ホワイトカラー正社員の管理職割合の男女格差の決定要因 ―女性であることの不当な社会的不利益と、その解消施策について

開催日 2013年8月30日
スピーカー 山口 一男 (RIETI 客員研究員/シカゴ大学 ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)
モデレータ 坂本 里和 (経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長)
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開催案内/講演概要

経済産業研究所が行ったワークライフバランスに関する国際比較調査のうち、日本企業調査とその従業員向け調査のリンクデータを用い、ホワイトカラー正社員中の管理職割合の男女格差の決定要因を分析した。

まず厚生労働省の企業人事担当者へのアンケート調査に出てくる女性の離職率の高さなどの「女性管理職者がいない・少ない主な理由」は、原因の一つではあっても客観的には主な理由ではなく、わが国では現在の勤め先への勤続年数が同じでも高卒男性に比べ、大卒女性の管理職割合が遙かに劣り、性別という生まれの属性が、教育達成より重んじられる、わが国の「前近代的」人材登用慣行が真の問題であることを示す。

また男女の人的資本の違いで説明出来る課長以上割合の男女格差は20%程度であること、長時間労働は男性以上に女性にとってむしろ管理職要件となっていると考えられること、年齢が同じでも有配偶男性は最終子の年齢により管理職割合は増え女性は逆に減る傾向があり、企業による夫婦の伝統的役割分業の押しつけが管理職割合に反映されていること、ワークライフバランス達成への組織的取り組みのある企業は男女格差が少なく、その格差削減の度合いは女性の離職率が減ればさらに大きくなること、などを示す。

また格差解消には企業が高学歴女性を含め長時間労働ができない女性を管理職登用から外す間接差別的制度の廃止とワークライフバランスの達成できる職場の実現をまず実行せねばならず、その上で将来的には学歴の男女平等化と女性の就業継続が大きな鍵であること、などを示す。

議事録

日本の管理職の女性割合は国際的にみて極めて低い

山口 一男写真管理職における女性の割合は、企業の生産性を示す1つの指標です。女性の人材活用を進めることによって、自然に女性の管理職が多くなるような企業は時間あたりの生産性が高いのです。しかし、日本の管理職の女性割合は、国際的にみて極めて低いのが現状です。

2010年のデータでは、管理職の女性割合は米国で43.0%に上り、ほぼ男女平等です。それに対して日本は、女性の就業率は40%ながら、管理職割は10.6%に留まっています。韓国はさらに低い10.1%ですが、2006年に女性の「積極的雇用改善措置法」を制定してから、従業員500人以上の大規模企業では管理職の女性割合が毎年1%ずつ伸びています。このままでは就業者全体での割合でも間もなく韓国にも抜かれてしまうでしょう。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、日本では、管理職の女性割合の改善度が遅いことがわかります。同省の「女性雇用管理基本調査」「雇用機会均等調査」では、女性管理職が少ない、あるいはまったくいない3大理由の割合としては、「現時点では、必要な知識や経験、判断力などを有する女性がいない」が圧倒的に多くなっています。次いで、「将来管理職に就く可能性のある女性はいるが、現在管理職に就くための在籍年数などを満たしている者はいない」や、「勤続年数が短く、管理職になるまでに退職する」といった理由は、ともに女性の離職率の高さが管理職の少ない原因となっています。

「課長以上の女性管理職が1人もいない」という従業員50人以上の企業は、日本で45%に上ります。つまり企業内で、女性の人材を育てていないことが問題視されていないわけです。また、女性の離職率の高さが本当の理由なのでしょうか。RIETIが2009年に行った「ワークライフバランスに関する国際比較調査」の私の分析結果では、勤続年数が同じ正社員の場合でも、管理職になる割合は男性がはるかに高くなっています。これが矛盾する1つの結果です。

たとえば勤続年数区分別女性割合をみると、1990-1994年入社では約30%の正社員は女性ですが、男性は課長以上が36%、係長以上が82%であるのに対し、女性は課長以上が6%、係長以上は33%に留まっています。正社員の女性割合が勤続年数とともに減少するにしても、同じ勤続年数でも大きな男女差があることがより大きな問題だと思います。

DFL法による分析

分析1として、反事実的状況の統計的実現による管理職割合の男女格差の要因分析(DFL法の利用)を行っています。Xを性別、Yを管理職割合、Zを教育や勤続年数などの仲介変数とし、女性の仲介変数の分布が男性と同じになる反事実的状況を統計的に作り出し(これはXのZへの影響を取り除くこと)、たとえば「女性の学歴と勤続年数が男性と同じなら」という状況での、XのYへの影響(管理職割合の男女格差)を推定します。

分析2は、男女の仲介変数Zの差では説明出来ない管理職割合の男女格差の分析で、男女格差の異質性(どういう個人の属性や企業の特性によって、男女格差が大きかったり、小さかったりするのか)の分析です。技術的には、管理職割合を被説明変数とする回帰分析(ロジスティック回帰分析)で、説明変数Vと性別Xの交互作用効果(性別の影響が一様でなく、Vの値によって変わること)が判明すれば、異質性の特質がわかります。

分析したデータは、2009年に経済産業研究所が行った『ワークライフバランスに関する国際比較調査』のうち日本企業調査(従業員数100人以上)とその従業員調査のリンクデータ、企業の特徴は企業調査データを用いています。従業員調査はホワイトカラー職の正社員、従業者数100人以上の1677企業に従業する23-59歳の男性6480人、女性3023人の標本を用いています。

「男女の年齢分布の差」をみると、23-29歳から55-59歳まで、年齢区分が上がるに従って女性の構成割合は下がっていますが、男性は35-39歳がピークになっています。「大卒割合の男女格差」では23-29歳がもっとも小さく、高年齢になるほど大きくなっています。

「標準化とDFL法による管理職割合の男女格差の要素分解」では、男女の人的資本(教育、年齢、勤続年数)の違いは、課長以上割合の男女格差の21%、係長以上割合の男女格差の30%しか説明できません。つまり、もし女性の人的資本がすべて男性と同じであったとしても、70~80%程度の差が残ってしまうということです。

男女の学歴差が管理職割合の男女格差を説明する度合いは8%程度です。なぜ男女の学歴格差の解消は、管理職割合の男女格差を大きく減少させないのか――。「課長以上割合の大卒・高卒別男女格差」をみると、高卒男性の方が、大卒女性より遥かに管理職割合が高いのです。企業の正社員規模別に推定し、大卒男性の企業規模別割合のウェイトで標準化し平均をとっても、結果はほぼ同様です。わが国の企業では達成の主な指標である学歴よりも、男であるか女であるかという生まれの特性が管理職昇進機会に大きく影響しているのです。

教育・年齢・勤続年数以外に、正社員の管理職割合の男女格差に大きく関係している男女差は、就業時間の男女差で、「標準化とDFL法による管理職割合の男女格差の要素分解」では、就業時間の男女差は、課長以上割合の男女格差の18%、係長以上割合の13%を説明します。これは特に週49時間以上の就業が差を生むのですが、恒常的長時間労働が管理職要件であるなら、仕事と家庭の両立の難しい女性には管理職昇進への大きなハンディキャップとなっていることを意味します。

ロジスティック回帰分析

ロジスティック回帰分析によって性別、学歴、企業規模の効果をみると、性別の影響は、教育(大学・大学院卒であるか、高卒であるか)の影響の4.6倍に上ります。つまり教育よりも性別のほうが、圧倒的に管理職割合に影響を及ぼしているわけです。これほど差があることに、私も衝撃を受けました。

課長以上割合の男女格差に影響すると判明した変数として、学歴では、大卒・大学院卒は格差が小さくなっています。企業規模では、正社員1000人以上で格差が小さくなります。また、有配偶者で最終子の年齢が6歳以上、特に6-14歳の場合は男女格差が大きく、ワークライフバランス推進組織を持つ企業の正社員間では、持たない企業の正社員に比べて格差が小さくなっています。

就業時間は、週49時間以上の就業者は格差が小さくなっていますが、解釈には逆因果関係の可能性も大きいため注意を要します。つまり、週49時間以上の労働が男性より女性にとってより強く管理職要件になっていることの結果と、管理職になると週49時間以上の労働をせねばならない傾向が男性より女性にとって大きいことの結果が、混在するからです。しかし、どちらであれ女性にとって長時間労働を受け入れることが管理職割合の男女格差を少なくする条件の1つであることに変わりはなく、このことが格差が残る理由の1つとなっています。

係長以上割合の男女格差に影響すると判明した変数では、人事政策で 「性別にかかわらず社員の能力発揮に努めている」企業の正社員間では、そうでない企業の正社員間に比べて格差が小さくなりました。これは、課長以上では有意な結果が得られていません。学歴、企業規模、就業時間、有配偶間での最終子の年齢は、課長以上の場合と同様の傾向がみられました。

課長以上の割合の男女格差についての企業特性と人的資本の相乗効果の分析(飽和線形確率モデル)の結果、ワークライフバランス推進組織を持つ企業の普及による格差縮小効果は、男女雇用者の人的資本の男女差が少なくなるほど、効果が大きくなることが分かりました。正社員1000人以上の企業内での男女格差は、その他の企業内での格差より小さく、さらに人的資本の男女差が小さくなるほど、急速に格差が縮小します。そのため将来的には、正社員1000人以上の大企業については、男女の人的資本の同等化によって格差をかなり解消できる可能性が高いと考えられます。

政策インプリケーション

大部分の企業において、教育や勤続年数で説明できない格差が残っています。それは総合職と一般職のように性別と強く関連する企業内コース制度を通じて多くの女性を管理職候補から外す慣行や、仕事の割り当てを通じて、女性には易しい仕事、男性にはよりチャレンジし甲斐のある仕事を与えることによって育成効果の差が出ることの結果と考えられます。そういった間接差別は、法的に禁止する必要があるでしょう。

わが国の 2006年の雇用機会均等法改正では、間接差別について「一方の性の構成員に他の性の構成員と比較して相当程度の不利益を与えるものを合理的理由なく講じること」としています。具体的には、総合職の条件として転勤あるいは単身赴任できるかどうかを条件としてはいけないという項目が含まれていますが、コース制や仕事の割り当てを通じた間接差別は含まれていません。

また、差別は国際的には「目的(意図的差別)」と「効果(意図は定かでないが結果の格差)」をともに含むことが明記されていますが、わが国ではそれも明示的でなく、このことが男女格差を生む効果を持つ制度や慣行の解釈を曖昧にしています。わが国も国際的基準に従い、差別の意図にかかわらず結果として格差を生む制度・慣行も間接差別とみなすべきでしょう。

政府や地方自治体のすべきこととして、最終子が6-15歳の子供のいる家庭の女性が、正社員であっても管理職割合が特に低くなっており、女性が大きなハンディキャップを受ける状況になっています。大部分の学童保育は小学校1-3年生を対象としています。政府は、学童保育について託児所・保育所の充実同様に取り組む必要があり、学童保育は従来からの児童福祉という観点からではなく、女性の活躍の推進という観点からも見直し、従来学童保育の主な対象であった小学校1-3年に限らず、小学校4-6年にも同様の重点を置くべきです。

企業のすべきこととしては、まず女性の管理職登用など、人材活用を目的としてワークライフバランス推進への組織的な取り組みをする企業を増やすことが重要です。そのような企業では女性の離職率の減少が見込まれ、また女性の継続就業の増加は、ワークライフバランス推進と相乗効果をもって女性の管理職割合を推進させることが期待できます。

また企業は管理職昇進要件として、会社の都合に合わせて恒常的に長時間労働を行う働き方を受け入れることを一種の「踏絵」とする慣行を止めるべきです。残業時間がなくても、あるいは短時間勤務であっても、時間当たりの生産性が高い女性は男性と同等にいると考えられ、長時間労働の要求は、そのような有能な女性の活躍を阻み、かつ離職を促進し、企業にとっても人材活用上不効率を生んでいると考えられます。

女性に期待することと、その政策支援として、女性は男性と同等の高等教育を目指すべきだと考えます。大卒の方が格差は少なくチャンスは増えますし、米国をはじめ多くの経済的先進国では、大卒割合は女性がむしろ男性より高くなっています。政府は、従来女性が比較的少ない理工学部・経済学部への進学に対し、女性を対象とする奨学金制度をポジティブ・アクションの1つとして拡充すべきです。また女性は、継続就業が大きな生涯所得差を生むだけでなく、キャリアの進展に際して重要という点も認識すべきでしょう。大企業に正社員で勤める女性の離職の機会コストは特に大きく、関連して、国による育児休業後や育児離職後の復職支援が重要です。

男性に期待することと、その支援として、共働きの夫は、夫婦の間で伝統的役割分業の合意があれば第三者が介入すべき問題ではないが、そうでない場合は、家事・育児の負担を妻と同等に分かち合うべきです。しかし、夫婦の伝統的役割分業の存続には、男女賃金格差から来る家事・育児の機会コストの男女の違いの影響もあるため、ここでも企業がワークライフバランスを達成できる職場や柔軟な働き方が可能な職場を実現することによって、家事・育児の機会コストを少なくすることが重要となります。

また企業は、性別にかかわらず家事・育児に参加する雇用者にペナルティを与えるなど、その結果、雇用者のキャリア進展が(育児休業などによる一時的進展中断は別として)将来的に損なわれることがないように努めるべきです。これは、次世代育成支援対策基本法の精神に関するコンプライアンスの問題ともいえます。

質疑応答

Q:

女性の活躍を推進するために時短勤務拡充の要望を受け入れてしまうと、男女の社内での業務役割分担が強化されてしまうというジレンマが、企業の現場にはあります。最終子6歳以上の女性社員の支援とは、時短の拡充で推進すべきか、もしくは学童の拡充で推進すべきか、お考えをうかがいたいと思います。

A:

最終的には、雇用者個人が選択できることが望ましく、学童保育の拡充は機会のオプションを増やすという意味です。私自身は、時短勤務よりもフレックスタイム勤務や在宅勤務のほうがいいと考えています。たとえば米国の働く女性たちは、時間は短くありませんが、在宅を含めてフレクシブルに働いています。日本ではチームで働く慣行が根強く、業務分担も明確でなく制約が大きいため、よりフレクシブルに働けることが重要だと思います。

Q:

業種をコントロールした集計結果はありますか。

A:

課長以上割合については、業種と性別との交互作用効果はありませんでした。つまり、差がないということです。ただしサービス業のうち教育関係などでは、標本数が少ないので確定はできないのですが、やはり機会が少し多い傾向もみられました。係長以上割合については、製造業企業の正社員に比べ、むしろ運輸・通信・郵便業、卸売小売業の正社員では男女格差が小さく、女性の活用が進んでいるといえます。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。