アフリカ経済の現状と日本の対応

開催日 2014年2月27日
スピーカー 平野 克己 (日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 上席主任調査研究員)
モデレータ 岡田 江平 (経済産業省 通商政策局 中東アフリカ課長)
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開催案内/講演概要

高成長を続けるアフリカ経済。その成長構図はどうなっているのか。それはどのようなビジネスを生み出していて、今後の見通しはどうか。アフリカにとって最大のパートナーとなった中国の政策はいったいどのようなもので、日本のとるべき政策はなにか等々、アフリカの“いま”を俯瞰する。

議事録

アフリカはどうして成長しているのか

平野 克己写真アフリカといえば、十数年前までは貧困の巣窟地でしたが、今では成長の大陸ともいわれています。サブサハラ・アフリカのGDP合計は、1981~2002年までほぼ横ばいに推移し、2003年から急激に成長しています。この動きは原油価格の推移と連動しており、ロシアとよく似た動きを示しています。

2003~2010年の成長寄与度をみると、サブサハラ・アフリカは資源輸出が盛んにもかかわらず、地域全体でみると0.5%の貿易赤字となっています。政府消費は15.7%に留まっており、個人消費が63.5%(世界平均は54.6%)の高い水準にあります。つまり資源の価格が上がり、どんどん輸出をして入ってくる外貨は消費に回していることになります。そして投資は、FDI(海外直接投資)として入ってきます。アフリカ経済では、資源ビジネスが注目されると同時に、アフリカの市場を目指したビジネスが注目されているわけです。

1960年代、サブサハラ・アフリカの総輸出の70%程度は農産品でした。しかし現在は60%を鉱物性燃料が占め、農産品は10%を下回っています。この鉱物性燃料のおもな輸出相手国は米国と中国です。しかしシェールガス革命以降は米国がアフリカからの原油輸入を急激に減らしているので、中国が米国の2倍以上の金額で圧倒的な比率を占めています。いまやアフリカ大陸は、産油、鉱業の大陸になってきたといえます。

経済学の定説として、資源賦存はかえって開発を後退させるという「資源の呪い」がいわれます。しかし、21世紀は20世紀より数割増の資源が必要になるため、新興資源国が発展することを考えなければいけません。たとえば今の健全なオランダ経済は、オランダ病を克服した後、どのように資源収入を活用してつくられてきたのか。また先進国最大の原油輸出国であるノルウェーは、どのような経済運営によって世界で最も優れた社会指標を実現しているのか。こうした研究が、開発の分野で求められていると思います。

アフリカの経済成長はいつまで続くのか

昨年、資源メジャーのCEOが全社交代しました。それは、2012年の業績が軒並み落ち込んだためです。新任のCEOたちは口を揃えて「資源権益を見直す」と言い、実際に昨年は多くの資源権益が売りに出されました。日経新聞のインタビュー記事をみても、日本の大手商社の社長がすべて、資源依存体質を変えていくことを明言しています。つまり資源の業界では、資源ブームはすでに終わったと考えられているようです。

またシェールガス革命は世界に大きな影響を与えると思います。中国は、少なくともこの1年半はアフリカの資源に関与しませんでした。おそらく習近平政権になって、中国はアフリカ政策を見直したのでしょう。こういったことが、アフリカ経済に大きな影響を与えるものと予想されます。

日本の対アフリカ貿易比率は、加工貿易が盛んであった1970年頃は10%近い水準にありました。しかし現在、日本はアジア経済圏での製品同士の貿易が主体となっていますので、資源や原材料といった一次産品を輸出するアフリカとの貿易比率は、資源ブーム直前には輸出入総額の1%台にまで落ち込みました。

わが国のアフリカ貿易の主要品目として、まずプラチナの輸入が挙げられます。おもな用途は自動車の排ガスを浄化する触媒で、世界のプラチナ供給量の70%は南アフリカに集中しています。つまり世界中の自動車企業は南アフリカからプラチナを買っているわけですが、日本の輸入がもっとも多い。また、日本の対アフリカ輸出の半分以上は自動車が占めていますから、日本とアフリカの貿易は自動車産業が支えてきたといえます。

中国のアフリカ政策

よく韓国は貿易依存度が高いといわれますが、むしろ韓国が平均に近く、日本は低すぎるといえます。グローバリゼーションの中で閉鎖経済にある日本は、貿易依存度を世界平均に近づけるところに成長の余地があるとも考えられます。こういった日本の現状がアフリカ貿易にも反映し、自動車以外の輸出が起こらないという現状があります。

各国の対アフリカ輸出をみると、圧倒的に中国が独走しています。中国は日用品から人工衛星まで幅広く輸出していますが、最近とくに多いのは携帯電話関連機材です。

中国のアフリカ政策は長い歴史を持っていますが、現在の政策は最近つくられたものです。中国の高成長維持のための資源確保は、全体の25%程度がアフリカから輸入することで実現しています。こうした対アフリカ関係は江沢民時代から準備され、並外れた外交努力によって構築されてきました。90年代後半、アフリカが貧困化の最中にあり、世界の資本が撤退していたときも、中国だけはアフリカの重要性を認識していたわけです。

また中国をめぐって、世界銀行と中国の連携、南スーダンの独立をめぐる米中連携がみられます。日本との関係では、安倍首相のエチオピア訪問翌日、中国大使が日本批判の記者会見をアフリカ連合本部で行っており、日本を意識し始めたことは確かだと思います。

アフリカを考えるとき、南アフリカを外すことはできません。南アフリカのアフリカ域内貿易をみると、巨額の貿易黒字となっています。対中赤字、対産油国赤字をアフリカ域内貿易黒字で埋めるという地域大国型貿易になりました。南アフリカ企業はアフリカ市場に精通し、積極果敢にリスクをとりながら展開し、アフリカの消費爆発を背景に、携帯電話、金融、流通小売、建設、観光といった多様な分野で最大シェアを占めています。

アフリカにおける都市と農村の分離

アフリカにおける穀物の輸入依存率は、干ばつなどで変動を繰り返しながら右肩上がりに増加しています。その傾きはアフリカの都市化率とほぼ平行し、およそ2年に1.0%ずつ上昇を続けています。

サブサハラ・アフリカでは労働力の60%が農業セクターにいますが、人口の75%をカバーする生産力しかありません。そのため、残る25%は輸入や援助に頼ることになります。アフリカの都市化は進む一方のため、穀物の輸入依存度はますます高まります。つまり、アフリカで都市人口が増え、食糧をどんどん買っても、買ったお金は海外へ行ってしまうわけです。アフリカの貧困層の85%は農村にいますが、いくら経済成長をしても貧困が減らない構造といえます。

アフリカの貧困、開発の問題は、基本的には農業にあります。これは、いまやグローバルイシューとなっており、とくに東アジアにとって深刻な問題になってきました。世界最大の穀物輸入国は日本ですが、米は自給できても飼料穀物をつくるだけの面積を確保できないという状況は、東アジア全般に当てはまります。東アジアは、永く世界最大の穀物輸入地域であり続けてきました。

こうした穀物輸入の流れを、猛然と追い上げてきたのがアフリカです。2011年には、サブサハラ・アフリカ49カ国を合わせると日本を上回り、さらに北アフリカ6カ国を足した穀物輸入量は7000万トンに上りました。これは世界の穀物貿易の20%以上にあたり、東アジアはおよそ15%となっています。つまり、世界の穀物市況が破綻するならば、その震源地はおそらくアフリカと考えられます。そのとき、最も大きな被害を受けるのは東アジアですから、アフリカの自給力を高めることは、我々にとっての利益になるのです。

ILO(国際労働機関)の物価統計を地域別に指標化してみると、アフリカの穀物物価指標および食肉物価指標は、調査が始まった1985年以降、常にアジアを上回っています。物価が高いと、賃金が高くなります。UNIDO(国際連合工業開発機関)統計から製造業平均賃金を比較すると、南アフリカはチェコよりも高く、セネガルは中国よりも高く、ケニアはタイよりも高く、ガーナやタンザニアはインドネシアより高くなっています。しかし国民1人当たりGDPは、アフリカのほうがはるかに低いのです。これがアフリカに労働の比較優位をもたらさない特徴であり、そのためアフリカには製造業が入っていかないわけです。

アフリカは、国際テロにおける重要な地域になりました。イスラム過激派組織がソマリアからサハラ砂漠へと拡大しています。リビア政変とマリのクーデターはアルジェリア人質事件につながりました。2008年には、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)が、新疆ウイグル地区においてイスラム教徒を弾圧するとして、中国人をターゲットにアフリカで報復すると宣言しています。また昨今の最大の問題は、中央アフリカと南スーダンが破綻国家ともいえる深刻な状況にあることです。

“課題先進国”日本

日本は今、課題先進国といわれます。まず、人口が急激に減少していく中で、世界に先んじて労働投入の減少に適応しなければなりません。これを追う韓国や中国は、さらに早いスピードで同様の状況に陥ります。また、巨大化する中国といかに共存していくかという問題や、ポスト・フクシマのエネルギー政策といった問題が世界から注目されています。そこに、日本がアフリカとの関係を再構築するニーズがあるといえます。

日本企業の課題として、まず輸出力と収益力を向上する必要があります。そのためには、アグリビジネスや水ビジネスといった新たなビジネスを創造し、日本の外で生き残れる形になっていかなければなりません。そのリスクとコストを引き受けられる企業体質に変わること、つまりグローバル企業としてのコーポレートアイデンティティを確立することが求められます。

アフリカで活躍する日本企業

日本の各企業によるアフリカ資源ビジネスでは、KORESや現代エンジニアリングといった韓国企業とコンソーシアムを組む動きがみられます。日韓両国は、かつて中国から買っていた資源が買えなくなったという状況が共通しており、置かれている資源状況が似ています。

資源以外の分野でも、数は多くありませんがアフリカで強い収益基盤を確立している日本企業があります。コマツ(鉱山機械)、味の素(BOPアミノ酸ビジネス)などがそうです。JTやNTTといった旧国有企業を含む日本の企業が、海外企業を買収してネットワークと人材を獲得する動きがここ数年みられます。

日本企業に限らず、アフリカで成功しているビジネスの特徴として、まずグローバル戦略を持ち、その中でアフリカの位置づけができています。よいパートナーを徹底して探し、日本のみならず公的機関と連携することが力になります。人材とネットワークはM&Aによって入手できますし、リスクを恐れない機敏な行動も求められます。また、CSRを事業に組み込むことは極めて重要です。経済規模を考え、一国に留まらずアフリカ全体を狙って進出していくべきだと思います。

対途上国外交の課題

途上国政策で根幹にあるべきは資源安全保障、そして官民連携による市場開拓です。この2つは帝国主義時代から変わらないのですが、現代の国際秩序においては、これを「外交」によって果たさなければなりません。つまり、日本の進出が相手国にとってもプラスとなり、国益となる必要があります。とくに日本の人口減少スピードが加速する2025年までに、日本にとって望ましい国際関係はどういうものかという構想を持って次世代に示していく必要があると思っています。

日本の援助政策は、こうした観点から見直しを行っていくべきでしょう。世界の先進国では現在、ODAの定義を再考する動きが本格化しています。従来のODAの定義では、新興ドナーと連携することができません。資源高の中で途上国の成長率が高くなっているため、先進国から途上国世界に向けた民間資金の流れが大きくなっていますし、最近ではインフラの必要性が見直され、開発金融の重要性を再認識する機運が高まっています。新興国の援助も開発金融が主体です。援助は無償であることが望ましいという従来の考え方が見直されています。日本はこの議論を率先して進め、まずは中国や韓国と協調するアジア版のベースプラットフォームをつくるべきだと思っています。

日本の援助は、財政難を理由に減少しているといわれています。たしかに平成不況以降、円借款の拡大は止まりましたが、概ね横ばいを維持しています。しかし、インドネシア、タイ、中国などからの返済が順調に行われているため、円借款がグロスでは横ばいにもかかわらず、ネットでみるというODAの定義では減少している。だから日本の援助総額が急減しているわけです。今後、アフリカに対する援助政策を策定していく中で、円借款は重要な意味を持つと思います。

質疑応答

Q:

日本の農業援助でさえ欧米のNGOなどに非難を受けている状況で、韓国や中国との協力となると、より困難に思えます。アフリカで農業開発がうまくいっている事例があれば、教えていただきたいと思います。

A:

スポットでの成功事例はありますが、どのプロジェクトも国の農業まで変えられないところが問題です。アフリカの場合、どこかで技術の普及がストップしてしまいます。その最大の障害は、人口密度の低さだと思われます。しかし現在、アフリカの政府が農業の重要性を唱え始めています。とくにナイジェリアやアンゴラといった産油国が農業再興に取り組み始め、そこへ日本企業のコンソーシアムが入り肥料工場をつくっています。

また日本の米づくり農家は高齢化が進み、農水系の研究機関も予算が縮小されてきたため、海外へ出ていける技術者は日本よりもアジアに多い状況です。そのため韓国や中国、東南アジアとの協力が効率的だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。