くまモンにみる熊本県のブランド戦略

開催日 2014年2月14日
スピーカー 成尾 雅貴 (熊本県商工観光労働部観光経済交流局 くまもとブランド推進課 課長)
モデレータ 河津 司 (RIETIコンサルティングフェロー/消費者庁審議官)
開催案内

2011年3月の九州新幹線全線開業を機に生まれた熊本県のゆるキャラ「くまモン」。

昨年は、欧米訪問や紅白歌合戦出演、さらには天皇皇后両陛下の御前でくまモン体操を披露するなど、その人気は衰えを見せない。くまモンの人気の秘密と今後くまモンを活用した熊本県のブランド戦略を語る。

議事録

くまモンとは・・・

成尾 雅貴写真くまモンは、2011年3月の九州新幹線全線開業をきっかけに生まれた「くまもとサプライズPRキャラクター」です。新幹線が開通するという100年に1度のビッグチャンスを生かさない手はないと、熊本県民180万人がまとまりつつある中で現れたのがくまモンで、ゆるキャラグランプリ2011を獲得すると、東京のマスコミにも取り上げられるようになりました。

くまモンの名前の由来は「熊本の者」です。職業はいちおう公務員で、現在「熊本県営業部長」と「熊本県しあわせ部長」を兼務しています。やんちゃで好奇心いっぱいの性格で、サプライズとハピネスの種まきを使命としています。

「くまもとサプライズ」とは、新幹線元年戦略アドバイザーとして迎えた小山薫堂氏(熊本県天草市出身)発案の県民運動で、九州新幹線の全線開業をきっかけに、県民が自らの周辺にある驚くべき価値のあるものを再発見し、それをより多くの人に広めていこうというものです。

観光客の「あっ、いいね!」は、そこに住む自分たちが幸せになることにつながるという、サプライズ好きの小山氏らしい提案だと思います。

ちなみに、現在2期目の蒲島県知事は「県民の総幸福量の最大化」を県政の目標としていますので、ベクトルは同じです。せっかくなので「くまもとサプライズ」のロゴマークも依頼したところ、そのおまけについてきたのが、くまモンという存在でした。

くまモンの人気

平成26年1月現在、くまモンのツイッターフォロワー数は約32.5万人、オフィシャルサイト訪問数は月間約45.6万人、ユーチューブ「くまモン体操」再生回数は約227万回を超えています。さまざま関連本も出版され、観光PRにも役立っています。2012年12月には、THE WALL STREET JOURNALの1面にイラスト付きで、くまモンが紹介されました。

くまモンの認知度や好感度をハローキティやミッキーマウスと比較した調査(キャラクターデータバンク調べ)では、認知度は第3位ながらも健闘していることがうかがえます。さらに好感度になると、男子中高生ではハローキティやミッキーマウスを上回っているのです。

「なぜ、くまモンが人気者になれたのか?」を振り返って考えると、その1として「トップの理解と支援」が不可欠でした。その2として、「くまモンのたゆまぬ努力!」があります。どうすれば皆さんに喜んでいいただき、サプライズを届けることができるかを常に考えながら、表現力豊かに成長してきました。その3は、「新旧メディアを最大限に活用」です。早い段階でツイッターやブログ、フェイスブックなどを積極的に活用し、双方向のコミュニケーションを図ってきました。その4は、「いつもサプライズを忘れない!」ということだと思います。

分析1:KANSAI戦略

新幹線元年戦略の一環として、九州新幹線の終着地大阪で「熊本の認知度」を向上させるために、まず「くまモンの話題化」をしかけました。最初から自治体のPRを表に出しても、大阪の人たちはなかなか振り向いてくれません。ですから、ゆるキャラを使い、くまモンの認知度を上げることで、熊本をコマーシャルするというやり方をとりました。

KANSAI戦略の事例を紹介すると、まず“SNSの活用(口コミなどを期待した参加型の展開)”として、くまモン話題化計画を2010年9月にスタートしました。くまモンは、神出鬼没に大阪の観光名所をはじめいろいろな場所に出かけ、ブログやツイッターへの情報を仕込んでいきました。

SNSを活用するとともに、10月からはホームページのQRコードを入れた名刺を1万枚配りました。名刺の裏には「熊本県は、くまの手も借りたいらしい」「ウラのない、おもてなし、学んでます」「カバのひと声でやってきたクマです」など、プロに依頼した32種類の面白いコピーを入れました。地元を離れて熊本県民の目が届かないところでは、多少ハメをはずせたのかもしれません。毎回違う名刺をもらうことができる楽しみもあります。

また、大阪の魅力にはまり、名刺配りを怠り失踪したくまモンを探すため、知事が記者会見を行うといった、ストーリー性のある展開も行ないました。ダミーの記者会見に知事自らが出演し、全4話で構成し、動画をユーチューブで公開しました。これは今でもご覧になれます。

他方で、“話題拡散の段階に応じたPR展開”として、50種類のポスターを環状線などの駅構内に掲出したり、車両一台をくまモン一色にする「JRジャック」を行いました。吉本新喜劇に出演して全国放送デビューもしました。実は私自身、吉本新喜劇への出演には否定的でした。それほど効果があると思っていなかったのです。しかし吉本の情報発信力は想像を上回り、記者会見には46社も集まり大いにPRできました。

分析2:営業部長活動

熊本では、春雨に似た太平燕(タイピーエン)が県民のソウルフードとなっていますが、新幹線開業記念に大阪の会社から、くまモンの太平燕の商品化を提案されました。その後、話は進んで発売に至ったわけですが、東日本大震災の影響で具材の調達が難しくなり、初期ロットのみの短命に終わりました。それを機に、今度はこちらから営業をかけるのも面白いではないかというヒントをいただきました。

最初は、全国規模の食品メーカーに県産の食材を営業する場面を収録し、新聞広告やユーチューブにアップするだけのはずでしたが、くまモンが本当に営業活動を行い、あわよくば商品化したいという思いはありました。しかし当時は、ゆるキャラブームもまだなく、訪問企業がなかなか決まりません。そのような中、大阪に本社のあるUHA味覚糖さんが協力してくれ、半年後には「熊本八代産晩白柚ぷっちょ」のスピード発売に至ったわけです。その後も「ぷっちょ」第2弾、第3弾の発売は続き、現在さらに第4弾を開発中です。

その他にも、くまモン人気の高まりとともに、デコポンやジャージー牛乳など熊本を全面に打ち出した飲料や食品が商品化されており、熊本のPRや県産食材の販路拡大に貢献しています。現在、食品については、原則的に県内事業者のみ、くまモンの利用を認めています。ただし熊本県内の食材を使用し、販路拡大やPR効果が高いと判断されるものには利用を認める例外規定を設けており、さまざまな商品が発売されています。県内の農林水産業の振興にも、大いに貢献していると思います。

分析3:楽市楽座

くまモンイラストの利用料の無料化を知事が決断し、くまモンの著作権を水野学氏から買い取り、2013年12月24日から利用許諾申請を受け付けるようになりました。熊本県のPRにつながるもの、熊本県産品のPR・販促につながるものが原則です。

楽市楽座は県外事業者にも開放したことから、全国にくまモン関連グッズが広がり、人気に拍車がかかりました。今のところは、国内販売限定としています。くまモンイラストの利用許諾数は平成24年に大きく伸び、関連商品の売上額が同年293億円の規模となってからは、さらに増加しています。平成23年は月平均160件、平成24年に同450件、平成25年には同600件を超え、ピーク月は800件を超える勢いでした。平成25年12月末の利用許諾数は1万4888件となっていますが、1つの許諾で複数の商品化が可能なため、商品数は把握していません。

平成25年12月26日に日本銀行熊本支店が発表したデータによると、平成23年11月から平成25年10月の間、くまモンが熊本県にもたらした経済波及効果は1244億円(くまモン利用商品の売り上げおよび観光客増加による経済波及効果)、パブリシティ効果は90億円に上ります。

分析4:県民幸福量への貢献

知事は、県民幸福量の4つの要因として、Economy(経済的豊かさ)、Pride(品格と誇り)、Security(安全安心)、Hope(夢)を掲げています。くまモン関連商品の売り上げや、国際的な影響力を持つTHE WALL STREET JOURNALへの掲載、福祉や登下校の場での活躍、非常勤職員から営業部長への昇進そして、くまモン自身の夢の実現NHK紅白歌合戦出場等々一例に過ぎませんが、これらを通し、くまモンは全ての要因に寄与し、県民幸福量の最大化にも貢献していると思います。

くまモンの今後の展開については、県民の幸せの象徴として100年後も愛されるキャラクターとなるためには、「くまモンのブランド価値向上の取り組み」「くまモンと熊本の関連性強化」「持続可能な仕組みづくり」の3つを柱に考えていく必要があります。

くまモンブランド価値向上の取り組みでは、たとえば欧州老舗ブランドとのコラボとして、ドイツ・シュタイフ社との「テディベア・くまモン」は、5秒で1500体が完売しました。フランス・バカラ社との「クリスタル製くまモン」も発売されました。また、英国車の「くまモンMINI」とのコラボも。くまモンは、フランスの「ジャパンエキスポ」に出演したり、米ハーバード大学なども訪れています。

くまモンと熊本の関連性強化ではたとえば、2013年4月より熊本の新聞に4コマ漫画を連載しており、1年分をまとめて単行本化したいと考えています。ピーターラビットのように、くまモンを見れば天草や阿蘇など熊本をイメージされるようにしていきたいと思います。

最近は、全国どこでもくまモングッズが買えるようになりましたが、昨年7月に熊本市内にオープンしたくまモンスクエアでは、熊本県の伝統的工芸品とのコラボによる、Made in 熊本にこだわった商品づくりを行っています。ここでしか買えない商品構成によって、熊本の情報発信をしています。

持続可能な仕組みづくりとして、幼稚園生とのふれあいや「ラジオDEくまモン体操」など、県民に根付いた活動も続けています。やはり県民に愛されてこそ、くまモンだと思っています。

そして現在、適正な商標管理が課題となっています。県産品の販路拡大に向け、アジア各国(韓国、中国、香港、台湾、シンガポール、タイ)および欧米での商標登録を進めていますが、一方でアジアにあふれる未許諾くまモングッズへの対策に、どうすべきか悩んでいるところです。

また、「熊本のために還元したい」というくまモン利用許諾事業者からの自発的な応援や、「くまモンの活動のために」というくまモンファンからの応援の窓口として、ふるさと納税を活用しています。またクレジットカード会社との提携によって、カード売上の一部やポイントがふるさと納税や地元の公益団体への寄付として還元されるような取り組みも進めています。

今年に入って、くまモンは、しあわせ部長にも任命されました。県民を巻き込んだ「しあわせ部」の活動を展開しながら、県民1人1人がサプライズ体質になってもらいたいと思っています。くまモンが県外から訪れるゲストをおもてなしする旗振り役になって、県民の皆さんもキャストになったつもりで、一緒にサプライズを進めていくことができれば、やがて「くまモンランド」のようなものができあがっていくのではないかと夢見ています。

行政の役割は、県外の人々を熊本県に振り向かせることだと思います。観光地として、企業の立地先として、さらには農林水産物等の生産地として。振り向いていただいた後は、民間の皆さんの出番です。官民一体となって県民の総幸福量の最大化に取り組んでいければと思います。

質疑応答

Q:

最近、地方自治体の公務員が中央省庁よりもチャレンジ精神にあふれ、元気な印象も受けます。なぜ、こんなに元気なのでしょうか。

A:

地方にいけばいくほど、危機感があるのだと思います。何とか打開しなければ、という思いがありました。新幹線が開業しても、鹿児島は黙っていても終着駅効果が得られますが、通過駅の熊本は忘れられてしまいます。そういう危機感の中で、もう目立つしかないという思いが背景にありました。

Q:

くまモンが飛躍していく中で、中長期的な課題についてうかがいたいと思います。

A:

キャラクタービジネスは、ライセンス契約に基づきロイヤリティ収入を得る確立された世界だと思っています。商標を押さえ、維持・管理し、キャラクターのブランド価値を維持・向上させていくための資金にもなります。

現在、国内の事業者にグッズなどの利用許諾をすると、生産地の中国から周辺地域に横流しされている状況が見受けられます。こういうことを、なくしていかなければいけません。商標を確保し、偽物対策をしながら、くまモンを世界へ羽ばたかせるための費用として、ロイヤリティフリーを標榜する中、むやみに税金を使うわけにいかないということが、最大の悩みになっています。

モデレータ:

政府でも、知財戦略や地域ブランド化に力を入れているところです。くまモンのように、無料で利用できる有名なブランドをいかに守っていくかは、新しい形で突きつけられた課題かもしれません。

Q:

くまモンは初期の段階で、熊本県の中で「ふざけている」とか、「真面目にやれ」といった批判はなかったのでしょうか。

A:

知事が最大の支援者であったことが幸いしていると思います。現在は、くまモンがここまで人気者になって、「この指とまれ」というと、皆がとまってくれる状況になったと思います。たとえば今年の3月12~16日まで、中心市街地で「くまモン誕生祭」を開催します。「全体の統一感を出すための演出やステージは県がやりますので、あとは商店の皆さんで創意工夫してください」とお話ししています。

熊本は、どちらかというと行政主導の土地柄ですが、県民の皆さんとイーブンに二人三脚でやっていきたいと思っています。

Q:

広告代理店との連携について、コミュニケーションの秘訣があればうかがいたいと思います。

A:

広告代理店は多くのツールを持っていますが、代理店任せでは駄目だと思います。自分たちが何をやりたいのかを明確に伝え、二人三脚で進める必要があります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。