発表しました。まずは、ベトナムから始めていく予定です。

シリコンバレーに限らず、BYD(中国)、フォックスコン(台湾)、ファーウェイ(中国)をはじめ世界には多くのメガベンチャーが存在します。ファーウェイは中国市場で成長しましたが、現在は売上の8割は海外のものです。最近、カンボジアやバングラデシュへ行くと、ファーウェイの広告があふれています。

EVの事業では、どうしても既存メーカーにジレンマがあります。トヨタはテスラに出資していますが、我々はメガベンチャーをつくるために、将来的にはホンダやヤマハに出資してもらう可能性もあるでしょう。

HTC(台湾)はスマートフォンのメーカーですが、今をときめくサムスンやアップルと対等に競合しています。インドへ行くと、HTCのほうが有名なこともあります。なぜ台湾の会社にできて、日本の会社にできないのか――海外へ行くたびに思います。そういう意識を持ってもらいたいところです。残念ながら今、新興国へ行くほど日本のとくに家電メーカーの影は薄く、韓国や中国のメーカーが目立ちます。そういうところで、日本のベンチャーは何かできないのかという思いがあります。

シリコンバレーの基本ポリシー

たとえば、日本の液晶テレビ市場におけるトップ企業がベンチャーであったら――それを想像すると、世の中が変わってきたと感じることでしょう。それが現実に米国で起こっています。米国における液晶テレビの市場シェア第1位は、サムスンではなくVIZIOという10年ほど前にできたファブレスのメーカーです。

当社の設立趣意書にあるように、テラモーターズは日本発のベンチャー企業として、アップル・サムスンを超えるインパクトを世の中に残す企業になるという思いで始めました。ニューヨーク市場と東証マザーズのランキングを比べると、日本のベンチャーの時価総額はニューヨークの100分の1です。やはり日本にはメガベンチャーがなく、これからつくっていく必要があります。

シリコンバレーでは、ベンチャーに投資する最低レベルの基準は、その製品やサービスが“Change the world”であるかということです。いま日本で、たとえば「フェイスブックの仕組みから変えてやろう」と思っている人が、どれだけいるでしょうか。思えばできるわけではないですが、思わなければ始まりません。そういう人が、もっと現れてきてほしいと思っています。

シリコンバレーのベンチャービジネスは、ビジョン、人材、資金の面で大きな違いがあります。日本のVCの投資額は、米国に比べて1桁少ない現状があります。しかし、産業革新機構は通常の10倍ほどの資金を投資できますし、アジアの財閥からの資金を合わせれば、30~50億円は調達可能です。十分、世界で勝負できるメガベンチャーになることができます。PayPalマフィアのように、「テラマフィア」をつくりたいとも考えています。

最後に人材

当社には、ありがたいことに優秀な若手が入ってきますが、とにかく起業家精神、「突破する」ということを教えています。経験も大事ですから、開発や生産には、業界経験者OBや若手技術系の人材もいます。

グローバル人材には、コミュニケーション、ダイバーシティとともに、「不確実な中でやりきる力」が必要だという話には、すごく納得感がありました。これこそ、大企業に足りないように思います。日本では、決められたラインに沿ってしっかりやることが優秀とされたものが、海外でいきなり何もないところからで立ち上げるのは、求められるタスクがまったく違います。

私は起業家として、日本に対する強い思いがあります。そしてシリコンバレーへ行き、この2年間のほとんどはアジアを回り、世界の市場を現場でみています。そういう起業家は他にいないと思うので、クレイジーだと言われようが、自分が突破していくしかないと思っています。

質疑応答

Q:

アントレプレナーとイントレプレナー(社内起業家)の連携や、その育ち方、それぞれのあり方などについて、コメントをいただきたいと思います。

A:

インテルやマイクロソフトは、一部のR&Dを社内ベンチャーに出資・提携をしています。ベンチャーには突破力が求められますから、合理的な役割分担として、ある程度、市場の見えてきた段階でイグジット、あるいは連携するといった事例がもっと増えればいいと思います。成功するためは、本当に有望な数社にフォーカスして集中的に投資すべきでしょう。テスラも、米政府が500億円ほど融資しており、それがなければ今の同社はありません。

半導体メーカーのTSMCは、ITRI(台湾工業技術研究院)に技術者をスピンアウトし、政府の予算を投入してできたものです。日本人は成功事例がないと、なかなかイメージできないため、もう少し強引なところがあってもいいと思います。

モデレータ:

グローバルベンチャーが出てこない理由を国内のベンチャーに聞くと、やはり上場前に大きなお金を入れてくれるところがないという悩みを抱えています。産業革新機構をはじめ官民ファンドを含めて対策を講じる必要があると感じています。

Q:

米ローカルモーターズのようなクラウドソーシングの手法について、どのようにお考えでしょうか。

A:

外部パートナーの協力があるからこそ、スピード感をもって進めることができます。その意味では、当社もアウトソーシングに近いことをやっているといえます。ただしユニークな製品をつくるだけではメガベンチャーにはなれませんし、当社は多品種少量生産を目指すモデルではありません。

Q:

日本で「挑戦する人材」を育成していくために、あるいは「クレイジーな人材」が挑戦し続けるために、教育や社会制度環境のあり方について、アドバイスをうかがいたいと思います。

A:

私自身、日本で一流大学を出て、一流企業に就職しましたので、それほど無茶な経歴があるわけではありません。ただ若い頃、シャープやホンダ、ソニーといった創業者の本を徹底的に読んでいました。それによって、日本人としてのベースができたと思います。その後、シリコンバレーに行って、世界のすごさを見て、負けたくないと思うようになりました。今のエリートたちは、「できるか、できないか」とMBA的に考えます。そうではなく、「何が必要か」という姿勢が大事だと思います。

モデレータ:

教育に関しては、本田宗一郎をはじめ日本の創業者の話が教科書にもう少し出てくるべきではないかという話を文科省ともしています。あるいは初等教育、中等教育のときに、創業経営者に実際に会ってもらうことも大切だと思います。高等教育では、模擬的に起業するカリキュラムも大事だと話しています。

モデレータ:

メガベンチャーを日本から輩出するために、あるいはベンチャーが活躍できる社会をつくるために、経済産業省や政府に提言があれば、うかがいたいと思います。

A:

やはり、圧倒的な成功事例を出すことが重要です。私が高校生のとき、サッカーをやる人はそれほどいませんでした。しかし最近の子どもたちの将来の夢をきくと、「野球選手」の3倍ぐらい「サッカー選手」が多いわけです。そこには、三浦カズや中田英寿の海外での経験やJリーグの創設などが背景にあります。私は、日本人単体では、世界に劣っているとは思いません。サムライスピリットで、日本人の持つ勤勉さや正直といったきちんとしたところに、サムスンのようなアグレシッブさやチャレンジを付加できれば、世界最強でしょう。誰かがそれを示せば、どんどん出てくる。それだけだと思っています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。