スマートグリッドの本質 -欧州モデルとスマートコミュニティ-

開催日 2010年11月10日
スピーカー 山家 公雄 (エネルギー戦略研究所(株)取締役)
モデレータ 冨田 秀昭 (RIETI研究コーディネーター)
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議事録

2010年の世界経済動向

山家 公雄写真今年8月に出版した「迷走するスマートグリッド」の中で、ドイツを中心とした欧州のスマートグリッド事例を紹介しています。10月上旬にもドイツを訪れ、E-Energy(スマートグリッド)事業の実情を確認してきましたので、本日はそこで得た見聞を中心にお話しします。

CO2を削減する必要がある中で、日本でも成長戦略の枠組みにおいて、次世代技術であるスマートグリッドが注目されています。さらなる省エネ、再生可能エネルギーの有効利用、電気自動車の普及といった効果が見込まれます。

スマートグリッドの3要素は、(1)需給双方向での情報交換、(2)ICT技術、(3)蓄電・畜熱技術の3点です。これまでは大規模発電で生産した電力を長距離の送電線を使って一方通行で供給していましたが、再生可能エネルギーの普及により、電力供給は近距離かつ双方向型になります。低炭素時代は電化の時代といわれますが、電力システムの変革の時代でもあるのです。

現在、最も注目を浴びているのが、情報の結節点であるゲートウェイです。スマートメーターが代表的な例ですが、ゲートウェイの開発とダイナミックプライシング(合理的なアルゴリズムを使った翌日価格の提示)には、ドイツでも強い関心が寄せられています。

スマートグリッドの仕組み

配電の部分で需給調整を行うことが、ドイツのスマートグリッドの基本姿勢です。家庭内の家電製品や発電設備の情報をスマートメーターで集め、その情報をエネルギー供給者と交換することによって、最適な価格設定が行われるだけでなく、情報の見える化により省エネが進みます。また、スマートメーターを通して需要家の設備を自動制御する動きも出てきています。

日本の動向と日本型スマートグリッド

日本におけるスマートグリッドの政策的位置付けは高く、電力業界や産業界も積極的ですが、速度と双方向性が課題となっています。電力の自由化が進んでいるドイツでは双方向化が比較的容易ですが、日本では規制緩和を含む対応が必要かもしれません。

電力ネットワークと地域の消費モデルとの相互補完が日本型スマートグリッドの特徴です。需要家と供給側の結節点であるスマートメーターをどのように開発していくかが注目されています。スマートメーターを用いて消費電力を正確に把握して料金を算定するだけでなく、需要家から得た情報を活用してシステムを最適化する必要があります。ドイツではこれをゲートウェイと呼んでいます。

ドイツの背景と特徴

ドイツは以前から再生可能エネルギーを積極的に導入していますが、欧州共通の環境目標「トリプル20」(2020年までに温室効果ガスを90年比で20%削減し、再生可能エネルギーの比率を20%に高め、エネルギー効率を20%改善する)が2008年12月に採択されたのに従い、現在17%の再生可能エネルギー導入率を2020年までに30%まで高める方針です。

そうした中、送配電の混雑化が現実問題となっています。風力発電所はバルト海や北海に面した風の強い北部に立地していますが、需要は南部に集中するため、南への一方通行の供給が混雑しているのです。高圧の送電線を3500キロメートルにわたって建設するのは容易ではありません。一方、太陽光発電が南部で盛んに導入された結果、配電線も混雑しています。

また、EV類に対する期待も強く、2020年までに100万台を導入する目標を定めています。ドイツの電気自動車への注力ぶりを目の当たりにし、これから相当な勢いで普及するのではないかと感じました。

制度面では、発電、送電、配電、小売りを分離する電力サービスのアンバンドリングを進めています。2009年からは、配電をさらにメーターの所有とメンテナンスを担う「メータリングオペレータ」とデータをストックして管理する「メータリングデータオペレータ」の2つに分けるなど、アンバンドリングが徹底されています。

また、地方分権が進んだドイツでは、シュタットベルケ(自治体企業)が多いため、地域内の調整が比較的容易なようです。電力、水道、ガスは自治体企業が運営している場合が多く、そうした電力会社が900にも上ります。

さらに、各国の取り組みだけでは限界があるため、EUにまたがる系統連携や大卸市場の構築など国家間連携の強化も議論されています。そうした域内調整を進めることにより、再生可能エネルギーの大規模導入も可能になります。

E-Energy事業とドイツのスマートグリッド

ICT技術を活用し、エネルギー利用の効率化を図るのがE-Energy事業です。次世代開発システムの先陣を切り、輸出産業に育てていくまでのビジョンが明確に謳われています。また、需要家の積極的活用と域内の市場形成も含まれています。

これは経済技術省と環境省の共同事業として進められています。総事業費は1億4000万ユーロ。公募で採択された6事業の実証実験に1万2000軒が参加する予定です。

2006年に構想が発表され、2007年に公募が実施されました。公募にあたって定められた3つの要件は、(1)オンライン電力市場の構築、(2)コンピューターによる電力システムの管理制御、(3)上記2点のネットワーク化です。事業期間は2008~2011年。私が先月訪れた時には設計やデザインを終え、実証実験を一部で始めていました。2012年に6事業を評価し、標準化の候補を絞ったり、追加事業を行ったりする予定です。標準化の連携も進められており、E-Energyという言葉の下にスイス、オーストリアとも連携しています。また、電気自動車を扱うE-Mobility事業も2009年に始まりました。電気自動車はスマートグリッドの一角を成すことから、E-Energy事業とセットで進められています。

スマートグリッドの導入は、「需要シフト」がキーワードになっています。電力は貯められない、だから需要に合わせて発電する。これがいままでの常識でしたが、それを「発電に合わせて需要を変える」という発想に180度転換します。蓄電池のコストがまだ高いからです。ところで、需要はそう簡単に変えられるのでしょうか。フラウンホーファー(欧州最大の応用研究機関)の調査結果を見ると、電力需要の半分は低圧、つまり家庭用であることがわかります。しかも、低圧の40~50%(全体の4分の1)はシフトできるのです。料金設定などによって需要をシフトすることで、再生可能エネルギーの利用を増やすことができます。

採択された6事業の中で、私が訪問したのはスマートワッツとメレジオです。MOMAの主要技術を開発しているフラウンホーファーも訪問しました。E-DeMaとMOMAには訪問要請に応じてもらえませんでした。日本をライバルと見て警戒したのかもしれません。Eテリジェンスとラグモドハルツは離れているので訪問を断念しました。今回はスマートワッツとメレジオ、MOMAを中心にご説明します。

E-Energy6事業の概要

【Eテリジェンス】
バルト海に面した人口5万の町、クックスハーフェンで展開する事業です。風力発電が盛んな一方で、冷蔵倉庫が多く立地し、スパ(温泉施設)もあります。需給バランスを取るために翌日価格を提示し、冷蔵倉庫とスパの温度の自動調整に取り組んでいます。

【レグモドハルツ】
再生可能エネルギー100%の供給ポートフォリオの創設を目指しています。風力を主体に太陽光やバイオマスを利用しているほか、揚水発電を地域で持っていることも特徴です。

【E-DeMa】
E-Energyを代表する事業。人口密集地域の中規模都市、ミュールヘルムで家庭を中心に実験しています。4大電力会社の1つであるRWEの主導のもと、電力システムの新しい概念に挑戦しています。

消費者は消費だけをする存在であったのが、低炭素時代には太陽光発電などを利用して自らエネルギーを生産するようになります。消費者でありながら生産の担い手でもあることから、プロシューマーと呼ばれます。プロシューマーが余剰電力を取引する市場の形成がE-DeMaの目的です。そのために、家電、各種メーター、分散電源など、家庭内のさまざまな情報を収集し、通信網を使って情報交換するゲートウェイの開発に取り組んでいます。

【メレジオ】
メレジオは4大電力会社の1つ、EnBWが主導する既存システム活用型モデルです。日本の電力会社には最も参考になるでしょう。

性格の異なる2つの地域で取引市場を作り、地域間でやり取りをすることで、広域最適化を図るモデルです。また、最小CO2排出地域を作ってインセンティブを与える実験もしています。

実証実験の第1段階では、国の卸市場の先物価格に基づき、翌日価格を提示します。しかし、行動は消費者自身の判断に任されています。これまでの実験結果を見ると、最も価格が低い時間帯で需要が増え、価格が高い時間帯で需要が減ったことがわかります。コスト削減の点でも効果が出ています。第2段階では、地域の特徴を織り込んだ、より完成度の高い価格表示をするだけでなく、一部の家庭でコントロールボックスを通じて機器を直接制御する実験も行います。第3段階では、直接制御の数を増やすとともに、蓄電池を導入して供給側の制御も行います。第4段階では、地域内および地域間で市場取引を行います。実験対象には敢えて特徴のある2地域を選んでいます。地域によって電力価格も異なります。市場取引には2種類あり、1つはブランドマーケットプレイス、もう1つはストックエクスチェンジとなっています。前者はEnBWが料金をきめ細かく提示することによって需給バランスを取る方法、後者は需給バランスの調整を担う「アグリゲーター」を介して売買する方法です。

【MOMA】
マンハイムの配電会社、MVV-Energyが主導しています。ゲートウェイ(エナジーバトラー)を使って翌日価格の提示と家電の直接制御を行います。家電の直接制御の中では、最も制御が強いといわれています。ゲートウェイにはフラウンホーファーが開発したオープンソフトのオジマを利用しています。

家庭や工場に設置されたゲートウェイを通じて情報のやり取りをしています。オジマは家電を無線で直接制御します。翌日価格を見せる点はこれも同じです。2つの価格帯があり、価格に応じてエナジーバトラーが家電の電源調整を行います。

【スマートワッツ】
シュタットベルケが主導する小売市場完全自由化モデルです。翌日価格は地域の小売市場に任せて決定されます。ロジスティクスの概念を導入し、ICタグをつけて流通させるようなイメージで、情報を集約し、需給を調整する考え方です。技術デザインは完成しており、2011年から500軒で実証試験をする予定です。

メーターを開発しているユーティリティカウントに話を聞いてきました。同社はシュタットベルケの電力会社20社が出資して作られた開発会社です。

現在は自由化が不完全なため、顧客が小売会社を自由に選べる状況ではなく、小売会社にとってもリスクがあります。分散化により、小売会社が調達から販売までを完結させた仕組みを作ることによって安定化を狙うものです。

スマートワッツは6時間後までの電力価格を提示します。この価格に基づいてゲートウェイが機器を自動制御します。ただし、消費者は自動制御を受け入れずに自分で動かすこともできます。しかし、そうすると当然ながらバランスが崩れるため、自動制御を受け入れた消費者にはインセンティブが与えられます。しかし、消費者が制御を受け入れるかどうかも貴重な情報になります。

以上の6事業を見ると、ゲートウェイの開発とダイナミックプライシングに各社が工夫を凝らしていることが伺えます。特に、ゲートウェイはあらゆる情報の結節点になっているため、その標準化をどこが握るかが注目されます。

質疑応答

Q:

ドイツが主導する「デザーテック構想」(サハラ砂漠での太陽熱発電によって全欧州に電力を供給する巨大事業)のような、国を超えた電力供給の動向について教えてください。

A:

ドイツは風力発電が多く、送電線が混雑していますが、この問題は1国で解決するには限界があります。EU全体でも再生可能エネルギーの利用拡大に伴う系統制御は大きな問題になっています。EUにまたがる系統連携や市場設計において、送電の混雑を意識した価格設定をする取り組みは未着手で、さまざまな可能性を秘めています。

Q:

ストレステストの結果が公表されたにも関わらず、ギリシャやポルトガルなどのソブリン・リスクが5月とほぼ同じ、あるいはそれ以上の水準にまで再上昇しているのは、ストレステストの信憑性が無いと投資家が判断しているからでしょうか。

A:

スマートグリッドの視点でいえば、蓄電池制御に需要があると見ています。
日本以外の国々では電力需給がひっ迫しており、発電量も送電量も足らない状態です。とはいえ、ピーク時の需要に合わせて発電所や送電線を建設する訳にはいかないので、電池制御で負荷平準化を行い、混雑の調整をします。そうした技術を持つ日本にとっては、参入のチャンスです。日本が誇る世界で唯一の蓄電池制御付き風力発電機は、海外では非常に注目されており、そこに勝機があるのではないかと考えます。
また、地域で自律的に需給を調整するモデルは、大規模発電や送電線が未整備の地域には有効です。ドイツのモデルも確立されれば応用が利くと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。