2013年版中小企業白書:自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

開催日 2013年5月16日
スピーカー 小山 和久 (経済産業省 中小企業庁 事業環境部 調査室長)
モデレータ 小林 庸平 (RIETI 研究員)
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開催案内/講演概要

地域や社会を支える中小企業・小規模事業者は、変化する事業環境に合わせ、経営を変革させている。

2013年版中小企業白書では、起業・創業、新事業展開、事業承継、情報技術の活用等に焦点を当て、現状・課題・具体的施策について明らかにする。

議事録

2013年版中小企業白書のポイント

小山 和久写真2013年版中小企業白書は、1964年に第1回白書が発表されてから、ちょうど50回目にあたります。そこで過去の白書の記述に基づき、中小企業を取り巻く環境、直面する課題、期待される役割等の過去50年にわたる変遷を明らかにしています。

第1部「最近の中小企業の動向」では、第4節で「中小企業・小規模事業者の役割・課題」を分析しています。企業数で全体の99.7%を占める日本の中小企業は多くの雇用を支えており、とくに三大都市中心市が所在しない道県に本社がある中小企業が生み出す雇用は、地域雇用全体の8割を超えています。そして規模の小さい企業では、規模の大きい企業よりも多くの女性が管理的職業に従事するなど、女性の雇用の大きな受け皿にもなっています。

規模別にみた製造業の固定比率(=固定資産/純資産)をみると、小規模事業者は自己資本が少ないため200%を超えており、中規模企業や大企業との差が大きく開いています。このように、中小企業を小規模事業者と中規模企業に分けた分析も行っています。

第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者

第1章 起業・創業

第1章「起業・創業」では、第1節「多様に展開する起業」として、起業家の特徴を分析しています。アンケート調査によると、事業経営方針として「規模の拡大より、事業の安定継続を優先したい」と回答する起業家が70%近くを占める実態があります。その中で、目指している今後の市場として「同一市町村」又は「同一都道府県」と回答している企業を「地域需要創出型」と位置づけています。また、事業経営方針として「規模を拡大したい」と回答し、かつ目指している今後の市場として「全国」または「海外」と回答している企業を「グローバル成長型」とし、この2つのタイプを比較しました。

起業の特徴として、グローバル成長型では相対的に対民間事業者向けの割合が高く、 地域需要創出型は三大都市圏中心市が所在しない道県内に多く所在し、かつ女性起業家の割合が高くなっています。起業家の起業年齢をみると、グローバル成長型の方が若い傾向にあることがわかります。

対個人消費者向け事業を行うスタートアップ企業に焦点を当て、起業が地域・社会に与えた影響をみると、地域需要創出型の起業は「地域住民の生活の充足や質の向上」に寄与しており、グローバル成長型の起業は「やりがいのある就業機会の提供」に大きな役割を果たしています。

第2節では、萌芽期(本業の製品・商品・サービスによる売り上げがない段階、起業準備期間を含む)における企業形態別の起業・事業運営上の課題について分析しています。地域需要創出型で各種手続、資金調達、経営ノウハウ不足、グローバル成長型で資金調達、各種手続、経営ノウハウ不足を挙げる起業家の割合が高く、2つのタイプで大きな違いはありません。

萌芽期の資金調達先は、預貯金や副業収入を含む自己資金と回答している割合が9割に上ります。また日本政策金融公庫の調査によると、開業時に準備した自己資金額は230万円(中央値)となっています。

第3節では、成長初期(売り上げは計上されているが、営業利益が黒字化していない段階)における起業・事業運営上の課題として、各種手続を課題とする企業が減少し、質の高い人材の確保と回答する企業が多いことを指摘しています。資金調達の問題は、依然として大きな課題となっています。

成長初期には経営を補佐する人材を求める企業が多く、加えて、グローバル成長型の企業では製品・サービスで高い技術を持つ人材、販路開拓のできる人材を求める割合が上昇しています。

第4節では、安定・拡大期(売り上げが計上され、少なくとも1期は営業利益が黒字化した段階)における起業・事業運営上の課題として、引き続き、質の高い人材の確保が高い割合を占めることが明らかになっています。両方の起業形態において資金調達を課題とする割合が低下する一方で、新たな製商品・サービスの開発を課題とする企業の割合が、とくにグローバル成長型で上昇しています。

安定・拡大期には、後継者候補となる人材を求める企業が大きく増えており、地域需要創出型ではもっとも高い割合となっています。グローバル成長型では、企画・マーケティングができる人材を求める企業の割合が大きく上昇しています。必要とする起業支援策については、人材確保支援を挙げる起業家がもっとも多くなっています。

再起業の取り組みについて行ったアンケート調査では、再起業時に障害があったと回答した人は7割を超え、起業初期と同様に、資金調達が最大の課題として挙げられています。また、再起業してうまくいくためには「既存の知識・経験・ノウハウを活かせる事業を選択すること」が必要と考える人は55.3%に上る実態を示し、実際に、既存の知識やノウハウを活かしながら、新たな要素を加えて再起業を果たした紙箱製造業者の事例を紹介しています。

第2章 新事業展開

新事業展開は事業の再生や成長の観点からも重要な課題となっていますが、2つの類型として、事業転換(過去10年の間に新事業展開を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった場合)と多角化(過去10年の間に新事業展開を実施した場合で、事業転換以外)を比較し、分析しています。

第1節「新事業展開を実施した企業の特徴」では、新事業展開を実施した企業の方が、そうでない企業よりも売り上げや雇用の先行きを増加傾向と見込む割合が高いことが明らかになっています。また多角化よりも事業転換の方が、経営パフォーマンスは高い傾向がうかがえます。

新事業展開の検討を始めた当時の業績は、事業転換した企業、多角化した企業とも、好転と悪化が拮抗しています。業績が好転し、余力がある間に新たな収益源を確保しようとした企業と、業績が悪化している中で、現状打開のために新事業展開を実施した企業の二者が存在しているわけです。また、新事業展開をした企業は、自社ブランドの製商品・サービスがある割合も高くなっています。

第2節「新事業展開における事業分野の選択理由と効果」では、新たな事業分野の選択理由として「自社の技術・ノウハウを活かせる」と考える企業がもっとも高く、「自社製品・サービスの提供ルートを活かせる」ためと考える企業も3割を超えており、中小企業が、既存の経営資源を最大限に活かせる分野を模索してきたことがうかがえます。

新事業の関連分野、および今後関心のある新事業分野については、新エネルギー関連や省エネルギー関連、環境保全・リサイクル関連の回答が多く、関心も高まっていることがわかります。

第3節では「新事業展開の課題」として、中規模企業が人材の確保や新事業経営に関する知識・ノウハウの不足を挙げる企業が多いのに対し、小規模事業者の多くは、資金面の課題を挙げています。

第4節「今後の新事業展開に対する意向」では、新事業展開を未実施の企業は今後の新事業展開にも消極的であり、新事業展開を実施する企業が固定化していくことが懸念されます。新事業展開を実施・検討する予定がない理由については、「有望な事業の見極めが困難」「既存事業の経営がおろそかになる」という回答が多くなっています。

新事業展開に際して事前に取り組んだことについて、新事業展開で成果を上げた企業は、自社の強みの分析・他社研究を着実に実施しています。事業内容を改めて検証し、他社と差別化できる技術・サービス等を見極めた上で取り組んだ結果、成果につながっていると考えられます。

第3章 次世代への引き継ぎ(事業継承)

第1節「事業承継を取り巻く状況」として、経営者の平均引退年齢は小規模事業者で70.5歳、中規模企業で67.7歳と上昇傾向にあり、経営者の高齢化が進んでいます。また、経営者が高齢である企業ほど経常利益が減少傾向にあります。とくに小規模事業者では、経営者が70歳以上の事業者のうち7割弱が収益悪化に直面しています。

事業承継のタイミングについては、「ちょうど良い時期だった」と回答する現経営者の承継年齢は平均43.7歳となりました。実際の承継年齢が平均50.9歳であることを考えると、後継者への事業承継は総じて遅れているようです。最近は、親族以外の事業承継が増加しており、とくに中規模企業では、その傾向が顕著になっています。

第2節「後継者選びの現状と課題」では、中規模企業の大半が、経営者の引退後も事業の継続を希望しているのに対し、小規模事業者では6割弱に留まる現状が明らかになっています。廃業を希望する小規模事業者は13.7%に上ります。

組織形態別の小規模事業者の廃業理由をみると、規模を問わず「後継者難」の比率が半分以上を占め、とくに「息子・娘に継ぐ意思がない」という回答が目立ちます。

中規模企業では、親族以外を後継者とする理由として「役員・従業員の士気向上が期待できる」など、役員・従業員との関係に関連したものが多く挙げられています。一方、親族を後継者とする理由としては、「血縁者に継がせたい」に加え、借入金の個人保証や自己株式等の引継ぎが容易であることなど、財務や資産に関連した項目が挙げられています。

親族承継については、とくに中規模企業で後継者養成や相続税関係が課題となっていますが、親族以外の承継では、個人保証の引き継ぎや自社株式の買い取り等が課題となっています。個人保証の問題は、純資産規模の大きい企業でも一定程度存在しています。

第3節では「事業承継の準備」として、後継者の資質・能力の向上に取り組んでいる企業が多いことや、小規模事業者は、中規模企業に比べ準備が遅れていることを指摘しています。

第4節「事業売却」では、未上場企業間のM&A件数の推移を示しています。M&A市場はリーマン・ショック以降の落ち込みから回復の兆しをみせており、後継者のいない企業は事業売却への関心が高く、M&Aに対する潜在的ニーズがうかがえます。

第4章 情報技術の活用

第2節「経営課題とITの活用」では、企業課題別のITの活用が必要と考えている企業の割合とITを導入した企業の割合をみています。小規模事業者では、ITの活用が必要と考えているうち、半分程度がITを導入しています。中規模事業者では、ITの活用が必要と考えている企業の割合、ITを導入した企業の割合は、小規模事業者と比べ、いずれの経営課題でも高くなっています。ITの活用についても、小規模と中規模で格差がみられます。

第3節は「ITの導入・活用の効果」として、従業員規模別のITを導入していない理由をみています。全体的に「導入の効果が分からない」を理由に挙げる企業が多く、従業員5人以下の企業では「コストが負担できない」、20人以下の企業では「ITを導入できる人材がいない」を理由に挙げる企業が比較的多くなっています。

規模別のITの導入の効果が得られた理由を分析すると、IT導入の効果を得るためには、目的を明確にし、経営層が陣頭指揮をとる必要があります。中小企業では、システムの仕様の検討や業務プロセスの見直しも重要となります。

第4節では「更なるITの導入・活用のために」として、クラウド・コンピューティング利用の現状と課題について分析しています。クラウド・コンピューティングは、大企業に比べて中小企業の利用は進んでいませんが、導入のメリットとして、100人以下の企業では「技術的な専門知識がなくても導入できる」、全般的には「初期コストが安い」を挙げる企業が多くなっています。一方、システムの信頼性・安全性、既存システムとの連携を課題とする企業が多い状況にあります。

質疑応答

モデレータ:

新事業展開を実施した企業が売り上げや雇用の先行きを増加傾向と見込むという調査結果は、生産性や新陳代謝の側面からも興味深い点ですが、一方で、新事業展開を実施・検討する予定がない企業の割合が高くなっています。今後、新事業展開を促すために必要なことについて、ご意見をうかがいたいと思います。

A:

日本全体の活力を高めていくためには、これまで新事業展開を実施・検討したことのない企業が、経済環境の変化に対応し、新たな分野へどのように取り組んでいくかが重要です。将来を見渡し、自社の強みや同業他社の状況について、しっかり研究することが1つの方向性だと思います。

Q:

起業・創業は、最近どのような業種において活発なのでしょうか。また今後の政策の方向性について、うかがいたいと思います。

A:

起業率が高いのはIT分野ですが、全体的な数でみるとサービス業が多いと思います。起業・創業支援政策に関しては、勢いのある分野だけでなく、地域経済の活性化を考えた幅広い支援を含めて考えていく必要があると思います。もう1つの切り口として、女性の起業、若者の起業、シニアの起業など、それぞれの課題とメリットをどう組み合わせていくかが重要です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。