次世代ロボットの研究開発動向

開催日 2014年3月26日
スピーカー 比留川 博久 (産業技術総合研究所 知能システム研究部門 研究部門長)
モデレータ 須藤 治 (経済産業省 製造産業局 産業機械課長)
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ロボット産業の現状、次世代ロボットを必要とする社会背景、次世代ロボットの研究開発動向、今後の展望についてご紹介する。

議事録

ロボット産業の現状と社会背景

比留川 博久写真1980年は「産業用ロボット元年」といわれていますが、当時の市場規模は760億円でした。塗装や溶接、組立てを中心に、会社によっては1事業部当たりの売上高が100億円を超え、産業用ロボットという産業が成立したといえます。

その後1980年代に、ロボット出荷額は6000億円近くまで右肩上がりに増え、その後は景気変動によって増減しながらも、円高の進行に伴い日系メーカーの工場が海外で展開するようになると、輸出は大きく増加しました。現在では、ロボット出荷額全体の7割程度を輸出が占めるようになっています。

全世界における稼働台数は、1985年に14万台弱でしたが、現在はすでに100万台を超えています。また以前は産業用ロボット全体の60%程度が国内で稼働していましたが、2008年には34%程度となっています。

産業用ロボットの市場は、ある意味で健全といえます。過去15年間で単価は半分になっているのに、ロボット出荷額は大きく変わっていません。つまり、販売台数が2倍に増加しているわけです。そこで期待されているのが、製造業以外の分野です。日本のロボット産業の足元市場規模推計(2012年)によると、サービス分野では600億円程度が見込まれています。しかし、手術用ロボットや調剤支援と並び、フィットネスや健康モニタリングなど、ロボットと呼べるかどうかギリギリのものが含まれており、おぼつかない状況といえます。

一方で、わが国の社会状況として、労働力人口(15~64歳)が2025年に6300万人(厚生労働省職業安定局推計2002年7月)と、わずか20年間で470万人減少することが予想されています。さらに高齢者人口(65歳~)は、2025年に3472万人(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2002年1月)と、20年間で933万人増加する見通しです。つまり、働ける人口から働けない人口へ1403万人がシフトすることになります。2005年に成立していた日本の社会が、そのまま2025年に成立するわけがありません。

高齢者数と医療費・介護費の推移をみると、2000年に30.1兆円だった国民医療費は、2008年に34.8兆円に増加しています。介護保険総費用も深刻な状況で、2000年に3.6兆円でしたが、2008年には7.0兆円とほぼ倍増しています。不思議なことに、その間、高齢者数は2割程度しか増加していません。その理由の1つとして、保険点数の請求の仕方が上手になったのかもしれません。

次世代ロボットの研究開発動向

ロボットは、長い間期待を集めてきたものの産業としてなかなか離陸していないわけですが、2010年代に何が有望かを考えると、人間共存型産業用ロボット、移動ロボット、防災ロボット、装着型ロボット、同乗型ロボットなどが挙げられます。

従来の産業用ロボットは、専用の作業環境を構築していました。そのため、ロボット本体よりも周辺機器のほうが高価であり、少品種大量生産向きでした。また、労働安全衛生法によって人間から隔離する義務がありましたが、昨年12月に法律の解釈が変更され、国際規格に基づいた安全対策がとられていれば隔離の義務はなくなりました。

そこで現在、人間の作業環境に近い人間共存型産業用ロボットの導入が進んでいます。ロボット本体は比較的高価ですが、周辺機器は低コストに抑えられます。また米国では、従来の3分の1程度の低価格かつ扱いやすい産業用ロボットが開発されており、中小企業へ広げようとしています。

少子化に対応する移動作業型ロボットの例として、ロボットによるビルの清掃システムが晴海トリトンスクエアなど10棟程度のビルで導入されています。また、配送センター内を現行の分速60mから200mに高速化する安全なロボットの技術開発を、NEDOプロジェクトで行っています。

東日本大震災の際、「どうして米国のロボットが先に現地入りしたのか」と批判を受けたものですが、日本の「無人化精巧機械」は4月6日から福島第一原発敷地内にあった瓦礫の撤去作業に使われ、その後、4月17日に米国のロボットが福島に入りました。技術的には同じものですが、米国のものは小さかったためロボットといわれ、日本のものは大きかったためロボットといわれなかっただけです。大型の「無人化施工機械」は、普賢岳の災害復旧作業で使われたことから製品として存在し、東日本大震災時にもすぐに投入できました。米国の小型ロボットは軍事用です。

国内では、リハビリや歩行アシストのための装着型ロボット、電動ベッドと車いすが融合したロボットなどが開発されています。つくばモビリティロボット実験特区実証事業では、現行法(道路交通法および道路運送車両法)上、日本の公道を走行することができないモビリティロボットの公道実験を2011年6月から行っています。セグウェイが公道を走れない国は、先進国の中で日本と英国だけです。グーグルをはじめ世界で車の自動運転の技術開発などが進められている中で、規制の厳しい日本でうまく実証の場をつくっていかなければ、自動車産業が負けてしまうことも懸念されます。

今後の展望

次世代ロボットは、なぜなかなか上市されないのでしょうか。その理由の1つは、世界で初めての製品を大企業が開発している点にあると思います。大企業が世界で初めての製品を世に出すときに、リスクとPPM程度の売上増をはかりにかけて発売に踏み切るのは相当難しいわけです。

もう1つは、エンジニア中心の単品開発、対象産業の業務理解不足によって、課題のソリューションになっていないという問題があります。世の中は、別にロボットが欲しいわけではなく、今ある課題を解決してほしいだけです。そういう視点で開発している人が少ない現状があります。

リスクとベネフィットのバランスによる製品の受容を考えると、たとえば自動車はハイリスク・ハイベネフィットといえます。現在、国内で年間4000人が自動車事故で死亡しているにもかかわらず許容されているのは、圧倒的に役に立つからです。もう自動車のない世の中は成立しません。一方、家電はローベネフィット・ローリスクで、人が死亡することはあまりありません。ロボットは、ミディアムベネフィット・ミディアムリスクに位置し、まだ世界のどこにも市場がありませんから、民間企業だけではなかなか責任を負えません。

NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクトでは、国際規格ISO13482の草案を提出し、議論をリードして本年2月1日に正式発行に至りました。さらに2月17日には、世界第1号としてパナソニックのロボティックベッドとダイフクのエリア管理システムが認証され、安全に関しては一定の成果が挙がりつつあります。

現在、日本における次世代ロボットの開発投資は、私の推計によると、民間企業数社で年間約200~300億円、国からは約30億円が投入されており、民間:国が10:1のよい状況にあります。ところが新規事業立ち上げフェーズにいくと、米国には60~70億円規模の投資を受けているベンチャーが数多くあり、資本のダイナミズムという点で劣ります。

そこで日本の社会実態を考えると、1つは、大企業からのカーブアウトが望ましいと思います。人材と知財をセットで別会社化し、失敗した場合でも人材が親会社に戻れることを担保すべきでしょう。成功した場合、親会社が買収することもできます。

もう1つは、ベンチャー企業です。事業化体制を担保してから国家プロジェクトを実施する。あるいは、国家プロジェクト実施段階からベンチャーキャピタルが評価し、開発が成功したら即座に投資するといったやり方も考えられます。

ケーススタディ:ロボット介護機器

ロボット介護機器のステークホルダーには、厚生労働省(介護保険)、被介護者(自己負担金)、介護者(介護者人件費)、ロボットメーカー(その他経費)、介護事業者(事業利益)がいます。

これらの事情を考えると、被介護者の介護度を下げることを目標に置くべきだと考えます。介護施設では、被介護者が転んで骨折でもすれば施設側の責任になるということで、すぐに車いすに乗せるため、歩けなくなってしまいます。そうなると要介護度が上がって、施設側の収入も増えるわけです。それが総介護費用の増加につながり、被介護者は寝たきりの生活になってしまいます。

やはり、被介護者の介護度を下げることを推進すべきであり、そのためには廊下を歩きやすい施設をつくり、センサーなどの機器を設置する。また介護者の負担を軽減する機器を導入し、廊下を歩く被介護者に付き添って手をつないで歩く。そうすることによって総介護費用を低減でき、被介護者の生活の質も向上します。人件費より安いロボット機器をつくることができれば、介護者の給料も上げられるかもしれません。一部の施設では、被介護者の介護度が下がると給料が上がるというマネジメントを実行しているそうです。

老健(介護老人保健施設)や特養(養護老人ホーム)は、収入の大部分を介護保険が占め、入所希望者が待っています。しかも運営主体は医療法人や社会福祉法人で、利潤の追求が目的ではありません。そこでロボット介護機器を入れる目標は、離職率や残業代の減少ぐらいしかなく、普及はなかなか難しい状況です。

一方で、民間有料老人ホームは自己負担が大きく、入居率と利益率が直結しています。そのため、業務効率化によるサービスの質の向上が目標となります。「あそこに入ると寝たきりにならない」といった評判が広まれば入居率が上がり、利益率も上がるというインセンティブが働くわけです。

経済産業省のロボット介護機器開発・導入促進事業では、高齢者の自立支援、介護者の負担軽減に資するロボット介護機器の開発・導入を促進することを目的に、「開発補助事業」と「基準策定・評価事業」を行っています。

ICF生活機能モデル (International Classification of Functioning, WHO 2001)やICFに基づく開発コンセプトシートを活用しながら、開発を進めていますが、同事業の今年度における成果物として、介護者の腰に装着して負担をやわらげる移乗介助、ベッドと車いすなどの移乗支援、モーターやブレーキのついた歩行の移動支援、排泄支援、見守りなどのロボット技術が開発されています。また実証事業を通し、現場での各ステークホルダーの満足度を定量的に評価する必要がありますが、今後、補正予算で取り組んでいく予定です。

ロボットはすでに開発されつつあり、日本には十分な技術ができていると思います。問題は、足し算では波及しないため、引き算が必要ということです。ロボットを導入することで、コスト全体を低減できたり、サービスの質が上がって利益も向上したりと、すべてのステークホルダーが満足するような業務改善の提案をしていかなければ、普及は難しい状況です。そのために、システムインテグレータやサービスプロバイダの役割を担うベンチャーなども必要だと思います。

質疑応答

Q:

海外と協力しながら、国際標準で市場を展開していかなければ普及は難しいように思いますが、どのような動きになっているのでしょうか。

A:

まず、日本のような資金規模でやっている国はほとんどなく、パートナーを見つけにくい状況です。ソフトウェアでは、米国のベンチャー企業と協力して普及しかけたのですが、以前のDVDの争いのように双方が仕様を譲らず、世界標準をつくる動きが頓挫した経緯があります。まだ、そういうレベルまで達していないようです。

Q:

ロボット開発において、知能化の観点で防衛省の技術研究本部と提携することは考えていないのでしょうか。

A:

ロボットを知能化する研究は世界で盛んに行われていますが、2020年辺りまでの成果の見込みを考えると、あまり知能は必要ないと思います。むしろ、センサーとモーター程度でスマートに動けばいいというところです。知能が勝負になってくるのは、もっと先です。あまり高度なものは社会にフィットしませんし、知能の研究もまだ実用化のレベルではありません。

モデレータ:

出口の部分で、ユーザー側との連携が重要になってくると思います。介護ロボットで厚労省、インフラのメンテナンスロボットで国交省との連携は当然行っていますが、災害対応を含めて防衛用途で防衛省と連携することもあると思います。現在、さまざまな連絡会や実務者同士の交流も始めているところです。防衛用途だけではなく、ルンバがそうであったように民生用途を含め、未来の要素技術をみていくという意味でも、各省の枠を超えた作業を進めています。

Q:

最近、日本のロボットベンチャーがグーグルに買収されていますが、その狙いについて、どのようにお考えでしょうか。

A:

フォックスコンと提携して製造業から入るというのは、自然なアプローチだと思います。物流や自動車産業への展開も考えられます。現時点で、具体的なビジョンがないようにも思えます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。