人口減少社会における経済・社会政策

開催日 2013年9月27日
スピーカー 加藤 久和 (明治大学 政治経済学部 教授)
モデレータ 中田 大悟 (RIETI 研究員)
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開催案内/講演概要

わが国は本格的な人口減少社会を迎えようとしている。人口減少が生じたメカニズムを示し、総人口・高齢化に関する将来推計やシミュレーションを紹介しながら、まずは今後の人口動向を概観する。次いで、人口減少や高齢化の進展が経済成長や財政・社会保障、さらには社会生活などに及ぼす影響を整理した後、解決すべき課題等を明らかにする。さらに、これらの課題に対応するために必要な経済・社会政策のメニューを提示するとともに、その実現可能性について議論を行う。

議事録

将来人口予測とシミュレーション

加藤 久和写真わが国の総人口と人口増加率の推移をみると、ちょうど人口のピークに差し掛かるときに我々はいることになります。2010年の総人口は1億2806万人でしたが、それ以降は年25万~27万人ずつ減少し、速報では、2013年8月の総人口は1億2731万人と減少が続いています。

このような人口減少の要因として、出生率の低下が挙げられます。1967年までは合計特殊出生率は置換え水準を上回り、将来の人口増加が見込まれていました。しかし、第1次石油ショックで日本経済が大きく変化していた1970年代中盤以降は、継続的に人口の置換水準を合計特殊出生率が下回っています。つまり、少子化はすでに35年以上続いていたことになります。近年、出生率の微増がみられますが、一時的なものだと思います。

先進諸国の状況をみると、日本のように出生率が継続して下がっているのは、イタリアとドイツです。逆に出生率が上がっているのは、米国、フランス、英国、スウェーデンです。いろいろな解釈がありますが、先進国は完全に二分化されている状況にあります。

女性の年齢別出生率の分布をみると、1960年は25歳頃の女性が子どもを産む率が高かったわけですが、2010年にはピークの山が小さくなって分散し、高年齢化しています。このような変化には、結婚が大きくかかわっています。

女性の平均初婚年齢は、1970年の24.2歳から、2012年には29.2歳へと急速に上昇しています。生物学的に考えて40歳頃までに子どもを産み終わろうとすると、結婚してからの期間が短いため、どうしても出生率が下がってくるのだと思います。このような行動の変化が起きた原因を考えることも重要です。女性の未婚率も上昇しており、25~29歳の女性の未婚率は、2010年には60.3%に達しています。

将来人口推計(2012年1月推計)では、2060年には総人口(外国人含む)は8674万人まで減少し、65歳以上人口の割合が39.9%を占める見通しです。しかし私の試算による超長期人口推計では、出生率(TFR)を2030年までに2.1に回復できれば、総人口1億人程度を維持でき、かつ65歳以上人口の比率は将来的に26.7%で安定化させることができます。つまり高齢化社会に対応する上で、超長期的な経済・社会政策のもっとも大きな柱は、少子化対策あるいは出生促進策といえます。

少子化対策の必要性と方策

個人の視点では、子どもを持つかどうかは個人が判断すべきことであって、政府が政策として取り組む必要はないという意見もあります。しかし、一般的に子どもは「社会の宝」といわれるように、外部効果や公共財的な性格を持っています。

そこで、子どもを産みたいけれども何らかの事情で産めない場合、それは適正なレベルの公共財の供給がなされていないといえます。子どもを育てるための支援として租税を投入することは是認されるべきであり、少子化対策は重要な問題と考えられます。

少子化の要因としては、(1)子どもを持つことのコストの上昇、(2)女性にとって出産・育児と就業継続が困難なこと、(3)結婚行動の変化、(4)短期的には雇用環境等の悪化、などが挙げられます。そして少子化対策には、「経済支援」(児童手当などの現金給付)と「両立支援」(保育所など育児等のための社会的インフラや育児休業などの制度の拡充といった現物給付)がありますが、日本は、現金給付・現物給付の両面においてOECDの平均を下回っています。

女性の社会進出と出生率の関係として、1970年には女性が働く国ほど出生率は低い傾向がありましたが、1985年になると両者の関係は中立的になり、2000年以降は女性が働いている国ほど出生率が高いという構造の変化が起きました。その理由として、就業と育児の両立支援に積極的に取り組んだ国が出生率を向上させていると推測されます。

日本の社会的なシステムとして、結婚と出産がセットになっているため出生率が低いのではないか、という声があります。ドイツは、婚外子の割合が2000年頃は20%強でしたが、近年では30%を超えています。しかし出生率はほぼ変わらず、上昇はみられません。一方、スウェーデンの出生率は上昇を続けており、婚外子はもともと多いのですがその割合はほとんど変わっていません。つまり、婚外子の割合を増やせば出生率が高まるわけではなく、地道な少子化対策が必要ということです。

将来の経済・社会の様相

日本の労働力人口は今後間違いなく減少し、経済成長に対してマイナスの影響を及ぼすことになります。しかし長期的な試算では、少子化対策を実施することによって労働力人口の減少分を半分程度に抑えることが可能です。労働力人口の減少を抑える1つの方策として、少子化対策に取り組むことも重要といえます。

また高齢化は、生産性にもマイナスの影響を及ぼすことが懸念されます。1985~2010年にかけてのOECD加盟20カ国のパネル・データをもとに、OECDが測定している生産性(多要素生産性)と高齢化の関係を検証すると、高齢化の進行は生産性に対し有意にマイナスの影響を及ぼしていました。

社会保障の給付と負担を予測すると、給付額は伸びていくものの負担額は伸びず、2050年には給付額の半分以上に上る90.9兆円を公費で負担する状況に陥ると考えられます。その結果、財政支出に大きな影響を与えることになります。

シミュレーション・ケース1として、GDPデフレータ上昇率を1%から0.5%に引き下げると、公的年金制度においてマクロ経済スライドは実施されないことになります。GDPデフレータが0.5%のケースでは名目所得が伸び悩み、社会保障負担額は大きく減少し、中央政府財政赤字の対GDP比は2050年にマイナス11.8%まで悪化します。

シミュレーション・ケース2では、政府最終消費支出を毎年度1%引き下げ、消費税率を将来的に25%まで切り上げ(2020年度に15%、2025年度に20%、2030年度に25%)、徹底的な財政改革を進めます。すると税収はベース・ケースと比較して15%程度増加し、中央政府の財政収支は2039年度に黒字に転換し、かつ一般政府の長期債務も対GDP比で214.9%と、ベース・ケースの半分の水準に留まります。

シミュレーション・ケース3では、技術進歩が加速し、2015年度以降に現在の年平均1.1%の仮定が1.6%程度に上昇することを想定します。その結果、持続的な経済成長によって実質国内総生産は大きく増加し、社会保障負担額が増加することで相当好転します。今後人口が減少していく中で、生産性を考えていくことの必要性を示唆しています。

経済成長と人口規模をめぐる議論として、1人当たりの経済成長率は「マクロの経済成長率-人口増加率」となります。2010~2030年の人口減少率はマイナス0.47%と見込まれますので、マクロの経済成長率がマイナス0.5%程度であっても、1人当たりの経済水準は維持されるでしょう。 1人当たりの経済水準を取り上げるとミス・リーディングする可能性もあります。

人口規模と規模・集積の経済を考えると、人口規模が多いほど生産性の効率が高まり、規模・集積に対して収穫逓増のメカニズムが働くという議論があります。需要面でも、人口規模が多いほど市場の規模も大きくなり、かつ多様な産業が生まれます。たとえばニッチ市場は、人口規模が大きく多様なニーズを持つ消費者が存在することで成立するという議論があります。

財政赤字の主要因は、90年代は公共事業関係費の増加と減税でしたが、近年は社会保障関係費の増加です。やはり、高齢化に伴う社会保障関係費の増加と政府債務の増加を見直す必要があります。経済成長をすれば財政収支は改善しますが、その効果は限定的です。社会保障の拡大は財政収支を悪化させます。財政収支を改善するには成長促進と歳出削減が必要であり、そのためには社会保障給付の効率化が欠かせません。

社会保障と経済成長の負の関係として、まず社会保障負担の増大による消費の低下、企業負担増加による投資減、働くことのインセンティブ低下による労働供給減が挙げられます。また年金等の充実は、資本ストックの源泉である民間貯蓄を減少させ、社会保障の充実は所得再分配を促進し、政府が非効率である場合は、政府の関与の拡大が経済の非効率を高めます。社会保障に関する取引コストの増加や、社会保障支出の拡大が財政赤字をもたらし長期金利を上昇させることも考えられます。

人口減少社会における経済・社会政策

少子高齢・人口減少社会には、経済成長と労働市場の問題(労働力人口の減少、貯蓄率低下、技術進歩鈍化)、社会保障制度の問題(社会保障給付の増大、財源の確保、世代間公平性)、社会的多様性(コミュニティの維持、社会的活力、高齢者向けインフラ)、地域・都市構造(地方の高齢化、限界集落、コンパクトシティ)、家族のありよう(単身化、家族規範の変化)など、たくさんの課題があります。

社会保障制度の基本的な方向性として、高齢化(高齢者人口の増加)は、今後の社会保障支出をさらに増加させることは間違いありません。社会保障支出の増加は経済成長に負の影響を及ぼし、財政収支についても赤字化の要因となります。 しかし社会保障制度は不可欠な社会システムであり、単純に削減すればいいというものではありません。

以上を勘案すると、「ターゲッティング」をより重視する必要があります。本当に必要な人に、必要な社会保障を給付していく仕組みに変えていくということです。年金に関しては、基礎年金財源の租税化(ベーシック・インカム化)と資産・所得による対象者の限定、給付開始年齢の引き上げに関するインセンティブの付与(より逓増的な給付)が、1つの方向性だと思います。

医療・介護では、高額療養費制度の充実(ビッグリスクへの対応)と軽症者の負担増加、免責制の導入、フリーアクセス制限、管理競争の考え方も必要でしょう。生活保護については、対象者の限定、就労促進(ワークフェア)、バウチャー(フードスタンプ)導入、フランスRSAのような資産超過の場合の返還制度を考えていくべきだと思います。

世代間格差を巡る議論として、社会保障制度を維持するということは、世代間の公平性を維持することにもつながります。現在、高齢者に対しては多くの社会保障給付が行われている一方で、若年層にはあまり見返りがないという指摘もあります。

応益原則からすると、便益の得られない若者が負担するのは納得できないし、応能原則からしても、所得が低迷し雇用も不安定な若者が裕福な高齢者を支えるのはおかしいという議論です。一方で高齢者からは、今の日本の礎を築いた先輩世代に多少の負担をするのは当然であり、自分たちも先の世代に対してさまざまな負担をしてきたという反論もあります。

将来、日本の人口が減少する中で社会保障を維持していくためには、世代間格差を縮小していくことが大事です。そのためにも「ターゲッティング」という考え方に基づき、効率的な給付によって若者の負担もできるだけ減らしていくことが必要だと思います。

日本経済新聞電子版(2013年9月18日)によると、オランダ国王は議会で、財政難によって「20世紀後半の福祉国家は持続不可能となっている」と訴え、「福祉国家はゆっくりと、しかし確実に『参加社会』へ変化している。可能な者は自分やまわりの人々の生活の責任を担うことが求められている」と語ったとのことです。

つまり我々は人口減少社会を迎えるにあたって、できる人は自分でやっていただき、大きなリスクを抱えている人に対しては手厚くしていくという、ターゲットを絞った効率的な政策が必要と考えています。

質疑応答

モデレータ:

少子化に対する現物給付と、年金・医療・生活保護といった高齢者向け社会支出の改革案の2つのバランスを、日本は今度どのように図っていくべきでしょうか。また、被災地復興にもかかわると思いますが、都市を今後どのように再編し人口集約していくべきでしょうか。

A:

バランスを考えると、日本は若者に対する支出が非常に少ないため、OECD平均並みには引き上げる必要があると思います。現在の2倍近い支出となりますが、それを待機児童解消などに向けていくべきでしょう。また年金・医療の支出の無駄な部分を削減できるならば、それも充当することが世代間公平性の観点で望ましいといえます。

日本で出生率が低いのは東京や大阪ですが、人口は継続して東京に移動してきており、都市をどのように考えていくかが大事だと思います。今後、コンパクトシティなど中小規模の集積をつくるような国土計画が必要と考えています。

Q:

外需獲得の面で、アジアの長期的な人口変動はどうみればいいでしょうか。また世界の歴史の中で、たとえば欧州でペストが大流行し人口が一時的に激減した後には、どのような回復メカニズムが働いたのでしょうか。

A:

台湾や韓国では日本以上に出生率の低下がみられ、高齢化も将来的には日本を抜く勢いです。ですから2050年頃までは、アジアにマーケットを求めていくことはできると思いますが、その先は不透明です。

またペストで一時的に人口が減少した際は、構造的な要因ではないため反発する揚力もあり、当時は労働力人口としての子どもが重要視されており、すぐに回復したのだと思います。しかし最近は、構造的に子どもに対する需要が減っているため、同様に考えるのは難しいと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。