『未来予測2012~2025』~これから「世の中」はどう変わるか~

開催日 2012年12月3日
スピーカー 田中 栄 ((株)アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー)
モデレータ 田中 将吾 (RIETIコンサルティングフェロー/経済産業省 経済産業政策局 調査課課長補佐)
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本講演の目的は、今後10年、15年で「世の中」がどのように変わっていくかを予測することである。「未来」を形作る3つのメガトレンド----「サスティナビリティ」「クラウド」「ライフ・イノベーション」をキーワードに、経済や社会、テクノロジー、業界、ビジネスモデル、ライフスタイル、価値観など、さまざまな角度から未来社会のカタチを「立体的」に捉えていく。

本講演の元になっている「未来予測レポート」は、中長期戦略立案のための法人向けレポートである。大手企業を中心に1200社以上に導入実績があり、業種・業界を超えた「将来シナリオ」として幅広く使われている。

議事録

ビジネスのサービス化

田中 栄写真スマートフォンという商品は、Appleの場合であれば「iPhone+iTunes」というようにマーケットプレイスまで含めた商品、つまり「モノ+サービス」という形になっています。パソコンはこれまでモノでした。しかしこれからは、パソコンもモノ+サービスになっていきます。コンピューティングはモノからサービスへと変わったのです。

この流れの背景にあるのは、IT=パソコンだった世界は、色々なものがネットワークでコンピュータにつながるようになり変化したということです。それを可能にしたのがブロードバンドです。ブロードバンドの重要性は常時接続を前提にできるところにあり、これによってネットと一体化した商品にすることができるのです。

たとえば、Appleの目的はハードを売ることではありません。その後のコンテンツ販売や広告などでサービスを稼ぐという「モノ+サービス」によって、お客さんがどこにいてもサービスを提供できることにあります。Appleは仕組み、つまり「モノ+サービス」を提供し、ハード、ネットワーク、ソフトを融合させたプラットフォーム・ビジネスを展開したということです。日本企業が良いモノを作ろうとしたのに対し、Appleは愛されるモノを作ろうとしたのです。そしてiPodやiPhoneは彼らのサービスの窓口と位置づけられました。ここが未だに日本企業が分かっていないところなのです。

インターフェース、ハードウェア、ソフトウェアが変わる

クラウドはブロードバンド前提のサービスであり、今起こっていることはコンピュータの革命です。クラウドで何が一番変わるかというと、インターフェースです。今まではマウス、その前はキーボードで文字ベースでした。これからは、ブロードバンドとその向こう側のデータベース、データセンター、そしてほとんど無限といえるようなストレージをベースに、音声が本格的に使えるようになります。また、映像で手振りや身振りが使えるような技術も出てきています。

クラウドはハードウェアとソフトウェアという概念も変えます。ハードというのはいわゆるスマホやパソコン等のことでしたが、これからはテレビや車そのものもハードウェアだという捉え方になってくるでしょう。今までと違うのは、常時接続のブロードバンドによって、データセンターまで全て一体化してハードウェアとなることです。これからはメインの処理や開発はデータセンター側で行われ、クライアント側には窓さえあれば済むのです。全てはサービスとして提供されるようになることから、ソフトウェアに関しては「アプリケーション」や「所有」するという概念が無くなってくるはずです。

ビッグデータ

クラウドによってこれから始まるのはセンサーネットワークです。医療、ヘルスケア、農業、エネルギー、白物家電、セキュリティ等、今までと異なった分野にコンピューティングが入ってきます。そして、ブロードバンドによって、センサーから大量の情報がオートマチックに送られてくるようになります。この情報というのは桁違いの量ですので、それを受けるためにデータセンターが必要となります。今後は、テレビの機能や性能も全てデータセンターが決めることになるのです。だからこそビッグデータと言われているのです。現在Apple、Microsoft、Googleなどがデータセンターを作っていますが、ソニー、パナソニック、東芝などの日本企業はいずれも大きく出遅れています。

ビッグデータは今、テクノロジーとして捉えられています。重要なのは情報を集めることではなく、統計的なデータベースを作ることによって、事実に基づく未来予測ができることなのです。センサーが広がるということは、あらゆる業界で予測が可能になってくるということです。たとえば、コマツはこの不況の中でも2兆円規模の会社になりました。変えたのはセンサーです。クラウドというのは、本質的にはコンピュータは半導体の塊ですが、それが形になってさまざまな分野を変えていくことになるでしょう。

これから産業はどう変わるか:スマートディスプレイ

世界はスマートテレビに移行しています。パソコン、携帯、カーナビなどにも同様のことが起こっています。要するに、薄くて軽いディスプレイ、ある程度動くMPU、ネットアクセス機能があれば、後は基本的に大きさと使う場所の違いだけなのです。

もう1つ大きな流れになるのが、MtoM(機械から機械)の超高速ワイヤレス通信です。常時接続のクラウドでは、クライアント側はインターフェース+α程度、たとえばGoogleがやっている、クロームOSを使ったブラウザだけのOSのようなものがメインになりデータ処理をします。しかし、キーボード自体は効率的なインプットですから、そのスタイルは変わらないでしょう。

スマートフォンはすごい勢いで増えていますが、スマートフォンで動画を見てもあまり楽しくありません。できればタブレットやテレビなどが良いと思うのです。つまり、機能ではないのです。日本人はどうしても技術で考えがちですけれども、同じ機能でも、大きさや場所により役割が違います。ただ、結局全てはネットワーク対応ができるディスプレイになってくるのだということです。

これから産業はどう変わるか:エネルギー

人口増加と経済成長により、エネルギー需要は爆発的に増えていきます。そして、エネルギーの変換が変わってきます。太陽光を含めた色々な再生可能エネルギーの会社がでてきますし、再生可能エネルギーはこれから確実に増えてくると思われます。しかしながら、エネルギー安全保障という点では、1%を増やすということが必要になってきます。それだけ海外からのエネルギーを確保しなくてよくなるからです。

家の中での特に大きな変化は、直流でUSBなどから電源が取れるようになるということです。今の太陽光のシナリオでは、パネルで発電した直流を交流に戻さなくてはなりませんので、変換時にロスがでます。しかし車などで蓄電池を使えば、直流から直流にそのまま充電できるため効率が良いのです。また、今後はイーサネットやUSBを経由して100Vの電気が流れるようになってきます。家電製品の形も変わりますし、直流系統がより重要になってきます。これはスマートハウスなどを造る上でも、非常に大きな変化になっていくでしょう。

これから産業はどう変わるか:自動車

EV(電気自動車)は走らないと言う人がまだいますが、EV走行の世界記録は、ドイツの応用技術大学による1600kmです。アメリカでは、400km走って30分で充電できるモデルも実際にでてきました。中国では電動スクーターが年間に2000万台以上でています。大陸の場合は長距離ドライブの必要性から、発電機付きのEVも見られます。今は、いかに短時間で充電でき、いかに充電ステーションを整えられるかということがポイントになってきている状況です。

材料はとにかく軽いということがポイントになります。特に重要な材料は、CFRP(炭素繊維複合材)とアルミニウムです。鉄の2割の重量しかないCFRPは、加工が難しく、日本が圧倒的に強い分野です。さらに、CFRPであれば現在車のボディ材料となっている特殊鋼と異なり、レアメタル確保の心配がなくなるのです。それにも拘らず日本の自動車会社には受け入れられず、BMWやメルセデスが使用しています。アルミニウムの良い点は重さが鉄の4割程度で、加工しやすく腐食しにくいことです。石油が安定的に確保できなくなったとき、またはそういったリスクを排除するためにも、植物バイオ系のプラスチックや電気自動車を使用することで、火を使わないことが可能になります。

自動車用ネットサービスの次世代テレマティックスである、GMのOnStarというサービスでは、北米で既に500万人以上の会員がいます。このサービスにはブロードバンドが必須ですが、アメリカでは必要なインフラ整備がどんどん進んでいます。日本は完全に遅れをとっているのです。また、このサービスはGMだけでなく、フォード、ヒュンダイ、トヨタなども進めており、Microsoftが基本技術等を提供しています。

これから産業はどう変わるか:医療・バイオ

医療はハイテク・装置産業化していきます。たとえばサムスンはこれを見越した上で、外来患者が年間で約280万人という、世界最大級の病院を造っています。もう1つ起こっているのはグローバル化です。高級ホテル並みの設備が整うタイのバムルンラード国際病院では、マンツーマンで看護・治療が受けられます。年間40万人の患者で、年間売上高は約200億円に達しています。いずれは日本にも変化が訪れるでしょう。

この大きな変化の根底にあるのがゲノムです。ゲノムの解析により、人間の老いや病に関する根源的なことがここ10年くらいでわかってきたのです。また、iPS細胞の最もすごいところは、あるスイッチを入れると時間を戻せるということを発見してしまったことです。これらもビッグデータなのです。もちろん単純な話ではありませんが、こういうことを専門家が解析することによって未来が見えてしまうのです。

現在は別分野の農業と医療にも、1つの大きな流れとしての装置産業化は必要であり、法人経営が必然になってきます。そうなると、枠を超えて一体で経営したほうが良いという話もでてきます。石油化学工業からバイオ科学工業への変化です。そしてこれからは、人工光合成、あるいは静脈産業といわれる、浄化することで出現する炭化水素を使うことによって、食料、エネルギー、工業原料を作るということが現実的に可能になってきます。

21世紀の経営戦略

経営企業がこれから考えなければいけないのは、いかに1円でも高くするかということです。これは値段を上げるということではなく、価値を高めてそれに見合った値段をつけるということです。たとえば時計にはデジタル時計と機械時計があります。機械時計は1/10の数しか売れていませんが、売り上げは機械時計のほうが大きいのです。数を売るだけが商売ではありません。いかに価値を高めて売るかということです。

2点目は、モノをプロデュースする力が不可欠になってくるということです。これは、どの会社もできなくて悩んでいることでもあります。会社を駄目にしている最たるものはコンプライアンスで、人や情報を入れないようにしています。しかし外との繋がりがなければビジネスプランは具体化しません。モノを作ることは大切ですが、それを使ってどうビジネスを作るかがより大切なのです。モノを「メイク」することではなく、商品を「クリエイト」することに変わってくるということです。

3点目は、メーカーと言われている会社が今後考えなければいけないのは、「ファン」を作ることです。先にお話しましたiPhoneやiPodのような状況を作られると、いくら良いモノを作っても勝てないのです。マーケティングでは消費者と「つながる」ことが前提となっていきます。

質疑応答

Q:

今後、産業の構造は大きく変わるというお話でしたが、雇用全体としては縮小せざるを得ないのでしょうか。

A:

一般論で話しますと、ブルーカラー的な雇用は国内から無くなる運命にあると思います。ハイテク化された作業はスイッチを入れればよいだけです。同じ仕事を新興国の人は1/10や1/20の労働単価でやってくれるのですから、今までと同程度の給料というのは無茶な話しだということになります。我々がこれから考えなければならないのは、自分たちの価値をどうしていくのかということです。マンパワーではなく、頭脳の問題になってくるのです。これまで積み上げたノウハウ、技術、知識を使い、いかにして日本にしかできないものを作るかという点において、海外からの差別化を図るということが必要になってくると思います。

Q:

旧来のモノ作りの企業では、新規事業の提案に対して「市場はどれだけあるのか」という論理的ではない質問が出されます。こういうことを乗り越えられるかが、企業として一番大きな壁になっている気がします。

A:

多くの企業で「どれくらいのマーケットがあるのかエビデンスを出せ」という話になるのですが、分かるわけがないのです。未来というのは、特に大企業にとっては「なる」ものではなく「する」ものなのです。これと同じことをサムスンの役員から聞きました。彼は、市場がどうなるかは分からないが、未来は自分たちが作るのですと仰いました。今、本当に頭の良い40代や50代の人たちが考えているのは、いかにトップを引退させるかということです。モノで偉くなった人たちの頭を変えるのには無理があるからです。優秀な会社はやはり層が厚く、彼らがいなくなるのを身構えて待っている人たちがたくさんいます。そういう意味で、今後企業は変わると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。