日本経済の主要政策課題 - 大停滞、格差、財政赤字と高齢化

開催日 2011年6月6日
スピーカー 原田 泰 ((株)大和総研 顧問)
モデレータ 小林 慶一郎 (RIETI上席研究員)
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現在日本の経済の主要な政策課題である、90年代から今日に至る長期停滞(大停滞)、格差、巨額の財政赤字と高齢化を巡る様々な議論を整理した上で、その要因と対策について暫定的な結論を与えようというものである。

大停滞の原因として金融政策の影響は否定できない。積極的な金融緩和は為替レートや資産価格の変化を通じて実体経済にプラスに働く。格差の要因は高齢化であるが、若年層で拡大した格差には、大停滞の影響が大きい。財政赤字を管理するには、高齢化に伴う社会保障支出の増大を抑えることが必須である。

議事録

3つの大きな政策問題

原田 泰写真日本の政策課題として、特に(1)90年代から現在に至る大停滞(成長率の低下)、(2)格差、(3)財政赤字と高齢化、の3つが非常に大きな問題であると認識しています。

大停滞――なぜ、日本だけ低成長のままなのか

大停滞の原因を説明するものとして、主に5つの仮説があります。

  1. バブル仮説
  2. 生産性ショック仮説
  3. 財政政策仮説
  4. 金融システム仮説
  5. 金融政策仮説

1. バブル仮説
バブルとその崩壊が長期停滞をもたらしたという仮説です。戦後にバブルとその崩壊による不況を経験した先進国はいくつもあります。80年代末の北欧諸国や80年代のスペインがそうですが、いずれもバブル崩壊の10年後には成長率が元に戻っています。その他、小さな危機を経験した13の国(Milder Crisis Countries)に関しては、成長率はバブル前後で殆ど変わりません。それなのに、日本に限って、バブル崩壊から10 年経っても元に戻らず、いまなお低成長が続いています。いくらバブルがあったからといって、その反動で20年間も停滞するのは釣り合いがとれません。したがって、90年代からの大停滞はバブルだけでない、日本に特殊な要因によるものと考えられます。

2. 生産性ショック仮説
90年代を境に日本の生産性上昇率が低下したという仮説です。しかし、生産性を労働時間当たりのGDPととらえると、90年代から殆ど直線で伸びています。そもそも生産性ショックがあったのかが疑問です。さらに、全要素生産性(TFP)の成長率で見ると、(バブル以前の)80年代前半と比べて90年代後半はむしろ上昇しているという試算もあります。

それどころか、80年代末から90年代にかけて、実はプラスの生産性ショックを起こす出来事がいくつもありました。まずは、電電公社と国鉄がそれぞれ1985年と1987年に民営化されたこと。それから、法人税と所得税の大幅引き下げです。生産性にプラスのショックを与える政策を実施したにも関わらず、なぜか低成長が続いたのです。

3. 財政政策仮説
財政政策を原因とする仮説は2通りに別れます。まずは、財政刺戟が不十分だったという仮説。1998年の大不況に関しては今なお根強い説となっています。たしかに1998年にはGDPで2.6%、13兆円のマイナスに相当する財政緊縮、財政ショックがあり、その影響があったことは間違いありません。しかし、その前後に実は金融システムショックとアジア通貨危機による対アジア輸出の激減が重なって起きていました。1998年の大不況は、財政ショック、金融システムショック、アジア輸出ショックによる複合不況です。

さらに、もう1つ強調したいのは、1997年に日銀が意図せざる金融引き締めを行っていたことです。というのは、金融ショックの際に銀行に対して特別貸出を実施するのと同時に全体のマネタリーベースを増やさなかったからです。マネタリーベースが増えないままだったため、特別貸出をした分だけ、実質的な金融引き締めとなりました。これが「意図せざる金融引き締め」で、1998年の大不況に少なからず影響を与えたと見ています。

反対に、財政刺激のしすぎが大停滞を引き起こしたという仮説もあります。しかし、財政刺激をすればするほど景気が悪くなる「非ケインズ効果」が仮にあったとしても、その効果は限定的だったと思われます。財政支出の拡大が経済効率を低めるのは事実であり、今回の震災復興についても懸念されているところです。ただ、1990年から2000年までの公共投資――累積増加分で89兆円――が仮に全部無駄だったとしても、2000年の資本ストック1346兆円に対して6.6%、GDPに換算すると10年間で2.2%、年率で0.2%の減少にすぎません。したがって、仮にマイナス効果があったとしても、大停滞の要因の一部でしかありえません。

4. 金融システム仮説
金融システムの機能不全、すなわち不良債権問題が大停滞をもたらしたという仮設です。これも2通りの説があります。1つは、貸し渋り(クレジット・クランチ)説。もう1つは追い貸し説です。貸し渋りについては、1998年以外は無かったという見方が主流になっています。一方の追い貸し説も、大停滞全体の説明にはなりえません。なぜなら、先述の公共投資と同じ方法で判断する限り、それほど大きな部分を占めないからです。1992年から2008年にかけて処理した不良債権99兆円のうち――その殆どは1990年以前のバブル期に作られたものとみられますが――仮に3分の1に相当する33兆円がそうだったとしても、資本ストックに対する比率は2.5%、よってGDPの押し下げ効果は10年間で0.8%にすぎません。

5. 金融政策仮説
金融緩和が不十分だったために大停滞を引き起こしたという仮説です。金融政策の重要性に関しては、VARモデルを用いて大停滞を分析した研究が多数あります。

日銀は2000年代になって量的緩和政策に踏み切ります。2006年までのデータを用いた分析Honda et al(2007年)とHarada(2009年)では、いずれも量的緩和は資産価格の上昇を通じて景気にプラスの効果を与えたという結論に達しています。別の文献でも、2000年以前にマネタリーベースを増やした際は、生産にプラスの影響があったという結果が出ています。これに関しては、生産が増えたからマネタリーベースが増えたという議論もあり、どちらが原因でどちらが結果なのか分からないという批判があります。しかし、80年代後半は円高対策のため意図的な金融緩和政策が行われていますし、その後はバブル潰しのための意図的な金融引き締め政策が行われています。つまり、マネタリーベースの変動は殆ど意図的なものであったといえます。

金融政策で景気を回復させることができるのに、日銀が金融緩和に踏み切らない理由について、Fukao(2004年)は、将来的な金利上昇を恐れているからだと指摘しています。金融緩和をすると短期的には金利が下がりますが、経済が刺激されることによって景気が回復し、物価が上がると、当然、金利も上がります。結果、債券価格が下落し、貸出難により債券保有を拡大していた銀行のバランスシートが悪化する可能性があります。

不況が続くと貸出先の無い銀行はしかたなく債券を買います。しかし、いつかはインフレになるでしょう。つまり、先に行けば行くほど問題が大きくなる訳ですから、早めに思い切って金融緩和しておけばよかったのです。

以上の考察から、不十分な金融政策が、資産価格、銀行のバランスシート、円高などを通じて、大停滞をもたらしたといえます。

格差――日本は本当に平等な国か?

「日本は格差が無い国だったが、ここにきて格差が拡大している」というのが通説となっています。しかし、「実は、昔から格差はあった」というのが私の見解です。

たとえば、OECDの統計で見ると、日本は格差の無い国どころか、70年代から現在までほぼ一貫してOECD諸国で中位を占めています。また、相対的貧困率で見ると、格差の大きい国でした。昔から、日本には貧しい人が多かった。

電力会社が地方で原発を作ることができたのも、貧しい地方があったということも背景にもあると思います。私たちは、このような現実を見ないで、日本が平等な国だと思いたいから思い込んでいただけではないでしょうか。米国ほど不平等でないにしろ、先進国の中でもっとも平等な国とはとてもいえない気がします。

財政赤字と高齢化――このままだと大増税の時代に

日本の累積債務残高(対GDP比)は、80年代後半にいったん下がったのが、90年代から上昇し、小泉政権時代にフラットになったものの、リーマンショックを境に再び急上昇しています。2008~2009年に財政収入が激減した中で当時の麻生政権が空前の大盤振る舞いをしたためです。

小泉政権が財政再建に成功した理由は、全体の政府支出と主要な項目ごとに伸び率の上限を決めていたことです。同時に金融面では量的緩和政策を実施したため、景気が回復し円高も回避できました。支出を増やさずに収入を増やしたのは評価されるべき点ですが、「小泉路線」は自民党ですらなぜかタブー視されています。

さらに、長期的には高齢化の問題が大きくのしかかってきます。社会保障支出の対GDP比率は、80年代は何とか抑えられていたのが、90年代以降は高齢人口比率とパラレルで増えるようになります。小泉政権時代で比率の上昇の傾きが低くなったのですが、福田政権になって高齢人口比率と再び連動するようになりました。このままの状態が続くと、2050年には社会保障支出がGDPの40%を占めることになります。そのために必要な税収を確保するには、消費税を60%に引き上げなければなりませんが、これは現実的に不可能な数字です。ここでも小泉路線をとることで、消費税の上昇幅を13%に抑えることができます。財政再建も考えると、最終的には欧州並みの20%の消費税になりますが、高齢化率がほぼピークになる2050年までのことを考えても、その程度の引き上げですむということです。

いずれにしても、日本の財政状況は異常であり、財政赤字を削減する必要があります。そのためにも、高齢者1人当たりの社会保障支出を抑制することは避けられません。それを怠った先に待っているのは、とんでもない大増税です。

質疑応答

Q:

米国の90年代もそうですが、財政は緊縮基調で金融は緩和基調というのが、マクロ経済的に最も望ましいとされています。小泉政権の時代は、日銀と政府の信頼関係があって、財政緊縮と金融緩和がうまく噛み合っていた印象ですが、このような信頼関係が小泉政権以降はあまり見られません。それが日本の問題のような気がします。金融政策と財政政策をうまく連動させる仕組みが必要ではないでしょうか。

A:

金融と財政については、昔からEasy Money, Tight Budgetが良いとされていましたが、政府と日銀との関係が良好であるかどうかは、最終的に責任をとるのは政府(与党)である以上、それほど重要視していません。むしろ、日銀に独立性を持たせることがそもそも間違っているような気がします。健全な与党と野党さえあれば、インフレになれば与党の人気は落ちるのですから、政府が金融政策と財政政策の両方を支配しても問題ない気がします。

Q:

財政赤字と高齢化は先進国共通の課題ですが、その中で仮に日本が財政緊縮と金融緩和に踏み切った場合、世界にどのような影響を与えるのでしょうか。かつてはG8などで政策協調できた面もありますが、そうした国際的な政策協調の可能性についてはいかがでしょうか。

A:

世界的に財政赤字と高齢化が問題になっているとはいえ、カナダやオーストラリアといった例外もあります。北欧諸国も財政再建にかなり成功しています。財政再建がうまくいっていないのが、欧州の伝統的な大国であるフランス、イタリア、ドイツです。その理由ですが、少なくとも成功している国は、将来の見通しを正直に国民に伝えている印象です。また、日本だけ金融緩和をするのは近隣窮乏化政策ではとの指摘もありますが、中国などは金融引き締めが必要なので、心配する必要はないと考えます。それから、高齢化と財政赤字については、国際協調はあまり期待できない気がします。「他国が要請したから年金や医療を減らす」といっても、財政破綻でもしない限り、あるいはギリシャのように財政破綻していても、国民が簡単に納得しないからです。

Q:

以前の雑誌などに掲載されていた、リーマンショック後の中央銀行による金融緩和の規模(中央銀行のバランスシートの対GDP比)の国際比較ですが、日本は前年比の増加幅は小さくても、対GDP比で見ると諸外国とそれほど遜色ない印象です。金融緩和そのものよりは、それが景気刺激に至るきっかけのところでうまくいっていない気がします。

A:

そもそも金融政策は危機時にどう対応したが肝心なので、対GDP比で見るのはナンセンスです。日本はいまだに現金社会なので、GDPに占めるマネタリーベースの量も当然違ってきます。それとは関係なく、金融危機時に米国はマネタリーベースを3倍にしたのに対し、日本は1.1倍だったため、円高となり、米国以上にダメージを受けることになりました。仮に韓国並みの1.5倍に増やしていれば、韓国並みに対応できたと思います。

なお、日本と同じ輸出国である韓国と政策を連動させるという考え方も有効です。韓流ブームがいわれて久しいですが、文化だけでなく、金融政策も内政もすべて韓流――韓国を参考にする時代になってきているのかもしれません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。