新体制下の中国経済: 課題と評価

講演内容引用禁止

開催日 2014年3月20日
スピーカー 孟 健軍 (RIETI客員研究員/清華大学公共管理学院産業発展与環境ガバナンス研究センター (CIDEG) シニアフェロー)
コメンテータ 関 志雄 (RIETIコンサルティングフェロー/(株)野村資本市場研究所シニアフェロー)
モデレータ 岩永 正嗣 (経済産業省 通商政策局 北東アジア課長)
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2013年、先進諸国及び新興国の経済は精彩を欠く反面、中国経済をみると、GDP速報値では56兆8845億元(約972兆円)に達し前年より7.7%増加した。同時に着任一年目の新指導部は2013年11月15日、共産党の第十八回三中全会で経済構造改革をはじめ、政治体制、文化体制、社会体制、環境、及び共産党自身の改革という“六位一体”改革の中長期案を公表し、世界中の中国専門家の間で高い評価を得ている。

一方、多くの改革を先送りしないように、2014年の経済政策運営については、雇用と物価さえ安定すれば、成長率目標にこだわらない基本方針が示されている。しかし、中国政府は当面、都市化や産業構造の調整などを重点施策としながら、地方政府の債務リスクや不動産の過熱などの課題を抱えている。

今回のBBLセミナーでは、以上の内容を含めて新体制の経済政策運営への評価および当面の課題について解説する。

議事録

※講師のご意向により、掲載されている内容の引用・転載を禁じます

習李体制1年目の中国経済

孟 健軍写真習近平・李克強の「習李体制」1年目(2013年1~12月)の中国経済の状況として、国内総生産56.9兆元(972兆円)、経済成長率は7.7%とやや鈍化したものの、都市部新規雇用は1310万人(単年度の歴史最多)に上っています。これは第三次産業の拡大によるものです。貿易額4兆ドルは、世界第1位となっています。

また2014年の経済運営目標は、経済成長率7.5%前後、物価上昇率3.5%前後、都市部新規雇用者数1000万人以上、都市部失業率4.6%以内、財政赤字2.1%と設定し、とくに雇用を重要な指標としています。

私は2013年3月のBBLセミナーにおいて、習近平を中心とした3つの強力なコンビ(習近平・李克強、習近平・王岐山、習近平・劉雲山)によって、中国の改革を全面的に推進する時代になるとお話ししました。具体的には、習李(習近平・李克強)体制による中国の政治経済社会改革(全面建成小康社会)、習王(習近平・王岐山)体制による政府自身の改革(腐敗撲減)、習劉(習近平・劉雲山)体制による共産党自身の改革(党務建設)が推進されています。

過去20年、三中全会では重要な決定(議決)が行われてきましたが、第18回三中全会(2013年10月)は、発展よりも「全面深化改革」が中心になったことが大きなポイントです。経済だけでなく社会全般における「改革」は、今後20~30年間にわたって続く重要なシナリオだと思います。

第18回三中全会では、習李体制の“六位一体”改革案として、16項目60箇条(総論1項目4箇条、経済改革関連6項目22箇条、生活環境関連3項目13箇条、その他6項目21箇条)が公表されました。新体制1年目の最大のポイントは、習李の“ツートップ”(双寡頭)政治体制の確立といえます。

第18回三中全会への全般的評価として、まず「2020年まで国家治理体系と治理能力の現代化を推進する」という目標が明確です。また、広範囲な6つの領域の改革(経済構造、政治体制、文化体制、社会体制、環境、および共産党自身の改革)を盛り込み、具体的かつ突破的な表現がなされています。たとえば、政府と市場の関係は透明性と制度化に基づき、市場は資源配置の中で決定的な役割を果たすとされています。

中国社会は、すでに大転換期に直面しています。政府の役割は、“治理”(ガバナンス)にあります。治理能力という概念を提起し、よりよい政治体制への政府治理、国家治理の向上が中心課題であることは、中国最高指導部のコンセンサスとなっています。現在、公務員の腐敗撲滅などに力を入れている理由は、ここにあります。

2014年の経済政策重点と課題

三中全会(2013年10月)および中央経済工作会議(2013年12月)を経て、全人代の政府工作報告(2014年3月)となるわけですが、李克強は「改革は中国にとって最大のボーナス」といっています。

政府と国有の企業構造改革の一環として、2014年3月17日、国務院の60部門が扱っている許認可項目1125種が一斉に公開されました。市民を中心とする中国の新型都市化の全面推進については、同じく2014年3月17日、「国家新型城鎮化(2014-2020)」が公表されています。また、全国民の社会セーフティネットの構築(貧困の撲減や“中進国の罠”の解消)が検討されています。

李克強版の中国経済

李克強は「実務の総理」といわれます。PM2.5の問題を公表したのは当時副総理であった李克強の意向であり、そこから透明化が始まりました。また、社会セーフティネットの構築のために民生に力を入れています。

李克強流の改革のやり方は、マイナスリストの提出による透明性と制度化の推進です。李克強版の中国経済はVersion up China(昇級中国)を目指しており、日本でいわれる“李コノミクス”といった小さな概念ではありません。李克強版の中国経済は、全体の構造改革を通じて朱・温時代のV1.0版から、2020年代までに「全面建成小康社会」を実現するV2.0版へバージョンアップすることを目指しています。

経済面の中国と米国 “新型大国関係”

2014年、中国と米国は国交樹立35周年を迎えます。この間、人的交流は年間1万人から400万人(2013年)に、留学生は年間52人から20万人(2013年)に増加しています。貿易額は、年間25億ドルから5200億ドル(2013年)に拡大しており、李克強総理は先週の記者会見で、「中国と米国の間では、1仕事時間当たり1億ドルのビジネスがすでに成立している」と表現しました。

米中投資協定の交渉は2014年3月に第12回が終了し、お互いに国民待遇を前提にしたマイナスリストを提出する実質交渉の段階に入りました。それによって米中間の投資保護の透明性および制度化が保障され、よりよい協力関係に進むことは間違いないでしょう。中国と米国は、李克強いわく“知者求同、愚者求異”(知者は共通点を求め、愚者は異なるものを求める)の新型大国関係へと進展しています。

習李ツートップ体制への個人的評価

中国は、これまでの「技術者の治国」から脱却し、習李のツートップ政治体制の確立によって、2人は更なる責任を負うことになります。習近平の役割は「総括」、つまり改革開放以来のマイナスの遺産を是正する“清道夫”(掃除屋)の仕事といえます。李克強こそ「実務」、つまり経済構造改革を中心とする中長期課題を取り込む役割を担っています。この2人は補完関係にあり、同時にさまざまな分野、領域、社会階層に共鳴を得ることは間違いありません。

懸念されるチャイナ・リスク

関 志雄写真コメンテータ:
リーマンショック以降の平均値である8.8%の実質GDP成長率を基準に判断すると、中国経済は2012年第1四半期以降低迷期に入っています。直近(2013年第4四半期)の7.7%という成長率は、リーマンショック直後に近い低水準です。ただし、前回の低迷期は有効求人倍率も0.85%まで下がりましたが、今回は有効求人倍率がむしろ上昇傾向をたどり、2013年第4四半期には1.1倍の高水準となっています。このことは、中国では、「ルイス転換点」の到来を受けて労働力が過剰から不足に転換した結果、潜在成長率は大幅に低下していることを反映しています。景気過熱の現状から判断して、中国の潜在成長率は、すでに足元の実績値である7.7%を下回る7%程度まで下がっているとみられます。従来の8.8%ではなく、7.0%を基準にすれば、足元の成長率の7.7%はそれを上回り、現在は好況期で過熱してもおかしくない状況といえます。

無理して潜在成長率を上回る高成長を、拡張的財政・金融政策で追及するとバブルのリスクが高まり、その兆候はすでにみられています。不動産市場における住宅バブル、融資プラットフォーム会社を含む地方政府の債務の急増、シャドーバンキングを含む金融システムの過剰流動性の3つが絡み合い、投資家が中国へ投資するリスクは高まっています。仮にリスクが顕在化すれば、その影響は国内に留まらず、日本をはじめ海外に波及することも懸念されています。

不動産バブルを助長した土地政策

新築商品住宅販売価格は、全国主要70都市の平均値で前年比約10%増、北京や上海といった沿海地域の大都市では同20%増となっています。2010年以降、中国政府は、需要抑制政策(融資規制、購入制限、不動産関連税制の強化)や供給拡大策(保障性住宅の建設の加速)といった一連の対策を発表・実施し、一時的な効果はみられましたが、長続きはしませんでした。

その背景には、中国の不動産バブルを招いた構造的な要因があります。まず、中国の土地制度には問題が多く、社会主義の看板のもと、原則として土地はすべて公有制(都市部は国有、農村部は集団所有)です。ですから実際に売買されているのは所有権ではなく使用権で、都市部の宅地は70年、工業用地は50年、商業用地は40年などと定められています。

深刻なのは農村部で、地方政府が土地の供給を独占し、土地市場と土地価格をコントロールしています。農民は、請け負った土地(使用権の年限は30年)をデベロッパーに直接売ることが禁じられています。そして、多くの農民が出稼ぎで都市部に移っているのですが、都市部で戸籍を取得すると、農村部の土地に対する権利を放棄しなければなりません。

それを躊躇して、都市部の戸籍を取らないケースは多くみられます。そうなると、都市部では土地が足りず価格が高騰する一方で、農村部では耕作されずに荒廃した土地が放置されている状況になり、土地の利用効率が極めて悪くなっています。農民が自らの意思で土地(特に都市部近郊の土地)を処分できるようになれば、流動性が高まり、不動産価格の高騰を抑える力になるとも考えられます。

もう1つの構造的要因として、地方政府が農民から収用した土地をデベロッパーに高い値段で売ることができ、その差額が地方政府の財源となっていることが挙げられます。2013年度の土地譲渡金収入は4.1兆元にも上り、地方政府の一次収入の35%、中央からの移転を含む総収入の25%を占めています。それゆえに、地方政府は土地価格を抑えることには消極的です。

中国におけるシャドーバンキング

2008年9月のリーマンショックを受けて実施された4兆元の景気刺激策の財源を賄うために、政府は、融資プラットフォーム会社による資金調達を容認するようになりました。金融緩和の実施も加わり、全国の融資プラットフォーム会社の数と債務は急増。従来の銀行融資に加え、シャドーバンキングも融資プラットフォーム会社に多くの資金を提供しています。

審計署によると、2013年6月末における全国の地方政府債務残高は17.9兆元(GDPの33%)、うち融資プラットフォーム会社の債務は7.0兆元に上ります。そして、その一部はシャドーバンキング経由となっています。

市場競争が激しさを増す中で、銀行は規制を回避するために、従来の預金を原資とする貸し出しに代わる融資の手法としてシャドーバンキングを活用するようになりました。具体的に、「理財商品」などのシャドーバンキング商品の販売を通じて資金を集める場合、預金金利の上限規制(基準金利の1.1倍)、法定預金準備率(大手銀行の場合20%)、預貸比率規制(融資額は預金残高の75%を超えてはならない)、窓口規制が適用されません。

中国社会科学院は、銀行の「理財商品」と信托会社の「信託商品」のみを対象とする「狭い定義」で、中国におけるシャドーバンキングの規模は、2013年9月末には、20.0兆元(うち理財商品が9.9兆元、信託商品が10.1兆元)に達していると推計しています。

格付け会社であるS&Pは、各項目に含まれる一部の二重計算を調整した上で、委託融資(金融機関を仲介として企業の間で余剰資金を融資しあうこと)や民間融資などを含むより「広い定義」で、中国におけるシャドーバンキングの規模は2012年末に22.9兆元と試算しています。

シャドーバンキングは中国に金融危機を招くか

中国におけるシャドーバンキングの規模の拡大は、米国で起きたサブプライム・ローン問題とは異なり、システミック・リスクの顕在化を通じて金融危機を招く可能性は必ずしも大きいとはいえません。シャドーバンキングの規模は拡大しているとはいえ、従来の銀行の貸し出しと比べてまだ小さい上、レバレッジ比率が低いため、デレバレッジによる市場の混乱は避けられるでしょう。

各種のシャドーバンキングのスキームは破綻する確率がそれほど大きくなく、仮に破綻しても、原則として、銀行は顧客に対して損失を補填する義務を負いません。銀行の財務状況は良好で、シャドーバンキング関連業務から損失が発生しても、自己資本や貸倒引当金で対応可能です。また、大半の銀行は国有となっており、いざというときは政府に支援してもらえる可能性が高いわけです。そして中国ではまだ資本移動が制限されており、人民元は投機の対象になりにくい一方で、危機が起きても海外に直接波及しにくい状況といえます。

質疑応答

Q:

内需拡大の施策について、うかがいたいと思います。

A:

透明性と制度化が進む中でサービス業も拡大し、日本企業のビジネスチャンスは広がっています。今後、どのように中国で展開していくかは、政策よりもむしろ自分たちの能力を高めながら考えるべきだものと思います。

コメンテータ:

中国で内需という場合、投資と消費が中心になりますが、投資比率はすでに高いため、これ以上上げる必要はない状況です。民間消費はここ数年間GDPの35%程度で横ばいに推移しています。米国の70%、日本の60%弱と比べるとまだ低いので、よくいえば中国の消費は伸びる余地が大きいわけです。

中国の民間消費が低水準の理由として、まず社会保障制度が整備されていないことが挙げられます。今後、社会保障制度の拡充は消費拡大につながると予想されます。また、所得格差が大きく、高所得層の消費性向が低く、所得の低い人の消費性向が高いため、所得分配が改善すれば消費は増加していきます。

さらに、現在、国有企業は株主である政府に利益の1割程度しか配当金として支払っておらず、昨年11月の三中全会では2020年までに3割まで上げていくとしています。政府はそれを財源として、その一方で家計部門に対して減税政策が実施されれば、中国における高投資低消費という歪みがある程度是正されるものと思います。最後に、土地と不動産価格が下がってくれば、他の消費に回る余裕も生まれてくるでしょう。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。